「思考力の育成」を重視した授業を実践する/川崎市立東菅小学校 校長 葉倉朋子 先生
2013(平成25)年に創立40周年を迎え、新校舎の完成とともに次世代へと向けた学校運営に取り組んでいる「川崎市立東菅小学校」。北は多摩川、南は多摩丘陵に囲まれた自然豊かな環境で、地域や保護者との繋がりも深い小学校だ。「思考力の育成」を重点に置いた取り組みに注目が集まり、全国の教育関係者が視察に訪れる。今回は葉倉朋子校長先生を訪ね、学校の特色や地域の魅力についてお話を伺った。
創立40周年を迎え、平成25年に新校舎が完成
――「東菅小学校」の概要について教えてください
葉倉校長先生:「川崎市立東菅小学校」は、1970(昭和 45)年の開校より創立48年を迎えました。開校当初は体育館や校庭も無く、初代PTA会長や地域の方たちと一緒になって、のべ100台もの車で土を運んで校庭を作ったそうです。樹木も無かったのでいろいろなところからもらってきては自分たちの手で植え、観察池も地域の方と一緒になって作ったと聞いています。
そんな経緯もあり地域の方たちの思いがすごく詰まった学校なんです。新校舎を建設する際も、そういった地域の方たちの思いを繋いでいかなくてはと考えていました。
現在の校舎は創立40周年を迎えた平成25年に完成したもので、セントラルとイーストの2つの棟から成っています。それぞれ室内には木がふんだんに使われていて、イーストにある図書室も木のぬくもりが感じられる心地良い空間です。
「豊かな心をもち、たくましく未来を切り拓く力の育成」
――教育目標について教えてください
葉倉校長先生:教育目標は「かしこく・やさしく・たくましく」が開校以来変わらない大きな目標ではありますが、私が着任してから新たに「豊かな心をもち、たくましく未来を切り拓く力の育成」と掲げています。
未曾有の出来事に見舞われたり、変化が激しく先行き不透明な社会と言われている世の中であっても、たくましく未来を切り拓いていって欲しいという願いが込められています。
またこの学校に着任した際、教育目標を子どもたちにももっと分かりやすくできないかなと思い「ひがしすげの合言葉」というのも作りました。
「思考力の育成」を学校経営の柱と位置付けたカリキュラム・マネジメント
――特色ある教育内容について教えてください
葉倉校長先生:これからの子どもたちに必要な力として「思考力の育成」を学校経営の柱と位置付けたカリキュラム・マネジメントを進めています。思考力育成研究推進校としては5年目の取り組みとなり、理科研究推進校も3年目、国立教育政策研究所理科実践協力校も3年目を迎え、全教職員で子どもたちの思考力を育成する授業づくりに取り組んでいます。
また「かわさき教育プラン」に盛り込まれている「かわさきキャリア在り方・生き方教育」を基盤にして、「個の確立」と「他者とのかかわり」の2点を大きな柱に掲げ、「思考力の育成」、「読書環境の充実」、「本物体験の重視」、「かかわりから学ぶ」の4つを重点目標にして取り組んでいます。
例えば、「読書環境の充実」では読書コーナーを設けたり、読み聞かせの機会を設けることもそうですが、ただ本を読めば良いというわけでは無く、「個の確立」という点においては感性や想像力、知を育てていくことが目標になりますし、「他者とのかかわり」という点においても他者の視点を自分の中に取り入れる、そういう読書活動にしようと取り組んでいるところです。
「かわさき教育プラン」では「自主・自立」「共生・協働」を基本目標にしていますが、自分たちで何か新しいものを生み出していく力を持って欲しいと、「東菅小学校」ではそこに「創造」を入れています。
子どもたちの実態を捉えるところから「思考力の育成」に注目
――「思考力の育成」に取り組むことになった経緯、背景についてお聞かせください
葉倉校長先生:校長に着任したとき、私はこの学校をどう捉えて、どうしたいんだろうということをまず考えました。そこで先生たちから学校や地域についての実態を聞いてみたんです。
地域の方がすごく協力的だという話や、子どもたちもおだやかで、素直で、すごく明るくて優しい。だけど、白いものでも黒だよ、黒だよと強く言われたら黒と言っちゃいそうなところがあるんですという話を聞きました。
その時に、まわりが黒と言っても私には黒く見えませんと言える子を育てたいと思ったんです。つまり“自ら考える力”をきちっと育てたいと、その場で先生たちからも意見が出たんです。
そのためには本を読ませたいとか、もっといろんな刺激を与えようとか。現場の先生たちと協力しながら、子どもたちに必要な「思考力の育成」に取り組むことにしたんです。
「思考力の育成」に取り組み続けて5年
――全国的にも先行研究の少ない「思考力の育成」にどう取り組んだのですか?
葉倉校長先生:当時、思考力に関する研究をしていたのは全国でも数少なく、川崎市内で取り組んでいる学校はありませんでした。
国立教育政策研究所の指定を受けて町田市の「鶴川第二小学校」が思考力の研究にいち早く取り組んでいたのですが、幸いにも校長先生とは文科省の仕事を通じて知り合いだったので、実際に授業を見学させてもらいました。本校の先生たちも公開授業があるたびに見学して学ばせてもらったのが1年目のことです。先行研究が無かったので、はじめる時はとても苦労しました。
私も教育委員会の指導主事の経験があるんですが、一般的な2年くらいの研究だと、やったという実績は残るものの、ある程度の結果しか得られないだろうということは分かっていました。ですので私は研究の仕方を変えようと、「思考力の育成」を学校経営の柱に位置付けて、今年で5年目になります。
「比較」「関係づけ」「既習」「話型」4つの“すべ”を取り入れて授業を実践
――思考力を育成する具体的な取り組みとは?
葉倉校長先生:「鶴川第二小学校」で指導をされていた角屋先生に指導いただき、思考力を育成するためには、まず思考の方法を教えなければいけないということを教わりました。
これまでは「よく考えなさい」とか、「時間をあげるから考えてごらん」と言っていただけなんですけど、それでは思考力は育たないんです。まずは思考の方法を教えなくちゃいけないと。
そこでいくつか提示してもらった“すべ”の中から本校に合うものとして、「比較」「関係づけ」「既習(きしゅう)」「話型(わけい)」という4つの手立てを取り入れて毎日の授業で実践することにしました。
例えば、今いる教室で何か問題があれば見つけてみようと言ってもなかなか見つけられないですよね。そこで、隣の教室と「比較」した時に何か問題があればと聞くと、視点が定まります。問題を発見する力を育てなさいともよく言われるんですが、「見つけてごらん」と言うだけだと見つからない。そこで「比較」して問題を見つけられる力を育ててあげるんです。
それから「関係づけ」というのも取り入れていて、過去の学習と関係づけるのもそうですし、友達の意見と関係づけるとか、他の視点と関係づけるとか、「関係づけ」が思考力を高めるには必要だと言われています。また一般的に優秀と言われている子どもは過去に習ったことや覚えたこと、つまり「既習」が使えるんですね。答えを導き出す引き出しをいっぱい持っていて、「あの考え方を使ってみよう!」とか。
逆に分からないという子どもは、「既習」を使って考えるということが苦手なんです。でも「今まで習ったことを使って考えられないかな?」という問いかけひとつで気づくこともあるんです。そこで、過去に習ったことで使えそうなことを教室内にたくさん掲示して、分からない時はあちこち見て、「どれか使えないかなぁ、あれが使えそうだ!」と。そういったやり取りの中から「既習」を関係づけられるということを子どもたちが覚えていくんです。
あとは「話型」ですが、うまく言葉が出ないというお子さんはたくさんいますよね。そういう時は「話型」を教えるんです。「私は〇〇だと思います。なぜならば〜」とか、「私の考えは〇〇さんと同じです」など。その話型を教えることで、話せなかった子どもが話せるようになる。話せるようになると、話し合いが成立するようになるんです。「話型」というと、型にはまっちゃうんじゃ無いかと指摘されることもあるんですが、基本的な話型以外はクラスごとに内容が違います。つまりそれは子どもと一緒に作る話型なんです。
その言葉を使ったら伝わりやすいねというのを各クラスの先生がキャッチして、その言葉をみんなの財産にしようと教室内に貼っていくんです。先生が引っ張るだけじゃ無く、反応する話型を子どもたちと一緒に考えるということが大事なんですね。
季節のうつろいを感じられる豊かな自然環境と子どもたちを見守ってくれる地域のあたたかさ
――最後に、学校周辺の地域の魅力についてお聞かせください
葉倉校長先生:春は「日本女子大学」の桜並木、一面真っ白な梨畑が広がり、鶯の鳴き声が聞こえる自然豊かな地域です。北は多摩川、南は多摩丘陵に囲まれ、新緑の多摩丘陵や秋になると梨が実り、季節のうつろいを身近に感じることができる魅力的な地域だなと思います。
こういう地域は人の心もおだやかなんです。菅町会は全国でもっとも大きい町会として知られ、お年寄りも多いし、みなさんとっても元気なんです。読み聞かせに来てくれたり、パトロールをしてくれたり、地域で子どもたちをあたたかく見守ってくれている、そういう魅力もあります。
また交通の便も良く、京王線や小田急線があって、都心にもすぐ出られる環境です。野菜の無人販売所や農道なんかもちょっと残っていたり、そういう景色が残り続けているのも良いなと感じます。地域の歴史や小学校の歴史をまとめた郷土資料室も、実は地域の方が3年間かけて整備してくれたんです。地域の歴史に詳しい方で、小学校の校長先生だった方がいて、すべて手作りなんです。
このように地域がしっかりしているということは、子育てをする上でも生活の基盤があるということだと思います。地域がつながっている。私にとってはそれが一番大きな魅力です。
川崎市立東菅小学校
校長 葉倉朋子 先生
所在地:川崎市多摩区菅馬場2-19-1
電話番号:044-944-2832
http://www.keins.city.kawasaki.jp/2/ke209101/
※この情報は2019(平成31)年3月時点のものです。
「思考力の育成」を重視した授業を実践する/川崎市立東菅小学校 校長 葉倉朋子 先生
所在地:神奈川県川崎市多摩区菅馬場2-19-1
電話番号:044-944-2832
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