盧山寺 管長 町田泰宣さん インタビュー

静かな寺町にたたずむ「盧山寺」は文学ファンが後を絶たない憧憬の地/盧山寺 管長 町田泰宣さん


歴代の天皇が居住した「京都御所」。周囲の広い公園は「京都御苑」の名で知られる。付近は名所が多く観光地として人気の高いエリアだが、実は住む場所としての魅力も備えている。御所の東側、寺町通りに面した「盧山寺(ろざんじ)」は、源氏物語の作者・紫式部ゆかりの地として有名だ。そんな「蘆山寺」の管長を務めている町田泰宣さんに、寺や周辺の街について話をうかがった。

世界に名立たる「源氏物語」はここで誕生

紫式部ゆかりの地として知られる
紫式部ゆかりの地として知られる

――「盧山寺」の沿革や概要を教えてください

町田さん:開祖は「比叡山延暦寺」第18世座主の元三大師良源です。938(天慶年間)年に、元三大師が船岡山の南に、宮中に通うときの宿坊として「与願金剛院」を開いたのが始まりです。また、1245(寛元3)年には法然上人の弟子である住心覚瑜上人が、出雲路に「盧山寺」を開きました。そして、南北朝時代に第3世の明導照源上人が、「盧山寺」と「与願金剛院」が離れていると法務に支障をきたすため、「盧山寺」を「与願金剛院」に統合しました。その後、1573(天正元)年に豊臣秀吉の寺町区画整理により今の場所に移ることになり、偶然、紫式部の邸宅跡だったのです。現在は源氏物語に関連した「源氏庭」や、史跡などを見に来られる方が多いですね。節分には厄除け祈願の行事「鬼おどり」も行っています。

「紫式部邸宅址」と刻まれている
「紫式部邸宅址」と刻まれている

――紫式部はどのように過ごしていたのでしょうか

町田さん:紫式部の曾祖父にあたる堤中納言が、現在の「盧山寺」の場所に邸宅を建て、紫式部もそこで成長し、結婚生活を送りました。そして夫の死後、藤原道長の娘である彰子に仕えることになり、宮中で目にした男女のやりとりなどをもとに、源氏物語を書き上げました。当時は貧富の差が今よりもずっと激しい時代でしたが、紫式部は恵まれた境遇に生まれました。だからこそ源氏物語を書けたと言われています。当山では、「源氏庭」などを通して一年中、源氏物語の世界に触れていただける他、春や秋には「源氏物語絵巻」の展示も行っています。

世界文学発祥の地
世界文学発祥の地

――「源氏庭」について詳しく教えてください

町田さん:1964(昭和39)年に完成し、翌年には顕彰碑の除幕式が行われました。源氏物語の世界をイメージした庭で、平安時代の「感」、つまり人の想いを表現しています。白川砂と苔の緑色が調和して、さらにそこに四季の風情が加わります。特に好評なのが、6月から9月にかけて咲き誇る約2000株の桔梗の花です。桔梗は源氏物語絵巻にも描かれている花です。桔梗の花、白川砂、苔のコントラストが美しく、その時期はたくさんの人が見に来られます。また、秋は紅葉を楽しんでいただけます。世界文学発祥の地として、外国人の方にも人気が高いです。

源氏庭
源氏庭

――「源氏物語絵巻」とはどのようなものですか?

町田さん:五十四帖の絵巻で、昔、所有していた徳川家が保存のために一度切り離しましたが、「五島美術館」と協力し、再び巻物として復元しました。50本が製作され、そのうち一本を「盧山寺」が所有しています。毎年、春や秋に期間を決めて展示を行っています。

数々の歴史的エピソードに彩られた寺

慶光天皇陵
慶光天皇陵

――他にも「お土居」や「慶光天皇陵」など貴重な史跡もありますね

町田さん:天下統一を成し遂げた豊臣秀吉が築いた「お土居」は、京都の街を囲むように作られた土塁です。内側が洛中、外側が洛外にあたります。「盧山寺」がこの場所に移されたのが1573(天正元)年で、お土居が完成したのが1591(天正19)年のことです。万里の長城に倣ったと言われ、外敵の来襲に備える他、鴨川の氾濫から街を守る役目も果たしたようです。京都の東側の地域でお土居が残っているのは、当山だけなので、歴史、特に近世の歴史を学んでいる方などがよく見に来られます。慶光天皇は子どもにあたる光格天皇が生前に追尊されることを希望していましたが叶わず、明治時代になって、ようやく明治天皇により追尊されました。天皇陵をご覧になっていただけます。

お土居跡
お土居跡

――「盧山寺」自体が、何か歴史的な出来事の舞台になったことはありますか?

町田さん:応仁の乱の時には細川氏に境内を馬の置き場として貸していたようです。それで織田信長の怒りを買い、寺を現在の場所に移すことになったという話が伝わっていますが、私は秀吉が最初から移転するつもりだったと考えています。そして、明智光秀は「盧山寺」を好きだったようです。

若い家族だけでなく、年配の方にも暮らしやすい

お話を伺った町田泰宣さん
お話を伺った町田泰宣さん

――歴史の舞台となってきた「盧山寺」周辺、上京区や御所エリアの現在の環境についてはどう思われますか?

町田さん:上京区、特に御所の近辺は住みやすい街だと思いますよ。なんでもありますから。買い物は出町柳付近であれば出町商店街があるし、河原町方面にも行きやすい。飲食店も最近、随分増えた気がします。駅前まで行かなくても、いろいろなお店を利用できます。 交通の面に関しては、バスも利用しやすいですね。地下鉄の駅のように階段を昇り降りする必要がないので、お年寄りにも暮らしやすい街だと思います。

京都御所
京都御所

――利便性だけでなく、街並みにも魅力がありそうですね

町田さん:街並みとして一番いいのは、やはり近くに「京都御所」があることですね。御所を中心として東西南北の場所があり、北は今出川通り、西は地下鉄、南は丸太町通りがあります。その付近はにぎやかです。逆に盧山寺がある東側は寺町で、鴨川も近く静かな環境となっています。便利な市内でありながら、豊かな自然に触れられるのは京都らしい魅力です。

盧山寺 町田さん
盧山寺 町田さん

大本山 盧山寺

管長 町田泰宣さん
所在地 :京都市上京区寺町広小路上ル
TEL :075-231-0355
URL:http://www7a.biglobe.ne.jp/~rozanji/
※この情報は2016(平成28)年9月時点のものです。

静かな寺町にたたずむ「盧山寺」は文学ファンが後を絶たない憧憬の地/盧山寺 管長 町田泰宣さん
所在地:京都府京都市上京区寺町通広小路上ル北之辺町397 
電話番号:075-231-0355
参拝時間:9:00~16:00
拝観休み:1月1日、2月1日~2月9日、12月31日
http://www7a.biglobe.ne.jp/~rozanji/