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クロスクラブ

東急池上線久が原駅から徒歩9分。閑静な住宅街の中に、建築家山口文象氏(やまぐちぶんぞう、1902年1月10日-1978年5月19日)の自邸「クロスクラブ」がある。山口文象氏は1930年代から60年代にかけて活躍した建築家。現存する建築物は黒部川第二発電所や新宿区落合にある林芙美子邸などがあげられる。現在は2階がご子息の山口勝敏さんの自宅で、1階をコンサートホールやサロンとして使用している。

「クロスクラブ」は1940年(昭和15年)自宅として建てられた。現在コンサートホールとして使用している1階は、当時からサロンありきのデザインだった。「最初からサロンだったんです。家族のスペースより、おやじの友人が集まって酒を飲んだり、そういう人たちの交流の場だったんです。彫刻家とか画家とか建築家が集まってワイワイやる。そういうスペースだったんです。おふくろは僕ら子供の世話よりお客さんの世話が大変だったんです。おやじは晩年に久が原教会で洗礼を受けてクリスチャンになったこともあって十字架と、いろんな人がクロスしてくれるようにということで「クロスクラブ」っていう名前を付けていったのです。久が原を選んだのは、浅草の生まれだからこういう住宅地に建てようというのが夢だったんじゃないんでしょうか。浅草の長屋で育っていますから。面白いのは、ここは信号から3軒目でしょ。東急の分譲だったんだけど、じゃんけんして決めたそうです。昔は角地がいいと言われていて、おやじが一番負けたんです。」

新しい素材が出ればまず自分の家で実験していたので、デザインはいつも変わっていたという。元々は和風建築で建てられたのが、亡くなる前に改築して現在の洋風になった。「ここはいつも動いていました。おやじが亡くなってからはずっと止まったままです。40年近く。今生きていたらもっと変わっているはずです」。

「クロスクラブ」は建物が好きな人が建築ツアーを組んでやってくる。美術館がツアーを組むと募集の数10倍応募があるほど人気があるそうだ。見学したい人はあらかじめ連絡を入れると対応してくれる。奥には当時書生が生活していた建物も残っている。

現在はコンサートホールとしても使用している「クロスクラブ」。ご子息の山口勝敏さんは音楽の専門家で、春と秋に行うコンサートでは人が入りきれないので、3日間に分けて実施している。コンサートの後は広い中庭でワインやお茶のパーティ。またご夫婦ともにピアノを教えていて、その発表会でも使っている。

毎月行っている山口勝敏さん主催の音楽セミナー「楽しい音楽への誘(いざな)い」が人気。音楽の授業のような堅苦しいものではなく、色々な切り口から楽しく音楽に親しむといったもの。

「鳥」がテーマの回は、山口勝敏さんが小鳥の声がものすごいシンフォニーに聞こえたという経験を話したり、古今東西の鳥が出てくる音楽を聴いたり。「演奏って何だろう」という回では、弾く人や歌う人によって演奏が違うので、たとえば浜辺の歌や第5交響曲をいろんな人の演奏を聴き比べて違いを感じるといったことなどをやっている。ちなみに山口勝敏さんは舟木一夫の浜辺の歌が好きだという。

ジャンルはクラシックに限らず、ポピュラーやジャズ、民謡など音楽全般に及ぶ。続き物ではないので、いつからきても大丈夫。足ぶみ(リード)オルガンもあって、この音を求めてやって来る人も多いという。

「クロスクラブ」ではファッション誌の撮影や映画、ドラマの撮影で使われることも多い。業界では有名なパワースポットで、無名の時にここで撮影したモデル、タレント、ミュージシャンがみんな出世していくという。最近だとAKB48やキムタクの撮影でも使われた。

「皆さん、ここが大好きでいてくださるから、この形で残したいっていう強い思いの方はたくさんいらっしゃる。そのために何とかしたい、基金を作ろうとかいろんなことを言ってくださいます」。

コンサートやセミナーでは、お茶とお菓子が用意され、みんなが和気あいあいと楽しんでいて、山口文象氏のサロンが受け継がれていることを感じる。それこそが山口文象氏が「クロスクラブ」という名前に込めた思いではないだろうか。

クロスクラブ
所在地:東京都大田区久が原4-39-3 
電話番号:03-3754-9862
http://kurokawa-pke.com/kammer/concerts/..




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