店主 塩田悠樹さんインタビュー

東海道の茶屋から歴史を紡ぎ、時代とともに進化するベーカリー/エスプラン(神奈川)


JR「鶴見」駅東口からもほど近く、「京急鶴見」駅の東口側に伸びる「ベルロードつるみ・鶴見銀座商店街」は、旧東海道の道筋に伸び、江戸時代から続く老舗なども残るこの街の暮らしに欠かせない商店街だ。

駅から商店街に入ると右手すぐにあるベーカリー「エスプラン」もそのひとつ。モダンな外観からは想像できないが、もともとは江戸幕府5代将軍綱吉の時代に創業した「覇王樹(さぼてん)茶屋」からはじまり、1952(昭和27)年にベーカリーへと業態転換したという歴史の深いお店だ。今回はそんな「覇王樹茶屋」から12代、2021(令和3)年に「エスプラン」を継いで3代目店主となった塩田悠樹さんに、お店のことや、地元・鶴見に対する思いについてお話を伺った。

江戸時代の茶屋から始まり、地元に愛されるベーカリーに。

「エスプラン」 3代目店主 塩田悠樹さん
「エスプラン」 3代目店主 塩田悠樹さん

――まずは、これまでの「エスプラン」の歩みを教えてください。

塩田さん:当店は江戸中期の1679(延宝7)年に創業したお茶屋「覇王樹茶屋」に始まっています。当時もまさにこの場所にあり、お店の目の前には東海道が通っていました。そもそも鶴見は、江戸時代からあった集落で、川崎宿と神奈川宿という宿場の中間地点にあった小さな村でした。

そんな鶴見になぜ茶屋ができたかというと、「鶴見川」の存在が理由のひとつです。この「鶴見川」は、東海道の中でもたいそうな渡河の難所だったそうなんです。ですから京へ行くにもお江戸に行くにも、ここで一服したり流れが凪ぐのを待ったりということが多く、茶屋がよく使われていたそうです。当店以外にも「信楽(しがらき)茶屋」さんなど、お茶屋さんがいくつかこの付近に軒を連ねていたと聞いています。

東海道の渡河の難所だったという「鶴見川」、付近の茶屋の存在は重宝された
東海道の渡河の難所だったという「鶴見川」、付近の茶屋の存在は重宝された

そこから代々商いを続けていく中で、花の種屋になったこともあったそうですが、私の祖父母の時代に「エスプラン」という屋号に変わりました。祖母の実家がベーカリーだったため、家業を1952(昭和27)年に引き継いで今日までの「エスプラン」としての歴史が始まっております。それからも、洋菓子店の業態になった時期など色々試行錯誤を経て、今はパンを中心としたお店になっています。「エスプラン」になってからは私が3代目、「覇王樹茶屋」から数えれば12代目となります。

さまざまな歴史を紡いできた「エスプラン」
さまざまな歴史を紡いできた「エスプラン」

歴史深く、交通利便性と共に国際的豊かな「鶴見」の魅力

――長い間、地域に愛されているお店なのですね。塩田さんもここの生まれ育ちということですが、鶴見という地域に対してどのような思いを持っていらっしゃいますか?

塩田さん:鶴見には、駅から北に少し進むと「鶴見神社」という横浜最古の神社があり、曹洞宗総本山の「總持寺」もあり、歴史好きの方でなくても興味をもたざるを得ないくらい濃厚な歴史がある地域で、そこがすごく魅力的かと思います。

「總持寺」をはじめ、歴史を感じられるスポットが身近にある鶴見
「總持寺」をはじめ、歴史を感じられるスポットが身近にある鶴見

その一方で、特に「羽田空港」から京急線などで交通の便が良いという面もあって、横浜市の中でも国際色豊かな街でもありますよね。ひと昔前には、京浜工業地帯であったことが理由でしたが、現在は時代が変わって、観光業においての国際色が豊かな街になってきたと思います。コロナ以前には、たくさんの外国のお客様がこの辺りでホテルを取って、鶴見から横浜や東京都心、または新幹線に乗って京都などにも行かれていたようで、当店で朝食用のパンを購入される外国人の方も多くいらっしゃいました。

京急線利用で羽田空港から鶴見へは20分前後でアクセスできる
京急線利用で羽田空港から鶴見へは20分前後でアクセスできる

にぎわい・安心を地域に提供する「ベルロードつるみ・鶴見銀座商店街」

――所属している「ベルロードつるみ・鶴見銀座商店街」について、商店街の魅力や地域の人が楽しめる活動などについてお聞かせください。

塩田さん:鶴見銀座商店街で連携して、毎月最終土曜日に『つるぎんドット来~い!!』というイベントを開催していまして、これはとてもユニークな催しだと思います。

この時には商店街の通りが歩行者天国になり、屋台が出たりキッチンカーが来たり、ステージが作られて出し物が行われます。ときには鶴見警察署の協力でパトカーに乗る体験ができたり、消防署の協力ではしご車に乗れたりと、地域のいろいろな方々の協力で毎回内容を変えながら開催されていますので、ぜひ遊びに来ていただきたいですね。

「ベルロードつるみ・鶴見銀座商店街」の街並み
「ベルロードつるみ・鶴見銀座商店街」の街並み

もちろん商店街のそれぞれのお店についても、当店を含め、歴史の長い老舗や個性的なお店がたくさんありますし、特にクリニックに関しては「ほとんどすべての診療科がある」と言われているくらい充実しているので、そんな点も、地域の方々にとっては安心材料なのではないかと思います。

手間を惜しまず、素材にこだわった、「エスプラン」の人気パン

――続いては、「エスプラン」さんのことをお聞きします。お店のコンセプトや、商品のこだわりについてお聞かせください。

塩田さん:一番のこだわりは使用する素材です。すべてのパンについて、ひとつひとつの材料を、産地からこだわって、手間もコストもかけて作っています。たとえば、看板商品のひとつの「覇王樹茶屋ブレッド」という食パンについては、バターは100%フランス産、生地に入れる生クリームも北海道産のものを使っています。

それから、パンの中に入るものもこだわっていまして、当店一番の看板商品は「珈琲あんぱん」で使用している“珈琲あん”については、濃いめのエスプレッソと、北海道産の小豆から作ったこしあんを掛け合わせて作っています。それを生地で包んであんぱんのように焼き上げてから、熱を冷まして、北海道産の生クリームを注入しています。洋菓子店の時代から使っている動物性の北海道産の生クリームを使用しているため、冷蔵庫でしか保存できないのですが、それも美味しさへのこだわりの一つですね。

人気1位2位の「珈琲あんぱん」と「生ずんだあんぱん」
人気1位2位の「珈琲あんぱん」と「生ずんだあんぱん」

――「生ずんだあんぱん」という商品も大人気だとお聞きしました!

塩田さん:はい、こちらは「珈琲あんぱん」に次ぐ人気があります。一般的に、パン屋さんで“ずんだあん”を使う時には、枝豆と砂糖をすりつぶしたものに白あんを混ぜてあんを作り、それを焼き上げるのですが、当店では“あん”というのは“中身”の意味であって、いわゆる“あんこ”は一切入れていないんです。ずんだと白餅を生地で包んで焼き上げて、冷ましてから生クリームを注入しています。そうすることで、ずんだの風味がすごく濃厚になっていますよ。

――先ほどお話があった「覇王樹茶屋ブレッド」についてはいかがですか?

塩田さん:これはいわゆる「高級食パン」になりまして、先ほどお話したようにフランス産の発酵バターと北海道産の生クリームを厳選して使い、国産のハチミツも使っています。製法についても「湯種法」と「中種法」というふたつの製法で作った生地を合わせたりと、手間をかけて作っています。その分どうしてもお値段は高くなってしまうのですが、非常にもちもちとして、さらに砂糖の甘さではなく、ハチミツの甘さだけでもない、小麦粉由来の独特の甘さを楽しんでいただけるこだわりの商品です。

こだわりの素材がもつ本来の甘さを感じられる「覇王樹ブレッド」
こだわりの素材がもつ本来の甘さを感じられる「覇王樹ブレッド」

鶴見の歴史を伝え、新しいライフスタイルにも応えるお店に間もなくリニューアル

――2022(令和4)年9月に店舗をリニューアルされるそうですね。どのようなお店に変わるのでしょうか?

塩田さん:今までは「多品種」ということもこだわりだったのですが、時代も変わってきていますので、今回のリニューアルを通じて、商品の種類を少し絞って、よりこだわったものを、より丁寧にご提供できればと思っています。

新しい店舗デザインはまだ秘密ですが、大きく変わるのは、陳列を変えて対面販売になるという点ですね。いま、コロナを経てすべての商品を個包装にしているわけですが、冷まさなければ包装できないため、その分開店時間が1時間遅くなってしまったんです。その1時間の間にも来たいと思ってくださっている方もいて、それを解決したいという狙いがあります。

2022(令和4)年9月にリニューアル予定の「エスプラン」(写真はリニューアル前の外観)
2022(令和4)年9月にリニューアル予定の「エスプラン」(写真はリニューアル前の外観)

スタッフがお客様ごとにつく形になり、お客様との会話は増えますので、今まで「エスプランのパンが好きだから」と来てくださっていた方が、さらに「この人に会いたいから」と来てくれるようになるといいな、という期待もあります。

――内外装はまだ秘密ということですが、ヒントをいただけませんか?

塩田さん:私と先代の願いとして、「覇王樹茶屋を復活させたい」という思いが昔からありました。ただ、今の時代に「覇王樹茶屋」と「エスプラン」を混ぜただけでは良い形にはならないと思いますので、どういうバランスで融合していこうかと悩み抜いて考えたデザインになっています。ここがかつて東海道で、ここに茶屋があった、ということを感じていただける、鶴見の歴史を感じていただけるようなお店にしたいと思っていますので、ぜひ楽しみにしていてください。

かつての「覇王樹茶屋」の面影を、一層感じられるお店になる予定だ
かつての「覇王樹茶屋」の面影を、一層感じられるお店になる予定だ

――最後に、これから鶴見に住みたいという方に向けてメッセージをお願いします!

塩田さん:鶴見は山から海までいろいろな地域がありそれぞれが違った表情を持っていて、歴史的な見どころも多く、本当に面白いエリアだと思います。それでいて交通アクセスもいいので、各方面へも出掛けやすい場所です。地元には美味しい飲食店がたくさんあって、当店のようなパン屋さんもありますので、住むほどにいろいろな良さを発見していただき、この街を楽しんでいただければと思います!

神奈川県横浜市鶴見区・「エスプラン」
神奈川県横浜市鶴見区・「エスプラン」

エスプラン

店主 塩田悠樹さん
所在地:神奈川県横浜市鶴見区鶴見中央4-1-7
URL:https://www.esplan.biz/
※2022年8月から9月上旬は改装のため休業
※この情報は2022(令和4)年8月時点のものです。

東海道の茶屋から歴史を紡ぎ、時代とともに進化するベーカリー/エスプラン(神奈川)
所在地:神奈川県横浜市鶴見区鶴見中央4-1-7
電話番号:045-501-2147
営業時間:7:30~18:30(土曜日、祝日は~18:00)
定休日:日・月曜日
http://www.esplan.biz/