六義園の邸宅街を支える「大和郷会」 一般社団法人大和郷会 理事長 田口邦臣さん・副理事長 伊東久信さん

一般社団法人大和郷会
理事長 田口邦臣さん
副理事長 伊東久信さん

六義園の邸宅街を支える「大和郷会」

文京区本駒込6丁目「六義園」を囲む邸宅街で実質的な“町会”として活動している、一般社団法人大和郷会(やまとむらかい)。社団法人が町会活動を一手に担っているのは全国的にも非常に珍しいケースだが、それに加え、大和郷会では「大和郷幼稚園」の経営も行っているという。こういった非常に特殊な運営形態をとっている背景には、本駒込六丁目を中心とした住宅地域、通称「大和郷」の特殊な歴史が起因している。今回は大和郷会の理事長・田口邦臣氏と副理事長・伊東久信氏にお会いし、大和郷の由来と特徴、町会活動の現状などについてお伺いすることができた。

そもそも「大和郷」とはどのような地域なのでしょうか

理事長、副理事長

伊東:まず「大和郷」の概念ですが、地域としては国道17号(白山通り)、不忍通り、本郷通りに囲まれた地域を指しまして、もともと三菱財閥の創始者である岩崎弥太郎さんが、最初に1878(明治11)年くらいでしょうか、この地域の土地を買いまして、その後、1921(大正10)年に、3代目の岩崎久弥さんが「理想の都市を作ろう」ということで、中産階級向けに分譲した地域なんですね。

本郷通り側の土地はその後も岩崎家「保留地」ということで分譲せずに岩崎さんが持ち続けて、庭園部分は1938(昭和13)年に東京都に寄付され、現在の「六義園」になっております。

六義園

弥太郎さんが所有していた最初の頃は、大和郷全体にレンガ塀を巡らせていたそうでして、弥太郎さんの弟の弥之助さんが作庭が好きな方だったものですから、「六義園」の庭をきれいに改修されたんです。弥太郎さんの長男、岩崎久弥さんの時代になりますと、世相なども受けて、「ノブレス・オブリージュ」(高貴な者の社会貢献)という視点が生まれてきまして、分譲を行うことになったそうなんです。

ここに1922(大正11)年の大和郷の地図があるのですが、岩崎さんがその後も持っていた土地については、「保留地」と書いてありますね。現在の「六義園」と、その南北の土地になります。「六義園」の南北の土地については、最初の分譲の時にはまだ岩崎さんが持っていて、その後、追加で分譲したんですね。中央に「小公園」と書いているところが、現在の「大和郷幼稚園」の場所です。

六義園 地図

面白いのは大和郷は現在の文京区(旧本郷区、小石川区)と豊島区にまたがっているんですね。本郷区上富士前町、小石川区駕籠(かご)町、豊島区巣鴨一丁目という、3つの行政区域にまたがっていたんです。その広い地域を一度に分譲しましたから、それを一括する組織として「大和郷会」という社団法人を作ったんですね。今でも大和郷は文京区と豊島区にまたがっていますが、文京区のエリアについては、私たち大和郷会が、本駒込六丁目としての町会業務を担っております。

大和郷と言えば、伝統のある高級住宅街として知られていますが、それは何故でしょうか?

一般社団法人大和郷会

伊東:大和郷では分譲直後の1923(大正12)年に関東大震災があり、戦災でも多くのお宅が焼けてしまいましたが、それでも、1922(大正11)年からずっとお住まいになっている方もけっこういらっしゃいます。

一般社団法人大和郷会

お住まいになっていた方も、三菱グループの重役や、政治家、官僚、実業家、学者が多くいらっしゃいまして、中産階級向けとは言いましても、アッパークラスの方が多く住まわれていたんですね。元総理大臣だった加藤さんや若槻さん、商工大臣だった俵さんなどもお住まいでしたし、美智子皇后のご実家の正田邸も、一時期ここにありました。昔は「大和郷で組閣ができる」と言われていたほどなんですね。

田口:正田さんも、池田山のお宅を作る前の短い期間ですけれども、俵さんから家を借りて、ここに住んでいらっしゃたんです。

三菱財閥が所有する以前は、どのような性格の土地だったのでしょうか?

一般社団法人大和郷会

伊東:もともと大和郷の地域は、ほとんどの部分が加賀藩前田家の中屋敷でした。上屋敷は東大の辺り、中屋敷は大和郷の辺り、下屋敷が板橋区の加賀町辺りにありまして、どれも中山道に面していたんですね。そのうち中屋敷は、隠居した大名が主に住んでいるお屋敷だったそうです。

染井霊園

明治になって廃藩置県が行われまして、藩が持っていた土地は幕府に返納されましたから、それを岩崎弥太郎さんが1878(明治11)年ぐらいに買ったんですよ。本当は現在の山手線を越えて向こう側まで、岩崎家の土地だったそうなんですね。ですから今でも、「染井霊園」に隣接して岩崎弥太郎さんの墓があるんです。こういった経緯があって、明治になって岩崎さんが購入した土地のうち大和郷部分をレンガ塀で囲って、中を「駒込別邸」としていたんですね。

なぜ「村」ではなく「郷」と書くのでしょうか?

お二人

伊東:これについては、昔は「大和村」と表記していまして、今の「郷」というのは、こちらとしては「苦肉の策」なんです。もともと大和村というのは、「大いに和を為す村」という意味がありましたが、当時の内務省から、「東京市内に、行政区の“村”と同じ名前があるのはまぎらわしい」と指摘されまして、名前を変えろということで、郷という名前を付けたというのが、実際のところです。

幼稚園に大和郷会の事務所があるのは不思議ですね

古地図

伊東:今はこの幼稚園舎の一部が大和郷会の事務所になっていますが、そもそもここに幼稚園ができたきっかけも面白いんです。岩崎家から分譲されて大和郷ができた当時、地図を見ると、ここは「小公園」となっていますよね。もともとの大和郷会の事務所は、その公園の向かい側にあったんです。

一般社団法人大和郷会

「小公園」の土地は将来、大和郷会に寄付するという約束で小公園だったそうなんですが、その時、岩崎家から大和郷会に伝えられた要望が、「児童のために使う土地にしてほしい」という事だったんです。それを大和郷会のメンバーで考えた結果、公園として整備すると整備費用と維持運営費用が莫大になるため、「子どものための教育の場」にしてはどうだろうという話になったそうなんです。そこで岩崎久弥さんに話したら賛同して下さったので、ここに幼稚園が生まれたんですね。そしてその後に事務所もこちらに移りました。

一般社団法人大和郷会

「大和郷幼稚園」は基本的には大和郷在住の方の子弟のための施設だったのですが、開園当初からご紹介のある方について入園していただいています。社団法人が立てた幼稚園というのは、全国的にも非常にレアケースだと思います。1995(平成7)年からは学校法人になりまして、「学校法人大和郷学園 大和郷幼稚園」となっていますが、町会と幼稚園は一体で運営されていまして、私達も今でも町会と幼稚園、両方の理事長、副理事長ということでやっております。

大和郷会の現在の活動内容と、将来の展望について教えてください

一般社団法人大和郷会

伊東:町会活動については、文京区本駒込6丁目については特に、普通の町会と同じように行っています。巣鴨1丁目に関しては、町会業務の協力という形になっています。

一般社団法人大和郷会

会報誌としては「大和郷だより」というものを作りまして、年に4回、800部刷って大和郷会員、幼稚園の保護者、その他関係先などにお届けしています。関係先というのは文京区など行政関係もありますが、以前ここにお住まいだった方などにもお送りしています。昔ここにいらっしゃた方でも、昔を懐かしんで、散策に来られる方も多いようですね。

理事長-1

田口:今では通りで子どもが遊ぶなんて事は無理ですけれど、昔は、この道路が子どもの遊び場だったんですよ。石蹴り、凧揚げ、キャッチボールなども道路でやっていました。そういう思い出があるから、みなさん散策されるんじゃないんですかね。大和郷は戦前から、電柱が一本もなかったんです。すべて地下に埋設していたんです。今はそうではなくなってしまいましたが、私が子どもだった頃は、とっても広々とした感じだったです。家の前の通りでローラースケートだってできたんです。

それから、大和郷の地域には道の両側に歩道が付いているでしょう。あれも昔からあるものなんです。当時は、歩道がある通りというのは銀座の次だったということです。

一般社団法人大和郷会

伊東:大和郷会はもともと公益社団法人として運営していたんですが、2013(平成25)年の4月から一般社団法人になりまして、それに伴って定款、規約もすべて変更しました。会員の福利増進、厚生施設の運営、教養趣味、社会生活の向上という、いわゆる「生涯学習事業」に加えて、幼稚園への土地貸与、乳幼児への園庭開放をしています。

一般社団法人大和郷会

それとともに、「地域社会における公共団体の事務に対する協力事業」ということで、定款では新たに「大和郷学園」の事業を足し込んで行っています。それが大和郷会の事業内容ですね。

 

 

スポーツ事業としては、ゴルフ、気功、ヨガ、健美操、ウォーキング、ハイキング、社交ダンス、フラダンスなどを行っています。会場には幼稚園の建物の上にある集会室を使っております。いずれも、大和郷会の方が対象となっているものです。その他、新年会や家族会などの年中行事も行っています。新年会は1925(大正14)年に大和郷会ができて以来の伝統行事で、90年近く続いているものです。例年、皆さん結構お越しになりまして、80人くらいは参加者が集まります。

理事長副理事長

田口:大和郷会の活動はいろいろとありますけれども、つまりは、公益性をもった地域限定の社団法人ということです。そして会員や活動も地域限定になっています。もちろん、新しく他所から引っ越して来られた方でも、お入りいただけますので、新しい方にもぜひいらしてほしいですね。

今回、話を聞いた人

理事長、副理事長

一般社団法人大和郷会
理事長 田口邦臣さん(写真右)
副理事長 伊東久信さん(写真左)

住所:東京都文京区本駒込6-9-7
電話番号:03-3944-2043

※記事内容は2013(平成25)年12月時点の情報です。

六義園の邸宅街を支える「大和郷会」/一般社団法人大和郷会 理事長 田口邦臣さん・副理事長 伊東久信さん
所在地:東京都文京区本駒込6-9-7 
電話番号:03-3944-2043