越ヶ谷宿の歴史ある建物を活用する
東武スカイツリーラインの急行停車駅でもある「越谷」駅の東側には、江戸時代に整備された五街道のひとつである日光街道が通っています。徳川家康を祀る日光東照宮への道として利用された日光街道の、日本橋から道中三番目の宿場町として賑わったのが「越ヶ谷宿」。現在、駅周辺の再開発による建築の高層化が進んでいる中で、これらの歴史ある街並みを共存させていこうという取り組みがなされており、2011(平成23)年には「旧日光街道・越ヶ谷宿を考える会」も発足しました。その一員でもあり、建築士としても活躍する畔上順平さんに、今回は、活動内容や越谷の魅力ついてお話を伺いました。
“こだわりの家”を目指して
――建築士として“木組の家づくり”にこだわっているそうですね。
畔上さん: もともと、父が建築士だったことに加え、私自身も大学・大学院と建築を学び、理系的な視点で、“家づくり”というよりは“まちづくり”に興味を持っていたんです。修士論文では「福島県南会津町のまちづくり・住まいづくり」を研究テーマに取り上げ、実際に現場に赴き、地域住民とともに“地域に根差した住まいづくり”を考えたり、ワークショップや勉強会を実施したり、地域の建物を観光資源などにつなげるための議論の場を設けるなど、さまざまな活動を行いました。
そうした活動を通じて、地域の資材を利用し、画一的な家づくりをするのではなく、地域の独自性を打ち出していくことが重要だと考えるようになったのです。言い換えれば、失われつつある地域性を取り戻すことによって、そのまちの魅力を引き出せるのではないかと。その想いが「旧日光街道・越ヶ谷宿を考える会」での活動にもつながっています。
“木組の家づくり”に着目したのも、そんな会津での経験がキッカケとなっています。東北の豪雪地帯や白川郷などの木造建物は、構造がしっかりしているので何百年も建っている――その事実が、そのまま木の家の堅牢さや耐久性を証明している気がしました。建築的に再評価すべき建物だと気が付いたのです。同時に、自分自身もそういう家づくり、さらには地域性に富んだまちづくりをしたいと考えるようになりました。
――設計士として、そのご経験をどのように活かされているのですか?
畔上さん: 現代生活に合わせたこだわりの“家づくり”をコンセプトに、できるだけ地域の材料、地域の技術を活用しています。生産者が見える農作物だと安心感が持てるのと同じで、家も“つくった人の顔が見える”ことによって、住まう人も安心できると考えているからです。また、地域の材料を使うことによって、地域性も出せますし、後に改築などする際も材料が入手しやすいというメリットがあります。そんな地域の材料を一番うまく扱えるのは、やはり地域の職人さんなのです。
設計においては、パソコン上での図面だけでなく、必ず軸組模型を作るようにしています。実際につくることで気づくこともありますし、1軒1軒の個性を出すための調整や工夫もできます。そうした“こだわりの家”を建てていくことで、地道ではありますが、地域性のあるまちづくりに貢献できると考えています。
歴史あるまちなみの存続・活用
――「旧日光街道・越ヶ谷宿を考える会」の活動についてもお聞かせ願えますか?
畔上さん: 最近、越谷周辺もマンションや新興住宅地が増えてきました。都心部へもスピーディにアクセスできるし、生活に必要な商業施設や医療施設も整っていて、適度に緑も残っている。いわゆる、普通に生きていく為には便利なベッドタウンです。それだけに、越谷の利便性を魅力と感じて転居してくる人たちが増加しているわけです。
そういった流れの中で、実は越谷は、江戸時代から日光街道の宿場町として賑わっていたという歴史や、今でも当時の建物が点在していることが、あまり知られていません。先日は、「木ノ下半助商店」が国の登録有形文化財となりました。ほかにも歴史ある建物はまだまだあるのです。
そこで、「旧日光街道・越ヶ谷宿を考える会」では、旧越ヶ谷宿の面影を残す建物やまちなみの存続・活用することに立ち上がり、歴史ある建物の実測調査や、所有者の方からの建物に関するヒアリング調査を行い、記録として残しています。また、そうした建物を利用した「蔵シックコンサート」や「古民家勉強会」などのイベントも開催。さらには、幕末・明治までさかのぼる商店や蔵などをめぐるガイドツアーも行っています。
できるだけ、若いファミリーが参加できるようなイベントを企画することで、利便性や予算の都合で引っ越してきたこのまちが、実は歴史あるまちであることを知ってもらい、できれば“自分が住むまち”としての愛着を持ってもらえたらと考えています。そうすることによって、歴史ある建物を次の世代に残して行ってもらいたいという想いもあります。
――目指されている“地域性に富んだまちづくり”に繋がる活動と言えますね。
畔上さん:古民家の実測調査やヒアリング調査を経て、実際に古民家を再生するリノベーション活動も行っています。先日は「蔵のある街づくりプロジェクト」として、隣町に本社があるポラスグループの協力を得て、分譲戸建て敷地内にあった蔵を再生して、新築4邸と融合させることで、旧日光街道・越ヶ谷宿ならではの歴史ある景観をつくりあげることができました。その蔵は、土地代・曳家費用・補修費をポラスさんが負担してくれただけでなく、管理を行政に任せるということで、越谷市に寄贈してくれることになっています。
越谷の住民にとってポラスさんは、南越谷では阿波踊りなど地域の活性化に貢献している企業という印象の方がほとんどだったと思うのですが、この「蔵のある街づくりプロジェクト」に参画してくれたことで“越ヶ谷地域を大事にしてくれる”という身近感のある企業になりました。
――市議会議員としてもまちづくりに貢献されていますね。
畔上さん:魅力あるまちづくりの為には、住民と行政、民間が三位一体となる必要があります。私が越谷市議会議員になったのも、行政の一翼を担うことで、そうした活動を円滑に進めたいと思ったからこそです。これからも、地域性のあるまちづくりはもちろん、越谷市のブランディング、できれば歴史ある建造物の観光資源としての活用なども視野に入れ、地域社会に貢献していきたい。観光資源と言っても、川越のような本格的な観光地というより、周辺地域の人たちが、住人とともに楽しめるくらいのささやかな観光地でいいのです。越谷生まれの越谷育ちの私としては、越谷に住む人たちがこのまちを愛してくれるよう、微力ながら尽力していきたいと考えています。
今回お話を聞いた人
越谷市議会議員
株式会社けやき建築設計 一級建築士
芝浦工業大学非常勤講師
畔上順平さん
株式会社けやき建築設計
所在地 :埼玉県越谷市東越谷1-8-12
TEL:048-966-2268
URL:http://www.keyaki-sekkei.com/
※この情報は2016(平成28)年1月時点のものです。
越ヶ谷宿の歴史ある建物を活用する
所在地:埼玉県越谷市東越谷1-8-12
電話番号:048-966-2268
http://www.keyaki-sekkei.com/