140年間、地域と共に子どもたちを育ててきた歴史ある小学校/宇都宮市立横川中央小学校 校長 倉田孝明先生
宇都宮市立横川中央小学校
校長・倉田孝明先生
140年間、地域と共に子どもたちを育ててきた
歴史ある小学校「宇都宮市立横川中央小学校」
宇都宮市の南部、旧上三川街道沿いにある「宇都宮市立横川中央小学校」は、2013(平成25)年で創立140年を迎えた、宇都宮市内でもっとも歴史の古い小学校のひとつ。数年前までは児童数200人から300人の間を推移している小規模な学校だったが、近年のインターパーク開発により急激に児童数が増えている。今回は横川中央小学校の校長として2013(平成25)年に赴任した、倉田孝明校長にお話をうかがった。
たいへん歴史の長い小学校とお聞きしました
実は先日(2013(平成25)年10月)140周年の記念式典を行なったばかりでして、非常に歴史のある小学校となります。宇都宮でもいちばん古い学校のひとつです。
最初は1873(明治6)年に「訓蒙舎」として始まりました。1901(明治34)年に現在地に移転し、1995(平成7)年に新校舎が完成して現在に至っています。建物については公立小学校の中では比較的新しい建物でして、中庭や多目的ルームがありますし、木目を基調にした温かみのある校内で、冷暖房も完備した、非常に贅沢な造りになっています。
横川地区にはここ横川中央小以外にも、横川東小、横川西小という小学校がありまして、そちらはもっと市街地に近い学校なんですが、実は横川中央小の辺りのほうが昔からの街ですので、農協だとか、市の出張所などはこの近くにあるんですね。
児童数について教えてください
2013(平成25)年現在で360名です。もともとそんなに大きな学校ではないんですけれども、インターパークに家ができるようになってから、この3年間で1.7倍に児童数が増えていますね。これからもさらに増えていくでしょうから、それが本校の一番の課題になっています。
過去50年間ほどを調べてみても、最近までだんだん児童数が減っていたものですから、1995(平成7)年に200人ちょっとを想定して新しい校舎を造ったんですが、あまりにも急激に増えましたので、昨年は2つの特別教室を普通教室に変更するということも行ないました。
来年度は389名になる予定ですが、今後はもっと増えまして、ピークとなる2019(平成31)年頃には700名近くになると予想されています。学区は決まっていますから、開発が進んでいるインターパーク1丁目と2丁目の子どもたちは、全員本校に来ることになります。それに対して、宇都宮市では新しい小学校の建設などは予定しておりませんので、考えられるのは校舎の増設ですね。将来的には校庭に新しい校舎を増やすことになりそうです。
学校の教育目標には、どのようなことを掲げておられますか?
この学校については、「思いやりのある子ども」「よく考え、進んで学ぶ子ども」「健康で粘り強い子ども」「働く喜びを知る子ども」の4つを、「目指す児童像」として掲げています。
ただ、子どもって堅苦しい教育目標なんて言われても、普段からそれを考えながら行動なんかできないんですね。職員側はこういう気持ちで、こういう子どもたちを育てようと思っていても、子どもにはなかなか伝わりません。
そこで10年ぐらい前の校長が、「思いやり星」「学び星」「健康星」「働き星」という、4つの星のキャラクターを作ったんですよ。それを使って、「4つの星を輝かせましょう」ということで、子どもたちにつねに身近に感じてもらっているんですね。この「4つ星」たちは校内のいろんなところに登場しまして、掲示物や配布物にも、なわとびの検定表などにも、それぞれのポーズをしている4つ星が描かれていたりします。シールなども作って子どもたちの意識付けに活用しているので、今度はバッジでも作ろうかと思っています(笑)。
学習の特色について教えてください
教科については、特別な学習法をやっているわけじゃないです。本当に普通に、当たり前のことをやっています。
そんな中でも、「勤労奉仕」というのが本校の特色になっているでしょうか。草花の栽培、クリーン活動、高齢者や障害者との交流などの勤労体験を通じて、「思いやりの心と情操豊かな児童を育てる」ということを目指しています。
具体的な活動としては、1年生から6年生の全学年で田植えと稲刈りを行う、というものがまず大きなものでありまして、ほかにも、4年生は福祉施設に行きますし、5年生は老人ホームに行きますし、6年生は地域の方に教わりながわら、菊の栽培を行なっています。菊の栽培は地域でも有名なものでして、毎年校内を彩ってくれています。
その中でも、いちばん大きなものは全学年でやっている田植えと稲刈りかと思いますが、これも地域の方に田んぼを借りて、地域の方の協力のもとで、6年生は1年生と、5年生は2年生と、4年生は3年生と、一緒に田植えや稲刈りをやっています。ここに稲刈りが終わった後に、6年生に寄り添う1年生の写真があるんですけれど、これなんかは、私がすごく好きな1枚ですね。こういう光景が見られるのが、本校の素晴らしいところですね。田んぼ以外ににもいろいろな勤労体験を通して、子どもたちは仕事の大変さ、支えあうことの大切さを学んでいくんですね。
今年から始まった「小中一環教育」について、詳しくお聞かせください
今年度から本校は「小中一環教育」に取り組んでいます。これは横川地区だけの話ではなくて、宇都宮全体がそうなんですが、「小中一環教育」というのは、結論から言ってしまえば、「9年間で子どもを育てる」ってことなんですね。
そのためには、子ども達のことをよりよく知らないといけないんです。「今は6年生でこれをやっているけど、中学校に行ったらこの子たちは何をするんだろう」、逆に、「いま中学校の子どもたちは、小学校で何をやってきたのだろう」ということを知らないと成り立たないんです。そのためには小・中の先生方の交流も無いといけないし、実際にお互いに先生を派遣して授業をやってみたりと、「学校間の交流」というものが、一環教育になってすごく盛んになってきていると思います。こういった取り組みを、本校では「宇都宮市立横川中学校」と一緒になって行なっています。
本校の特徴としては、卒業生は基本的に全員が横川中に行きますから、そういった意味ではとてもやりやすくて、一貫教育のメリットも出やすいのではないかと思います。学校によっては「ひとつの小学校からひとつの中学校に行く」という図式じゃなかったりしますからね。
「中1ギャップ」と言って、環境が大きく変わり、上級生から下級生になることで悩みを抱えるケースも問題になっているのですが、小中一環の教育を行なうことによって、これを和らげることもできるかと思います。
地域の方々との交流についてお聞かせください
これがまた、驚くほど密なんですね。私も今年赴任してきて、いちばん驚いたのはこのことでした。保護者の方も、地域の方々も、とにかくいろんな事をやってくださるんです。
たとえば保護者でやっている「教材ボランティア」では、授業のための資料を作って授業までに用意してくれたりしますし、地域の方がやっている「図書ボランティア」では、本の読み聞かせをしてくださっています。ほかにも、登下校の時に通学路に立ってもらったり、校外学習に行く時に手伝ってもらったり、縄ない指導、昔遊び指導、茶道教室、田んぼ、菊作りなんかも、全部保護者と地域の方々の力でやっています。
地域の方の中にはもう20年以上も来てくれている方もいて、先生方よりもずっと長い方ばかりなんですよ。いろいろな季節の飾りを作って持ってきてくれる方もいますし、入学祝いに手ぬぐいを寄付してくれる方もいますし、校長室まで毎朝来てくれるような方もいるんですよ。
ジャガイモ堀りなんかも、地域の方の畑に行って、その方の芋を掘らせてもらっているんですが、そこでスイカやキュウリまで食べさせてもらっているんですよ。
そういう風に、地域の人が「自分の学校」という感覚で見てくれていて、そういうのがずっと昔から、何十年も続いているんですね。私たち職員ですと、せいぜい数年しか学校に居られませんから、やっぱり地域の方の力というのは大きいです。学校を大切にしよう、ということで見てくれているんです。保護者の方にも、将来的にはそういう地域の方の一員になって、ずっと見守ってほしいと願っております。そこがこの学校の、一番素晴らしいところだと思いますね。
インターパークに越されてきた方は核家族の方が多いですから、だからこそ、こういった昔ながらの地域のつながりがあって、地域のおじいちゃん、おばあちゃんが学校に顔を出してくれるというのは、とても有難いことですね。
たとえば、当番の子どもたちが職員室の前の黒板に欠席人数を書くんですけれど、その時なんかも地域の方が通りがかれば「でかい字で書けよ」って声をかけてくれるんです。たったそれだけのことなんですけれど、先生方ってそういうことをなかなか言わないですよね。言っても「きれいに書いてね」ですよね。
地域の方の視点というのは、そもそも「教育」ではないんですよ。孫を見ているように、「とにかくお前達は若いんだからのびのびやれよ」っていう感じで見てくれているんですね。そういう光景を見ると、自分達も、忘れていた光景というか、大事なものに気づかされます。子どもたちだけじゃなくて、教職員も含めた学校全体が見守られているんですね。
インターパークの新しい人々が流入したことで、変化はあったのでしょうか
一般的に新しいマンションとか団地ができると、小学校の雰囲気が変わるとか言うじゃないですか。でもこの学校は全然そういうことが無いですね。もともといい環境のところに、やる気のある若い保護者が来てくれたので、「昔からの良さに新しいパワーが加わった」という感じて、とてもいい雰囲気になっていると思います。新しく移り住んでこられた保護者の方も、本当によくやってくださるんですよ。
そんな方々に支えられて、私たちが何をできるかと言えば、子どもたちに還すしかないですよね。ですから、職員も一層頑張ろうという思いになっています。「やらなきゃならない」ではなくて、「やってあげたい」という気持ちになる学校なんです。ですから宇都宮市の教員からも、「いつか横川中央小には行ってみたいよね」という声が聞こえてくることもあります。
私もここに赴任して、あまりにも良い学校だったので、より良くしようという気持ちよりは、今のレベルを下げないということに必死なんです(笑)。この地域が自分達に、やる気を与えてくれているんですね。
横川中央小の子どもたちについて、どんな印象がありますか?
「思いやりのある子」でしょうかね。先ほどの田んぼの写真に象徴されているように、とても優しい気持ちを持った子が多いです。
もちろん子どもですからトラブルもありますけれど、基本的にはみんな和やかで優しい子ばかりです。保護者の方も、約束をきちんと守ってくれたり、いろいろな学校の行事に協力してくれたりとか、そういう良い家庭環境があるから、子どもたちが優しく素直に育っているんでしょうね。
小さな学校としては、スポーツ大会の成績も素晴らしいとお聞きしています
実は先日の宇都宮市の陸上競技会で、市内に70近くある小学校の中で、うちの6年生がリレーで1位を取ったんですね。約70学校のうちの1位だけでも大変なことですけれど、うちの学校の6年生の男子は15名しか居ませんから、そのうち4名で1位を取ったというのはたいへんな快挙なんですね。
それがなぜできたか、ということを考えますと、本校では学校が一丸となって子どもを応援するということが、ごく自然に行なわれていたからだと思うんですよ。リレーひとつを取っても、記録を取ってあげる先生がいて、トラックに毎朝線を引いてくれる先生がいて、人が足りなかったら代わりに入って走ってくれる先生がいて、そこで人が足りなくなりそうだったら、代わりに誰々先生に入ってくれないかってお願いをしてくれる先生がいて、頼まれたら嫌な顔をせずに受けてくれる先生がいるんです。そういう先生方の力が積み重なって、子ども達の力を引き出しているんでしょうね。横央小の子どもたちって、本当に幸せなんだと思います。
最後に、横川地域の魅力についてお聞かせください。
やっぱり自然が多いことですよね。昔ながらの里の風景がよく残っている地域だと思います。この間なんか学校の近くでキジを見ましたし、亀が甲羅干しをしていたり、ウグイスや鴨が沢山います。昔はインターパークの辺りも、何も無い場所だったですから。
あとはやっぱり、地域の人の人柄が素晴らしいですし、素晴らしい学校があることも魅力だと思います。ぜひお子さんを通わせてほしいですね。
今回、話を聞いた人
宇都宮市立横川中央小学校
校長・倉田 孝明先生
住所:栃木県宇都宮市屋板町1072
電話番号:028-656-1141
URL:http://www.ueis.ed.jp/school/yokokawa-c/
※記事内容は2013(平成25)年11月時点の情報です。
140年間、地域と共に子どもたちを育ててきた歴史ある小学校/宇都宮市立横川中央小学校 校長 倉田孝明先生
所在地:栃木県宇都宮市屋板町1072
電話番号:028-656-1141
http://www.ueis.ed.jp/school/yokokawa-c/