鮨 まるふく

JR中央線「西荻窪」駅の南口から高架に沿って歩くこと徒歩1~2分。左手に「鮨」という小さな文字を掲げている半地下の店が、2015(平成27)年に近所から移転する形で開業した「鮨 まるふく」である。

もともと、2011(平成23)年に、もう少し駅から遠い場所に開業したが、移転を機にさらに洗練された雰囲気にグレードアップし、使い勝手の良い店になった。営業は夜のみで、店には看板もなくメニュー表もない。店内に入れば真っ白な無垢のカウンターが鎮座し、その真中で割烹着の店主が黙々と仕事をしている。

店舗入口。「鮨」という小さな文字が目印
店舗入口。「鮨」という小さな文字が目印

店主の伊佐山豊さん
店主の伊佐山豊さん

洗練された雰囲気の店内
洗練された雰囲気の店内

ここでしか食べられない、店主のこだわりが詰まった鮨
ここでしか食べられない、店主のこだわりが詰まった鮨

一見すると「値段が最後まで分からない」というタイプの頑固な職人肌の寿司屋のように見えるが、実際はまったく異なる。「いらっしゃい」と温かく迎えてくれる店主はフレンドリーな笑顔で、手が動いていない時には、お客さんと談笑を交わす気さくさがある。フェイスブックなどSNSでの情報発信にも積極的で、敷居の高さは一切感じさせない。ゆえに、舌の肥えた30代から50代あたりの比較的若い年代のお客さんに高い支持を得ているようだ。

店主である伊佐山 豊さんは、豊島区にあった「まるふく」という寿司屋の息子として生まれた。小さな頃に寿司職人の父が他界。その後は、父の跡を継いだ母が寿司を握る背中を見てきた。大人になった伊佐山氏は、家業を継ぐために都内の寿司屋で修業。いくつかの店を渡り歩き、広い視点から寿司のイロハを学んだ。しかし、いざ店を出そうと考えた頃には地元の商店街は閑散としたシャッター商店街に。そこで母から暖簾を貰い、将来性が高いこの西荻窪に自身の店を持ったという。

筋金入りの寿司職人、伊佐山さん
筋金入りの寿司職人、伊佐山さん

時間をかけて徐々に締めたコハダ
時間をかけて徐々に締めたコハダ

握りと料理を交互に出すスタイル
握りと料理を交互に出すスタイル

そんな筋金入りの寿司職人である伊佐山さんが自身の店の看板に位置づけたのは、「熟成」した魚を使った江戸前寿司。「新鮮なネタの寿司も美味しいですが、それだと職人の技術の差が出ないんです。自分が出したいのは、ちゃんと魚の旨味を出して、シャリを自分で作って合わせれば、こういう風になるんですよ、という寿司です」。伊佐山さんが理想としているのは、ただ美味しいだけではなく、美味しさの先に職人の仕事が見えるオンリーワンの寿司だ。「もともと、江戸時代の寿司は少し時間が経った、“なれた”状態の魚をいかに美味しく食べるか、という文化だったんです。それに近いものを、現代風に表現したものがうちの寿司です」と話す。

しっかりと“仕事”をした寿司を最低限の価格で提供するために、この店のメニューは「おまかせコース」の1種類しかない。値段は税込みで13,500円。お酒を入れても大抵の場合は、2人で3万円以内に収まるという。同じ内容を都心部で食べたら、恐らく2~3倍にはなることだろう。コースの内容は仕入れ状況によってかなり変わるが握りが12~13貫程度で、その合間に11~12種類の小皿料理やツマミが出されるという充実の内容だ。

真牡蠣
真牡蠣

真っ白な無垢のカウンター
真っ白な無垢のカウンター

熟成のブリ
熟成のブリ

最初に提供されるのは白身の握り。この時出していただいたのはヒラメだったが、こちらは1週間寝かせてから塩で締めたもの。ねっとりとした舌触りと、たっぷりの旨味は熟成ネタならではで、日本酒が進みそうである。ブリなどの青魚や、コハダなど光り物も熟成との相性が非常に良く、生臭さが抜け、旨味が乗ったネタは極上の一言だ。長いものではブリが10日、イワシが2週間もの熟成期間を置くということだが、特に決まりはなく、すべて店主が五感を使ってネタごとに見極めている。終盤にはキンメや大トロなども出され値段以上の満足感を得られることだろう。

握りと料理を交互に出すというスタイルは、「寿司をしっかり楽しんでほしい」という思いからだという。最初は淡白なものから、徐々に旨味や脂の強いものへ。その合間には口の中をリセットするような料理を出して、一つひとつの握りを堪能してほしい。そんな思いが込められている。もちろん、一品料理の数々も非常に手が込んでおり、美味しい。

筋金入りの寿司職人が握る、極上の寿司
筋金入りの寿司職人が握る、極上の寿司

器など、細かいところへのこだわりも光る
器など、細かいところへのこだわりも光る

魚の旨味を出した鮨
魚の旨味を出した鮨

また、お酒にも並々ならぬこだわりを持ち、旨味の乗ったネタを引き立てる日本酒を利き酒師でもある店主の奥様が厳選している。希望すればお酒も「おまかせ」で提供してくれるそうなので、一度試してみてはどうだろうか。生ビールにも精通しており、最初に一杯は生ビールで、という楽しみ方もお薦めだ。

新鮮なネタを使った「寿司」ではなく敢えて何日も置いて、旨味を増幅させた熟成ネタの「鮨」。「魚の旨さ」を当てた漢字からも分かるように、それは江戸前の寿司の本来の姿であり、熟練の職人だけに許された「極み」の真骨頂と言えるだろう。寿司一筋の職人による知恵と感性と技を存分に使って仕上げた「鮨」。寿司好きを語るならば、この店の鮨はぜひ食べておきたいものだ。

鮨 まるふく
所在地:東京都杉並区西荻南3-17-4 第5PRビル1F
電話番号:03-3334-6029
営業時間:18:00~23:00(最終入店21:30)
定休日:日曜日(翌月曜日が祝日の場合は日曜日営業で祝日が休み)
https://sushimaruhuku.gorp.jp/



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