日本料理 八和田

市役所近くに居を構える「日本料理 八和田」は、純日本家屋のしっとりとした佇まいが美しい、八潮では名の知れた料亭。八潮育ちのご主人の料理人歴は長く、平成の世になってから日本料理を出す形態に変えたとか。以来、長きにわたって地域の名士たちの舌をうならせている。

夜のお料理はさすがに高級感あふれ、名士にはほど遠い自分は、何かの節目でもないかぎり、つい手をこまねいてしまう。

しかし、昼のお料理は2,500円と3,500円の2種。春うららかな日、たまには何でもない日に粋をつくした料理を楽しもうと決意。3,500円の会席料理を予約してみた。

木戸をくぐり、入り口の引き戸を開ける。玄関の向こうは、個室へとつながるドアと廊下のみ。入り口近くでよく見かけるレジやカウンター席などは見あたらず、凛としたたたずまいだ。

「本物の料亭とはこういう造りなのか」と、しばし緊張するも、それをほぐしてくれる女将さんの笑顔に迎えられ、個室に案内される。

まずはお茶とおしぼりが出され、ちょっと一息。さっそく、おしぼりの湿り具合に感動する。機械で保温したおしぼりは、温かさはあるものの、水気が抜けてしまっていることが多いのだが、ここのは、ついさっきお湯にくぐらせて絞ったような、ほどよい湿り気。

こうしたおしぼりで手を拭くと、心までリフレッシュしていくものなのだな。早くも、日本料理店ならではの「もてなしの心」を感じて嬉しくなる。

気持ちをゆるめ、床の間の掛け軸や、しつらえられたフリージアの生け花を眺めていると、いよいよお膳に載った会席料理が運ばれてくる。

お膳に載りきれなかった皿には、蟹の爪肉や菜の花など、季節の食材をカラリと揚げた天ぷらが盛られている。

どれもおいしかったが、スズキの大葉揚げは特に好きな一品に挙げたい。淡泊なスズキの身に、さわやかな風味の大葉が合う。これまでもスズキの天ぷらは食べたことがあるが、大葉を合わせたものは味わったことがなかった。「ああ、もうすぐ初夏が来るなぁ」と、なんとなく気分が高揚してくる。

そして、高級魚「シラカワ」を西京味噌で漬け込んだ焼き魚。恥ずかしながらシラカワという魚を知らなかったのだが、帰宅後に調べてみると「シロアマダイ」のことだった。自分には「グジ」の名で馴染みがある。

身のやわらかさといい、皮の薄さといい、やはりグジ、いや、シラカワはおいしい。さすが市場でもなかなか出回らない魚だけのことはある。じんわりくる味噌の風味が、これまたよく合う。

お膳を華やかに埋めるのは、マグロ・サヨリ・イサキという、春および初夏を感じさせる刺身の3点盛り、タイの真子やタケノコ、湯葉巻、キヌサヤの焚き合わせ、酢の物、茶碗蒸し、甘辛く煮た小魚の小鉢など。3種類ある漬け物の1つは、長芋のぬか漬けだろうか。どれもこれも箸が進むものばかりだ。

あっさりとしていながら、心を研ぎ澄まして味わうと、すべて味わいが異なっているのがわかる。「食における日本人の感覚は、本当に素晴らしい」と、日本人ながら感嘆してしまう。

具だくさんの味噌汁とごはんを終えたら、最後はデザート。なんと、小塩が脇に盛られたスイカが出てきた。この時期のものだからか、やはり果肉の色は薄め。しかし、このほんのりとした赤みこそ、初夏のきざしを見いだせるというものだ。

スプーンですくい、口に運ぶ。甘さは十分。果汁もたっぷりだ。日本料理ではデザートのことを「水菓子」というが、本当にうまいことを言ったものだ。

まずはスイカそのままの味を楽しみ、続いて塩を合わせてみる。この塩自体にもどこか甘みが感じられる気がする。この塩を得たスイカは、舌の上でさらに甘くなっていった。

この八和田では、品数の多い料理と和の雰囲気を心ゆくまで楽しんでもらうため、夜などは閉店の2時間前でラストオーダーとなることが多い。確かに、この雰囲気と味の随を味わうには、せかせかしていては野暮というものだ。

ちょうどよいタイミングで、食後のお茶が運ばれてきた。最初に出てきたのは煎茶、今度はほうじ茶だ。

「どうぞごゆっくりなさっていってください」との女将さんの言葉に甘え、ゆるりとした時を過ごす。お腹も心も満ち足りたひとときだった。

店を出るとき、壮年と若年、2人のビジネスマンが引き戸を開けて入ってきた。どうやら、仕事での接待に使用するための下見に来たようだ。

女将さんが応対に出てくるまでの間、店内を一目見た彼らは「ここなら大丈夫そうだな」「そうですね」などという会話を交わしている。

「その判断は正解ですよ」と割って入りたくなったが、さすがにそれは僭越なこと。よって、店を訪れた感想の総まとめとして、代わりにここで書かせていただくことにする。

日本料理 八和田
所在地:埼玉県八潮市中央2-6-4 
電話番号:048-995-4878
営業時間:11:30~14:00、17:00~22:30
水曜休
昼の会席2,500円・3,500円、夜の会席5,000円~(いずれも税・サ抜き)

ビール・焼酎・ウイスキー・日本酒・ワイン・ソフトドリンクあり





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