天安本店

今や高層マンションが立ち並ぶ佃島も、ふらりと路地に入ればまだ古き良き昭和の光景が残っている。そのなつかしい風景の中においても、とりわけレトロな建物といえば、「天安本店」を外すことはできないだろう。

「天安本店」店舗外観
「天安本店」店舗外観

路地にレトロな建物が堂々残る
路地にレトロな建物が堂々残る

「天安本店」があるのは隅田川沿いの堤防のすぐ脇。かつてはこの店の目の前に、対岸の湊地区とを結ぶ「佃の渡し」の渡船場があったという。佃の昔の地区名は「佃島」。佃島はかつて、隣にある石川島とともに、東京湾に浮かぶ離れ小島だった。

江戸時代、この島に大阪の佃という地から移り住んできた漁師たちは、島を佃島と名付け、もともと大阪でも行っていた小魚や海産物の塩茹で加工を行い、出漁時や時化(しけ)の時の保存食として活用してきた。これがのちに銚子から醤油が入るようになると、醤油で味を付けるようになり、江戸の庶民の間でたいへんな好評を得たという。

堂々掲げる看板
堂々掲げる看板

佃煮の元祖だ
佃煮の元祖だ

こうして「佃煮」と呼ばれる食べ物が江戸に広がったころ、「天安本店」はこの場所に暖簾を掲げた。それ以来、江戸が明治に変わっても、戦争が起きても、変わらぬ味を江戸・東京の人々に届け続けてきた。終戦後、砂糖が安価に入るようになってからは、佃煮の味も「甘じょっぱい」へと変わったそうだが、ベースになる煮汁は変わらない。近代化の波で近隣の佃煮店は幾つか廃業に追い込まれたが、その中でも「天安本店」は熱烈なファンに支えられ、いまも往時のたたずまいと味を残している。その創業は1837(天保8)年。実に180年以上の歴史を持ち、現存するいくつかの佃煮店の中でも最も古いそうだ。

レトロなショーケースに並ぶ佃煮の数々
レトロなショーケースに並ぶ佃煮の数々

木箱いっぱいに佃煮が盛られている
木箱いっぱいに佃煮が盛られている

店内に入ると、木組みのレトロなショーケースの向こうに、木箱一杯の佃煮が盛られている。黙々と作業するおかみさんたちは、もう何十年もこの店の看板娘を務めるベテランだ。「おすすめは?」と聞くと、「下の段中央の昆布よ」と即答されるが、その後の続く話のやりとりが楽しい。「どこから来たの」「おひさしぶりね」など、佃煮越しに会話を楽しめるのもこの店ならではの楽しみだ。

店主との佃煮越しの会話も楽しい
店主との佃煮越しの会話も楽しい

佃煮の種類は年間を通じてほぼ変わらない。昆布もアサリも小魚もそれ以外も、それぞれに専門の問屋さんがあり、状態が良く形のそろったものを、「天安のためだけにストックしてくれている」のだとか。すべての問屋さんが、もう何代もの長い付き合いであるそうだ。味付けももちろん大切だが、こういった信頼関係があってこそ、「天安の佃煮」はブランド品であり続けているのだろう。4代、5代にわたるファンも多いというのだから、その歴史の長さを思い知らされる。

佃煮は手土産や引き出物などにもよい
佃煮は手土産や引き出物などにもよい

「佃煮って、おかしら付きでしょ?小さくて取れないんだけれど(笑)。だから縁起もいいってことで、皆さんお祝いにも使ってくださるの」とおかみさん。手土産にはもちろん、各種引き出物やお返し、中元や歳暮などにも非常によく使われており、そのファンは東京だけではなく全国区だという。

インターネット通販もあるが、現地を訪れるのはまた特別だ
インターネット通販もあるが、現地を訪れるのはまた特別だ

ツヤツヤ輝くご飯と一緒にいただきたい
ツヤツヤ輝くご飯と一緒にいただきたい

そういった需要もあり、今ではインターネットの通信販売も行っているそうだが、やはり佃という場所でこの建物を訪ねて、おかみさんの手から買うというのは特別な感情をともなうもの。大事に作られた極上の佃煮を買ったならば、いつもよりも丁寧にお米を研いで、ツヤツヤに輝くご飯と一緒に頬張ってみてほしい。

天安本店
所在地:東京都中央区佃1-3-14 
電話番号:03-3531-3457
営業時間:9:00~18:00
定休日:12/31~1/1、1月中に3日間
http://tenyasu.jp/





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