UR都市機構 インタビュー

時代のニーズに合わせ、持続可能な地域づくりに取り組む鳴子団地/UR都市機構中部支社 住宅経営部管理企画チーム チームリーダー 藤森 宙さん


1962(昭和37)年に、日本住宅公団(現UR都市機構)が開発を手がけた鳴子エリア。名古屋市緑区の地下鉄桜通線「鳴子北」駅の徒歩圏内で、集合住宅の鳴子団地と戸建住宅が併存する大規模な開発エリアだ。一方で、管理開始より約50年近く経過した団地は建物の老朽化により、建て替えの時期に来ていた。そこで、UR都市機構が再度鳴子団地の少子高齢化、地域交流に配慮した団地再生事業を行っている。集合住宅の建て替えだけでなく、時代のニーズに合わせた地域の再編。どのような思いでそのプロジェクトに取り組んでいるのだろうか。今回は、UR都市機構中部支社 住宅経営部 管理企画チーム チームリーダー藤森宙様にお話を伺った。

高齢者の増加、住人同士の繋がりを作る自治会がないという課題を解決するために

※国土交通省『鳴子地域エリアマネジメント推進方策検討業務』より抜粋
※国土交通省『鳴子地域エリアマネジメント推進方策検討業務』より抜粋

―現在、鳴子団地は団地再生事業を行っていらっしゃるということですが、以前はどのような課題があったのでしょうか。

藤森さん:緑区全体では、近年の地下鉄桜通線が「徳重」駅まで伸びたことなどによって、名古屋市内のベットタウンとして若い世代の流入が多いのですが、こと、鳴子団地となると高齢化が進み、平均年齢が60歳以上で、約1/3が65歳以上となり、地域としての活力が低下してきていたのです。また、鳴子団地は巨大団地でありながら、団地再生事業を始めた当初は自治会が存在しませんでした。住人同士の繋がりを作る手段がなく、URと住人の間で意見交換を行うことも難しい状況でした。

鳴子小学校西側の住棟群には高齢者が多い
鳴子小学校西側の住棟群には高齢者が多い

―現在は、どのような団地再生事業に取り組んでいらっしゃるのでしょうか。

藤森さん:そのような課題を受けて、「多様な世代がこれからもずっと住み続けられる持続可能な団地づくり」を目標にしました。まずは、団地内に3つの拠点を整備することにしました。鳴子小学校西側の住棟群は残存させ、比較的安い家賃でお住まいいただけるようにしました。小学校南側のエリアは、「アーバンラフレ鳴子」という新規住宅に建て替え、子育て層など新たな世帯の移入を進めていきたいと考えています。そして、小学校、幼稚園周辺は子育て支援拠点と位置づけました。また、団地活性化にはコミュニティの醸成が欠かせないため、事業の当初においては「鳴子団地をよりよい団地にするための意見交換会」を開催したりしました。そういった地域住民が集まる会を通して、2013(平成25)年に自治会も誕生しました。

新たに作られたアーバンラフレ鳴子
新たに作られたアーバンラフレ鳴子

―NPOや行政とも連携を組んでいらっしゃるとお伺いしました。

藤森さん:鳴子団地内の店舗にて鳴子地域を活動の拠点としている高齢者支援のNPO法人「たすけあい名古屋」さんには、居住者参加型のワークショップなどで、高齢化対策について様々な意見交換をしていただき、地域の自治組織との橋渡しをしていただきました。「たすけあい名古屋」さんが運営していらっしゃる小規模多機能施設型居宅介護施設や訪問介護ステーションも団地内にはございます。また、鳴子団地は名古屋市立大学、名古屋学院大学、名古屋工業大学が取り組む医療人材の育成活動「なごやかモデル」の拠点にもなっています。鳴子町1丁目に設置された名古屋市立大学コミュニティ・ヘルスケア教育研究センターは、地域の住民が、暮らしや健康、医療、介護について気軽に相談ができる場所でもあります。

健康相談が可能な「名古屋市立大学コミュニティ・ヘルスケア教育研究センター」
健康相談が可能な「名古屋市立大学コミュニティ・ヘルスケア教育研究センター」

若い世代&商業施設の誘致で街に活力を

―子育て世代の取り込みはどんなことをやっていらっしゃるのでしょうか。

藤森さん:元々こちらのエリアには、鳴子小学校、鳴子幼稚園、鳴子台中学校があり、当初から子育て施設が充実している場所でした。また、団地内にはたくさんの公園や緑地があり、自然環境も豊かです。その環境をPRしました。なお、UR全体としては、子育て世帯など若年層の誘致のため、「そのママ割」や「U35割」などの割引を行っています。

鳴子団地には小学校や幼稚園も整備されおり、子育て世代にも人気
鳴子団地には小学校や幼稚園も整備されおり、子育て世代にも人気

―街のあちこちに花壇が整備されているなど、景観も良いですね。

藤森さん:自治会誕生以降、住民による地域活動の核ができたため、住民の手で花壇がたくさんできました。「花育」を通じたコミュニティの活性化で、除去予定地にあった砂場を花壇に変えています。これを契機として花を世話するための「鳴子花物語」というサークルも立ち上がりました。新しく建て替わった「アーバンラフレ鳴子」のエントランスや通路にも花壇があり、住人が管理し、きれいな花を咲かせています。

鳴子団地自治会が整備する花壇
鳴子団地自治会が整備する花壇

―商業施設もオープンしていますね。

藤森さん:生活支援拠点として、鳴子町交差点周辺にスーパーマーケットやコンビニ、ドラッグストアなどの商業施設が近年オープンしました。かつては団地内に商店があったのですが、そういったものは一部閉鎖されたりして、住人が遠くまで買い物に行かなくてはならない面もありました。町の中心に商業施設ができたことで、生活の利便性は再びだいぶ良くなったのではないかと思います。

2014(平成26)年にオープンした「マックスバリュ 鳴子店」
2014(平成26)年にオープンした「マックスバリュ 鳴子店」

―地下鉄も開通して「駅そば団地」ですね!

藤森さん:2011(平成23)年3月に地下鉄桜通線が延伸し、近くに「鳴子北」駅が開業しました。それに伴い、それまで最寄駅まで徒歩15分以上かかっていたロケーションが改善され、「駅そば団地」と呼ぶことのできる環境が整いました。地下鉄に乗れば、「名古屋」駅まで約30分ですし、通勤で名古屋の街中に出られる方にも住んでいただきやすいのではないかと思います。

団地から始まる、新たなミクストコミュニティ

―今後計画していることは?

藤森さん:今ちょうど進めているのは、団地の自治会とUR都市機構との共同主催で、「樹名札を作ろう」というイベントです。鳴子団地は約50年が経過し、その間、団地の中にはたくさんの木々が育ってきました。ここで改めて、どんな木があるのかを皆で確かめてみたいなと考えました。これから再整備を予定している広場があるのですが、そこを中心とした団地内の木に樹名札を付けたいなと思っています。住んでいても普段なかなか身近なことを知る機会は少ないものなので、今後も“団地を知る”イベントを企画していき、多くの人が自分たちの住む街として共通意識を持つことができる取り組みをしていきたいなと思っています。

若い世帯も誘致。様々な世代が共同する地域社会が生まれている
若い世帯も誘致。様々な世代が共同する地域社会が生まれている

―最後に、藤森さんが考える、鳴子北エリアの魅力と、今後の展望について一言お願いします。

藤森さん:このエリアの魅力は緑区というだけあって緑が豊かなところだと思います。そういった元々の良さを残した住環境が広がっているのがここ鳴子団地です。団地が始まったのが約50年前。現在は団地の再生事業の中で、新しい街へと生まれ変わりつつありますが、高齢化率は高く、独居の方も多く、まさにこれから日本が直面するであろう社会の縮図がある街という面もあるのではないかと思います。そんな場所であるため、名古屋の3大学が連携しての「なごやかモデル」計画で、地域包括ケアへの貢献を目指した活動が行われてもいます。“安心して暮らせる街とはどんな場所なのか”ということについて、様々な人が意見を出し合っているため、もしかしたら、協働して生きていくヒントをいち早く見いだせる場所になる可能性もあります。我々も、団地再生事業を通して、生活支援施設の誘致を進めていきたいと考えておりますし、そういった日本の課題を解決できる街作りに貢献できれば非常に意義深いものになるのではないかと思っています。

団地中心部に位置する「なるこ集会所」
団地中心部に位置する「なるこ集会所」

UR都市機構

中部支社 住宅経営部 管理企画チーム チームリーダー
藤森 宙さん
所在地:愛知県名古屋市中区錦3-5-27 錦中央ビル
TEL:052-968-3333(代)
URL:http://www.ur-net.go.jp/chubu/
※この情報は2016(平成28)年9月時点のものです。