76vin(ナナジュウロクヴァン)
不忍通りと言問通りが交わる根津交差点近くにある「76vin」は、ぱっと見た感じはカフェかレストランといった見た目。しかし、昼間そこを通ってもオープンしていることはない。観葉植物の隙間からはワイングラスが見え、興味深そうに覗き込む人々の姿は絶えないのだが、昼間、この界隈を散策する人々がこの店に入ることはない。店がオープンするのは18時。スタッフが手書きの看板を外に運び出すと、そこには「焼鳥Bar」という文字が書かれている。そう、ここはワインと焼き鳥をメインに提供しているワインバルである。
店内に入ってみても、やはり、「焼き鳥」という言葉からイメージする空間からはほど遠い。それもあって、この店のお客さんのほとんどは女性客だ。「赤ちょうちんに入りたくても、入れない女性の方って多いと思うんですよ。うちは、そういう方にも気軽に来てもらえるような店を目指しています」と話すのは、店長の江村謙さん。
江村さんは出身地の世田谷で、親戚が営む和食店を手伝いながら、店先で焼鳥を焼いていたという経歴を持つ人。当時から外食が好きでいろいろな店を食べ歩いていたが、そんな店のひとつで知り合ったのが、料理研究家の平野由希子さんだった。江村さんと平野さんは意気投合して、和食店の閉店を機会に、彼女がプロデュースする店を開くことになったという。そこで考えたのが、「女性でも楽しめる焼き鳥の店」だった。
料理は基本的に平野さんがすべてプロデュースし、レシピ考案、素材の調達なども担当する。焼き鳥は江村さんの担当となっているが、タレや肉を選定したのは平野さん。鶏肉はふっくらとした肉質をもち、炭火で焼いてもジューシーさを残す岩手県産の「菜彩鶏」(さいさいどり)を採用したという。タレはワインを全量の半分以上に使っているなど、こだわりの度合いが半端ではない。「だから、僕はただ焼いているだけなんですよ」と江村さんは笑うが、熟練の焼きの技術があるからこそ、この店の美味しさは完成しているのである。
焼き台はもちろん焼き鳥専用のものを用意し、備長炭を使って丹念に焼き上げる。炭に落ちた肉汁から煙が上がり、その煙の香りが肉にまとわりついていく。頃合いを見て上げられたひと串は、熱々のままで頬張るのが一番おいしい。特製のタレ以外にも、フランス産海塩「ゲランドの塩」でシンプルに味わったり、クセになる芳香を楽しめる「削り山わさび」を使った串もあるので、スタッフと会話を重ねながら、お気に入りを探ってみてほしい。
店のおすすめは、まず最初の一皿としてオーダーする人が多いという「前菜盛り合わせ」。特製のパテを手作りカンパーニュのスライスに塗りつけた「パテ・ド・カンパーニュ」のほか、レバーペーストやキャロットラペなどが盛り合わされている。チャージ料金なし、予約も不要という店なので、仕事帰りなどにこれと焼き鳥とワイン1杯、という楽しみ方をする常連も多いという。
もちろん、本腰を入れて料理を満喫したい人にもしっかり対応してくれる。焼き鳥はいつ訪れても絶品の美味しさだが、旬の野菜や果物を炭火で焼いた、“焼きもの”系の料理も試してみたい。旬に合わせてトマト、ホワイトアスパラ、たけのこ、いちじくなど、さまざまな食材を最適な火入れ加減で焼き、チーズなどと合わせて美味しく仕上げてくれる。料理は基本的に鶏肉と野菜を中心に組み立てられるので、カロリーの心配がほぼ不要というのも、女性には嬉しいポイントだ。
ワインはビオワインを主体に、主にフランス産の銘柄を扱っている。グラスワインも赤、白、ロゼそれぞれ幾つかを常備しているので、「いろんなワインをちょっとずつ飲みたい」という要望にもしっかり応えてくれるだろう。最初の一杯はシャンパーニュ、タレ味の焼き鳥には赤、塩味には白、というのがおすすめの合わせ方ということだ。
焼き鳥の店なのに、おしゃれな店内で、こだわりのビオワインも楽しめる「76vin」。良質なワインを揃えているので、焼き鳥の店としてはやや高級な部類かもしれないが、レストランなどと比べればはるかに気軽に入れる雰囲気と価格。「ふらっと寄って一杯」から、大切な人のもてなしの席まで、しっかりと対応してくれそうな、こだわりの詰まった店である。
76vin(ナナジュウロクヴァン)
所在地:東京都文京区根津2-13-8
不定休
https://www.facebook.com/76vin
https://twitter.com/76vin
https://www.instagram.com/76vin/