川崎大師 松月庵
「川崎大師」の仲見世通りの入り口付近、車道が交わる角にある「松月庵」は大師門前でもひときわ目立つ蕎麦の老舗。外2と呼ばれる割合(蕎麦粉10対つなぎ2)で手打ちされる蕎麦を、カツオのダシが強く効いた伝統のつけ汁で頂くという江戸前のスタイルは創業の1884(明治17)年から変わっていない。
店主の須山まもる氏はこの店の4代目。曽祖父の代から祖父、父と引き継がれ、仕事を手伝ううちに蕎麦作りを覚えていったという。しかし4代目は父の味に満足するのではなく、父の蕎麦を超えるために多くの老舗蕎麦店を訪ね歩き、自身の蕎麦作りの糧となる知識を蓄えていった。その味と熱意はついに父をも納得させ、いま、店の経営は4代目の腕にゆだねられている。
松月庵で使う粉は国内産の高品質のものではあるが、特にブランド物という訳ではない。そのかわりに蕎麦打ちには細心の注意を払い、つなぎにも蕎麦の芽を加工したものを混ぜ込み、鼻に突き抜けるようなフレッシュな蕎麦の香りを与えている。新蕎麦のような香りを楽しめる蕎麦は、それだけで啜っても十分に旨いのだ。それを支えるつゆは鰹本節と宗田節のダシを主としたもので、毎日削りたてのものをたっぷり仕込んでいる。濃い目のつゆにも関わらず物足りなさを一切感じさせないダシの濃さは、贅沢なまでに使われている鰹節の賜物に他ならない。
松月庵が今も支持を広げている理由のひとつは、老舗でありながら若い店主が主導権を持ち、斬新な発想に溢れていることにあるだろう。先に述べた蕎麦の“つなぎ”はある地方の伝統的な製法に学んだものであるし、店先に並べられたワインと共に、蕎麦を頂けるという点もユニークだ。なんと店主はソムリエの資格も保有しているという。休日には食べ歩きに出かけることが多いと言うが、その守備範囲は非常に広く、和洋食から餃子、甘味まで、あらゆる食に対してのアンテナを張り巡らせ、自身の蕎麦作りに生かしている。
この店がいつまでも上質の蕎麦店であり続けるのは、昔から変わらぬ丁寧な仕事と、時代を読んだ舵取りの上手さに他ならないだろう。大師前を訪れたら是非味わっていただきたい、珠玉の蕎麦店である。
川崎大師 松月庵
所在地:神奈川県川崎市川崎区大師町4-37
電話番号:044-266-0458