地域に支えられて40年。地域とともに伝統を守り、よりよい学校へ

「本物の体験」を主役に置いた教育/川崎市立鷺沼小学校 三ッ木純子校長先生


「鷺沼」駅前に伸びる「春待坂」を下った先にある「川崎市立鷺沼小学校」は、2016(平成28)年度に40周年を迎えた。主に鷺沼町会の地区を学区に持っており、地元町会との関係が特に密接な学校として知られている。近年は、各分野の専門家を講師に招いた体験型の授業や、専門性の高い職の保護者から話を聞く機会なども積極的に設け、キャリア教育にも重点を置いている。このような独自の取り組みを進めている狙いはどこにあるのか。また、小学校の魅力、地域の魅力とは何か。校長の三ッ木純子先生に詳しくお話を聞いた。

「川崎市立鷺沼小学校」
「川崎市立鷺沼小学校」

地域とともに伝統を守り、よりよい学校へ

――まずは学校の概要についてお聞かせください。

三ッ木校長先生:本校は今年で42年を迎える学校で、1977(昭和52)年に、「宮崎小学校」と「富士見台小学校」から分かれて生まれました。各学年4~5クラスで、2018(平成30)年5月現在、児童数は876名となっています。学校のシンボルとして、開校2年目から活動している、「鼓笛隊」があり、町会の行事や、運動会の入場行進など、いろいろな場面で活躍しています。「鼓笛隊」は6年生から5年生に引き継がれる形で、児童全員が経験するのが特徴です。秋に6年生から5年生に引き継がれ、1年間経験し、また6年生の秋になったら引き継いで、という伝統があります。40周年にあたって、学校のキャラクターを子どもたちが考えたのですが、このキャラクターも、「鼓笛隊」の衣装を着たものになっています。名前は「さぎまる」です。

このほか、やはり大きな特徴としては、「地域の協力」が学校の支えになっています。特に2016(平成28)年度は、創立40周年ということで、改めて「地域の学校だ」と感じることが多くありました。それなりに古い校舎になりますので、地域が「何とかもっと良くしよう」「こういうものが必要なんじゃないか」という具合に、いろいろと気を配ってくださっていて、門のところに新しい掲示板を贈っていただきました。池に錦鯉もたくさん入れていただきました。本当に、地域から支えられている学校だな、ということをひしひしと感じています。

地域から贈られた掲示板
地域から贈られた掲示板

――周辺の学校と比べて、鷺沼小ならではの特徴があれば教えてください。

三ッ木校長先生:ここは駅から非常に近い、交通の面でも便利な学校ですが、実は、緑もけっこうあるんです。というのは、小学校の隣に「鷺沼公園」という大きな公園がありまして、ここが里山を縮小したような、非常に自然が豊かな公園なんですね。3年生では大学から昆虫の専門の先生を呼んで授業をしていますが、公園に行って虫のいる環境を見て虫取りを行い、観察をして時間内に帰って来られるという、非常に恵まれた環境にあると思います。

周辺の昆虫標本も寄付されたもの
周辺の昆虫標本も寄付されたもの

また、40周年のシンボルマークは「サギと桜」をモチーフに作りましたが、この桜は、鷺沼の街の桜なんです。駅からの坂道は「春待坂」と呼ばれていますが、そこの桜は春になるとそれは見事な、桜のトンネルになるんですね。ですからこの辺りは、自然が豊かで、花いっぱいのきれいな街、というイメージがすごくありますね。駅から学校までの道もきれいだし、学校の隣にも自然が豊かな公園があるということで、とても環境の良いところにある学校だと思っています。

子どもたちが大好きな「さぎまる」と桜
子どもたちが大好きな「さぎまる」と桜

――校庭も近隣他校と比べて、かなり広い印象がありますね。

そうですね。近くのほかの小学校と比べても、四角形で広くて、使いやすい校庭だと思います。いろいろなスポーツができますし、実際に、施設開放で地域の野球チームやサッカークラブが使っています。本校出身の有名なスポーツ選手もおります。40周年式典ではサプライズで、その選手たちがビデオレターで登場してくれて、お祝いに華を添えてくれました。

広々とした校庭
広々とした校庭

体験授業には保護者や地域も協力

――学校のスローガンや、力を入れて取り組んでいる教育内容について教えてください。

三ッ木校長先生:目指す学校の姿は、「笑顔輝き、喜びに満ちた学校」です。教育目標は「体験を通した学び」、「わかる・楽しい授業の構築」、「特色ある学年、学級経営」、「共に歩み、信頼される学校」の4本の柱になっています。

「体験を通した学び」は、人とのかかわりを通して、豊かな心や、健康な身体の育成につながってもらえれば、という願いがあります。「特色ある学年、学級経営」は、子どもたちの居場所と集団づくり、子ども一人一人の個性を尊重し、主体性を育てます。「わかる・楽しい授業の構築」というのは、授業がわかれば、楽しい学校になる、ということもありますから、まずは授業を大事にしよう、ということですね。

「ともに歩み、信頼される学校」は、地域、保護者、学校が、一緒に手をたずさえていこう、というスタンスで教育活動を充実させます。それに沿った具体的な実践として、高学年でキャリア教育をしているというのが、「体験」として挙げられると思います。これは学校がお父さんの会である「ダディーズアイ」に呼び掛けて協力してもらっているものでして、保護者の方に学校で、自分の生きがいや職業について語っていただいています。6年生が対象で、「ダディーズキッザニア」と呼んでいます。親が講師になって、子どもたちは時間を区切って、興味のあるブースを回るというような展開になっていまして、毎回10人以上のお父さん、お母さんに協力をいただいています。保護者には本当にいろいろな職業の方がいらっしゃいますから、子どもたちは、普通の授業では得られない学びもあるようで、非常にいきいきとしていますし、いい授業展開ができているな、と自負しております。

教室の様子。体験授業も行うという
教室の様子。体験授業も行うという

これ以外にも、地域の方をゲストティーチャーにお呼びして、体験授業も行っています。たとえば能楽師の方、書道家の方、スイミングスクールの社長さんなど、いろいろな専門家の方に来ていただいて、お話を聞いたり、体験をさせていただいたり、という具合です。もちろん、地域で活用できるものがあれば、こちらから積極的に地域に出ていくようにしています。たとえば畑をやっていらっしゃる方に話を聞いたり、商店街でお店をやっている方にインタビューに行ったり、という具合ですね。

より専門的なものについては、地域の枠を超えて、その業界のプロの講師をお招きすることもしています。たとえば、表現活動の専門家ということで、劇団の座長さんに来ていただいて、「自分で表現する」というテーマで授業を行っていただいたり、パーカッションの専門の先生に来ていただいて、リズム打ちや、身体全体でリズムを表現するという内容で授業もしていただいたり、という機会もあります。掃除のプロの方をお呼びして、効果的な掃除の仕方についても学習します。

また、「星の授業」というものもあって、この時には川崎市出身で、プラネタリウムで有名な大平貴之さんの恩師である、若宮崇令先生に来ていただいて、星の面白さについて、プロの視点から話していただいています。やはり第一線の方からお話を聞くことで、子どもの興味関心も一層高まりますし、持っている資質が最大限引き出されるように感じています。それは私達が見ていても、よく分かるところですね。

たくさんの人と関わることでコミュニケーション能力を育成

――行事について、ほかに盛り上がる、特色のあるものがあれば教えてください。

三ッ木校長先生:「ふれあいフェスタ」というのがPTA主催であります。これは保護者の方がゲームを企画したり、食べ物を出したりして、子どもたちは午前中授業をした後の半日を楽しみます。おもちが振る舞われたり、わたあめのお店が出たり、子どもが楽しめるボール投げ遊びのコーナーがあったり、毎年とても盛り上がります。

休み時間には子どもたちの元気な声が響き渡る
休み時間には子どもたちの元気な声が響き渡る

「鷺沼町会運動会」というのもあります。鷺沼町一丁目から四丁目までとその他の地域別で親子一緒に行う運動会です。毎年、たくさんの子どもや親子が参加して盛り上がります。ムカデ競走やパンくい競走などもあり、鷺沼町会主催の楽しいイベントです。

それから、年明けに「町会防災訓練」というものがあるのですが、その時には、町会ごとの一時避難所で集まってから、二次避難所である学校に、子どもたちも含め、地域の皆さんが集まっています。その日には消防署も協力してくださって、レスキューが来たり、火災体験、地震体験などもしています。炊き出し訓練もあり、とても大掛かりで防災意識を高めています。あとはもちろん、学習発表会や運動会も、他校と同様に行われていまして、毎回とても盛り上がります。

体育の授業の様子
体育の授業の様子

――放課後の学童クラブは設置されているのでしょうか?

三ッ木校長先生:川崎市の公立学校では、全校に「わくわくプラザ」という名前で、放課後の子どもの居場所施設が設置されています。校舎の北側の丘の上に、もともと幼稚園が隣接してありましたので、その園舎の一部を使っています。1年生から3年生を中心に、相当数の児童が登録していますね。運営については学校とは別です。ただ、子どもたちの情報などは共有できるように、定期的に会合の場を持っています。

夢を大きく持っている子どもが多い鷺沼エリア

――私立中学校への受験率は高いのでしょうか。また、受験を希望する児童に向けて、 特別な教育内容などあるのでしょうか?

三ッ木校長先生:中高一貫校を目指す子は、比較的多い地域だと思います。従って塾に通う子どもたちも多いですね。ご両親が働いていらっしゃったりすると、塾にいたほうが逆に安全、ということなどもあるのかと思います。受験する子の割合については、具体的な数字は毎年違うので、何とも言えませんが、公立に進む子がだいたい7~8割という感触です。小学校では、受験対策というのは一切無いですね。補習なども基本的にはありません。本校の子どもたちは、計算の成績が良かったり、覚えるのが得意な子が多いんです。学校の授業では、「考える」ということに重きを置いています。それがある意味、受験をする子に対しても、バランス良く力を付けるということにつながっていると思います。

――鷺沼小の子どもたちは、どんな子が多いのでしょうか。

三ッ木校長先生:本校の子どもたちは、優秀ですし、非常にバランスのいい子が多いと思います。とても素直ですし、きちんと受け答えができますね。朝会をしていても、子どもたちの目が必ずこちらに向きますし、それはすごい事だと思っています。「今は何をする時間なのか」ということが分かっていますから、普段の授業中もとても落ち着いています。この根底に何があるかと言えば、やっぱり、家庭で可愛がられている、愛されている、という事なんだと思います。

各学年で様々なイベントが催されている
各学年で様々なイベントが催されている

――鷺沼エリアは川崎市内でも教育熱が高い地域と聞いています。校長先生はどのようにお感じでしょうか?

三ッ木校長先生:教育に対する意識は高いですね。多分、ここが非常に便利な街だからだと思います。一本で渋谷まで出られますから、親御さんも東京に通勤する方が多いですし、そうなるとやっぱり、求めるものが高くなるんでしょう。親御さんがそれなりにキャリアが高い方が多いですから、子どもたちにも、「少なくともこのぐらいは」という意識があって、それが教育熱につながっているのかな、と感じています。また、新興住宅地ですから昔からのしがらみも無く、夢を大きく持たれているご家庭、お子さんが多いというのもあるかと思います。教育熱が高い地域というのは、子どもたちが安心して進んでいくことができる地域なのだと思います。「教育」は、生きる上で大切な要因の一つです。子どもたち一人一人が、大きな夢をもち未来に向かって、しっかりと踏み出すことができるように、私たちおとなが支援していきたいと思います。

地域で世話をしている花壇
地域で世話をしている花壇

――最後に、鷺沼エリアの魅力についてお聞かせください。

三ッ木校長先生:交通の便が良くて、治安が良くて、自然が豊かで、花が沢山ある美しい街、ということももちろんありますが、ここは鷺沼町会の人達がリーダーシップをとって、東急さんと一緒に地域を開発してきたという部分があります。地域の方の地元に対する愛情というのは、すごく強いですね。ですから、将来を担う子どもたちに対しても、「地域の宝」であるという目で、温かく見守ってくださっています。子育てをしている方にとって、暮らしやすい街といえるのではないでしょうか。それが一番の魅力かもしれませんね。

川崎市立鷺沼小学校
川崎市立鷺沼小学校

川崎市立鷺沼小学校

校長:三ッ木純子先生
所在地:神奈川県川崎市宮前区鷺沼2-1
TEL:044-854-2783
URL:http://www.keins.city.kawasaki.jp/2/ke207301/
※この情報は2016(平成28)年11月取材の内容に、2018(平成30)年5月に修正を加えたものです。

「本物の体験」を主役に置いた教育/川崎市立鷺沼小学校 三ッ木純子校長先生
所在地:神奈川県川崎市宮前区鷺沼2-1 
電話番号:044-854-2783
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