沿線の魅力を発信する地上5階建ての駅ビルとしてリニューアルする東急池上線「池上」駅
東京急行電鉄株式会社 沿線都内開発部開発担当・中村真理子さん、社長室広報部広報課・加藤千咲さん
1922(大正11)年、「池上本門寺」への参拝客を運ぶ目的で開業した池上電気鉄道が前身の東急池上線。蒲田から池上までのわずか1.8キロメートルをつなぐ路線として運行を開始し、現在は五反田までの15駅、全長10.9キロメートルを結ぶ沿線住民にとっての重要な交通手段となっている。そんな東急池上線の「池上」駅では現在、駅舎の改良ならびに駅ビル開発計画が進行中で、2020(平成32)年の開業に向けて、地域住民からも大きな期待が寄せられている。今回は沿線の開発を担当する東京急行電鉄株式会社の中村真理子さんと、広報担当の加藤千咲さんに、「池上」駅の開発の概要と池上の街の魅力についてお話を伺った。
地上5階建ての駅ビルとして生まれ変わる「池上」駅
――「池上」駅の駅舎改良・駅ビル開発計画の概要について教えてください
東急池上線「池上」駅は、2020(平成32)年の開業を目指して駅舎の改良と駅ビル開発計画を進めています。「池上」駅はこれまで改札の中に踏み切りがあり、五反田方面へ行くためには改札内の踏み切りを渡らなければいけなかったのですが、駅利用者の安全性を向上させるためにも大規模な改良をすることになりました。
新しい駅舎は鉄骨造の地上5階建てで、改札は2階に移します。同時に南口も新設する計画で、駅南側にお住まいの方にとっては、駅を利用する際に、踏み切りを渡っていただく必要が無くなり生活の利便性も高まると思います。
駅ビル内のテナントは、通勤通学で駅をご利用になる方だけではなく、地域にお住まいのご年配の方、子育てをしているご家族など、さまざまな年代の方にも来ていただけるよう、地域の生活に身近でなおかつ親しみのある店舗や施設を導入する予定です。ただ、すべてを商業店舗にするのではなく、保育園や図書館など地域のニーズを反映した公共・公益施設の導入も検討しています。今後も「池上」駅のある大田区等とも検討を進めて参りますが、公共性の高い機能が導入されることで、通勤通学で駅を利用する方以外にも駅に足を運ぶ新たな人の流れを生み出すきっかけになると考えています。
「池上本門寺」を中心とした歴史・文化のある街に相応しい新駅舎のデザイン
――あたらしい駅舎のデザインについても詳しくお聞かせください
池上には毎年10月に行われる「お会式(おえしき)」と呼ばれるお祭りがあり、「池上本門寺」周辺には全国から30万人もの人が訪れます。駅の南側にある「徳持会館」から「池上本門寺」へと続く約2キロメートルの道のりを、百数十基にものぼる万燈(まんどう)の行列が練り歩き、軽快な団扇太鼓と笛の音が深夜まで鳴り響く幻想的なお祭りです。私もはじめて見たときは、東京にこういったお祭りがあるのかとびっくりしました。
新しい駅舎のデザインを考案するうえでも、740年以上もの歴史をもつ「池上本門寺」を中心とした門前町の歴史や文化に相応しい意匠とすることを前提としており、駅と街との一体感を形成するような象徴的なイメージにしました。
2017(平成29)年4月に発表したニュースリリースでもご覧いただけますが、「お会式」の万燈をモチーフにした行燈(あんどん)をモチーフにした柱を配したり、和を感じさせる大きな庇(ひさし)を駅出入口に設けるなど、池上の街らしさを表現しています。
近代的な建物よりも、木のぬくもりであったり親しみやすさを表現したいという思いと、3両編成の池上線ならではのスケール感も大切にしています。「5階建ての駅舎なんてこの街には大き過ぎて似合わないよ」といった印象にならないよう、皆さまの目に触れる部分はヒューマンスケールにも配慮した、さまざまな工夫を盛り込んだデザインを検討しています。
生活の一部として根ざした“お山”の行事を大切にする街
――池上の街の魅力、特色についてお聞かせください
東急池上線は、沿線に住んでいないとなかなか利用する機会も無いかなとは思うのですが、実際に生活をしている方にお話を伺うと、「住んでみてはじめて、こんなに良いところは無いって気がつくんです」や、「3両編成の空気感にキュンとくる」という方もいて、「住みたい」「訪れたい」魅力的なまちづくりの実現に向けて、私たちもPRをもっとしなければと感じています。
今回の事業に携わるようになってから、池上に頻繁に通っているのですが、「池上本門寺」では一年を通じてさまざまな行事が行われていて、1月の初詣、2月は節分の豆まき、4月は花まつりやマラソンといった地域に開かれたイベントもあり、日蓮宗を代表する由緒あるお寺ではあるものの、親しみやすさが感じられます。
街の人も「池上本門寺」のことを“お山(おやま)”と親しみを込めて呼んでいて、お山の行事を通じて季節感や日本の伝統文化を自然に受け止められる環境は素敵だなと思います。おそらくずっと前の時代から代々受け継いでいるような感覚で、お山の行事が生活の一部として根ざしているからこそ、みんながそれを大切にしていて門前町の歴史や文化をいまに伝えてくれているんだと思います。
また、「池上本門寺」以外にも「池上梅園」や歴史のあるお寺が徒歩圏にたくさんあって、まち歩きをするのにも楽しい街です。最近は訪日外国人も少しずつ訪れているような印象で、沿線の「洗足池」や「戸越銀座」などの魅力ある観光スポットとともに、国内外から多くの観光客が訪れる賑わいのある街になったら良いなと思っています。
既存の建物を利用したまちづくり「リノベーションスクール@東急池上線」
――リノベーションスクール@東急池上線についても教えてください
今回の開発計画は、2017(平成29)年1月に大田区と取り交わした「池上駅周辺のまちづくりの推進に関する覚書」にもとづいて官民が連携して取り組んでいるのですが、新しい駅舎と駅ビルが誕生しますというだけではなく、「池上」駅のリニューアルをきっかけに池上地区、ひいては近隣エリアのまちづくりにも生かしていこうという期待も込められています。
ちょうど同タイミングの2017(平成29)年3月に、3日間にわたり東京急行電鉄株式会社が主催となって「リノベーションスクール@東急池上線」を開催しました。「リノベーションスクール」とは、既存の建物を活用して、街に新しい機能であったりビジネスを通じて新たな価値や魅力を呼び込むまちづくりの手法のひとつです。
地方自治体が主体になって開催しているケースが多いのですが、民間事業者が行ったのは今回がはじめてのことだったため、その取り組みに注目が集まりました。今後の予定は今のところ未定ですが、想定以上の参加者にお集まりいただき、また、事業化へ向けて検討をしているケースもあるため、今後の動向にもご注目いただければと思います。
池上は“くず餅”発祥の地
――最後に池上のおすすめスポットがありましたら教えてください
「池上本門寺」に向かう途中に“くず餅”の名店が3軒あるのですが、池上が“くず餅”発祥の地と言われています。改札を出た目の前には「浅野屋」さんというお店があるのですが、1752(宝暦2)年の創業より260年以上もの歴史がある老舗です。「池上本門寺」へと続く「本門寺通り商店街」にある「相模屋」さんと「池上池田屋」さんも江戸時代の創業で、参拝後の手土産やまち歩きの途中に立ち寄って、それぞれのお店のこだわりの“くず餅”を食べ比べて見るのも面白いかも知れません。
今後、国内外からの来訪者が増えることを想定して、街の観光案内や「池上本門寺」の行事等についても情報発信のあり方が検討されるかとは思いますが、多言語表記の券売機や沿線の観光マップといったハード面の整備のほかに、当社と業務提携を行っている「Huber.(ハバー)」の「TOMODACHI GUIDE」のようなソフト面の取り組みにもご注目いただければと思います。
東京急行電鉄株式会社としては、沿線全体の観光資源の開拓や外国人観光客の誘致の強化に取り組み、東急池上線においても地元自治体や沿線の街と連携しながら街の活性化につなげられればと願っています。