手打ちラーメン 亀嘉(かめよし)
佐野ラーメンの麺の特徴は、ひとつに加水(水分の割合)を高めに設定していること。バキッとした力強さはないが、柔らかで滑らかな風合いがあり、優しいスープと抜群の相性を見せる。表面が滑らかな分、スープがそれほど絡まないのが難点といえば難点だが、これを克服するために多くの店が「手もみ」を行っている。「亀嘉」でもそれは同じで、店入口の目立つところに麺切り場があり、タイミングが合えば、そこで手もみの作業も見ることができるだろう。丁寧に手もみをする作業を見ていると、それだけでも食欲が高まってくる。
手もみに加えて、「亀嘉」の麺の美味しさは、非常に手間のかかる「手切り」の作業によるところが大きい。これは仕上がった麺帯を延ばして折り畳み、蕎麦を切るようにして切っていく工程で、手作業ゆえに麺の太さには若干のムラができるのだが、そのムラが食感の変化となり、楽しさとなっている。蕎麦好きであれば、この感覚はわかるだろうか。美味しさとともに、この「手作り感」もスパイスとして効いている。
店主である亀山氏は、30年ほど前にこの店を立ち上げる以前、大の「ラーメン好きサラリーマン」だったそうだ。自身が本当に美味しいと思えるラーメンを求めた結果、今の手切り、手もみというラーメンに行き着いたという。その製法は30年変わることなく、今や佐野ラーメンのひとつの“完成形”として多くの人々を魅了し続けている。
この繊細な麺を主役に立てるため、スープはあくまでも脇役に収まっている。素材は豚ゲンコツと丸鶏に、香味野菜、カツオ節、煮干し、利尻昆布などを使ったスタンダードな作り。ただし、素材吟味に手抜きはなく、利尻昆布など高級な食材を惜しげなくおごり、丁寧に丁寧に、麺を活かすスープを作り続けている。
澄んだスープを口にすると、昨今の濃いラーメンに慣れた人であれば、まずは「薄い」と感じるかもしれない。しかし、油や塩味に頼りすぎないこのスープは啜るほどに美味しさを増し、最後まで愛しく飲み干せることだろう。身体にも優しい1杯は、地元の人にも、遠方からわざわざ訪れる人にも、心地よい後味を残してくれる。写真は「手打ちチャーシューメン」(870円)。この店の一番人気の1杯だ。ノーマルの「手打ちラーメン」は610円で食べられる。