川崎市立中原小学校
「等々力緑地」に隣接し、中原街道と府中街道にも接する立地。武蔵中原地域の中心部に、広い敷地を構える「川崎市立中原小学校」は、明治初期の寺子屋が前身の、中原区で最も歴史が長い小学校のひとつだ。
今回はこちらで校長を務められている平井弥三郎先生を訪ね、学校の特徴や地域との関わり、中原エリアの魅力などについてお話を聞いた。
豊かな自然と地域の暖かさに包まれた伝統校
まず、学校の沿革についてお聞かせください。
本校は、1901(明治34)年の創立で、今年度開校114年目を迎えます。創立以前にも、近くにある西明寺(さいみょうじ)というお寺で「小杉学舎」(明治6年~)という寺子屋を開いていたそうで、そちらが本校の前身と言われています。寺子屋の歴史も含めると144年目ということで、非常に長い歴史と伝統がある学校ということになります。
続いて教育目標について教えてください。
「楽しく学び共に育つ学校」という言葉を掲げています。また、「自立」すなわち「ひとりひとりの思いや願いを表現し、自分の良さを伸ばす」こと、「共生」すなわち「互いに認め合い、共に楽しみながら学び合う」こと、「創造」すなわち「自らの課題を持ち、進んで取り組む」こと、という3つを子どもの目指す姿として、日々の学校生活を送っています。
それを分かりやすいように、「たのしく」「なかよく」「たくましく」という言葉に置き換えて子どもたちには伝えていますが、これは私が着任する前から続く、中原小の伝統です。
この教育目標、児童像に沿って、どのような実践をされているのでしょうか。
今年度は4つの重点目標を持っており、1つ目は「確かな学力」、2つ目は「認め合う心」、3つ目は「健やかな心と身体」、4つ目は「学校愛、地域愛」という目標です。
実践例をあげますと、「確かな学力」の目標に向かって、昨年度から本校独自の「ことばタイム」という時間を作り実践しています。実は中原小学校は昭和50年頃から、子どもたちの豊かな表現力を培うことを目指して独話活動などを行っており、全国的に知られるようになった小学校でした。
子どもでも大人でも、他者とコミュニケーションをする時には、必ず言葉を使うわけですが、それ以外の時、たとえば考えたり、感じたりする時にも、すべて言葉を介して、人間というのは生きている、という捉え方もあります。そういった観点から、「子どもたちにもっと言葉を豊かに使えるようになってほしい」という思いを以前から抱いていました。
そのための具体的な方法として、語彙を増やし、言葉に親しみ、言葉に興味を持つ時間を増やす必要がありました。国語の時間以外にも、学校生活の中でできることはないかを議論し、考えたのが「ことばタイム」です。
毎週水曜日の朝8時30分から10分程度、早口言葉に挑戦したり、古典の音読をしたり、耳で聞いた文章を書いてみたりと、毎週異なる内容で取り組み始めているところです。
こういった取り組みが学習面だけではなく、人とコミュニケーションを取ったり、友達作りをするうえでの基礎にもなるということで、今後も積極的に取り組んでいこうと考えています。
続いて2つ目の「認め合う心」に関する例で言うと、「なかよし学級」があります。これは1年生と6年生、2年生と4年生、3年生と5年生でそれぞれ「なかよし学級」を組んで、年間を通してさまざまな縦割り活動を行うというものです。
以前までは単発の活動だったのですが、今では朝の時間の「なかはらタイム」を使って、「なかよし学級」同士で名刺交換をしたり、一緒に遊んだり、次の遊び時間の計画を立てたり、といった活動をしています。こうした交流を通して、上学年の子が下学年の子の面倒を見て、下学年の子は上学年の子の姿を見て育つ、という環境ができています。
川崎市では昨年度から「寺子屋事業」に取り組んでいるそうですが、これはどういったものでしょうか。特に中原小では先進的な取り組みをされているそうですが、詳しくお聞かせください。
「寺子屋事業」は、昨年度(平成26年度)からスタートした川崎市の新しい事業です。モデル校として市内各区で1校、合計7校が指定されていて、本校は中原区のモデル校となりました。
この事業自体は、実は学校ではなく、特定非営利活動法人が市から事業を請け負って推進しているものです。本校の場合は「NPO法人かわさきスポーツドリーマーズ」(KSD)というNPOが学校の施設管理、安全管理、施設開放業務といったものを一手に引き受けてくださって、寺子屋事業についても進めています。KSDのメンバーには元教職員や元用務員さん、地元の職人さんなど、色々な方が在籍していて、それぞれが経験を生かす形で「寺子屋事業」を推進しています。
この「寺子屋事業」には大きく2つに分かれていて、ひとつは週に1回放課後に行う「学習支援の事業」、もうひとつは月に1回、土曜日に行っている「体験活動・世代間交流の事業」となっています。
本校の場合、前者については毎週水曜日の午後、1年生から6年生を対象にした放課後学習を行っていまして、月に1回は「スペシャル教室」という、教科専門の先生をお呼びして、より専門的なことに触れる機会も持っています。
後者は、地域の方や外部の方を講師にお招きして、「きらきら教室」というものを開講しています。たとえば科学教室ということで、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の先生をお呼びして、グライダーを作ってみたり、その他にも着衣泳体験、親子料理教室、陸上教室、星空教室といったものも過去に行ってきました。こちらも非常に参加の申し込みが多く、抽選になることもあるほどですが、これは保護者の方の期待も大きいということを示しているのかと思います。
こちらの「寺子屋事業」については、今年度は市内21校で実施するということを聞いていますので、今後は全市に広がっていくものかと思います。
地域との交流事業、連携事業など、地域の方々との関わりについてお聞かせください。
中原は古くから地域が子どもを、あるいは学校を支えてくれているという風土があり、子どもに対して非常に温かい地域です。地域の老人会の方は「見守り隊」ということで、毎朝登校時に安全確保に努めてくださっていますし、自分の子や孫でなくても、「中原の子」ということで、非常によく見守ってくださっています。
地域の方の授業への関わりという部分では、これはほんの一例ですが、近くに「等々力工業会」という小さな町工場の集まりがあるのですが、そこの方々が5年生の総合学習のお手伝いをしてくださったり、あるいは逆に工業会に呼んでいただいて、小さな部品を使って子どもたちが制作活動をしたり、ということで関わっています。
また、多摩川と等々力緑地を中心に活動している「水辺の楽校(がっこう)」という組織の方々と連携をして、等々力緑地や多摩川の自然について教えて頂いたり、あるいは、現地でフィールドワークをしたりということも行っています。二ヶ領用水沿いの桃の木を守る活動をしている「中原桃の会」の方々と一緒に、桃の植樹のお手伝いをしたこともあります。
保護者の方々のボランティア活動も盛んです。たとえば「図書館ボランティア」は、読み聞かせや図書館の環境整備などで、保護者の方々にもいろいろと活躍していただいています。
平井先生は中原区で長く働いていらっしゃるそうですが、武蔵中原地域の魅力とは、どんな点でしょうか?
一般的に「中原」と言うと小杉地区をイメージする方が多いので、高層マンションが建っているんじゃないかと思われてしまうんですが、この中原地区に関しては、確かに小杉地区に隣接している地域ではありますが、近くに川原があったり、等々力緑地を抱えていたりして、非常に緑が多い、落ち着いた雰囲気の地区です。
また、古くからの住民の方と、新しく引っ越して来られた方がうまく融合しているというのも、この中原地区の特長かと思います。それがやはり子どもの性格にも現れているようで、落ち着いた子どもが多いと感じています。子どもたちも「地域に守られている」という意識があってか、非常に子どもらしく、のびのびと育っていると思います。
緑と歴史に囲まれ、今でも十分に魅力のある街ですが、現在、中原街道の拡幅工事や等々力緑地も再編工事などが行われていますから、将来的にはもっともっと、中原の街は良くなっていくかと思います。
また同時に教育環境についても、本校の近隣にある宮内小、宮内中とともに小中3校の連携を深めながら、より一層、色々な教育活動を進めていきたいと思っています。地域と学校が強く結びついた、今よりももっと暮らしやすい、子育てしやすい街になっていくと思います。
※2015(平成27)年7月実施の取材にもとづいた内容です。 記載している情報については、今後変わる場合がございます。
今回お話を聞いた人
校長 平井弥三郎先生
川崎市立中原小学校
所在地:神奈川県川崎市中原区小杉御殿町1-950
電話番号:044-722-1610
http://www.keins.city.kawasaki.jp/2/ke20..