nac’s

一人暮らしの身にとって、ハードワークを終え、電車に乗って帰宅するだけの毎日は、時にかなりの味気なさを感じてしまうもの。おいしいごはんを食べて、誰かと話を交わし、一緒に何かをワイワイ楽しめたりしたら、仕事だらけの日々にもメリハリが付くというものです。
それをすべてかなえてくれる店が、JR大井町駅から徒歩数分のところにあります。カフェ&ダーツバーの「nac’s」。昼間はランチを提供するカフェ、夜以降はダーツを楽しめるダイニング&バーとなり、多くの人々がそれぞれの目的で集まってきます。

nac's

ダーツバーというと、暗がりの中に電光のダーツ盤が光っている空間を想像しがちですが、nac’sは全面がガラス張りで、夜でも明るい雰囲気。一人でも気軽に入りやすいところが助かります。
「ダーツはしたことないんだけど……」という初心者でもまったく問題ナシ。先に店で楽しんでいた誰かが教えてくれることでしょう。こうして教えてもらうことで、いつしか仲間になってしまう光景もnac’sでは珍しくないのだとか。楽しみながら練習すると上達のスピードも速いようで、この日の早いうちからダーツに興じていたカップルは、ダーツ歴がまだ3ヶ月とのこと。しかし、投げる3本はことごとく狙ったところに的中しています。
本格的に上手になりたい人は、2ヶ月に1度開かれる、NHKの趣味講座で講師を務めたインストラクターが教えてくれるダーツ教室を狙って来るのもよいかもしれません。

nacs_darts1.jpg

ダーツだけではなく、食事が本格的なのもnac’sの大きな特長です。グランドメニューの豊富さもそうですが、「ダーツバーなのに、このラインナップ!?」と目を見張ってしまう本格的な料理が「本日のおすすめ」メニューにズラリと書かれています。
酒のつまみは「煮玉子」(100円)「夏野菜のトマト煮」(500円)「インゲンのアンチョビ風味」(500円)など、ジャンルもバラバラ。ごはんものだけでも「エビドリア」(1,200円)「チャーシュー丼」(1,200円)「海鮮丼」(1,500円)と、和洋中のジャンルが揃ってしまいます。
「本日の魚」には、なんと刺身メニューが並んでいます。中にはホタテやスズキ、生タコの刺身(各650円)。カツオやサバなど、鮮度の落ちやすい“足の速い”魚の名も(各600円)。

カルパッチョの上のメニューに、ふと視線が釘付けに。「マグロ頭トロ」(700円)。頭の部分から取れる身は、当然ながらわずかしかありません。これはぜひ頼まなければ。
勢いづいてオーダーすると、笑顔のオーナーの一言から、二重の衝撃を受けることに。

「いつもは養殖物が多いんですが、今日は市場に天然物が入っていました。いやぁ、ラッキーですね」

天然マグロの頭の部分など、めったに手に入るものではありません。それを今日食べられるの? 「ダーツバー」で!?
そして、オーナーが発した「市場」という言葉。このあたりで市場というと、日本最大の「大田市場」が思い浮かぶけど――市場で仕入れを行っているの? 「ダーツバー」なのに!?
一般的なダーツバーのフードメニューを決して軽く見ているわけではないのですが、偽らざる心境を抑えられず、率直に質問してみることに。
すると、オーナーはもともとはフレンチとイタリアンの出身なのだそう。その経験から、早朝4:00の閉店後、そのまま大田市場に仕入れに出かけるのだそうです。なるほど、それでこの価格が実現できるわけか。

nacs_cocktail1.jpg

梅酒とウーロン茶、ライチのカクテル「ロンシャン」(600円)を飲みながら、マグロ頭トロの到着を待ちます。
出てきたマグロ頭トロは、想像を超える厚さ。脂がたっぷりと乗っていますが、天然物なのでサラリとしていて、口の中でスッと溶けていきます。これに、タマネギの甘みのあるドレッシングがしっくりとなじんでいます。
客としてはこの豪気さが嬉しいですが、このボリュームでこの価格はどうも合点がいきません。普通の料理店で食べたとしたら、確実に2倍以上の価格はするはずです。
オーナーに「この値段で大丈夫なんですか?」などと恐る恐る尋ねると、オーナーは笑顔で「大丈夫です」と答えてくれました。

nacs_tonno.jpg

並々ならぬホスピタリティーを感じて気分が良くなり、2杯めのカクテルを注文。泡盛とココナッツ&ミルクの「島酒」(600円)です。泡盛ベースではあるものの、ココナッツというからには甘い口当たりを想像していたら、これが実にスッキリした味わい。ついついのどに流し込むスピードが速くなります。泡盛なので、それ相当のアルコール度数があるはずですが。
nac’sの客層は、だいたいこの近所の人なのだそうです。終電も気にしなくていいし、タクシーで帰っても大した料金ではありません。その気になれば歩いて帰れるので、安心して酔えるというものです。

nacs_cocktail2.jpg

アルコールが進むと、主食のようなものが欲しくなってきます。そこで、自慢のパスタメニューを注文することに。「島酒」に合うものを考え「ジャガイモとキノコのパスタ」にしてみました。
オーダーを受けてから麺を茹でているのでしょう、少々待ったあとにテーブルに到着。
そして、ここでも驚くことが。量がすごいのです。1,000円もしないのに、2人前はあるのではというボリューム。しかも「パスタは手打ちの平打ち麺です」。
手打ち麺でこの価格、この多さ。またしても「この値段で大丈夫なんですか!?」と訊いてしまいます。
「おひとりで全部食べられますか?」とオーナーは心配顔でしたが、おいしいものはすんなりお腹に入るもの。一筋も残すことなくたいらげてしまいました。

nacs_pasta.jpg

このパスタを食べているとき、スーツを着たサラリーマン風の男性が入店、カウンターに座りました。オーナーが「この彼が、さっき言っていたうちの1人ですよ」と小声で一言。
“さっき言っていた”というのは「nac’sには毎日ごはんを食べに来る常連客がいる」という話題について。ダーツもさることながら、ごはんを食べに通っているそうで「毎日のことだから、飽きないようにメニューにない献立を出しているんですよ」とのこと。
挨拶もそこそこに、オーナーは「ごはん?」と声をかけます。すると「ごはん」と即答する彼。メニューにはない魚料理をオーナーが作っている間、彼はおもむろに立ち上がり、ほかの客とともにダーツに興じます。

nacs_darts2.jpg

「ダーツバーなのに!?」、この一言がnac’sを表すに尽きるでしょう。
ダーツバーなのに市場で仕入れを行い、入手困難な部位の刺身を出し、ボリュームたっぷりの手づくり料理を出し、常連客のために定食を作る。
摩訶不思議でありがたい店、それがnac’sと言えそうです。

定食の出来上がりを見届けることができないのが残念ですが、そろそろ帰ることに。笑顔が素敵な奥さんに支払いをしていたとき、オーナーと彼の会話がまた聞こえてきて、またこっそり吹き出してしまいます。
「お茶?」「うん」
ダーツ“バー”なのに「お茶」!? つくづくわがままを聞いてくれる店です。

nacs_counter1.jpg

nac’s
所在地:東京都品川区東大井5-22-7 
電話番号:03-3298-5666
営業時間:11:30~14:30、17:00~翌4:00
定休日:ランチ土曜・日曜休、ダイニング&バー月曜休
http://ohimachi.com/nac’s/





PAGE
TOP