豊かな自然とまちから学ぶ人づくり。 地域から学ぶことで得られるものとは。/横浜市立荏田小学校 澤田有子 先生


横浜市立荏田小学校 校長
澤田有子 先生

豊かな自然とまちから学ぶ人づくり。
地域から学ぶことで得られるものとは。

その生活利便性からは考えられないほど、のどかな田園風景が広がる都築区荏田南町。この地で40年の伝統を育み続ける「横浜市立荏田小学校」は、「稲作」を学習の軸のひとつとして扱っている、首都圏では珍しい取り組みを行っている公立学校である。今回は、脱穀も終わり晩秋の姿になった学校を訪ね、校長の澤田有子先生に、学校のこと、稲作のこと、地域のことについてお話をうかがった。

まず、学校の概要について教えてください。

もともと、ここは大山街道沿いに発展した地域でしたから、古くからお寺もありまして、そこで寺子として始まり、1873(明治6)年に「荏田学舎」となりました。それが本校の発祥です。その後、1880(明治13)年に「公立小学荏田学校」、1900(明治33)年に「尋常荏田小学校」となり、何度か名前を変えています。

横浜市立荏田小学校インタビュー
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昭和に入り荏田小は国道246号線の向こう側にあった「山内小学校」の分校だったのですが、1973(昭和48)年に「荏田小学校」という学校になりました。今年がちょうど創立40周年になります。校舎も40年前のものになりますね。

分校は今の「かたらい宿公園」の場所にありましたが、人数がすごく増えていった当時は、国道を隔てて、3年生までが分校に、4年生からが向こうの山内小に行くようになっていたそうです。それがあまりにも遠いということで、新しい小学校をを作ろう、ということになったそうです。

先生は荏田小学校に今年から着任されたそうですが、学校の第一印象はいかがでしたか?

横浜市立荏田小学校 校長先生インタビュー
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まず、「自然がいっぱいあるな」ということに驚きました。そして、子どもたちが自然の中で生き生き生活しているな、ということも感じましたね。キラキラした目の子どもたちがいる、素晴らしい学校だと思ったのが第一印象です。

荏田小学校は各学年2クラスと小さめの学校ですが、「小さいならではの利点」などはありますか?

横浜市立荏田小学校インタビュー
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本校は2学級の学年ばかりですけれども、その2学級についても、多くても30名前半の学級なんですね。ですので、少人数での指導ができると思います。子ども一人ひとりに「目配り・気配り」が出来ているかと思います。

スペースがいっぱいあるので、子ども達はのびのびと生活しています。一番多い時には960名の児童がいたこともあります。今が320名ですので、ちょうど3倍ですね。一人のスペースも今は、すごく広いです。

では、学校の大きな特徴になっているという「米づくり」について教えてください。

横浜市立荏田小学校インタビュー
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本校の一番の特色は、「米づくりは、人づくり」ということで、田んぼを作っていることでしょうか。創立3年目の年に、当時の校長と地域の方が「地域と学校でなにか一緒になって、子ども達を育てる活動ができないか」ということで始まったものでして、田んぼも発起人の方々が無償で提供してくださいました。

この田んぼ学習は「命をつなぐための食糧を、一からすべて、自分たちの手で生産する」という授業ですから、ものすごく子どもたちのためになっていると思います。米を作るということは、すべての事に通じるのだと思っています。

横浜市立荏田小学校 校長先生インタビュー
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泥の田んぼに入る体験というのは、都会ではなかなか出来ないものですね。本校の児童は、みんなハイソックスで、泥の田んぼに入ります。靴で入ると抜けなくなってしまうので。そういった中で、泥に触れて、周りにいる虫、かえるやヤモリなどもにも、実際に触っていくわけです。ですから、都会のほかの小学校ではなかなか出来ない、本物の体験ができると思います。

田んぼは一から全部やっていますから、実は職員も大変なんです。最初は地域の方にもかなり協力していただいていたんですが、40年近くもたったので、皆さんもだんだんご高齢になられたので、今では教職員でほとんど進めています。実際、かなり負担もありますが、「子どもに還るもの」が多いですから、頑張ってやっているところです。保護者の皆さんにもお手伝いをして頂いています。

「田んぼのことを一からすべて」と言いますと、具体的にはどんな作業をされるのでしょうか?

横浜市立荏田小学校インタビュー
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まず種もみからです。田とは別に畑も借りているので、畑で種を蒔いて、苗を育てるところからやっています。これは5年生が中心になってやっていますね。

それから、みんなで「苗取り」をしまして、田植えするんですが、実はその前の段階で、教職員であぜ切りをやり、代掻きをやり、田起こしもやって、全部やったところに、子どもたちと保護者が入って、田植えをします。

横浜市立荏田小学校 校長先生インタビュー
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その後は、7月ぐらいに草取りをして、秋に稲刈りをするのですが、収穫の前にかかしを作ったりもします。稲刈りについては3年生から6年生までがやります。1年生と2年生は「応援する」ということで参加しています。刈った稲は、田んぼではざ掛けにしまして、乾いたところで、5年生を中心に脱穀をします。

脱穀したお米は保管し、11月の末ごろに「荏田っ子まつり」というイベントがありますので、そこで餅つきをします。子どもや保護者の皆さん、地域の方々などに提供しています。今作っているのはもち米です。

残った「わら」については、毎年しめ縄を作っています。今年はわらじを作ったり、わら飾りを作ったりということも考えています。1月になりますと、どんど焼きで残ったわらを焼いたりしています。

地域の方と関わって授業を行なっている例はありますか?

横浜市立荏田小学校インタビュー
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もちろん米づくりもそうですが、社会科、生活科、総合学習それぞれで、地域の方々に「まちの先生」ということで教えに来ていただいています。3年生は、この近くは梨作りが盛んということで、梨園に1年間に何度か行って見学させていただいています。あとは、お寺に行ったり、江田の商店街の方々などに話を聞いたり、時には仕事のお手伝いをさせていただいたりしています。

あとは、もとの分校だった場所にケアプラザがありますので、そこで太鼓クラブが演奏をしたりもしますし、今後はわらぞうり作りについても、地域の方に教えていただく予定です。そういった地域の人々との関わりを通じて、荏田のまちを子どもたちの「心のふるさと」にしていければ良いな、と思っております。

学校の施設面、学習面の特徴について、それぞれ教えてください。

横浜市立荏田小学校インタビュー
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エアコンが普通教室に全部入っておりますので、快適に過ごせるかと思います。あとは、人数の割に学校が広いので、のびのびと過ごせることでしょうか。

学習については3年生以上の算数学習は、1学年2クラスを3クラスに分けて、少人数の授業をしています。ですので、算数に関しては20人ぐらいで学んでいます。少人数教育には特に力を入れていますね。人数を減らして、個に応じた指導ができるように、ということですね。

横浜市立荏田小学校 校長先生インタビュー
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あとは、「たて割り」の活動がすごく盛んです。6年生をリーダーとしたグループがありまして、ひとつのグループは10人ぐらいです。各学年2名から3名ずつになっているんですが、そのグループを中心とした遊びや、交歓給食、全校遠足、運動会でのたて割りの取り組みなどをやっています。「たて割り班」で活動する回数が多いんです。かかし作りもその一つですね。

特に全校遠足などに行くと、子どもたちは6年生が大好きになるんですよ。遠足の帰り道には、6年生が下級生をおんぶして帰ってくるという光景もありまして、これが伝統になっていたりもします。だから子ども同士もすごく仲が良いと思いますし、名字ではなく名前で呼び合うことが多くて、学校全体がアットホームな雰囲気があると思います。

横浜市立荏田小学校インタビュー
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グループの名前もユニークで、今年は電化製品の名前で、「アイロングループ」とか、「せんぷうきグループ」とか、そういう名前でやっているんですよ。この活動は、本校では長く続いていますね。6年生になって、グループのリーダーになるのが「荏田小学校」では子ども達の憧れになっているんです。「あこがれの6年生」なんていう言葉も聞きますよ。

それから、本校は6年生の人数は少ない分、「全員がどこかで必ず前に出なければいけない」というチャンスがありまして、教員はバックアップしながら、子どもたちが役割を果たし、成長できるよう見守るようにしています。

学区内にはこういう雰囲気の方が多く住まわれている、といった印象はありますか?

横浜市立荏田小学校インタビュー
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そうですね、代々この地域に住んでおられる方が多いですね。最近はそれに加えて、マンションも増えてきましたし、新荏田の住宅地の方もありますから、新しい方も増えつつあります。みなさん口を揃えておっしゃるのは、「住みやすい場所です」ということですね。

この周りにも、いろいろな新しい住宅地が沢山ありますけれど、荏田は古くからお住まいの方がいる分、ちょっと雰囲気が違う地域だと思いますよ。「地域のつながりが強い」とでも言うんでしょうか。

学校でも稲作をしていますと、作業の中で保護者と地域の方がかかわり合う部分もありますから、地域の方同士ですごく仲良くなれるんですよ。稲作を通して、日本人の気質だとか、いろんなものが生まれてきたのかなあ、と思います。それをこの学校に来て、実感しています。

澤田先生が考えられる「荏田地域の魅力」は、どんな点でしょうか。

横浜市立荏田小学校インタビュー
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この地域は、子どもたちを見てくださる目がとても温かいんですね。それが一番だと思います。地域の方が「自分たちのまちの子ども」ということで、叱るべきところは叱ってくださり、すごく大事にもしてくださって、温かく見守っていただいています。子どもたちもきっと、「あったかいまちだな」と思ってくれていると思いますよ。

もちろん、時には厳しいご意見をいただくこともありますが、その時にも、「こうすればもっと良いと思いますよ」という事を必ず言ってくださいますし。この学校を建てる時についても、「自分たちのまちの学校を作ろう」ということで、先祖代々の田んぼを提供してくださったそうです。もちろん、稲作りに関しても地域の方が協力してくださっているからできていることでして、地域が温かい、たいへん素晴らしい地域だと思います。

そして、こうやって地域の方にも愛されていることで、子どもたちも、自分が愛されている、見てもらっている、大切にされている、という気持ちを持つことができていると思います。

最後に、学校のおすすめポイントを一言でお願いします。

横浜市立荏田小学校インタビュー
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やっぱり「人づくり」ですよね。米づくりから学ぶ、たて割り活動から学ぶ、豊かな自然とまちから学ぶ。この3つで「人づくり」をしています。

横浜市立荏田小学校 校長先生インタビュー
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今回、話を聞いた人

横浜市立荏田小学校
校長 澤田有子 先生

所在地:神奈川県横浜市都築区荏田南町694
電話番号:045-911-0149

※記事内容は2013(平成25)年10月時点の情報です。

豊かな自然とまちから学ぶ人づくり。 地域から学ぶことで得られるものとは。/横浜市立荏田小学校 澤田有子 先生
所在地:神奈川県横浜市都筑区荏田南町694 
電話番号:045-911-0149
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