独自の学習活動に力を入れる伝統校

地域との関わり合いを大切に、 「豊かな心」と「健やかな体」を育む/中央区立久松小学校長・久松幼稚園園長 酒井寬昭先生


東日本橋 中央区立久松小学校長・久松幼稚園園長
酒井寬昭先生

地域との関わり合いを大切に、
「豊かな心」と「健やかな体」を育む 

日本橋久松町にある久松小学校は、創立141年という歴史を持つ公立小学校。公立といえども、「ここに通いたい」と近隣へ居を移すファミリーも多いという、伝統ある学校である。伝統をより良く変化させ同時に守ってきた同校で、校長に就任して5年目の酒井寬昭先生に、その特徴ある教育への取り組みと信念についてたっぷりお話を伺った。

2012(平成24)年に創立140周年を迎えられましたが、その歴史についてお聞かせ下さい。

久松小
久松小

伊予松山藩主の末裔・久松定謨(ひさまつさだこと)伯爵からの寄付によって、1873(明治6)年に児童数70余名で設立された本校は、関東大震災・第二次世界大戦と2度の全焼を経験し、決して平たんではない140年の歴史を歩んできました。関東大震災後は、翌年に仮校舎ができるまで、地域住民のバラック住宅を一棟借り受けて授業をするなど、当時から地元住民の方々との交流が盛んで、地域に支えられていたようです。

その長い歴史を背負って、今の久松小学校があるんですね。

久松小
久松小

ええ、良い意味で「伝統」を大切にしている学校です。例えば卒業式ひとつを取っても、1955(昭和30)年代から卒業生全員が平等に一言ずつ卒業の言葉を発し、全員で呼びかけをする形式が主流ですが、本校では「送辞」「答辞」は各代表がする一昔前のスタイルを通しています。代表が一人ずつ、クラスメイトや先生たちと相談して本当に感じたことを言葉に紡ぎ、贈り合う。形式上の平等よりも、より心のこもったシンプルな卒業式で、私はとても好感を持っています。昔ながらのこの形を残せたのは、久松ならではではないでしょうか。

伝統があることで、逆に大変な側面もありますか?

久松小
久松小

私は「例年通り」「いつもと同じ」というのが実に苦手な性分でして、何においても必ず改善すべき点があるというのが持論です。変えても大差がないなら、変えませんが、「明らかに良くなる」のであれば、何度も検討を重ねたうえで、地道に着実に改善します。
例えば、以前は指定の運動靴で全校児童が同じ靴を使用していましたが、足の形や好みは人それぞれ。

白に統一、という点は残して、各家庭で子どもに合ったものを用意してもらうようにしました。当初は反対意見も多数ありましたが、靴は子どもたちの健康に直接つながることを重ねて説明し実現しました。学校行事や日々の生活においても、改善の余地がないかを常に考えています。伝統の良さは残しつつ、新しいものも取り入れる、風通しの良さは常に意識していますね。

学校運営で大切にしていることは何ですか?

久松小
久松小

学校をより良く運営するためには、企業と同じように「経営」として考える側面も多くあります。私が心がけているのは、学校側の思いや考えを、保護者や地域の方々に分かりやすく、しっかりと伝えること。しっかり情報発信することで、学校に関わる方々に安心してもらえれば、より理解され協力してもらえる学校になると考えています。例えばホームページや学校要覧など、初めて見た方が驚くほど、たくさんの写真と解説が掲載されています。これを見るだけでも、子どもたちの日頃の様子が分かるはずです。

久松小学校へは、どんな子どもたちが通っているのでしょうか?

久松小
久松小

この地域はもともと呉服屋・布問屋が集まった土地柄ですので、昔ながらの旦那衆の文化が未だに根強く残っているんですね。挨拶や礼儀作法といった「人」としての教育を、親から子へ、そして孫へ伝えていく習慣が綿々と続いている。現代の子どもたちも元気ですし、やんちゃな子もいますが、スイッチの切り替えがきちんとできる子どもが多いと思います。

御校の教育目標を教えてください。

久松小
久松小

2つある重点教育目標のなかのひとつ「豊かな心と健やかな体の育成」は非常に重要な目標だと考えています。今の子どもたちは、放課後は塾や習い事で忙しく、体力も低下しがちなうえ、友だちと遊んで、喧嘩して、仲直りするという人との関わりを持ちにくいのが現状です。自転車や水泳など適切な時期に習得すれば、非常に短い時間で身に付く「適時性」という言葉がありますが、人との関わり方の訓練も、小学生時代が一番適しています。

そのため、放課後の体力づくりという目的で始めた「ロング放課後遊び」は、朝から少しずつ時間を詰めることで放課後1時間、塾や習い事に行く前に学校で遊ぶ時間を捻出するようにしました。年間40回程度ですが、思いっきりカラダを動かして体力をつけ、心を解放して友だちとのびのびと遊ぶ時間をたっぷり堪能してほしいですね。余談ですが、久松小学校では、なるべく休み時間を潰さない努力もしています。休み時間にしっかり頭を休めることで、前向きに授業に臨むことができる、このメリハリこそが子どもには大切です。

オリジナリティあふれる取り組みが多いように感じますが。

久松小
久松小

自分の目で見たり、本物の話を聞いたりという、実体験を子どもにたくさんしてほしいと考え、イベントも積極的に取り入れています。今年の6月には、アテネ五輪競泳女子800mで日本人初金メダリストの柴田亜衣さんに、講演と実技指導(対象:6年生)をしていただきました。全員が金メダルに触らせてもらい、子どもたちは大興奮でしたね。

7月には、2008(平成20)年にシンクロナイズドスイミングで日本代表だった石黒由美子さんが、1日校長先生として来校し、「夢をあきらめない」というテーマで講演をしていただきました。本物のアスリートの方々のリアルなお話に、子どもたちも夢中で聞いていました。やはり努力を重ね、結果を出している人の話というのは、人の心を動かします。このような体験が、子どもたちが夢に向かう時に少しでも気持ちの支えになってくれたら…と思っています。

なかでも「久松しぐさ」という御校ならではのユニークな取り組みがありますね?

久松小
久松小

江戸しぐさというのは、様々な土地から人が集まっていた江戸の町で、お互い気持ちよく暮らせるようにと、ちょっとした気遣いをしぐさにしたものです。傘ですれ違う時に、お互い少しずつ傘を傾けることで濡れないようにしたり、後から座る人のために、こぶし一つ分腰を浮かせて席を空けるなど、何気ないけれども、どこかホッとするような行いです。

それをあえて「久松しぐさ」と名付け、道徳の授業や児童会活動内で考える機会を設けたり、高学年が低学年に紹介したりしています。今の時代だからこそ必要な「思いやり」「他者への心遣い」、また「心を動作に表すことの価値」を学んでほしいと考えています。お江戸日本橋にある学校ですから、粋な久松しぐさを習得して広めてくれたら嬉しいですね。

都心の学校ながら、自然との触れ合いにも力を入れていらっしゃるとか?

久松小
久松小

はい。校庭の中心にある桜の木は、春には満開に花をつけ、四季の移り変わりを感じさせてくれる本校のシンボル的な存在です。花壇や玄関、プールフェンスのグリーンカーテンなど、いたるところに花や緑があり、水やりや手入れを毎日交代で行っているのは児童たち。屋上スペースを利用して、昨年には小さいながらもビオトープも完成しましたし、毎年5年生が小さな田んぼで米づくりにも励んでいます。季節ごとの地道な世話をしっかりとして、秋には自分たちで育てた米を収穫する喜びは、何にも代えがたい体験です。

最後に、この地域の魅力を教えてください。

久松小
久松小

先ほども申し上げましたが、この辺りは問屋さんが多く集まるまさに下町です。卒業生のOB・OGの方々も、本当によく本校に足を運んで下さり、子どもたちの様子を気にかけてくれます。つまり、昔ながらの「地域で子育てをする」という気持ちが、まだ残っている貴重な地域なんですね。子どもたちが老人福祉施設でお年寄りと交流を持つ活動にも力を入れていますし、世代を問わず人間同士の関わり合いができる町だと思っています。

久松小学校
久松小学校

今回、話を聞いた人

中央区立久松小学校校長・久松幼稚園園長 酒井寬昭先生

所在地:東京都中央区日本橋久松町7-2
電話番号:03-3661-6016
http://www.chuo-tky.ed.jp/~hisamatu-es/

※記事内容は2014(平成26)年2月時点の情報です。

地域との関わり合いを大切に、 「豊かな心」と「健やかな体」を育む/中央区立久松小学校長・久松幼稚園園長 酒井寬昭先生
所在地:東京都中央区日本橋久松町7-2 
電話番号:03-3661-6016
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