創業1938年。80年間塚口の街とともに栄えた老舗店『松葉寿司』
阪急「塚口」駅、JR「塚口」駅、「名新尼崎」ICと電車と自動車の交通要所が集中している塚口。かつて近松門左衛門が晩年の執筆活動を行った場所でもある。そんな塚口で80年もの間つづく地元の老舗寿司店『松葉寿司』。老舗のお店ながらも、時代のニーズに合わせて数々のユニークな取り組みを行っている。今回は、塚口と共に長い歴史を歩んできた「松葉寿司」の岡本剛志専務にお話を伺いました。
商売上手な祖母のアイデアから始まった「松葉寿司」
――お店の創業からのお話をお伺いします。
松葉寿司は1938年の創業から80年を迎えるわけですが、当店は祖母が始めた店となっております。その当時は長男長女以外の子どもは養子・養女に出すことが珍しくなかった時代で、私の祖母も大阪で寿司店を営む親せきの家に養女として出されていました。そこに福井から寿司店の修行に出てきた祖父と知り合い恋仲になります。
その後二人は大阪の店を離れ、明石で魚の行商を始めます。他の同業は獲れたものを売るだけの商売だったのですが、祖母はこの魚を刺し身にするなり、煮魚にするなり、お客さんのニーズにあった料理にして提供したら喜ばれるだろうと工夫したところ、それなりに商売は成功しました。その後、災害で住居が無くなるなどの困難もありながらたどり着いたのが、この塚口です。塚口で寿司店を始めたのは1938年のことでした。当時お店を出すために買い取った建物が、元々「松葉食堂」という名のお店であったため、その名を借りて「松葉寿司」として創業しました。その後に新伊丹駅のそばに支店を出したりしながら、現在の建物に移ったのが1976(昭和51)年で現在に至るといった流れです。
――松葉寿司さんの大切にしておられることやお店の特色をお伺いできますでしょうか。
最近は大手外食産業の台頭や、いわゆる中食(スーパーやショッピングモールのフードコートのような場所)の充実で、個人店や老舗店は非常に苦戦を強いられている状況ではあります。しかも、そういう大手や中食でも、かなりの低価格でなかなかのものを提供していらっしゃるという状況ですので、お客さんとしてはそういうところに流れていきがちになるのは仕方がないのかなという事を思っています。
そういうなかで、我々ができる事といえば、少しおこがましい言い方になりますが、こういうお店でしか提供できないクオリティーのものをできるだけリーズナブルな価格でお届けするということかなと考えています。
――お寿司屋さんで歴史の長い老舗店となるとイメージ的にも敷居が高い印象が強くなりますよね。
そうなんです。それはうちもよく言われることなんですが、当店はけっして高い値段じゃないんです。価格帯でいえば中の上といったところで、一等地の老舗店で板さんのお任せコース2万円!みたいな価格じゃありません。にぎりの一人前だと1400円からありますし、巻きずしだともっとリーズナブルです。やたらと高いとイメージされているお客さんがいらっしゃるのが少し残念に感じているんです。そうではないので気軽にお越しいただきたいです。
老舗のイメージに捉われない、新たなニーズにアイデアで勝負!
――松葉寿司さんではお寿司屋さんとしては珍しい取り組みもされていますよね。
私どもの理念で「食を通し幸せを作り続ける」ということを掲げています。では、それは日本人だけでいいのか?というところから、食に制限の多いイスラムの方が食べられる寿司を作ってみようではないかということになり、『ムスリムフレンドリー寿司』のご提供をさせて頂いております。これが非常に好評を得ております。お酢やみりん、醤油などは醸造の過程で少量のアルコールが発生するのですが、まったくアルコールフリーでハラール認証を受けた素材を使用しています。
――やはりそれだけのニーズがあったということなんですね。
世の中がグローバル化しているので、企業や学校などを通じてイスラムの人たちもたくさん街にいらっしゃいます。みなさん日本食を楽しみにしてやってこられるのですが、あまりにもハラールに対応しているお店が少なすぎるということで引きこもってしまうというお話を聞き、なんとかしたいと考えたのが始まりです。
また別の思案中の取り組みですが、品質の落ちない急速凍結機を使って寿司を凍らせて冷凍寿司を販売することも考えております。さらに将来的にはハラール寿司を輸出販売できたらというような構想も考えています。基本的に“日本食”という部分からはブレないで、でも新しい要望があればそれに応えていきたいですし、例えマーケットが小さくても早めに取り組んでおきたいという考えを持っています。
――学生さんから考案してもらったお寿司のメニューというのをホームページで拝見したのですが。
関学(関西学院大学)の総合政策部でのインターシップ活動の一環なのですが、知人のお店でお世話になったきっかけから紹介してもらったのが経緯です。最初はメニューの考案というところまで視野に入れていなかったのですが、あまりに熱心な取り組みをして頂いたので、何か形に残る成果を与えてあげたいと思い考えてもらったメニューです。『結(ゆい)』というメニューで体験型の寿司メニューになっています。シャリやネタ、海苔がバラバラの材料でやってきて、お好みでてまり寿司にするもよし、巻きにするもよしというメニューになっています。『結』という名前もアイデアも非常にいいなと感心しておりますし人気もあります。
食を通じての幸せ。おいしいと喜ばれる幸せ
――本当にいろんな取り組みを行われているのですね。
我々はお客様から「おいしかった」と言われることがなにより嬉しいことですし、それがお客様に幸せを提供して、我々も幸せなんだという気持ちでやっております。そのためにいろんなアイデアや構想を考えています。家族での寿司づくり体験コースなども現在構想中です。
――松葉寿司さんの定番や人気メニューについて教えていただけますでしょうか。
定番のコース寿司では『秀吉コース』(3,500円)が良く出ます。当店でかなり人気なのが『宴会コース』です。宴会コースといえば大皿料理をイメージされることが多いと思いますが、当店の場合はそれぞれ一人前ずつの懐石風になっていまして、料理の内容も季節で変わります。五六七(いむな)と尼崎の地名の言葉遊びで稲葉コース(5,000円)、武庫コース(6,000円)、七松コース(7,000円)と120分の飲み放題込みでご提供させて頂いております。
――いろんなところに遊び心や変化球がありますね。お客様の層としてはどんな感じでしょうか。
やはり長い間続けているのでおじいちゃん、おばあちゃんから、若い人まで世代を超えて来て頂いています。でも、先ほどもちょっとお話しましたように“老舗店=高い”というイメージでニューファミリー層がお越しになって頂いていないのかなという部分は感じます。そうではないし、いろんな新しい取り組みもしているので、ぜひともお気軽に来ていただきたいです。
地域に根差した目線から見る、塚口の魅力
――80年もの間地域に根差した目線から、街の変化や魅力についてお伺いできればと思います。
やはりマンションが増えてきているのと、いろんなお店が増えて便利になったなというのはいちばんに思います。JR塚口駅の雰囲気もガラッと新しく変わってニュータウンのようなイメージになりましたし、JR線は特に東西線が通るようになって利便性がぐっとよくなりました。
近松門左衛門が晩年の執筆活動をした場所も塚口から近い場所ですし、企業のオーナーさんなど非常に地元愛を持っていらっしゃる方も多いです。尼崎を盛り上げていこう、文化的にも栄えるようにPRをしていこうという取り組みを私財を投じて行っておられる方もいらっしゃいます。今後行政もそういう取り組みを一緒に行うという計画も聞いていますので、これからの塚口・尼崎の盛り上がりに期待したいですし、当店も食を通じて何らかのお手伝いができればと思っております。
――最後に塚口にこれから住もうと考えている方、初めてお店に来る方にメッセージをお願いします。
大阪にも神戸にも出ていきやすい地域環境のなかでは、これからの発展が期待できるぶん、お得な物件探しができる地域ではないかなと思っています。阪急塚口駅の南側はもう何十年も前に人に優しいモデル道路が全国に先駆けて作られた街でもあるんですよ。意外とそういう先進的なことが行われている場所であったりもします。また当店は決して敷居が高いお店ではありませんので、ぜひともお気軽にお越しください。お待ちしております。
松葉寿司
定休日:火曜日
創業1938年。80年間塚口の街とともに栄えた老舗店『松葉寿司』
所在地:兵庫県尼崎市塚口町1-13-10
電話番号:06-6422-1234
営業時間:月~土 10:00~22:00 日・祝 10:00~21:00
定休日:火曜日
http://matsubasushi.jp/index.html