Saint Vincent(サン・ヴァンサン)

「大塚」駅の南口側から徒歩2~3分ほどにある南大塚三丁目のエリアは、古くからの商店に混じって、近年は個人経営の飲食店が多くオープンしており、注目を集めている地区である。その中でひときわ目を引く、大きなフランスの国旗を掲げているのが今回ご紹介する「サン・ヴァンサン」だ。

外観に掲げられたフランス国旗
外観に掲げられたフランス国旗

正式名称は「ワインカフェ サン・ヴァンサン」。冠した名からも分かるように、ワインを主役に据えたカフェであり、ビストロ的にも使える店でもある。昼と夜では異なる顔を持っており、昼は付近のOLさんの間で大人気のパスタ店として評判を集めている。対して夜は、ワインの薀蓄が店内を飛び交うような、ワイン好きが集まるマニアックな店となる。席数はわずか十数席。貸切営業で小さなパーティーが開かれることも多いという、小さな小さな店である。

牛肉のステーキ
牛肉のステーキ

落ち着いた店内
落ち着いた店内

ここのオーナーである岡崎信夫さんは、もともと証券会社に長く務めていたという、元・腕利きビジネスマン。しかし今から20年ほど前、衝撃的に美味しいワインと出会ったことでワインの魅力に没頭し、ついには会社を辞め、ワインバーのオーナーになってしまった。ここに店を持ったのは2010(平成22)年のこと。「『もっと気軽に、美味しいワインに触れてもらうような場所を持ちたい。』自分が感じたような衝撃的な体験を、多くの人にして欲しい」という願いを胸に、日々お客さんに向き合っている。

オーナー 岡崎信夫さん(写真:左)
オーナー 岡崎信夫さん(写真:左)

それだけに、ワインに対しての愛情はひとしおだ。ワインについて聞けば、どんなことでも的確にわかりやすく返してくれる。さらに深掘りすれば、幾らでもユニークな話題を次々と提供してくれる。ワイン好きの人であれば、岡崎さんとの会話だけでも満腹になりそうだ。

もちろんワインの品揃えには絶対的な自信を持っている。信頼できる商社から、完全にトレーサビリティ(生産や流通の履歴)が取れているものだけを仕入れ、店内のワインセラーと、別の場所にあるストッカーに膨大な銘柄を収蔵している。その数は「私自身もよく分かりません」とのことだ。もちろん、仕入れ毎にすべてのロットでテイスティングを行い、その経験をもとにしながら、客のリクエストに応じている。

品揃え豊富なワイン
品揃え豊富なワイン

フランスワインを専門的に扱う店は巷に多いが、この店はさらに狭く、「ブルゴーニュ産のワインを専門的に扱う」というのがポイントだ。さらに言えば、店主が惚れ込んだ生産者、フィリップ・シャルロパン氏が生産するものが、ストックの過半数を占める。このマニアックさゆえ、ディナータイムに訪れる人の多くは、大塚ではなくほかの地区から訪れる、筋金入りのワイン好きだということだ。

とはいえ、決して「敷居が高い店」というわけではない。昼は千円以下で良質なパスタセットが楽しめるため、ご近所のOLさんや主婦が気軽に訪ねてくる。この時間帯のお客さんの多くはワインにそれほど深いこだわりを持っていないはずだが、それも岡崎さんの狙いの一つだ。「ワインが苦手、嫌いという人にこそ、うちの店に来て欲しいんです。ワインは生き物。“死んだワイン”で“ワインは苦手”と思っている人に、うちの“生きたワイン”を飲んで“あれ、けっこう美味しいじゃん”なんて思って頂ければ、それはそれで、幸せなことですよね」と語る。

ブルゴーニュワインを専門的に扱う理由について聞くと、「ブルゴーニュワインは、赤、白ともそれぞれひとつの品種のブドウから作られているんです。だから作り手の力量、生産年などの特徴が出やすくて、実に個性が豊か。よく“良い年”“悪い年”などと言う人がいますが、その年ごとの違いも“個性”と感じて愛でてもらえれば嬉しいですね」という答えが返ってきた。

料理については、「こだわっていますが、あくまでも脇役です」と断言する。昼のパスタは岡崎氏が一人で作り、夜は腕利きのシェフが加わり二人で担当しているそうだが、レシピ作りについてはオーナー夫人に任せているという。夫妻が毎年行っているフランスの旅で本場の味を覚え、その味を帰国後に再現しているそうだ。

鴨のコンフィや牛肉のステーキなど、お馴染みの顔ぶれをはじめ、「キャロット・ラペのホワイトハム添え」「キッシュ・ロレーヌ」などライトに頂ける品々も人気が高い。「フランスの田舎の食卓」を彷彿させる品揃えとなっており、油っこさや塩味、過度なスパイスなどは主張を控えている。これは「ワインの香りを邪魔してはいけない」という配慮から。しかしバランスは崩さず、優しい味わいにまとめられている。

牛肉のステーキ
牛肉のステーキ

 

キャロット・ラペのホワイトハム添え
キャロット・ラペのホワイトハム添え

キッシュ・ロレーヌ
キッシュ・ロレーヌ

この店は昼のパスタで人気を集め、ネット上ではその口コミなどが多く見られているが、本当の魅力はそこではない。「パスタを作っているのは私。実は素人料理なんですよ」とオーナーは微笑む。本当に深い魅力はその先、ワインを楽しむことにある。「うちの場合は、すべての料理がワインを楽しむためにあるんですよ。だからうちに来たらぜひ、ワインを飲んでください。ワインだけ飲んでもらえれば、もうあとは、何だっていいんです(笑)」。

昼はパスタとサラダがセットで800円からという激安プライス。美味しさもあって、そのコストパフォーマンスの良さに目を奪われるが、ワインも実はかなり安い。昼も夜も同じ価格で、上質なブルゴーニュのグラスワインが「お試し75ml」のグラスで300円台から。岡崎氏は「大塚価格なんですよ」と言うが、採算度外視のサービスプライスだ。「本物の、“生きたワイン”の素晴らしさを、より多くの皆さんに伝えたい」という思いが、彼のバイタリティの源である。

サン・ヴァンサン一押しのワイン
サン・ヴァンサン一押しのワイン

ワインに魅了され、人生後半のすべてをワインに捧げた岡崎氏。大塚という山手線内でも比較的小さな駅の前に、ほんの小さな間口で佇んでいる「サン・ヴァンサン」。通りがかっても見逃してしまいそうな店だが、これほどまでに「ワインへの愛」を感じさせる店は、都内広しといえども、そうは無いだろう。わざわざ他駅から乗り継いでも訪れる価値のある、ブルゴーニュワインの名店である。

Saint Vincent(サン・ヴァンサン)
所在地:東京都豊島区南大塚3-51-1 
電話番号:03-3983-3883
営業時間:ランチ11:45~14:30(L.O.14:00)※土・日曜日は12:00~※土曜日は15:00まで
ディナー17:00~23:30(L.O.22:30)※土曜日は15:00~
定休日:ランチは月・火曜日/ディナーは日・月曜日
備考:訪問前に電話で要予約
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