事務局長 土屋和子さんインタビュー

充実した市民生活を応援する/市民サポートセンター日野(東京都)


多摩川と清川の清流に恵まれた自然環境の豊かな東京都日野市。人口およそ18万5千人の住宅都市で、多摩平をはじめとした大規模団地は、機能性と生活の利便性を兼ね備えた生活環境として子育て世帯にとっても注目度の高い街のひとつです。日野市の独自事業として取り組んでいるファミリー・サポート・センターもこれから子育てをしようと考えているご家族にとっては魅力的なシステムで、NPO法人「市民サポートセンター日野」の取り組みについて、あらかじめ学んでおくのも良いでしょう。今回は、「多摩平の森ふれあい館」に事務局のあるNPO法人「市民サポートセンター日野」を訪れ、取り組みの実際についてお話を伺いました。

東京都日野市
東京都日野市

2003年に設立されたNPO法人「市民サポートセンター日野」

――「市民サポートセンター日野」の設立の経緯についてお聞かせください。

NPO法人「市民サポートセンター日野」の取り組みは、1990(平成2)年に設立された「日野市女性社会事業協会」にはじまります。世の中が男女共同参画社会の実現へと向けた取り組みを進めるなかで、日野市でも男女平等行動計画というものを策定するにあたり市民アンケートをとりました。

そのなかに「男女平等の社会をつくるには、どういう工夫があったら良いか?」という設問があって、「ちょっと困ったときにおたがい助け合うような組織があれば良いのに」という回答があったそうです。

その市民の声に応えるかたちで設立されたのが「日野市女性社会事業協会」で、理事長の今村さんと副理事長の早川さん、前任の事務局長の3人が中心になって日野市民の相互援助活動という仕組みを作りました。

「市民サポートセンター日野」事務局長の土屋さん
「市民サポートセンター日野」事務局長の土屋さん

さらに、2003年に、「日野市女性社会事業協会」をNPO法人化して「市民サポートセンター日野」を設立。ファミリー・サポート・センター事業の受け皿として事業を開始しました。

2004(平成16)年から日野市・ファミリー・サポート・センター事業ほか」を日野市から受託し、現在では日野市より7つの委託事業とNPOの5つの自主事業を展開しています。

多彩な「自主事業」にも取り組む「市民サポートセンター日野」

――「市民サポートセンター日野」の取り組みについて教えてください。

「市民サポートセンター日野」の取り組みは、「日野市委託事業」と「自主事業」の大きく2つの柱があって、「日野市ファミリー・サポート・センター」の活動をはじめ、一時保育の「0歳児ステーションおむすび」、発達に特性のあるお子さんの保育する保育士への支援「保育園巡回相談」、“すくすく”とか“ママサポ”と呼ばれている「育児支援家庭訪問事業」も日野市の委託事業として行っています。

また「新選組のふるさと歴史館」「小島善太郎記念館」の受付案内や、事務局のある「多摩平交流センター」の指定管理など幅広い活動を行っています。

一方、自主事業として行っているのは、「多摩平交流センター」にある「コミュニティカフェ日野菜キッチンカフェ・グリーン」の運営や、カフェスペースを使って取り組んでいる「日野菜ラボ&キッチン」「日野菜キッチンカフェ」、ふれんどさん訪問事業、保育士研修事業、高次脳機能障害者と家族の会かしのきひの運営支援を行っています。

コミュニティカフェ「カフェ・グリーン」
コミュニティカフェ「カフェ・グリーン」

日野菜キッチンカフェの「日野菜(ひのさい)」というのは日野市で採れたお野菜のことです。地場野菜を使ったメニューを開発したり、おやつを作ったり、トマトを採りに行ったりと幅広い活動をしているのが「日野菜ラボ&キッチン」「日野菜キッチンカフェ」です。

「子どもに安全な食べ物を食べさせたい」「野菜が嫌いな子どもに地元の野菜も食べさせたい」といったお母さんたちの声から生まれた事業で、日野産の野菜を普及する、都市農業を応援する、地産地消、食品ロスの解消などを目標としています。乳幼児を持つお母さんたちに参加してもらってレシピの開発、調理、カフェの運営などの7活動しています。このママたちを“日野菜ママ”と呼びます。

毎月一回、地域のお母さんと子どもたちを対象に「日野菜キッチンカフェ」という親子カフェも開催しているのですが、“日野菜ママ”にメニューの開発や運営も一部お任せしていて、参加者のお母さんたちとのコミュニティづくりにも役立っています。

コロナ禍の現在は日野菜キッチンは調理を控えていますが、去年からSDGsに目を向け、新聞紙で作る「エコバッグ」づくりワークショップを開催して地域の方々と交流しています。昨年は小学校の総合の学習の時間に日野菜ママがワークショップを開き大好評でした。

およそ7,000人が登録する日野市のファミリー・サポート・センター

ファミリー・サポート・センター
ファミリー・サポート・センター

――ファミリー・サポート・センターの取り組みについて詳しく教えてください。

ファミリー・サポート・センター、通称ファミサポは市民同士の相互援助活動のことで、依頼会員さんと提供会員さんのふたつの組織があります。日野市に住民票があり会員登録をしていただくことが前提で、依頼会員さんの登録数は6,000人くらいで、提供会員さんつまり支援してくださる方も600人くらいいます。あと両方会員という方も合わせると全部でおよそ7,000人になります。

お母さんたちに3~4カ月児健診で「登録しませんか?」とご案内していることもあって依頼会員さんの登録者数はどんどん増えています。

提供会員さんは日野市民であれば、常時登録でき、家事援助ができます。「保育援助活動」をお願いする際には年2回開催の保育講習会を受けていただくのが条件です。年2回の開催で毎回15~16人ずつ増えているような状況です。

取り組みの内容としては、「保育」「家事」「妊産婦」「高齢者」の4つの領域があり、活動件数から見るとやっぱり「保育」が一番多いですね。それと「家事」も全体の3割くらいあります。ファミサポで「保育」以外のことにも取り組んでいるのは都内では日野市だけ。全国でも4つの領域にわたって活動している自治体はおそらく5本の指くらいしか無いと思います。

なぜ日野市で「保育」以外のことについても取り組んでいるのかと言うと、組織の成り立ちと大きく関わっていて、「日野市女性社会事業協会」で「困ったことがあったら何でも良いですよ」とありとあらゆるニーズに対応してきたようで、「保育」「家事」「妊産婦」「高齢者」という4つの事業をそのまま引き継いで今に至っています。

「保育」「家事」「妊産婦」「高齢者」の4つの領域におよぶ日野市のファミサポ

――4つの領域にわたって取り組むことの強みは?

私は国分寺でファミサポの立ち上げをやりましたが「保育」だけだったので、「家事」の大変さは実際にやってみて気づきました。「家事」って家庭の機能がまとまっていれば普通は必要の無いもので、家庭の機能がどこか欠けているときに依頼が来るわけですよね。

たとえばお母さんが病気になっちゃったとか、入院しちゃってまだ小さい子どもとお父さんだけになっちゃったからご飯が作れないとか。「高齢者」であれば、おじいちゃんがひとり暮らしになっちゃったから買い物に行けないかとか。そのような時の援助は保育援助活動以上に、細やかな配慮と気遣いが必要になりますね。

それぞれのケースに応じて「高齢者」であればケアマネージャーと連携するとか、高齢福祉課や障害福祉課、子ども家庭支援センターや保育園などとも連携して「援助」を行います。家事援助中心とする援助は奥が深いと言うか表層的ではないものなので、掘り下げれば掘り下げるほど細かいニーズがあり、それに応えることができるのも、日野市のファミサポの強みです。

それと私たちはファミサポだけではなく、「0歳児ステーションおむすび」や「保育園巡回相談」、「一人親家庭ホームヘルプサービス」といった事業にも取り組んでいるので、ご家庭ごとの事情というだけではなく、市民全般の暮らしという広い視点からニーズとして求められていることが立体的に見えることがありますね。

たとえば、いろんな面からご家庭を見てきたからこそ乳幼児のママの子育て支援が必要だねという話になって、自主事業として育児に悩んでいるママを無償で支援する「ふれんどさん訪問事業」に取り組むようになりました。

依頼会員さん、提供会員さんとの信頼関係があってこそのファミサポ

――運営するうえでの難しさや今後の課題は?

たとえば「保育」の部分の子どものお迎えといった日々のニーズから、「家事」や「高齢者」に関わる難しいケースまでいろいろあるので、窓口となる事務局がそれをどうアセスメントしてどう対応するかを考えるのがひとつ難しいところです。

提供会員さんにも登録したばかりの方からベテランの方まで、いろんな方がいらっしゃいますでしょ。難しいケースだったらこの人が良いわねとか、依頼内容に応じてその都度事務局で調整しています。

とは言え、依頼会員さんからの問い合わせは個人情報なので提供会員さんには援助活動に必要なこと以外は伝えるわけにはいきません。援助活動前に行う事前打ち合わせ行うことから始まる依頼会員さん、提供会員さんと私たちの信頼関係があってはじめて成り立たつものなので、最初の出会いを大切にしています。

提供会員さんのなかには“地区サポーター”と言って、毎年8人ベテランの方からお願いして、毎月1回おたがいの情報交換を兼ねた懇談会のような機会を設けています。設立から15年以上経っているので、“地区サポーター”はすでに100人以上いるわけですが、いろいろと事情を分かっていらっしゃる方たちばかりなので、阿吽の呼吸で「大丈夫、任せてね!」と頼もしい存在です。

よくよく考えると、ファミサポの提供会員さんって日野市の大切な社会資源なんです。地域のことをよく知っていて、子育て経験も暮らしの知識もあって、かつボランティア精神がある方なんて、探そうと思ってもなかなかいらっしゃいませんよね。

でも実際に日野市にはそういう方が600人以上もいて、ファミサポ以外のところでも育児支援家庭訪問事業の“すくすくサポーター”や“ママサポさん”、自主事業の“ふれんどさん”としても特別の教育や研修を受けていただいて、幅広く活躍していただいています。

課題としては、依頼会員さんは増えるのに提供会員さんは増えないという現状がありまして、人手不足はなかなか難しいところです。提供会員さんが600人いる都内でもかなり大きい組織なんですけれど、常にみなさん動けるわけではないですしだんだん高齢化もしてきているので、若い方をどんどん養成していかなきゃいけないと思っています。

日野市にはボランティア精神の豊かな方が多くて、気持ちの優しい方がたくさんいらっしゃいます。依頼したことに対してもきちんとやってくださるし、そういった方が多いからこの事業も続けられているんだと思います。きっと市民性みたいなのがあって、日野市民は市民同士の相互援助活動というのにすごく向いているんだと思います。

緑豊かな「多摩平の森」
緑豊かな「多摩平の森」

地域に出て行くお母さんたちを応援する新しい取り組みにも挑戦

地域で活躍する日野菜ママ
地域で活躍する日野菜ママ

――今後予定しているあたらしい取り組みは?

「日野菜ラボ&キッチン」の活動をはじめて7年になるのですが、“日野菜ママ”たちはいろいろなことに挑戦しています。

「手作りカフェみたいなことをやってみたい」とか、「妊娠中の人を対象にしたカフェをやろう」とかいろいろとママたちのやりたいことが出てきて、これから地域に出て行こうとしているお母さんたちを応援していきたいと思っています。

子育て中で今は仕事ができないけれど、今後何らかのかたちで社会に戻って働きたいという考えの方も多くて、そのためのリハビリみたいな感じでやりたいといったお母さんもいました。

料理を作るだけじゃなくて、お店をやるとか人を呼ぶとか、そういうビジネスのスキルを持っている方もいるし、よくよく話しを聞いてみるとみなさん資格を持っている方も多くいらしたんです。

農協で仕入れをやっていましたとか、保育士、管理栄養士、ファーストフード店の店長だった方もいますが、でも、みんないつの間にか「お母さん」ってひとくくりにされてしまうんですね。子育てをする前はそれぞれ働いていた方も多くて、そういうスキルや資格を使って何かやれそうなのに、やれる場がないんですね。

私はお母さんたちって、いろんなチカラがあると思うんです。今はたまたま子育てに夢中だからそれが見えないだけで、日野菜キッチンでの取り組みを通じて一緒に何かをやる中で気づいてもらって、いざ自分が社会に出るときに役立ててもらえたらと思います。

日野菜キッチンカフェやふれんどさん保育室で、ママたちの社会参加を応援しています。

――今後、挑戦してみたい取り組みは他にも?

NPO活動を20年行ってきて、私たちはたくさんの試みをしてきました。人のネットワークもできました。支援してくださる方も増え、なんといってもNPO職員に力がついてきたと感じています。

これからの10年は、私たちが皆さんのご支援で積み上げてきたものを、地域に還元できるような場所や機会を作りたいと考えています。

たとえば、市内の施設の一部に、NPO活動が体験できるようなスペースを作る、また、私たちが積み上げてきた資源(ひと、もの、チャンス等)を伝えていけるような場を作るなど。人と人とのつながりがますます強く厚くなっていき、住みやすい、住み続けたいという日野のまちづくりに貢献していきたいと思います。

町歩きをしながら地域の魅力を探す“ブランニング”でパン屋歩き

――近隣のおすすめのお店やスポットがあればお聞かせください。

以前、日野市でやっている地域懇談会に参加したとき、地区懇談会のアクションプランで“ブランニング”とい街歩きをやったときのことです。

“ブランニング”というのは、ぶらぶら(Burabura)気軽に歩きながら、地域の魅力を活かす方法を考える(Planning)というところから出来た造語なんですが、街歩きをする前にこういった良いお店があるというのをみんなで話したところ、近くにパン屋さんがいっぱいあったんです。

甲州街道のところの「アイグラン」、もうちょっと団地に近いところにある「サンカントサンク」、ドイツパンの「ベッケライならもと」も美味しいですよね。ほかにも社会福祉法人でやっている「にこわーく」のパン屋さんもあったりと、パン屋歩きというのをやって好評でした。最近はバイパスを下がったところにある「プラート」も人気です。

人と人とがつながっていることを実感できる場所、日野市

――日野市の魅力についてお聞かせください。

パッと見たときの印象として緑が豊かなのもそうですが、日野市の魅力と言えばいろんな人がいて、いろんな人がつながっているところだと思います。なかでも多摩平って独特なところだと思うんです。団地があってそのなかでコミュニティが出来ていて、私たちのNPOの理事のひとりも団地の自治会長で、受付の人もみんな団地の人なんですよ。

日野市の団地
日野市の団地

さらに最近は大型マンションが建って新しい住人の方々が増え、新旧住人の融合などにも日野市は力を入れています。わたしたちも設立した当時から多摩平の団地と共同でいろんなことをやって行こうという団体だったので、地域とのつながりが深いですし、人と人がつながることを大事にしているんですね。

他の地域から移り住んで来た新しい住人の方にとっても、「多摩平の森ふれあい館」に来てくだされば、地域のサークルさんの活動や毎月1回「日野菜キッチンカフェ」もありますし、地域子ども家庭支援センターはぴはぴ、たまだいら児童館フレッシュもあります。お母さん同士のつながりはもちろん、趣味を通じて多世代の方とも知り合えるのでぜひ足を運んでくださればと思います。

「多摩平の森ふれあい館」
「多摩平の森ふれあい館」

また1月の第4土曜日には「多摩平の森ふれあい館まつり」というイベントも開催し、地元のサークルさんの発表会をはじめ、図書館や児童館も一緒になっていろいろな取り組みをしているのでぜひお越しください。

土屋さん
土屋さん

市民サポートセンター日野

事務局長 土屋和子さん
所在地 :東京都日野市多摩平2-9 多摩平の森ふれあい館2階
電話番号:042-583-1528
URL:http://www.angel-hino.com/
※この情報は2021(令和3)年7月時点のものです。

充実した市民生活を応援する/市民サポートセンター日野(東京都)
所在地:東京都日野市多摩平2-9  多摩平の森ふれあい館2階
電話番号:042-583-1528
営業時間:9:00~17:00
定休日:土・日曜、祝日、12/29~1/3
http://www.angel-hino.com/