たけや支店

鎌倉小町通周辺には蕎麦屋の看板を掲げている店が50以上あるという。こだわりはそれぞれだが、蕎麦だけで勝負をしている店、そう尋ねた時に名前が挙がるのが蕎麦の名店「たけや支店」だ。

観光客でにぎわう小町通りを八幡宮に向かっていく途中に教会があり、そこの角を左に折れると閑静なお屋敷街がつづく。

この界隈には小町通の喧騒を逃れるかのように、センスの良い店が所々にあるのだが、緑の植え込みが目を引く風情ある佇まいの「たけや支店」はこの通り中程にひっそりと暖簾を出している。

店内はこじんまりとしており、むかって左手にそば打ち場と厨房が、右手に4人掛けのテーブル席が並ぶ。その奥にはさらに6名分の座敷席が用意されている。

トーンをおとした落ち着いた色合いの塗り壁、木のぬくもりが感じられる調度品からは「ゆっくりと蕎麦を楽しんでほしい」という店主の心配りが伝わってくる。

お品書きに目を移すとメニューは4種類のみ。「せいろ」、「天せいろ」、「かけ」、「天ぷらそば」だけ。酒を楽しむ為の蕎麦前などは一切おいていない。

少し考え込んでいると、客席をしきっている店主の奥さんが「うちはソバだけでやらせていただいております。しっかり召し上がりたい方には大盛りや、天ぷらをおつけしたセットをお薦めしております。」と説明してくれた。

ソバ本来の風味を味わうのならば、「せいろ」だろう。しっとりと光り、しなやかに弧を描き供される「せいろ」を想像しながら「天せいろ」を頼んでみた。

ほどなくして厨房から湯気が上がり、パチパチパチ、、、、熱した油から小さな泡が立ち上る音がしてきた。そしてごま油の香ばしい香りも漂って来た。期待感がふくらみ食欲がかきたてられてきた。溜め息が出そうになったその時、テーブルに「天せいろ」が運ばれて来た。

「たけや支店」の蕎麦は北海道産の良質な蕎麦粉9割以上で打たれているのだそう。

食してみるとたまらない。そば粉の香りがはなをぬけ、また細切り麺のするっとした喉越しがなんともいえない。留まる事なくツルリツルリと滑り落ちていく。

ツユはソバの風味を最大限に引き出すようにと本ブシのみで仕上げてある薄口タイプだ。薮蕎麦系の濃い口に馴れていると少々面食らうが、さっぱりと、どんどん食せる秘密は、ソバとツユとの二つの相性が最高に合っているからだと思う。

さて「天せいろ」(1800円)は、「せいろ」に海老2匹と野菜が付く。天ぷらは、胡麻油の風味が香ばしくておいしい。上質の素材を使い、衣も決してしつこくなく、油も切れもいいのでソバ同様食べだすととまらなくなる。

落ち着いて、しっとりとした空間では、ソバの打つ音と油の音がBGMになっている。こういう空間だからこそ、ソバについて考えを巡らしながら、ソバを食すことができる。これは日常生活では余ないシーンだろう。

店前の看板に「10歳以下のお子様と、晴れ着をお召しになった方はご遠慮頂いています」というような事が書いてあった。

なるほど、これも店側の配慮だと感じた。ソバをしっかりと味わってほしい。その為には凛とした空間を守りたい。かえって小さな子供に我慢をさせる事になってしまう事や、服装が気になってしまうようでは…そういう事なのだろう。

中に入ればそれはおごりではない事に気付く。頑なまでなこだわりはかえって清々しいものだ。

※本文内の価格等は掲載時のものです。変更している場合がありますのでご了承ください。

たけや支店
所在地:神奈川県鎌倉市雪ノ下1-5-10 
電話番号:0467-22-1159
営業時間:11:00~18:00(売り切れ次第閉店)
定休日:水曜日



PAGE
TOP