代表 松本庸史(まつもと つねふみ)さんインタビュー

都会の人に、野菜を育てる“豊かさ”を伝えたい/柏たなか農園(千葉県)


つくばエクスプレス線「柏の葉キャンパス」駅と「柏たなか」駅の周辺は、通称“田中地域”と呼ばれ、近年は大規模な宅地開発が行われています。しかし、駅前を離れ、常磐自動車道の北側に行けば、今も素朴な農村風景が多く残っています。そしてその一角には、1年をかけて野菜作りを学ぶ『土の学校』を運営する『柏たなか農園』があります。なぜ、この場所で一般向けに、このような取り組みをされているのか、今回は千葉県柏市にて『柏たなか農園』を営む代表の松本庸史さんにその思いを伺いました。

柏たなか農園
柏たなか農園

―― 松本さんが農園をはじめた経緯について教えてください。

松本さん:僕はもともと新聞記者や雑誌の編集者として都内で働いていました。昔は吉祥寺に住んでいましたが、昭和54年(1979年)に北柏に引っ越して、もう40年ほどになります。都会で働いていた人間にとって、田舎というのは一種の”憧れ”。田舎は”のんびりした場所”とか”自然豊かな場所”っていうイメージがあるでしょう。だから、僕はここに田舎と接する機会を作りたいと思いました。

そして、平成20年(2008年)に“卒サラ”をして、自分が住んでいる柏市内で農業を始められるところはないかと探したんです。その時に、たまたま知り合いの方から当時耕作放棄地になっていたこの場所を紹介してもらい、その年の9月に『柏たなか農園株式会社』をスタートさせました。

今回取材に協力してくださった農園代表の松本庸史さん
今回取材に協力してくださった農園代表の松本庸史さん

松本さん:ちなみに、会社名にしているひらがなの“たなか”にも意味があります。実はこの地域は江戸時代からずっと漢字の“田中”が使われていました。その後、つくばエクスプレス線が開通した時に、初めてひらがなの“たなか”が生まれ、都市化に向かって進んでいくという時代に入りました。その中でうちは“たなか”時代の農場として、都会のニーズに答えていきたいということでひらがなにしました。

―― 1年をかけて取り組まれている『土の学校』を始められた経緯について教えてください。

松本さん:農家は普通なら農産物を作ったら、それをまず市場や小売店に持っていってそこで販売してもらうんです。ところが、始めたばかりの農家にとって、それはすごく難しいこと。だから、“農産物を売らないで済むビジネス”ということで、野菜の作り方を教える学校にすればいいのではないかと考えました。
実はこのノウハウは雑誌記者時代に得たもの。当時、有名な園芸の先生と一緒に『畑を借りて野菜を作ろう』という本を作っていて、その取材の中で『体験農園』というビジネスをはじめて知ったんです。全国のいろんな『体験農園』を見て回って、その時に得たヒントを自分のビジネスにも取り入れさせていただきました。

「土の学校」の様子
「土の学校」の様子

――具体的にはどんなことをしているんですか。

松本さん: 1年間通う“学校”として、まず3月に畑をおこすところからスタートし、『春の畑』と『秋の畑』の準備をしていきます。ジャガイモや長ネギ、キャベツをはじめ、約40種類の野菜を“必修科目”としてまず全員が必ず作ります。当然、作り方がわからない人がほとんどなので、まずはレクチャーから。ビニールハウスの中で、そのつどメモをわたしてレクチャーをし、それから畑で作業をします。これが2週間に1回。その後は、基本的には週に1回のペースで来てもらって、水やりなどをしてもらいつつ、2週間に1回は授業をして農作業をする、というのがルールです。できた作物は収穫をし、全部持って帰ってもらっています。

ヤギの「あおくん」も一緒に
ヤギの「あおくん」も一緒に

松本さん:学校とは言っていますが、特に登校する時間は決まっていないのでいつ来ても大丈夫です。ただし、受付時間は夜明けから日没まで。畑には照明はないのでね。農園に誰もいない時にはゲートを自分であけて入ってもらうこともあります。

―― 1週間に1回の登校を1年続けるのは意外と大変なのではないですか。

松本さん:もちろん、仕事が忙しく「畑のことをすっかり忘れていた!」という人もいるので、会員さんには毎週、メールを出しています。「いま、畑はこういう状況になっていますよ」とか、「これは収穫のタイミングだからさっさとやってください」とかね。収穫も基本的には自分でやってもらうので、良いタイミングになればこちらから「いまだぞ!」と連絡をしています。

農機具はすべて借りることができる
農機具はすべて借りることができる

松本さん:そうやって手取り足取りやっていきますが、必要以上には手を出しません。手ぶらでも気軽に来られるように、農機具なども全部用意してサポートしていますが、『種まきから収穫まで』という農作業は全部自分たちの手でやる。それがルールです。僕らは畑のお世話のサポートをする“先生”という立場なので、手を出すことはありません。だから“学校”なんですよ。

参加するときは長靴だけは要持参。ハウスに置いて帰ることもできる
参加するときは長靴だけは要持参。ハウスに置いて帰ることもできる

――年間を通していろいろなイベントもされているとのことですが。

松本さん:そうですね。うちは月々4,500円、11か月で約5万円という契約ですが、そこには春夏秋にやっているいろんなイベントの参加費も含んでいます。たとえば、スイカの収穫体験やいもほりの体験など。そういうイベントにも自由に参加してもらえます。

――「土地の学校」で得た学びや体験を、どのように生かしてほしいとお考えですか?

松本さん:将来、家庭菜園をやろうと思った時に、少しでもここの経験を生かしてもらえたらと思います。実際にここを修了した人の話を聞くと、畑を借りて菜園をやっていたり、マンションのベランダで野菜を育てている人もいるみたいです。そういう楽しみにつなげてもらって、都会の利便性とはまた違う“豊かさ”を感じてもらえたら嬉しいですね。

体験農業の様子
体験農業の様子

―― 地域の方々との協力や連携した取り組みなどはありますか。

松本さん:スイカやサツマイモ、カボチャなどの収穫体験については会員以外の方にも来ていただいていますし、冬になるとキムチ作りを柏の野菜で作ろうというイベントもやっていて、そこに参加してもらうことも。 地域の農家の方には農園を立ち上げた当初は特に協力していただて、今でも「これからどうやって事業を展開していこうか」なんて話をすることも。そういうみなさんのおかげで、今があるのかなと思っています。

みんなでカボチャの収穫体験!
みんなでカボチャの収穫体験!

――最後に、柏たなかエリアの魅力について教えてください。

松本さん:都会の人から見ると、このあたりは開放感があって自然が豊かで、時間がゆっくりと進んでいく感じがすると思うので、そこは“都会の豊かさ”とはまた違う、“田舎ならではの豊かさ”を感じられると思います。また、柏たなか辺りはグレードの高い住宅街として開発されたところなので、これから時代を経て、世代が代わる時が来ても街の価値は維持されると思います。「長く住んでもらうための街づくり」ができている、良い街だと思いますよ。

まとめ

いかがだったでしょうか。昨今では、“アグリツーリズム”と呼ばれる、都市部に居住している人たちが、農場や農村で休暇・余暇を過ごすエコな新しい旅行の体験スタイルも確立されつつあります。そういった農村体験や地域に根差した活動を通じて、土地への魅力を体験することは、これからこの土地への移住を考える際のキッカケとしても最適かもしれません。

農園代表の松本庸史さん
農園代表の松本庸史さん

柏たなか農園

代表 松本庸史(まつもと つねふみ)さん
所在地 :千葉県柏市船戸1027
電話番号:080-5656-3704
URL:http://kashiwa-tanaka.jp/
※この情報は2019(平成31)年2月時点のものです。

都会の人に、野菜を育てる“豊かさ”を伝えたい/柏たなか農園(千葉県)
所在地:千葉県柏市船戸1027 
電話番号:080-5656-3704
http://kashiwa-tanaka.jp/