シネマカフェを始めたきっかけについて教えてください。

美術大学を出て、しばらく広告デザインの仕事をしていたんですが、専門学校の講師をしていた37歳の頃、現場から離れ、学校経営を担う管理職に誘われた時に、次の転職を考え始めました。漠然とですが、「もしこれから別のことをするんだったら、一生をかけてできる、自分が好きな仕事を、創りだしちゃうのもありなのかな」と考えていました。
子どもの頃から映画が好きでしたが、映画の世界には入ったことがなく、いい年の素人が映画に関われる仕事は何だろうと考えていたところ、55歳で映画館を始められた方の記事を新聞で見つけ、その方にお話を聞きに行きました。
最初は、映画館の経営がクリエイティブな仕事のように思えなかったのですが、興味深い上映作品を編成する都内の名画座のプログラムを眺めているうちに、作品を選択し、宣伝、上映まで準備する一連の仕事が、美術館のキュレーターの仕事のようにも思え、俄然、興味がわいてきました。 退職し、自主上映のお手伝いをしながら、配給や宣伝の仕組み、映写機の操作等々を一から学ぶ一方で、昔からある35ミリの映写機を使って、映画を見た後にも、飲食をしながら、みんなで語り合えるような店を作ろうと、企画をまとめ始めました。既に映画館がポツリポツリと閉館し始めていたので、映画館にないサービスや、自主上映会で気付いたことを盛り込んだつもりです。
いざ動き出してみると、ありがたいことに、お世話になった専門職の方々、昔の友人知人達、沢山の方々が応援してくださいました。 そして、2007（平成17）年に念願かなってオープンしました。

どんなコンセプトで営業されているのでしょうか？

一番の特徴は、映画館と同じ、35ミリの映写機で上映していることですね。よほど映像に詳しい人でなければ、気付かれないことも多いんですが、フィルムで撮影された作品であれば、フィルムで上映するのが、撮影された時の状態に一番近いわけですから、色や質感は、最良の状態が再現されているはずです。
映画やライブを予定していない日は、通常のカフェ営業をしています。貸切のパーティーや上映会等にもご利用いただいています。
自主上映会では、珍しい作品を見に遠くからいらして下さるお客様とも、なかなかお話しする機会が持てず、次の上映会の宣伝など、様々な情報をお伝えすることが出来ませんでしたが、映画や音楽の好きな方々が集えて、情報交換出来る場としてのカフェは、人々や色々なものが繋がり、点が線になるような経験を何度もしています。
実際、お客さんから教えていただいたアイディアによって、昔この地域で撮影された作品の上映会も開催出来ましたし、個々に利用していたお客さん同士がコラボした映画や音楽も進行中です。

映画については、どんな作品をどのぐらいの頻度でやっているのでしょうか？

月に1回、1週間の期間、同じ作品を上映するという形でやっています。映画と、その映画にちなんだ料理をセットにしたプレート付きの上映会を開店当初から続けています。
当店は、非劇場という扱いなので、なかなか大手配給会社の作品を借りることは叶わないのですが、世間で言う「ミニシアター」系の洋画作品を中心に、必ず一度、作品を試写し、出来るだけ多くの方に楽しんでいただけるような作品を選んでいるつもりです。
プレート付きの上映会では、映画の中に出てきた料理を再現したり、映画の中で音楽を演奏していたアーティストのミニライブを併設したり、監督や関係者の方をお呼びすることもあるし、既にロードショーが終わっていたり、DVDも出ている旧作の上映でありながらも、料理やライブ、そしてゲストの方が来られたりと、それに付加価値を加えることで、新たなイベントとなるように企画しているつもりです。大きな映画館での舞台挨拶と違い、ココでは、監督や関係者の方々と、膝詰めで語り合えるのも、お客様にとっては大きな魅力だと思います。

どんなお客さんが来られるのでしょうか？

上映機会の少ない貴重な作品の上映会や、根強いファンのいらっしゃるアーティストのライブには、遠方から入らして下さるお客様も多数いらっしゃいますが、日常的にカフェとしてご利用して下さるお客様は、隣駅や近隣にお住まいの方々が大半です。10代の学生さんから、40代ぐらいの方々を中心に、男女とも、幅広い層の皆さんにご利用いただいています。もちろん映画が大好きという方もいらっしゃいますが、普通のカフェやレストランとして、どなたにも気軽にご利用頂いています。

最後に、十条地域の魅力について教えてください。

ここに来てみて感じたのは、「どんどん深いところに入っていくほど面白い」ということですね。今は商店街にも全国チェーンの店が増えていますけれど、地域に昔からある喫茶店とか、飲み屋さんとかもしっかりありますから、そういうところに入っていくと、掘り出し物や、新しい発見があったりするんですね。