読書活動が盛ん

インタビュー/市川市立鬼高小学校 校長 石原孝幸先生


JR総武線の「下総中山」駅近く。真間川のほとりに建つ「市川市立鬼高小学校」は、2015(平成27)年度の児童数が968名という、市川市内でも指折りの大規模校のひとつ。それだけに運動、部活、音楽、勉強など、さまざまな活動が非常に活発に行われており、話題を集めることも多いそうだ。今回は12月の初旬、長縄跳びの大会が行われていた日に学校にお邪魔し、校長の石原孝幸先生にお話を伺った。

来年度で創立60周年を迎えます

石原孝幸校長先生
石原孝幸校長先生

ーーまず、小学校の歴史についてお聞かせください。

石原校長先生:本校は、来年(2017年度)で創立60年を迎える学校になります。駅の北側に「市川市立中山小学校」があり、そこから分離して出来たというのが、本校の始まりです。昔はこの辺りも田んぼが広がっていたそうですが、それがどんどん宅地開発されまして、人口も増えたものですから、そこに新しい小学校を作ることになって、開校しました。

「鬼高」という名前については、「鬼越」という地区と、「高石神」という地名がもともとあり、その二つを合わせて「鬼高」という名前が付いたそうです。ですから今も鬼越と高石神という地域名は残っています。

市川市立鬼高小学校
市川市立鬼高小学校

もっと広い地域を見れば、「ニッケコルトンプラザ」が近くにありますが、これは「ニッケ」つまり「日本毛織」という大きな毛織会社の工場があった場所ですので、日本の産業を支えた地域の一つであった、ということも地域の特徴です。JR総武線の北側には「法華経寺」があり、こちらは南側の地域よりもずっと歴史が古く、門前町として鎌倉時代から栄えたということです。修行のお寺ということで、今でも荒行をする姿などが見られますので、機会があれば是非行ってみていただきたいですね。

学習だけでなく、文化スポーツ活動も盛んです

沢山の賞が並ぶ
沢山の賞が並ぶ

ーー学校の教育方針などについてお聞かせください。

石原校長先生:本校独自の特徴ということですと、伝統的に「読書教育」に力を入れている学校であるということが一つですね。また、管弦楽部があるのも珍しく、過去には日本一になったこともあるなど、音楽活動も盛んな学校です。

スローガンとしては「花いっぱい、歌いっぱい、読書いっぱい、スポーツいっぱい」という言葉を掲げていまして、学校の特色となっています。実は私はこの学校が初任地だったんですが、当時も同じ言葉を掲げていましたので、30年以上も前から続いているものですね。

ですから、本当にこの学校の子は歌が好きですし、上手です。「朝会で校長先生のお話を聞く」というのが他校では普通かと思いますが、本校では基本的にやっていません。代わりに「歌おう集会」というのをかなり頻繁に行っています。これは学年で歌の発表をしたり、全校で歌を歌ったり、という集会なんですが、それはすごいですよ。私の話はもう、全校が体育館に集まる必要も無いと思いますから、放送にしてしまっています。子どもが集まって、一緒に歌うということのほうが大切ですからね。

読書教育が盛んに行われている
読書教育が盛んに行われている

歌に関しては、このほかにも色々な取り組みがあって、例えば、先日はソプラノ歌手の岡本知高さんにご来校いただいて、体育館でマイク無しで歌っていただいたんですが、それは子どもたちにとってもすごく刺激になったようです。それ以来、子どもたちの歌う声も変わりましたね。

その時には校歌も歌ってくださったんですが、私はおもわず涙が出てきましたし、児童に聞いてみても感動したと言っていましたので、とても良い経験になったと思います。こうして一緒に歌うということを通じて、学校の一体感が出てきていると思いますし、一人ひとりの感性を育てるということにもつながっているかと思います。

ーー「花いっぱい」「読書いっぱい」についてはいかがでしょうか?

石原校長先生:「花いっぱい」というのは、学年ごとの一鉢栽培的なものもあるのですが、主には栽培委員会を中心に、種から育てて花を咲かせるという活動をしています。今の用務員の方が植物にとても堪能ですので、子どもと一緒になって、学校の中を植物で一杯にしていこう、という活動をしてくださっていますね。

学校を植物でいっぱいに
学校を植物でいっぱいに

読書については、本校では毎年、作家の方に来ていただく「作家講演会」というものを、30年以上やっているんです。図書室には歴代来ていただいた方の色紙が飾ってありますが、絵本作家さんと、児童文学の作家さんが多いです。

もちろん、読書教育についても熱心に行っておりまして、これはどこの学校でもやっている事かもしれませんが、図書館の本を沢山読もうということで「読書週間」を設けたり、地域の方に来ていただいて、読み聞かせの機会も毎週持つようにしています。実は私も、この時には毎回どこかの教室を担当して、読み聞かせをしているんですよ。毎年全校を必ず1回は回る感じですね。29クラスありますが、29週あれば回れますので。

学校を訪れた作家の色紙が並ぶ
学校を訪れた作家の色紙が並ぶ

ーー今日も長縄跳びの記録会がありましたが、「スポーツいっぱい」の取り組みについてはいかがですか?

石原校長先生:これもまずは、体育の授業の充実が一番です。それに加えて、体育的な行事や運動会、長縄跳び、短縄跳びなどに、全校で取り組んでいます。今日は長縄跳びでしたけれど、もうちょっと寒い時期になると、短縄跳びもやっています。

運動系の部活も伝統的に盛んで、たとえば市川市には小学校対抗のスポーツの大会が、陸上大会と水泳大会と相撲大会があるんですが、陸上は去年・今年と2連覇していますし、水泳も市川市の西部地区で2連覇しています。水泳部にはすごく多くの子が入っていまして、だいたい100人ぐらいいるんですよ。相撲についても、今年は惜しくも準優勝でしたが、昨年までは2連覇していました。

全校で取り組む縄跳び
全校で取り組む縄跳び

子どもの自信を育てることを大切にしています

ーー続いて、学習面についてお聞きします。どのような部分に力を入れて取り組んでいらっしゃるのでしょうか?

石原校長先生:学力という点では、やはり「授業が第一」だと考えています。もちろん基礎基本は大事で、日々計算ドリルをこなすことなども大事なんですが、やっぱり一番の基本は、「授業」なんです。そのためには、学校の先生が授業の研修を積んで、授業の質を上げていく。そこが一番大事だと思っていますので、教員の授業研究には力を入れています。

具体的な方向性としては、教える技術云々よりも、もうちょっと上の概念ということで、「子どもの自信を育てること」を大切にしています。これは学習に限らずスポーツでも、読書でも、歌でも同じなんですが、子どもたちに「できた」「歌えた」という気持ちを持ってもらうこと、そこを一番大事にしていきたいと考えています。その気持ちをもってもらった上に、技術や方法が何かしらついてくる、と考えています。

授業第一の精神
授業第一の精神

また、「自己実現に取り組む鬼高っ子の育成」ということも目標に掲げていますが、これについては、「他者とともに」ということを加えたいと思っています。学力というのは、自分だけの力で付くもの、付けられるものではないんです。ですから自分の考えを人にちゃんと説明できる、ということも、授業の中で非常に大事にしています。自分の考えを説明できて、初めて分かったといえるというわけです。

たとえば算数の授業の中で「こうやったら解ける」というのを見つけたら、2~3人のグループの中で、その人にちゃんと説明をして、理解してもらえる、そういったことを非常に大事にしています。そこで初めて、「学力が付いた」と言えるのではないでしょうか。

もちろん、これには「自信をつける」という考えも根底にあります。人に話すことは自信につながるし、テストができれば自信につながります。歌がうまいというのも、自信につながりますよね。そういう、「自信で一杯の子」に育てたいんです。これが自己実現にもつながっていくものと、考えています。

真剣に学ぶ子ども達
真剣に学ぶ子ども達

それから、勉強には「基礎・習得」の部分と、それを「活用」するという部分があるかと思いますが、本校ではその「活用」についても意識していまして、授業ごとに、「活用部分を考えた授業づくり」に取り組んでいます。

たとえば5年生の授業で「意見文を書く」というものがありますが、その意見文はどこかに活用されて、初めて意見文になりうるわけですね。ということで、子どもたちに「いま考えている意見文は、何の目的で、誰に読んでもらうのか」という相手意識、目的意識を持ってもらうように、授業をしてもらっています。意見文を書いて、実際にそれを読んでもらって、そこでまたリアクションをもらう。そういうところまで考えながら、「表現する」ということの学習をしています。

ーー「表現する」という部分について、他に実践例などはあるでしょうか?

子どもたちが発行する新聞
子どもたちが発行する新聞

石原校長先生:読書の話題に戻りますが、読み聞かせは大人だけではなくて、子ども同士での読み聞かせもかなりやっていまして、これも表現のトレーニングになっているのではないかと思います。6年生が1年生に読み聞かせる、という感じなんですが、時には廊下に1年生を集めて読み聞かせたりしていますね。

あとは、日々の授業の中ですね。自分の考えを文字に書いて表現するということは、授業のどこかで必ず入れていくようにしていますし、宿題でも同様です。たとえば6年生は、毎日宿題のプリントを出していますが、そこには必ず毎日、100字か200字くらいで1日のことを書こう、ということをやっていますし、5年生は月に1回、新聞を発行するということにも取り組んでいます。そこで書く力、表現する力を養っていこう、という試みですね。

市川市独自の施策も行われています

放課後も学習ができる
放課後も学習ができる

ーー昨年度から「校内学びクラブ」というものがスタートしたそうですが、これは何でしょうか?

石原校長先生:これは市川市独特の施策で、2014(平成26)年度から「校内学びクラブ」と称して、放課後に学習の時間を設けています。授業が終わった後の時間にも、子どもたちが自分で勉強をするための時間と場所を提供する、というものですね。全員参加というわけではなく、これから内容が難しくなっていく学年ということで、今は3年生に限定して、参加希望者を募って、毎週月曜日の放課後に学習をしています。

これは昨年から市内の全部の小中学校でやっているもので、非常にいい施策だと思うので、現状では今後どうなるかは決まっていませんが、さらに広がっていけば良いですね。

ーー私立の学校に進む子どもたちは、例年どのぐらいの割合でしょうか?

子どもたちと校長先生
子どもたちと校長先生

石原校長先生:年ごとに異なりますが、本校の場合はわりと低い割合でして、昨年、6年生は180人ぐらいいましたが、私立進学者は十数人程度でした。それだけ、公立の環境も良いということだと思いますし、部活に一生懸命取り組めるのも、そういった背景があるのかな、と思います。

ーー学校内に充実した学童クラブがあるそうですが、詳しくお聞かせください。

石原校長先生:これは市川市の管轄なのですが、簡単に言いますと、校内に保育クラブ(=学童クラブ)専用の建物が、2階建てで2棟建っていまして、低学年の児童を中心に、200人ぐらいが放課後、ここに通っています。これは本校の保護者の方にも評判が良く、本校の大きな特徴にはなっているかと思います。学校内に保育クラブがあるというのは、保護者の方にとっては安心なのだと思います。

学童クラブ専用の施設
学童クラブ専用の施設

地域の皆さんにも様々な形で関わって頂いています

ーー地域との関わりも多い学校ということですが、具体的にどのような取り組みがあるのでしょうか?

石原校長先生:一つは、運動会で毎年披露しているヨサコイの踊りを、地域の、「神明社」の夏祭りでも披露するのが恒例になっています。また、2月の節分には、そこで子どもたちが豆まきにも参加したりと、いろいろなお祭りに参加させていただいています。

地域の方の協力については、自治会さんが通学路を見守り隊ということで毎朝立ってくださっていますし、読み聞かせについても、学校の保護者のOBの方が中心になって、毎回沢山の方にご協力を頂いています。29クラス、全部に毎週来て下さるというのは、大変に有難いことだと感じています。

地域と繋がる鬼高小学校
地域と繋がる鬼高小学校

それから、地元自治会のお年寄りの方々には、今度、1年生の授業の中でもお越しいただいて、「昔あそび」ということで、お手玉、おはじき、こま回しなどを教えて教えてくださる予定がありますし、ほかにもいろいろなご協力をいただいています。

子どもたちが参加していく、というタイプのものですと、中学校の学区単位で「コミュニティクラブ」というものが開かれていますので、こちらにも沢山の子どもたちが参加しているかと思います。これは土日の開催になりますが、ちょっとした科学実験の教室だったり、サバイバル体験ということで、外で火をおこして、牛乳パックでお米を炊く体験をしたり、お琴教室だったり、色々なユニークな内容があるので、子どもたちも喜んでいるようですね。

毎年7月には「おにだかっ子まつり」ということで地域のお祭も開催していまして、学校開放団体、自治会、商工会議所など、地域の団体が全部集まって、いろんな出し物や、お店が出たりします。例年、2千人ぐらいの来場者がある大きなお祭りですが、その会場が本校になっています。

素直で元気な子ども達
素直で元気な子ども達

ーー校長先生は今年度からこの学校に赴任されたそうですが、この学校の良さを感じたエピソードなどがあれば、お聞かせください。

石原校長先生:まず感じたのは、この学校の子は本当に素直だな、ということですね。高学年の子にも、いわゆる斜(はす)に構えるような子はいないんですよ。

ただ、ここに来た時、「ちょっと声が小さいな」って思っていたので、挨拶運動をするという時に、私の方から「先に挨拶をしたほうが勝ち」という感じで、ゲームのようなことをしようと提案したんですね。そうしたらすぐに、私が教室を回っていけば「おはようございます!」「校長先生おはよう!」って大きな声が飛び交うようになって。低学年だけじゃなくて、高学年でもそうなんです。そういうところでも、本当にここの子は素直だな、って思いますね。ちょっと火をつけてあげると燃え上がる、という子が多いんでしょうね。今日の縄跳びなんかもそうですが、運動会や歌も、同じように一生懸命にやっています。

落ち着いた地域でのびのびと
落ち着いた地域でのびのびと

ーーその素直さの背景には、何があるとお考えでしょうか?

石原校長先生:やっぱり、地域が落ち着いているんでしょうね。家庭がしっかりしていて、子どもたちがちゃんと愛されている。そういう家庭が多いんだと思います。もちろん、各担任の先生方が、「子どもの自信を育てる」ということについて真摯に受け止めて、日々頑張ってくれている、その成果もあるのかと思います。

落ち着きがあり、人が温かい街です

穏やかで暮らしやすい町
穏やかで暮らしやすい町

ーー最後に、街の印象についてお聞かせください。

石原校長先生:隣の本八幡や船橋は繁華街的な要素があるんですけれど、下総中山は門前町として発達したところで、昔から人は住んでいるんだけども、土地の値段はそれほど高くないから、物価が安いんでしょうね。「法華経寺」をはじめ、昔ながらのものも沢山あって、便利な場所なのにちょっと田舎っぽいと言うか、穏やかで暮らしやすい地域です。「ほっとする地域」と言えば分かりやすいでしょうか。

あと、地域の皆さんの学校に対する目が温かいですね。本校の学区は朝夕など、けっこう交通量がある地域なんですが、事故はほとんど無いんです。それはなぜかと言いますと、一つは、子どもたちが落ち着いた生活をしているということがあると思います。規則正しく生活をして、ルールを守って登下校しているということですね。

あともう一つはやはり、地域の方の協力だと思います。自治会で毎朝交差点に立ってくださったり、地域のお店の方なども、店の前の交差点で子どもたちの様子をいつも気にしてくださったり。本当に皆さんによく見守っていただける、温かい地域だと感じています。

市川市立鬼高小学校 石原孝幸校長先生 インタビュー
市川市立鬼高小学校 石原孝幸校長先生 インタビュー

市川市立鬼高小学校

校長 石原孝幸先生
所在地 :千葉県市川市鬼高2-13-5
TEL :047-335-0304
URL:http://www.onitaka-syo.ichikawa-school.ed.jp/index.htm
※この情報は2015(平成27)年12月時点のものです。

インタビュー/市川市立鬼高小学校 校長 石原孝幸先生
所在地:千葉県市川市鬼高2-13-5 
電話番号:047-335-0304
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