EVERLASTING
2019(平成31)年2月、白山の地に開店したオーダー革靴の専門店「EVERLASTING」。この言葉を訳すなら「永久に」または「不朽の」といった形容詞になるが、まさに、その言葉通りの靴を作ってくれるショップとして、口コミで人気を集めている。
目印となっているのは、春日通り沿いでひときわ目を引く緑色のビル。1階がショップ、2階と3階が工場兼倉庫となっており、1階でオーダーを取り、数週間の作業期間に工場で製造し、ふたたび店頭でお渡しという流れになっている。この「EVERLASTING」の靴は、ネット販売やショップへの卸などを一切していない。すべてをこの建物内で完結する、来てくれた人だけにサービスを提供する、“堅実さ”をもつブランドだ。
この店を立ち上げたのは宮澤良太さん。もともとは老舗の靴メーカーで働いており、2014(平成26)年の独立を機に「永代製作所」を立ち上げて浅草に靴工場を置いた。その際にはOEM専門の工場として、他のブランドネームを冠した靴を生産し、百貨店などでも販売されていたそうだが、当時から「直接お客さんの顔が見えない商売ではなく、お客さんの喜ぶ顔を見たい。お客さんと一緒に考えて、楽しく靴を作っていきたい」という思いを抱いていたという。
2018(平成30)年、浅草の開発にともない工場の移転を余儀なくされ、白山に移ったが、この時に宮澤氏はそんな積年の思いを形にした。「永代」の名を英語にするならば、「EVERLASTING」という言葉がもっとも近いだろうとブランド名にし、オーダーメードブランドを立ち上げた。そして2019(平成31)年、実際に店舗として稼働を始めたということだ。
「EVERLASTING」の靴には2つのラインがある。フラットなラバーソールを採用したレザースニーカーと、「グッドイヤーウェルテッド」という伝統的な製法を使った、オーソドックスなスタイルの革靴だ。どちらもレディースからメンズまで幅広く対応しており、アッパーにも紐タイプやフックタイプなど、いくつかのデザインバリエーションがある。
ただし、この2つのラインから先には、無数の枝葉が広がっていく。オーダーといってもサイズだけをオーダーするのではなく、革の素材や色、ソール、ステッチの糸色、紐の色やタイプなど細かなパターンも指定できる「パターンオーダー」の形をとっているためだ。
その革の在庫も、ヨーロッパ産のビンテージレザーから、最高級品であるコードバン、信頼できる国産タンナーから仕入れる良質なヌメ革やシボ革など、非常に幅広い。靴のタイプや用途によって向き不向きもあるが、それはもちろん、宮澤さんがしっかりとアドバイスをしてくれる。
ジャストサイズでありつつ、自分色に染め上げた「世界で唯一の靴」を作ることができるにもかかわらず、価格は信じられないほどリーズナブルだ。「お客様に楽しんでほしいという思いと、実は自分たちも、作っていて楽しいものを作りたいなって思いがあるんですよ。オーダー靴の入門編だと思って、気軽に来ていただければ嬉しいですね。だから価格も安くしています。ほぼ、卸価格ですよ」と宮澤さんは笑う。
リーズナブルな価格に対して、品質は高級ブランドにも引けを取らない第一級のものだ。グッドイヤーというベーシックな製法をベースにしながらも、少し改良を加えた「永代式グッドイヤー製法」で作られる革靴は、最初に履いたその瞬間から柔らかく履きこなせ、慣らしを必要としない。また、グッドイヤー製法の靴は重いのが難点と言われるが、ここの靴は甲の形なども絶妙な補正が加えられており、ジャストサイズを履いた瞬間、羽が生えたように軽く感じるという。
スニーカーについても、「中底」と言われる箇所に革素材を使い、「ソールの張替え可能なスニーカー」としている。革靴や登山靴の世界では、ソールの張替えというのは常識になっているが、それをスニーカーで実現しているのは珍しい。このひと手前によって、「永代」という名に恥じない、長く使え、使うほどに味わい深くなるスニーカーを実現している。
ひとつひとつ、要望や思いを聞いたヒアリングシートをもとに、切り出された革が工場の中で「靴」へと変わっていく。自分の思いを載せ、こういう場所から生み出された靴となれば、持つ側にも愛着が湧き、手入れを欠かさなくなる。そうすれば革靴はいつまでも輝きを保ち続ける。「いつまでも輝いてくれる靴を作りたい」という宮澤さんの思いは、人々に、商品を通してしっかりと伝わっていることだろう。
白山に工場を移したのは「たまたまのご縁があったから」だというが、来店限定のオーダーメードという性質上、やはり、近隣から訪れるお客さんが多くを占めるという。そのお客さんの中には何足も、中には何十足も繰り返しオーダーしてくれる方もいるそうで、「やはり白山や小石川など、この文京区近辺にお住まいの方というのは、物を大切に、長く使おうという方が多いように思います」と、宮澤さんも笑顔を見せる。
「いつまでも使えるものを」という作り手と、「いつまでも大事に使いたい」という受け手が呼応し、白山という地に徐々に馴染んできた「EVERLASTING」。靴を愛してやまない職人たちの思いを載せた一足を、この店で手に入れてみてはいかがだろう。
店頭には端切れとなった革から作られた小物類も販売されているので、まずはこの辺りから、店の雰囲気に染まっていくのも良いかもしれない。ただし、工場兼店舗という性質上、基本的にアポイントを取っての訪問となるので、ホームページやSNSから連絡を取っての訪問をお忘れなく。
EVERLASTING
所在地:東京都文京区白山4-35-12
営業日:金~日曜日 12:00~19:00
https://www.instagram.com/everlasting_ei..