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カフェ・ド・メル

大田区でも有数の高級住宅街として知られる久が原エリア。その邸宅地の中に紛れ込むようにして、「カフェ・ド・メル」ひっそりと佇んでいる。店があるのは、「久が原」駅からほど近い場所。駅近くとはいえ、近隣に住む人々の高級車が静かに走り去る程度。ごく静かな住環境が保たれている。

「カフェ・ド・メル」はそんな素敵な場所に家を持っているオーナーが、自宅の一部分を改造して、誰もが立ち寄れるカフェとして開放したもの。ガレージがエントランスになっており、その奥の階段を降りた地下1階部分がメインフロアとなっている。車いすやベビーカーのお客さんのために、ガレージ内にも客席が設けられており、ボタンを押すとスタッフが来てくれるという仕組みだ。

とはいえ、この店に来たら地下まで降りるべきだろう。地下1階とは言っているが、そこには吹き抜けになった広いパティオ(中庭)が作られているので、半地下ぐらいの明るい雰囲気。心地よい“隠れ家”気分が楽しめる場所だ。

店の入り口を入ると、女性スタッフが柔らかな物腰で迎え入れてくれる。店内を見渡すと、大理石の天板が使われた円卓が並んでおり、奥にはグランドピアノまで置かれている。まるで高級ホテルのロビーのようなゴージャスさで、最初は驚かされるかもしれないが、メニュー表を見ると値段はリーズナブル。ほっと胸を撫で下ろすことになるだろう。

この店を営んでいるのは菊池さんご一家。かつて娯楽室として使われていたという地下室を見た時に、奥様の發江(ほづえ)さんは「喫茶店にぴったりじゃない!」と思い立ったそうだ。そこでガレージを改良し、奥から地下への階段を新設して、カフェの体裁を整えた。かくして、宣伝も何もせずに、ガレージの前に看板だけを掲げて営業がスタートしたのは、2000(平成12)年のことだ。それから約15年、細々とではあるが、店は多くのリピーター客に愛されて続いている。

この店が愛されている理由は、スタッフやオーナー夫人の人柄、静かな雰囲気、コーヒーや紅茶の美味しさなど多岐にわたるだろうが、実は「ケーキがすごく美味しい」ということで訪れる人が、とても多いのだという。

話は遡って15年前の開店以前、菊池さんは飲食業はまったくの未経験だった。そこで「どうせプロのように上手に作れないから」と料理を作ることは一切せずに、仕入れたケーキと、簡単な飲み物だけの店にすることにした。その時に仕入先として声を掛けたのが、かねてからの知り合いだったというパティスリーの社長さんだったそうだが、今やそのパティスリーはスイーツの聖地、自由が丘でも屈指の人気店。美しいこの小ぶりのケーキを見れば「あの店だ」と分かる人も多いだろう。超有名店がまだ無名だった時代、たまたま始まったお付き合いが、今も変わらずに続いているというわけだ。

ショーケースの中には毎日少数ではあるが、定番と季節物のプチガトーがちょこんと並んでいる。種類こそ少ないが、「行列に並ばなくてもあの名店のケーキが食べられる」というのが、このカフェの隠れた魅力のひとつ。スイーツ好きの人がが遠方からわざわざ来ることもあるという。「ご近所の方だと、バースデーケーキやクリスマスケーキも注文できますよ。ちゃんと文字も入れてくださってね」とのこと。

ドリンクについてはコーヒーと紅茶がメインで、凝ったラテメニューやアルコール類は置いていない。さっと飲みたい時にはコーヒー、ゆったり過ごしたい時にはポットで淹れてくれる紅茶というのがスタンダードなチョイスだろうか。コーヒーは蒲田の老舗焙煎店「サンパウロコーヒーフーズ」に独自ブレンドを依頼して、ホット、アイスとそれぞれ別のブレンドで提供している。

「アイスコーヒーは氷までアイスコーヒーで作っているのよ。だから薄まらないの」というのが、菊池さんのささやかなこだわり。本を読んだり、おしゃべりをしたり、ゆっくり過ごしても心地良いように、細かなところまで配慮が行き届いている。

今年で75歳だという菊池さんの一番の趣味はガーデニング。自宅とこの邸宅の2軒分の広い庭を一人で管理しているので、「そっちが忙しくて、カフェに立つ時間があんまりないの」というのが今の悩みということだが、庭で咲いた花を毎日摘んで、テーブルに飾るのが日課のひとつになっているそう。楚々とした小さな花が、訪れた人の心を和ませてくれる。

「素人が始めた店ですから、普通の家庭にうかがうような気持ちでいらしていただければ」と微笑む菊池さん。実際にご近所さんの気軽な訪問も多いようで、急な来客があった時などに「家をきれいにするのが大変だから、こっちに来ちゃった」という具合に、自宅のゲストルーム代わりに利用するご婦人方も多いそうだ。

とはいえ常連さんの年齢層は幅広く、地域のお年寄りから、受験勉強をする学生さんまでさまざま。男女も分け隔てなく訪れ、朝夕の時間帯には犬の散歩ついでに寄る人も多いそうだ。

ピアノもよく調律されている現役のもので、時には近くのピアノ教室の発表会があったり、お客さんが主催して、小さなコンサートを開催することもあるという。「そんな風にいろんな方がいろんな使い方をしてくださって、いろんな世界の方とお話できるのが楽しいのよ。ぼけ防止にもなるでしょ」と微笑む。

住宅街にひょっこりと現れる、邸宅の地下を使った静かなカフェ「カフェ・ド・メル」。そこにあるのは感じの良いご夫人の笑顔と心尽くしのサービス、美味しいケーキとコーヒー、朝に摘んだ可愛らしい花々、そして、四季折々に表情を変える、美しい中庭の景色だった。開店から15年、混むことこそ少ないが、細々と毎日顔なじみのお客さんが訪れるこの店は、久が原の穏やかなライフスタイルに寄り添った、愛すべきカフェとなっているようだ。

カフェ・ド・メル
所在地:東京都大田区東嶺町25-19 
電話番号:03-3751-9625
営業時間:11:00~18:00
定休日:火・水曜日
https://luke071.wixsite.com/mell

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