中山

「あれが食べたい」と一度思ってしまうと、もう他のものでは代わりが効かなくなるというメニューがあります。人によってそれはカレーだったりラーメンだったり…。ここ「中山」の天丼も、「今日はあれが食べたい!」と思いついてしまったら、口とお腹が「中山の天丼」用にセットされてしまい、他のものでは納得できなくなってしまう一品なのです。

中山
中山

中山
中山

「中山」は、人形町通り(水天宮通り)と新大橋通りの交差点近くの路地にある、ご夫婦と二番目の息子さんの三人で切り盛りしているこぢんまりとした天ぷら屋です。この界隈は小さめの店がぽつぽつと並んでいるため最初は少し見つけにくいかもしれませんが、近くまで行くとごま油の温かく香ばしい香りが辺りに漂っています。

少し前までは、場所柄か「高そう」「一見さんも入れるの?」と誤解されがちだったというこのお店に、このところ遠方から若い新規のお客が続々と詰めかけていると言います。多くのお目当ては「黒い」天丼。雑誌等の取材もほとんど受けていなかった「中山」ですが、この天丼のおいしさがインターネットのBlogや口コミで評判を呼び、話題になっているとか。

その「天丼」を味わいに、近隣のビジネスマンで賑わうランチタイムの終わり頃にお邪魔しました。

中山
中山

がらり戸を開けると、カウンター8席、小上がりの座卓が2つという、こぢんまりとした店内。「いらっしゃい」と出迎えてくれるご主人と奥さんの声に、一気にくつろいだ気分になります。ご主人の中山さんは二代目。日本橋生まれ日本橋育ちとあって、口調も立ち居振る舞いも思わず「江戸っ子だね」と声を掛けたくなる粋な男っぷりの良さ。

カウンターの中から、油の香りと温度が立ちのぼり、じゅうじゅうぱちぱちと天ぷらを揚げる音が、いやが上にも期待を盛り上げてくれます。お新香をつまみながら(これがまた、歯ざわりが良い)待ちます。

中山
中山

中山
中山

※写真のお新香は単品のものです。定食や天丼にはたくあんが4切れ付きます

程なくして、蓋付きのどんぶりに入った天丼が登場。わくわくしながら蓋を開けてご対面した天丼は…黒い! 噂に違わぬ濃い茶色のタレがたっぷりと衣にしみ、一見した印象はまさに「黒い」のひと言がぴったり。湯気と一緒に、醤油の懐かしい香りが、温かく顔を包みます。

中山
中山

中山
中山

聞けば「中山」の天丼のタレは、まるで鰻屋のタレのように「つぎ足しつぎ足し」を繰り返して作られたものだとか。最初は驚きますが、実際食べてみるとこれが「あ、本当に食べたかったのはこういう天丼だったかも」と、すんなり素直に美味しいのです。甘辛のしっかりした風味のタレが、天ぷらの衣をくぐって油と一緒になりご飯に染みこんだのが、こたえられない。

奥さんいわく「好きは人は好き、嫌いな人は嫌いと、はっきり分かれるからねぇ…」とのことですが「どんぶり物の醍醐味は汁(タレ)がしみたご飯にあり」と思う人ならば、きっとこの味に「ハマる」ことでしょう。実際、好きな人は週に一度と言わず二度三度と訪れているとか。

そして「衣」の食べ応えも書いておきたいところです。世間にはまるで天ぷらの衣を悪役のごとく忌み嫌い、ひたすら薄く軽くするのが「高級」で「上品」と持てはやす向きもありますが、「中山」の天丼に使われる天ぷらはがっしりと厚みのある衣をまとっており、それがとても美味しい。油をほどよく吸った衣が、ご飯にふれた部分はしっとり柔らかく上の方がカリカリしているという、食感の違いの楽しさ。衣に守られて美味しさを閉じ込めたまま、程よく火の通った具の柔らかさ。タレが多くしみた部分と、少なめの部分。こうして、ひとくちひとくちを満喫できるのも、衣自体が美味しくてある程度の厚みがあるからこそと思うのです。

中山
中山

さらに「味噌汁」と追加の「お新香(カブ・きゅうり・白菜)」が、これまたおいしいのです。自家製のぬか床で漬けているというお新香は、歯ごたえをしゃっきり残したみずみずしい漬かり加減で、天丼の箸休めに最高です。そして量も定食のものとしては多めのサイズ。この日の味噌汁の具は「しじみ」だったのですが、これがまたざっくざくと気前よく入っていて驚かされます。

「私は田舎育ちだから、お腹が空いてやって来る人を中途半端なお腹で帰したくないの」と、奥さんが笑います。確かに、しっかり食べたお陰でお腹からぽかぽか温まり力が戻り「午後もがんばろうかな」と元気が出てきます。近隣のサラリーマンで賑わうのも道理です。

今は口コミで賑わう「中山」ですが、都心の人口が郊外に流れた時代には客足が遠のいた時期も長かったそうです。しかし「一家がなんとか食べて行ければいい」という気持ちで、とにかくどんな時でも同じように「まじめに地道に」おいしいものを作り続ける努力をしてきたといいます。

中山
中山

「中山」には、気取りも蘊蓄もてらいもありません。通ぶるのはナシで、おいしい天ぷらを食べたい人を真っ正面から受け止めてくれる一家の待つ店へ、気軽に暖簾をくぐるのが吉です。

中山
所在地:東京都中央区日本橋人形町1-10-8 
電話番号:03-3661-4538
営業時間:11:00~13:00、17:30~21:00
窶ィ定休日:土日、祝日

メニュー例:
天麩羅定食…1,100円
小盛定食…900円
精進定食…800円
穴子天丼…1,300円
天丼…1,000円
その他各種天麩羅…100円~
お新香…100円



PAGE
TOP