シェフ 菊池貴通さんインタビュー

お客様の声に“おもてなしの心”でこたえるフランス料理店/infusion(アンフュージョン)


infusion(アンフュージョン)
infusion(アンフュージョン)

桜新町のメイン商店街から国道246号方面へと続く、通称「サザエさん通り」。その途中のY字路の辺りに、ひっそりと営業する小さなフランス料理店がある。たたずまいこそ目立たないが、かの『ミシュランガイド』にも近年継続掲載されている、知る人ぞ知る店だ。

この店の主は、菊池貴通さん。茨城県出身で、現在40代というシェフだが、フランス料理歴はすでに四半世紀以上。2度にわたる渡仏修行や、都内有名店での料理長経験をもち、腕の良さは折り紙付きである。そのシェフがなぜ、この桜新町に「小さな自分の城」を持つことに至ったのか。今回はその経緯とともに、お店の魅力とシェフのポリシー、地域の魅力などについてお話を聞いた。

オーナーシェフである菊池貴通さん
オーナーシェフである菊池貴通さん

――まず、菊池シェフのプロフィールについて、簡単にお聞かせください。

菊池シェフ:私はもともと茨城の出身なんですが、上京して辻調理師学校に入って、19の時にフランスに渡って、向こうでいろいろ回ってから、日本に帰ってきまして、それから3、4件のお店で働きまして、28の時にまたフランスに行ったんですね。

2度目の時は、当然「修行」の意味も違ってきますから、仕事場も自分が働きたいところに変えて、フランスのシェフたちともいろいろ対話をしながら勉強をしまして、日本に戻ってきたところで、西麻布の「アルモニ」という店から、料理長の話があったんです。そこでしばらく料理長として働きまして、そのあと、二子玉川の「玉川高島屋」の「イレール・ドゥーブル」の料理長に抜擢していただいて、その後この店で独立、という流れですね。この店のオープンは2009(平成21)年です。

――なぜ、桜新町にお店を構えることになったのでしょうか?

菊池シェフ:今から13年くらい前ですかね、「玉川高島屋」のお店が撤退するということになりまして、その時にお客様から「せっかくだったら、この沿線でお店をやってくれないか」というお声掛けをいただいたんですね。

それから、沿線のいろんな駅を探って歩いたんですけれども、中でも桜新町の街並みと、人の温かさというんですかね、そこに惹かれたんですね。それで、物件を探し始める前に、桜新町の皆さんにリサーチをしたんですよ。「私、フランス料理を玉川高島屋でやっていたんですが…」って、お店のやり方やポリシーを説明しまして。

そしたら皆さん、「是非やっていただきたい」ということで、温かい声をかけてくださったんです。“新参者”が街に溶け込むのって、やっぱり難しいことだと思うんですけれども、「是非」という声をいただいて、この街に決めました。お客様の声がなかったら、ここでやっていなかったでしょうね。

「玉川高島屋」時代のお客さんと、街の人に背中を押されてお店をオープンした
「玉川高島屋」時代のお客さんと、街の人に背中を押されてお店をオープンした

――「アンフュージョン」というお店の名前には、どのような思いが込められていますか?

菊池シェフ:「アンフュージョン」というのはフランス語で、直訳すると「ハーブティー」という意味ですが、「おもてなし」というか、「お茶を煎じる」という意味合いがある言葉なんですね。ですから、「お客様に近い距離でお店を運営していきたい」ということで、「煎じる心」にかけて、「おもてなしの心」という意味ですね。それで、この店名にしています。

「infusion」はフランス語で「ハーブティー」という意味をもつそう
「infusion」はフランス語で「ハーブティー」という意味をもつそう

――お店のポリシーを教えてください。

菊池シェフ:私としては、「お客様にどういうものを提供したら、“真に”お客様が喜んでくれるか」ということを、「玉川高島屋」の時代に気づかせてもらったことがあって、その影響が大きいですね。

「玉川高島屋」ですから、当然、舌の肥えたお客様が来られるわけですよ。そこでフレンチをやるにあたって、その前に料理長だった西麻布のお店でも、毎日たくさんのお客さんが来てくださって、それなりに評価も高いお店だったので、自信があったんです。でも、「玉川高島屋」に来て最初のころが、本当に…難しかったんですよ。

――といいますと?

菊池シェフ:西麻布で好評だった料理を、そのまま「玉川高島屋」に持って行ったんですね。当然そうですよね、自信があるものを持っていって展開するのが普通じゃないですか。ところが、全然通用しなかったんです。もうまったく、全然ですよ。

お客様に感想を聞くと、「いや、美味しいんだけど…」っていう否定から始まるんです。「でもここは二子玉川だから」って。「我々も西麻布には行くけれど、ここは二子玉川で、食事をする価値が違う」ということなんですね。要は、家族だったり、友人だったり、普段使いの中でのお店の喜ばせ方をしなければいけなかったんです。「そこを勘違いしているから、君の料理は多分受けないよ」と、仲良くなったお客様から言っていただいて、目が覚めました。

美味しいものは食べたいけれど、食事というものは「トータル」で成り立つものなんです。二子玉川では、生活の一部という捉え方、使い方をされる。だから、それに対して料理長が応えられなければ意味がないんです。料理がどんなに素晴らしくても、お客様が喜んでくださらなかったら意味がない。そこを気づかせてくれたのが、二子玉川でした。

その方の言葉がすごく響いて、それから僕の料理は変わりましたね。

――その思いが、今のお店でも引き継がれている、ということですね。

菊池シェフ:そういうことですね。まったく一緒ですよ。実はこの店でも最初、二子玉川で受けた料理を持ってきて、お出ししていていたんです。当然前のお客様も来てくださったので、「なつかしいね」という声もいただいたんですけれど、その後に、「でも」って、また言われるんですよ。

「菊池君、せっかく町場に降りてきて、席数も少なくしたんだから、手が届く範囲も広がったでしょ。だからもっと違う料理が食べたいんだよ」と。まあ、本当にそうなんですけれど、皆さん厳しいですよね(笑)。

でも、それがやりがいにもなりました。要求が高いお客様が来られるからこそ、自分の幅を広げられますから。そういう意味では、二子玉川よりも、ここでやっているほうが、またさらに広がった感じです。

その街その街でのニーズに応えながら、お店の個性を確立していった
その街その街でのニーズに応えながら、お店の個性を確立していった

――看板メニューや、人気の高いメニューがあれば教えてください。

菊池シェフ:実は、グランドメニューはほとんど(お客様に)渡していないんです。最初のお客様と、選びたいというお客様くらいですね。2回目以降のお客様は、ほぼお任せです。その時の旬のものを使ったり、うちのスタッフが、お客様の好みをしっかり把握してくれていますから、予約が入ったところから、総出でお客様を迎える体制をとっています。

もちろん、その中で人気という料理はありますけれども、「どの料理も美味しい」というのが自分のポリシーですね。そこは自信をもって言えます。

ジビエ料理も楽しむことが出来る
ジビエ料理も楽しむことが出来る

――では、初めて来店される方には、何がおすすめですか?

菊池シェフ:それは昼も夜も、Aコースですね。Aはいちばんスタンダードのコースで、前菜、スープ、メイン、デザートという内容で、前菜は5品、スープも日によっては選べて、メインは4品から5品、デザートも3品から5品くらい、という内容になっています。

夜のAコースは、昼よりも一品一品の質が上がっている分、お値段もアップしますけれど、それでもあまり変わらないです。お昼のAコースは3,240円、夜は4,200円で、夜は5%のサービス料が付きますけれど、お酒を飲まない方でしたら2人で1万円に収まると思います。まずはこのAコースから、お試しいただければと思います。

Aコース以外だと、「季節のコース」というのが一番人気で、これはAコースからプラス2,000円くらいで、構成はAと同じですけれども、前菜でオマールを使ったり、メインも黒毛和牛のヒレや、フランスの仔羊や、ジビエのウズラやウサギを組み入れたりして、ハイランクな内容にしています。もちろん、それ以上フルコースもご用意できます。どれも予約の時ではなくて、来店後に決めていただければ大丈夫です。

サイドメニューやデザートも充実している
サイドメニューやデザートも充実している

――どのようなお客さんが来店されていますか?

菊池シェフ:平日のお昼は、ほぼすべて女性客です。平日でも夜は逆に男性が多くて、ご接待などによく使っていただいています。土日になりますと、当然こういったエリアですから、ファミリー層が中心です。曜日と時間で、ぐるっと客層が変わりますよ。

――初めて来店する方に、お伝えしたいことはありますか?

菊池シェフ:今までたっぷりお話をさせていただいた通りなんですが、「フランス料理店」って言うと堅苦しいイメージを持たれる方が多いと思うんですが、うちに関しては、ライン引きを高くしているわけではないですから、普段使いの中で、「ちょっといいものを食べたい」という時に、気軽に来ていただければと思っています。

infusion(アンフュージョン)
infusion(アンフュージョン)

――シェフ自身も桜新町にお住まいということですが、この街の魅力をお聞かせください。

菊池シェフ:まず、静かですよね。この沿線の中でも、桜新町はわりと落ち着いている、静かな街だと思います。買い物についても「スーパー激戦地」と言われているくらいですから、大きな買い物がなければほとんど、街の中で事足りると思います。

治安もいいですよね。犯罪の件数も少ないと聞いていますし、桜新町は女性の比率が高いと聞いているんですが、それも、治安の良さがあるからだと思います。女性がおひとりでも安心して住めると街ですよね。当然そういう意味では、お子様連れのご家族も住みやすい街だと思います。子育て関連の施設もぜんぶ、街の中にそろっていますし。

あと、一番はやっぱり、「街の人がすごく優しい」ということが魅力だと思います。私もずいぶんお世話になっていますけれども、意外と下町っぽいところがあって、みなさん、地域密着型なんです。

――今後、地域でどういうお店でありたいとお考えですか?

菊池シェフ:基本的にはいまの方向性ですね。お客様に寄り添って、お客様のご希望に沿えるようにやってきたことが、12年間、このコロナ禍も含めて、続けてこれている理由だと思っていますから、今後もそれを貫いて、磨き上げていきたいと思っています。ずっとこの街でやっていきたいですね。もう、第二のふるさとみたいな感じですから。

infusion(アンフュージョン)
infusion(アンフュージョン)

――今後、桜新町がどういうエリアになっていってほしいですか?

菊池シェフ:ある意味ちょっと保守的な街だと思うので、これは決して否定的な意味ではないんですけれども、そこの殻を破って、若い世代に対しても、桜新町の良さをアピールできる街になったらいいな、と思っています。

今でもグルメとか、洋服屋さんとか、眼鏡屋さんとか、けっこう個人店のいいお店があるんですよ。そういう店もある街だということが、東京圏内全体に広がっていけばいいな、と思っています。うちもその一角になれたら、有難いですね。

アンフュージョン 菊池シェフ
アンフュージョン 菊池シェフ

フランス料理 アンフュージョン

オーナーシェフ 菊池貴通(たかみち)さん
所在地:東京都世田谷区桜新町1-29-1 N&K’S Parkビル1階
電話番号:03-5758-5405
URL:http://www.infusion.jp/
※この情報は2020(令和2)年9月時点のものです。

お客様の声に“おもてなしの心”でこたえるフランス料理店/infusion(アンフュージョン)
所在地:東京都世田谷区桜新町1-29-1  N&K’S Parkビル1F
電話番号:03-5758-5405
営業時間:ランチ:11:30~15:00(13:40L.O.)、ディナー:17:30~22:30(20:40L.O)
定休日:月曜日(祝日の場合は翌日)
http://www.infusion.jp/