エリティエ
白山通り沿いにたたずむ「エリティエ」は、2011(平成23)年に開業して以来、この地域の人々に愛されている地元密着型パティスリーです。若手の藤田智幸オーナーシェフが一人で製造を担当しており、リーズナブルな価格帯で本物志向のフランス菓子を提供する店として、地元の人々に評判を広げています。
実は、この場所に以前あったのは、カヌレを日本に広めた立役者と言われる「パパダニエル」というお店。ダニエル氏は現役引退を機に店を閉じましたが、藤田シェフはそこが空き物件となった時にここを訪れ、立地と地域性に惚れ込み、店を開くことを決めたそうです。今でも「パパダニエル」時代のお客様が訪れるそうで、「あら、店が変わったのね。でもこっちも美味しいわね、また来るわ」といった具合に、新たな常連につながることもあるんだとか。前の店が大御所だっただけに、藤田氏も日々、身が引き締まる思いだと言います。
店内は間口が狭く、奥に長細く広がるというレイアウトで、入口側が対面販売のコーナー、奥側がカフェスペースになっています。カフェスペースではケーキ類のイートインのほか、お昼の時間帯にはキッシュやクロックムッシュなどをサラダと合わせたプレートランチも提供しており、こちらを目当に訪れる人も多いそうです。
ドリンクはコーヒーと紅茶のほか、中国茶も種類豊富に扱っており、中でもポットの中で花が開く「工芸花茶」は珍しさもあって、女性に人気が高いそう。店内では日々何らかの写真展示を行っており、スタッフのサービスも的確で心地よく、静かで居心地の良いカフェスペースとなっています。
「エリティエ」という店名は、フランス語で「引き継ぐもの」という意味があり、その言葉の示すとおり、「フランス菓子の伝統と技術を継承し、磨きをかけ、日々精進する」というのがこの店のポリシー。カフェを併設し、惣菜やジェラート等も扱うというのも、フランスではよく見られる営業スタイルで、「お菓子だけではなく、それを取り巻く文化も大切にしたい」というシェフの思いの表れでもあります。
「地元のお客さんに繰り返し利用していただけるような店でありたい」という想いから、そういった人々を大切にするために、藤田氏は敢えて店頭に置く菓子の数を絞っているそうです。ショーケースに並ぶプチガトーの数は、多くてもせいぜい20種類くらい。定番としているのはそのうち半数以下で、ほかは季節限定品や新作が占めています。作り置きをせず、つねにフレッシュなものを届けたい、何度訪れても、飽きない店でありたい。そういう願いが、この「少数精鋭」スタイルにつながっています。
店のシンボルメニューはモンブラン。モンブランには通年置かれているフランス産の栗ペーストを使ったもののほか、秋冬のみ登場する和栗ペーストのタイプもあります。見た目はシンプルに見えますが、内部の作り込みはかなり凝っており、栗の風味がしっかりと感じられる贅沢な一品となっています。イートイン時には自家製ジェラートでデコレーションし、ドリンクとセットで1000円で提供してくれるので、こちらのオーダーがお薦めです。
そのほかのプチガトーもしっかりしたポーションで満足感が高く、それでいて価格帯は400円台がほとんどと、この界隈としては非常にリーズナブル。フランス産のカシスから作る「ディジョン」や、「あまおう」を使った贅沢なショートケーキ「あまおうのフレジェ」、オレンジとカスタードのフレーバーが上品な「ヴェリーヌ・サバラン・オランジェ」などがお薦めとのこと。
焼き菓子については定番の品が多く、マドレーヌやフィナンシェなど定番の品から、10種類のフレーバーが揃うマカロン、1000円前後から買えるパウンドケーキ、透明なケースに入れられたクッキー類など、見た目はシンプルながら、「美味しさ」には徹底的にこだわったものが揃っています。ギフトのラッピングはオーソドックスなフラワーカラーのものが中心で、誰に対しても安心して贈ることができそうです。
昨今、都心にオープンするパティスリーと言えば、品数が多かったり、過剰にファッショナブルだったり、コンセプトが奇抜だったりする店も多くなっています。その中でこの「エリティエ」は、すごくオーソドックスでレガシーで、言ってみれば「地味」な店と映ることもあるかもしれません。それでもお客さんは途切れず、何度も訪れているのは、美味しいからに他なりません。ずっと続いてきたものは、本当に良いものである。本当に良いものには、派手さはいらない。それを体現しているのが、この「エリティエ」という店なのかもしれません。
エリティエ
所在地:東京都文京区白山2-29-6
電話番号:03-3868-0512
営業時間:10:00~20:00
定休日:火曜日
http://heritier-jp.com/