紀の善

紀の善
紀の善

和の情緒が漂う神楽坂。しっとりとした街並みを散策するなら、ひと休みするときにも和の味を楽しめるところに腰を落ち着けたいと思うのは、とても自然なことだろう。

飯田橋駅より徒歩1分、神楽坂下の交差点近くにのれんを出す「紀の善」は、そうした人々たちにとって格好の甘味処だ。便利なロケーションに加え、いかにも神楽坂然とした、飾り過ぎない凛としたたたずまいの内装。そして、何と言っても全国区の人気を誇る「抹茶ババロア」を生んだ有名店。

当然のことながら、店はいつも多くの人々で込み合っている。

紀の善
紀の善

「うちなどは、まだとても老舗とは言えません」と女将さんは謙遜するが、紀の善の歴史はけっこう長い。戦前までは料理屋だったそうで、神楽坂が空襲で焦土と化したことにより、戦後は簡単な甘味を出す店へと形態を変更。その後、少しずつ品書きの改良や新規導入を加えながら、現在のラインナップとなった。

紀の善
紀の善

いまや紀の善の代名詞的存在となっている抹茶ババロアが生まれたのは、意外にも“思い付き”だったという。「20年ほど前、店舗改装で一時休業したときに抹茶を使った洋菓子を見て、ふとひらめきまして」と女将さん。現在でこそ抹茶ババロアはどこででも売られており、もれなくと言ってよいほど黒餡と生クリームが添えられているが、このスタイルは20年前はかなり斬新だったはず。料理専門のプランナーでも、そうそう思い付くアイデアではない。

「たまたまですよ」と、こともなげに女将さんは笑うが、ここまでたくさんの人々の心と舌をつかめたのは、さりげなくも鋭い眼力ゆえのことだろう。

紀の善
紀の善

全国の類似品の祖である紀の善の抹茶ババロア。「さすが本家」とうならされる点が少なくない。まず“抹茶風味”でない、“抹茶そのもの”の香りと味が素晴らしい。これは、最高級の抹茶をふんだんに使っているせいだという。量を惜しんでしまうと味も濃くならず、何より、この鮮やかな緑色がぼやけたものになってしまうそうで「原価率からすると厳しいですが、やはり抹茶の味と色をしっかり出したいので」と、女将さんは気を吐いている。

なめらかな口当たりのババロアに合わせている黒餡と生クリームにも、もちろん一家言がある。甘味処の真骨頂ともいえる黒餡づくりは、丹波の大納言を使用。近年は国産小豆が急激に手に入りにくくなり、中でも最高峰の丹波産のものは確保が大変だと聞いている。しかし「食べ比べると、やはりこれがおいしいですね」と、納得できる原料にこだわり、丁寧に炊き続けている。

生クリームは、動物性脂肪の高いものを採用。砂糖を少ししか入れていないので、コクはたっぷり・甘さはごく控えめ。せっかくの抹茶の味わいを邪魔することがない。七分立ての固さなので、とろりとしていて、ババロアによく絡むようによく計算されている。

ババロア、黒餡、そして生クリーム。この三位一体は、そうやすやすと真似のできるものではない。紀の善ならではのおいしさだ。

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