Soba-ya 榛名

soba-ya 榛名
soba-ya 榛名

JR西浦和駅前に、えび茶色の粋なのれんがはためく店がある。「Soba-ya 榛名」。平成17年にオープンした、新進気鋭のそば店だ。

都心のカフェにでもあるようなたたずまいで、足を踏み入れるのを臆してしまうが、外観から感じる美意識をどのように食に生かしているのか、たいへん気になる。

空が夕暮れに染まる時刻、思いきってその敷居をまたいでみる。

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「いらっしゃいませ」と挨拶を受け、席の一角に腰を下ろす。スタイリッシュな外観の印象に違わず、内装もシンプルモダンの素敵なもの。席と壁の間に白い玉砂利が敷き詰められている箇所もあり、細かいしつらえの店内にしばし感心。

メニューを見ると、看板のそばもさることながら、一品料理や酒類もかなり充実している。その中から、特に興味をおぼえた「馳走(じそう)三種盛り」「地鶏のたたき」「とろろせいろ」を注文することに。

ほどなくして馳走三種盛りが出てくる。「鴨ロース」が一応の定番で、残りの2種は日によって内容が変わるとか。この日は「さんまの酢漬け」と「焼き味噌」がラインアップされていた。

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まずは、さんまの酢漬け。あまりに脂が乗っているので、最初はニシンのような大きな青背魚を使っているのかと思ってしまった。このサンマの切り身に、細切りの甘酢ショウガと黒ごまが和えられている。ジューシーな脂にあっさりとした酸味がおいしい。

やわらかな甘さの西京味噌にクルミのみじん切り、ネギなどの薬味を入れて練り上げ、軽く焦げ目がつくまで焼いている焼き味噌。塩辛くなく、実にまろやかな味わい。今日はお酒を控えているのだが、注文していたとしたら、杯が進むこと必至だ。

驚いたのは、レギュラー的存在の鴨ロース。食べた瞬間に肉汁があふれる、とろける味わいなのだ。さながら欧風料理の一皿で、そば屋で酒のつまみとして出る鴨ロースとは一線を画している。

その秘訣は「皮に焦げ目をつけてから蒸す」ことと「フランス産の鴨を使う」ことにあるのだそうだ。以前は国内産の鴨を使っていたそうだが、ご主人いわく「国内産のものだと肉に筋を感じることがありまして……。やはり鴨はフランスが本場ですので、そちらを使うと納得できる食感になりました」。

鴨ロースは業者から仕入れたものをそのまま出す店が多い中、このこだわりよう。外観から垣間見えたこだわりが早くも感じられる。

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続いては、地鶏のたたき。口にしてみると、臭みがまったくない。市場で買い付けでもしないと味わえないような新鮮さにビックリだ。すると「九州は鹿児島・霧島の養鶏農家から直接仕入れています」とのこと。なるほど、そうした独自のルートがあるから、このフレッシュさを提供できるのか。

嬉しいのが、かかっている特製ゆずポン酢がごくあっさりした味付けであること。肉質自体が持つ味わいを殺さないさじ加減は「絶妙」の一言だ。

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いよいよ、とろろせいろが登場。まず驚くのは、とろろの多さ。添え物ではないたっぷりの量が嬉しい。千葉・多古産のものを使っているそうで、粘り気も十分。そばをつけても薄まらない。

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しかも、このとろろには鰹だしが入っているという。なので、そのままつけても美味なのだ。かつお節に昆布、シイタケでだしを取ったつゆもついているので、好みに合わせて味を調整できる。

麺は、いわゆる二八そば。上品な白さで、つるつるとしたのど越しの中に、香ばしい味わいが生きている。「のど越しの良さの中に食べごたえも感じていただきたかったので、そばの実を粗挽きにしたものも麺に練り込んでいます」

確かにつるつるのそばだと、器が空になっても食べた気がしないときがある。しかし、この麺ならせいろ1枚でもかなり満足できる。しかも価格設定が安め。せいろ1枚が700円。お代わり用の「薄盛りせいろ」が450円。「西浦和のそば屋ですので、安心して食べられるようにしました」というご主人の心意気がなんとも嬉しい。

ご主人は、この西浦和の出身。地元でそば屋を営むことを夢見て他地域で修行を積み、念願かなってのれんを構えた。洗練された店舗デザインは「女性のお客さまがお一人でもそばを楽しんでいただけるように」と考えてのこと。事実、客の多くは独り客で、女性が占める割合も多いとか。騒がしい客もほぼおらず、落ち着いて食事を楽しめる。

「白子のバターソテー」「カマンベールの天ぷら」など、そば屋らしくないメニューが混じっているところがおもしろい。中でも「チーズそば」には度肝を抜かれたが「思った以上に合う」と大好評なのだとか。「まかないで作ってみておいしかったので、メニューに出しました」と笑うご主人。

季節はまだ冬だが、現在、夏向きの新しいそばを研究中だそうで「ほかにはない、特殊なそばにするつもりです」の言葉に早くもワクワクしてしまう。

メニューといえば、酒のラインナップも季節で変えているというから驚きだ。通年のものもあるが、燗をするのに適したものは秋冬に、冷や(常温)や冷酒(冷蔵庫保管)として飲んだほうがおいしいものを春夏に出すこだわりには頭が下がる。

寒い時期には熱湯の入った陶製の容器で燗をつけた「湯燗徳利」での対応も可能。好みの温度で楽しめる。

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最も驚いたのは「日本酒の多くは一合瓶で取り寄せています」の一言。日本酒は空気に触れると酸化してしまうので、一升瓶だとどうしても品質が劣化してしまう。それが一合瓶だと飲み切ってしまえるため、いつでもおいしい状態で提供できるというわけだ。

一升瓶に比べてコストがかかるのは、火を見るよりも明らかだ。しかし「設けはほとんどありませんが、自分もお酒が好きなので、おいしく飲んでいただくためには捨てられないこだわりでした」とご主人。

焼酎でも特筆すべきものがある。焼酎好きであれば、飲む直前に水で割るよりも前日から合わせ、寝かせたほうがおいしいことは知っているだろう。榛名では、その「前割り」(焼酎6:軟水4)を施した焼酎の銘柄がいくつもある。また、焼酎の蔵元であらかじめ作った「蔵割り」もある。焼酎の仕込み水と同じ水「マザーウオーター」で割られるケースが多いので、雑味がなく、蔵元の描く理想の味わいを堪能できる。

ビールでは、首都圏限定の飲食店向けでしか飲めなかった「琥珀エビス〈樽生〉」を取り扱っている。まだまだ置かれている店が少ない貴重なビール、一度は試してみたいものだ。

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夜の営業時間は、席を譲り合うことがしばしばだという昼の時間よりもゆったりしているが、長っ尻をするのは野暮というもの。食べ終わり、席で会計をしてもらう。

その間、ご主人に「将来的な夢ってありますか?」と聞いてみたところ「当店はお客さまの年齢層が幅広く、お昼にはおばあちゃんとお孫さんの二人連れがいらっしゃるなどということもあります。このお孫さんが大きくなったとき、行きつけのそば屋としてお友だちなど連れてきていただけたら嬉しいですね」。

オープンして約3年、県内全域や都内、遠くは群馬のほうからも常連客を集めている榛名。その“お孫さん世代”が自分のお金でそばを食べにくるには、あと10年くらいかかることだろう。しかし、料理のクオリティーに酒類に書ける情熱、何よりご主人のたゆまぬ努力により、その夢はいずれ現実へと形づくられてくるはずだ。

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馳走三種盛り…850円
地鶏のたたき…890円
とろろせいろ…950円

Soba-ya 榛名
所在地:埼玉県さいたま市桜区田島5-10-5 土屋第5ビル1階
電話番号:048-838-8636
営業時間:11:30~14:30、17:30~22:30
定休日:木曜日





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