店主 古川圭二さんインタビュー

若手ならではのセンスとスピードを活かし、エネルギッシュな企画を連発する/久米川美食倶楽部(東京都)


西武新宿線と新青梅街道が交わる辺りにある「久米川」駅の周辺は、東村山市の中でもっとも大きな、にぎわいの街である。その街に、2020年のコロナ禍のさなか、飲食店の有志が集まり「久米川美食倶楽部」が生まれた。美食倶楽部のメンバーは若手の飲食店主が中心。若手ならではのセンスとスピード感を生かして、エネルギッシュな企画を連発し話題となっている。
今回はこの「久米川美食倶楽部」の活動の様子と、それらに込めた街への思いについて、主要メンバーのひとりである古川圭二さんに、古川さんのお店「kitchen KEIJI」でお話を聞いた。

「久米川美食倶楽部新聞」とマップ
「久米川美食倶楽部新聞」とマップ

2020年3月コロナ禍で発足した「久米川美食倶楽部」

――まずは、「久米川美食倶楽部」の成り立ちと概要を教えてください。

古川圭二さん:「久米川美食倶楽部」は久米川の飲食店主の団体で、今回は僕が喋っていますけれど、そもそも最初に声掛けをしたのは僕ではなく、中華の「麻辣椀」(マーラーワン)の増田さんという方なんですね。本来、僕らの中に「リーダー」というのはいないんです。「みんなで決めて、みんなでやろう」というのが活動の基本になっています。
最初は2020年の3月に、コロナで今後の雲行きが怪しくなってきた際、「飲食店で一緒に何かをやろう」ということで松田さんが声を上げてくださって、うち(キッチンKEIJI)と、イタリアンの「エンクエントロー」さんと、バーの「バッカス」さんの4店舗で企画を考えました。
その時は、コロナビールをウイルス撃退と掛け合わせて、「コロナビールに料理一品を付けて567(コロナ)円」という企画だったんですけれど、去年のこの時期は自粛期間の始まる時だったので、3月20日から始めて桜が散る頃までの予定だったのですが、途中で外出自粛がはじまり終了してしまいました。ただ、反響は想像以上でした。
これをきっかけに店舗間の仲が深くなって、周りの店舗も巻き込みながら、規模が大きくなっていって「そろそろ何か名前でも付けようか」という話になったので、「久米川美食倶楽部」という名前を付けました。

「久米川美食倶楽部新聞」について語る古川さん
「久米川美食倶楽部新聞」について語る古川さん

「日替わりこども弁当」や「ポテサラサミット」などユニークな取り組みを多数企画

――その後も、ユニークな企画を次々と企画・実行されていますね。どのような企画があったか、詳しく教えてください。

古川圭二さん:その後は、(2020年)4月以降には自粛で家にいる子どもたちが増えたので、「子どもたちに何か栄養があるものを届けよう」ということで、「日替こども弁当」の企画をやりました。これは税込300円という値段もあって、多くの方にお届けすることができました。
4月13日から月末までの2週間くらいでしたけれど、予定していた2倍くらいの数が売れ、うちなんかは、1日に100食くらい作った日もありましたね。これだけだと利益もほぼ無い価格でしたけれど、プラスアルファで親御さんが食べる弁当も注文をいただいたりしたので、知名度も上がって利益もそれなりに出すことができました。

――桜が散って2週間後に次の企画がスタートですか。すごいスピード感ですね!

古川圭二さん:うちのメニューのデザインをやってくれる方が、すごく頑張ってくれたんですよ。デザイン提案を出したらすぐにサンプルを上げてくれて、「やる」と言ってからチラシを配るまで、2週間もかからなかったと思います。

「日替こども弁当」
「日替こども弁当」

――5月には「久米川美食倶楽部新聞」も発行されましたね。

古川圭二さん:これは僕が発案したものなんですが、「久米川美食倶楽部」のことをもっと知ってもらえるように、広報誌を発行したいなと思って、作ってみたんですね。けっこう立派なものができたました。各店舗に置いて無料配布をしました。
特集記事は「テイクアウト」だったのですが、久米川のいいところって、お店をいろいろ回っても、20分以内くらいで全部回れちゃうところなんですね。だから、前もって電話を入れておけば短時間でいろいろ受け取れて便利なんですけれど、意外と知られていない。そういうところをアピールしたいなと思い紹介しました。今後も定期的に出していきたいですね。

「日替わりこども弁当」を企画した際のチラシ
「日替わりこども弁当」を企画した際のチラシ

――その次には「Niziギフト」という企画もされていますね。なんだか文字の並びに見覚えがあるような…。

古川圭二さん:こども食堂は戦隊モノのイメージだったので、そのあとも記憶に残りやすい、話題になりそうなものをオマージュした企画でいこうと思って、これも完全にそうなんですけれど。
これは「虹」だけに7店舗の参加で、7店舗の味をコースにして、おうちで味わってもらおうというセットを作ったんですね。
これは値段もそれなりだったので、正直、すごく大きな反響は無かったんですが、その後にやった「ポテサラサミット」のスタンプラリーの商品に、この「Niziギフト」のセットを抽選でプレゼントしたので、ふたつ合わせて考えたら、かなりいい反響が得られたというか、お店を知ってもらうきっかけにできたのかな、と思います。

――「ポテサラサミット」も、話題のあの配色と名言が使われていて、笑みがこぼれてしまいますね。100円からという値段も、たしかに話題になりますよね。

古川圭二さん:そうですね。「ポテサラサミット」はすごく評判が良かったんです。子どもたちにも楽しんでもらえたと思います。
これは僕の個人的な考えですけれど、飲食人はエンターテイナーであるべきだと思うんですよ。経営者であるのと同時に。なので、つねに「お客さんを楽しませるために何ができるだろう」っていうことを考えているべきだと。だから、実はいまも新しいことを考えて、すでに動いているんですよ。

「ポテサラサミット」のポテトサラダ
「ポテサラサミット」のポテトサラダ

――どんな企画を考えているのでしょうか?

古川圭二さん:マスクケースですね。A4の紙を三つ折りにしただけのものなんですけれど、これを全店舗のお客さんに、来店した時に渡そうと思っています。実は3日前に思いついたんですけれど、来週にはもう印刷まで上がってくる予定です。

マスクケースの案
マスクケースの案

同じ地域の有志組織だからこそ可能な「スピード感」が強みに

――すごいスピード感ですね。既存の商工会などでは、このスピードは出ませんよね?

古川圭二さん:そうですね。スピード感については自慢できるところだと思っています。でも、みんなもちゃんと一緒についてきてくれるんですよ。これも小さな組織だからかな、と。「久米川美食倶楽部」って、「既存の組織を動かすよりは、新しい組織を作って我々でどんどんやっていこうよ」という感じの組織なんですね。
もちろん、久米川にはいろんな商店会があって、市の飲食店組合なんかもあって、それぞれが意義のある活動をしているわけれすけれど、大きい組織だとどうしても、フットワークが重くなってしまうんですね。その点、我々はグループラインで全部やりとりして、スピード感はあるので、そこは特徴なのかな、と思います。

――ほかにも、今後の企画予定があれば教えてください。

古川圭二さん:実は、今後の予定って特にないんですね。場当たり的に、「面白いのを考えついたらやろう」という形で活動をしています。あんまりコンスタントにやりすぎると、僕らも疲れちゃいますから。 ただ、いろんな企画をやる中で、店のブランディングができたのは良かったな、と思っていて、たくさんの人に知ってもらえるようになったことで、東村山市役所から「弁当を届けてもらえないか」という声がかかって、市役所以外にもいろんな企業さんとつながって、お弁当を配達するというビジネスも生まれたり、いろんな相乗効果は出てきていると思います。

企業様向けのお弁当サービス
企業様向けのお弁当サービス

――美食倶楽部の立ち上げ以前から、飲食店同士で横のつながりはあったのでしょうか?

古川圭二さん:人によるとは思いますが、中でも僕はけっこう前からいろんなお店とつながっていましたね。基本的に、久米川の飲食店ってみんな仲がいいんですよ。業種もバランスよくばらけているし。ただ、営業時間がだいたい同じなので、コミュニケーションをとりづらくって、具体的に一緒に何かをする、というのは少なかったですね。
でも、久米川美食倶楽部もそうですけれど、「楽しいことをやろう」という気持ちはみんな持っていて、今回のコロナ禍があって、「ピンチの時だからこそつながろう」という気持ちが強くなったんだと思います。

――美食倶楽部の活動を始めてから、客層が変わったという印象はありますか?

古川圭二さん:それは感じています。これまでうちの店に来たことが無かったという方が増えました。やっぱり地域の方にとっても、我々が横につながって楽しそうな雰囲気を作れば、「今まで行ったことが無かったけど、あの店にも行ってみようかな」と思えるきっかけになると思うんです。その効果が出ていると思います。
僕らがやっているのは本当に地道な活動ですけれど、こういうことを通して、街全体の底上げというか、にぎわいに一役買えればいいなと思っています。

地域のつながりについて語る古川さん
地域のつながりについて語る古川さん

自然が豊かで飲食店も多い「久米川」

――地域の人々と関わる中で、古川さんが大切にしていることは何でしょうか?

古川圭二さん:いろいろありますけれど、ひとつ挙げるなら「距離感」ですかね。美食倶楽部の活動もそうですけれど、街を盛り上げたいと思うけれど、あまりやりすぎても疲れちゃうので、そのバランス感覚というか、「距離感」をすごく大事にしていますね。

――続いては久米川エリアについてお聞きします。古川さんは生まれも育ちも久米川ということですが、街のおすすめのスポットを教えてください。

古川圭二さん:まずは、緑が多いことですかね。店の前の通りは「桜通り」と言って、八坂神社から向こうの萩山のほうまで桜並木が続いていて、樹木希林さんの遺作の『あん』という映画がもこの通りで撮影されているんですよ。そのぐらい、きれいな通りです。
あと、近くに「東村山中央公園」もありますし、ちょっと行けば多摩湖の貯水池もあって、ランニングや散歩をするにはちょうどいい距離感だと思います。自転車で動いても面白いところですよね。坂があまりないので、どこまでも自転車で行けちゃいます。
それから、久米川駅周辺は昔から、飲食店が多い街と言われているんですね。もともと飲み屋さんが多かったんですけれど、最近は食事系のお店も増えてきているので、食べ歩いても面白いと思います。自分で言うのも変ですが、美味しい飲食店が多いんですよ、久米川って。

東村山中央公園
東村山中央公園

――休日のお出かけではどんな場所に行かれますか?

古川圭二さん:僕の個人的なことで言えば、今、所沢がすごく栄えてきているので、所沢駅周辺にはよく行っています。10分くらいで所沢駅まで行けちゃうんですよ。
ただ、所沢だと街が大きすぎて、歩き回るとけっこう疲れちゃうので、そういう意味で久米川は、コンパクトな中ににいろいろまとまっていて、短時間でいろいろ回ることができて、そこが久米川の魅力だと思います。

――古川さんが感じる「久米川」の良いところを教えてください。

古川圭二さん:「地域を愛する方が多いまち」というのは大きな魅力だと思います。今はコロナ禍ということで多くのイベントが開催されていませんが「久米川美食倶楽部」のように、久米川を盛り上げようと20代~40代くらいまでの若手の有志団体がいくつかあります。例えば「のみむら」という東村山の豊島屋酒造とコラボしたイベントを打ち出した若手有志や、30年続いたけど終了してしまった「久米川阿波おどり」を5年ぶりに復活させた若手有志などがいます。

久米川という地を愛す若い方がとても多く、若さとバイタリティで行動する人が多い街だと感じます。実際、二代目や三代目の店主が多いのも特徴です。きっと「久米川愛」は我々の祖父や父親の代から続いてるものだと感じます。

――最後に、これから久米川エリアに暮らしたいという方に向けてメッセージをお願いします。

古川圭二さん:久米川は「つながり」を大事にする人が多い街だと思っています。お店もそうだし、お客様もすごく好意的に反応してくれるから、僕らも、もっと頑張ろうと思えるんですね。
そういう、地域のことをすごく好きな人がたくさん住んでいる街なので、言い換えればこれは、「愛着の持てる街」ということなんだと思います。そういう街に住んでみたいな、という方に、ぜひ来てほしいと思っています。

久米川美食倶楽部

店主 古川圭二さん(kitchen KEIJI)
所在地 :東京都東村山市栄町2丁目
電話番号:042-395-3325(kitchen KEIJI)
※この情報は2021(令和3)年5月時点のものです。

若手ならではのセンスとスピードを活かし、エネルギッシュな企画を連発する/久米川美食倶楽部(東京都)
所在地:東京都東村山市