取締役 松村 康弘さん、TOC事業部 課長 土屋彰さんインタビュー

“東洋一の物流拠点”は、フレキシブルに新しい時代へ向かう/TOCビル(株式会社テーオーシー)(東京都)


国内最大級の規模を誇る総合流通の拠点として知られる五反田「TOCビル」。1970(昭和45)年の竣工より50年以上、様々な企業や人が出会い新たなビジネスチャンスを育むコマースシティとして国内の商業を支えてきた。
その「TOCビル」も、施設の老朽化に伴う建て替えを決定し、現施設の営業は2023(令和5)年3月まで。※

2027(令和9)年完成予定の「(仮称)新TOCビル」は、従来の機能に加え、国際都市・品川や、「五反田バレー」に象徴するスタートアップの企業拠点となり得るオフィス整備などが計画され、五反田のランドマークとして期待される役割もますます大きくなっている。今回は「TOCビル」のこれまでや、新ビル計画、五反田の未来について「株式会社テーオーシー」取締役の松村康弘さんとTOC事業部 課長の土屋彰さんにお話を伺った。

左から、松村康弘さん、土屋彰さん
左から、松村康弘さん、土屋彰さん

1970(大正15)年、卸問屋を集約する大規模物流拠点として誕生。

――まず「TOCビル」の創業からの歴史をお聞かせください。

松村さん: 弊社の沿革ですが、1926(大正15)年に創業された「星製薬株式会社」を前身としています。同社の創業者、星一(ほしはじめ)は当時としては画期的な製薬工場を五反田に建設し、“東洋の製薬王”として呼ばれた人物としても知られています。

「株式会社テーオーシー」創業者 大谷米太郎氏の像
「株式会社テーオーシー」創業者 大谷米太郎氏の像

星一さんが亡くなった後、実業家の大谷米太郎が再建するかたちで事業を請け負い、製薬会社の工場跡地に完成させたのがこの建物になります。それまで日本橋横山町や馬喰町などに点在していた卸問屋を交通の便の良いところに集約できないかという政府からの要請もあり、当時から交通の要衝として栄えていたこの場所が適していたことも背景となり、卸売業に特化した建物として計画されました。

竣工当時の新聞紙面(昭和45年2月・日刊建設通信)
竣工当時の新聞紙面(昭和45年2月・日刊建設通信)

竣工は1970(昭和45)年。「東京卸売センター(Tokyo Oroshiuri Center)」の頭文字をとって「TOC(テーオーシー)ビル」と名付けられました。地下3階・地上13階・延床面積約174千平米の建物は、当時の日本における最大級の容積率を有していたため“東洋一の規模”を誇る物流拠点としても話題になりました。開業後2年ほど経ったときには、全国各地から対応しきれない程の入居希望が来るようになりました。

現在の「TOCビル」外観
現在の「TOCビル」外観

オフィス、卸売業、小売店などおよそ360社が集う。

――現在のTOCビルの概要についてお聞かせください。

松村さん: 現在およそ360社が入居されています。おおむね卸売の方が3割、小売が3割、残りの4割は事務所として使っていただいています。フロアごとに婦人服や輸入雑貨、メンズインナーのようにカテゴリーで分かれていて、今のように小売のお店が入るようになったのは30年前くらいだと思います。

「TOCビル」内の様子
「TOCビル」内の様子

「TOCビル」の開業当時から50年以上いらっしゃる会社も20社以上あり、私たちよりもこのビルや五反田の歴史をよくご存じかと思います。10年、15年と長くお付き合いのある会社さんも多く、他のビルと比べてもテナントの入れ替わりの少ないことが特徴だと思います。もちろん、昨今「五反田バレー」と注目されているベンチャー・スタートアップさんなど新しい方々も入って来ていただいています。

5階に出店する「アカチャンホンポ」、小売店の入居も多い
5階に出店する「アカチャンホンポ」、小売店の入居も多い

――一般の方のご利用状況はいかがですか?

松村さん: 1~5階には一般向けの小売のお店がありまして、1階の「ユニクロ」さんや5階の「アカチャンホンポ」さんをはじめ、生活雑貨・衣料・インテリアなど多様なお店が揃うので、さまざまな方がお買い物にいらっしゃいます。

土屋さん: 館内で働いている人だけで6,500人くらいになるのですが、それ以外に商談で訪れている方や一般の方も含めると平日で1日1万人、イベントや催事のある土日になると2万~3万人前後の人が来館されます。

コロナ以前にはなりますが、年4回各3日間にわたって行う全館バーゲン「徳の市」は、10万人近くの来場がありました。メーカーや卸売り企業から、卸値以下で直接買えることもあり、「TOCビル」近隣の品川区・大田区・目黒区のお客様を中心に、根強い人気イベントとなっています。

年4回開催されてきた「徳の市」のチラシ、毎度大盛況とのこと
年4回開催されてきた「徳の市」のチラシ、毎度大盛況とのこと

「TOCビル」からグローバル企業へ発展していく会社も。

――これまでの歴史の中で生まれたエピソードがあればお聞かせください。

松村さん: そうですね。このビルには全国からさまざまなな会社さんが出店してくださっていますが、その中でも思い入れがあると言いますか、もっとも発展した会社のひとつに「サンリオ」さんがあります。

入居当時、「山梨シルクセンター」という会社でここに10坪ほどの店舗を構えていたのですが、会社の発展とともに増床されていきました。今ではご存知の通り、キャラクターグッズなどで成功され、一時期は弊社で管理する「大崎ニューシティ」に本社を移転され、10何層も借りていただけるくらい大きく発展されましたね。

インタビュー中の松村さん
インタビュー中の松村さん

土屋さん: 他にも「ナルミヤ・インターナショナル」さんという子ども服を扱う会社さんも、物流の拠点としてここを使ってくださっていたことがあり、グローバル企業として活躍されている会社さんが複数いらっしゃいます。

我々が何か直接的なサポートしたというわけではないですが、それぞれ先見の明があってこの場所を選び、大きく発展されたのは我々としても嬉しいことです。

「TOCビル」の物流を支えてきた荷物用エレベーター
「TOCビル」の物流を支えてきた荷物用エレベーター

――そうした多彩な会社に選ばれてきた「TOCビル」の“強み”とはどんな点だと思いますか?

松村さん: 物流に特化したビルというのは他にはなかなか無いものですから、プラットフォームが充実しているところに魅力を感じて来ていただいたのではないかと思います。

土屋さん:荷物用エレベーターだけでも10機ありますので。物流効率が良いということは出荷のタイムラグも短縮できるでしょうし、ビジネスの発展にも役立ったのかなとは思います。「TOCビル」を選んでいただいた会社の皆さんがこのビルの歴史や文化を育んでいただいたことに感謝しています。

松村さん: それこそ今は「五反田バレー」の皆さんなど、ベンチャーやスタートアップの企業さんにも選んでいただいております。

2027(令和9)年完成予定の「(仮称)新TOCビル」は、強みは継承し、より多機能で柔軟性の高めたビルへ。

――「(仮称)新TOCビル」の計画概要や構想、現時点で決まっていることについてお聞かせください。

松村さん: 1970(昭和45)年の竣工から50年以上が経ち、建物の老朽化などもあり建て替えをすることになりました。今後のスケジュールとしては、2023(令和5)年3月に閉館をして解体をはじめ、2027(令和9年)春に「(仮称)新TOCビル」をオープンさせる予定です。※

土屋さん: ちなみに現在建て替えをしている「世界貿易センタービル」(港区浜松町)さんも1970年に開業され、当時あちらが“日本一の高さ”、こちらが“東洋一の規模”と言われまていましたから、同じような歴史を歩んでいるなと感じます。

「新TOCビル(仮称)」 完成予想図・2022(令和4)年4月時点
「新TOCビル(仮称)」 完成予想図・2022(令和4)年4月時点

松村さん: 新しいビルは、地下3階・地上30階建てになる計画で、800台以上の駐車スペースを備えるほか、中層階は従来の卸売業をはじめ「五反田バレー」のようなスタートアップ・ベンチャー企業などの中小企業の事務所に対応し、上層階には国際都市東京の一翼を担う品川の産業競争力強化に資する大企業やスタートアップ企業がステップアップした際のオフィスにも対応できるよう、およそ1,500坪をワンフロアで借りられるようなスペースを設けます。

また現「TOCビル」の特徴とも言うべき卸売に適した機能は変えずに、展示会場や小売スペースのほか、駐車場と直結した館内の導線などは継続・強化する方針です。さらに職住近接を求めるITの人たちなどにとって仕事がしやすいように、SOHOオフィスのような賃貸マンションも整備する計画をしています。

 

出典:2021(令和3)年8月時点「(仮称)新TOCビル」計画の概要資料
出典:2021(令和3)年8月時点「(仮称)新TOCビル」計画の概要資料

そのほか、品川区の「五反田駅周辺にぎわいゾーンまちづくりビジョン」に基づく賑わい拠点の形成として、周辺地区に不足する歩道状空地や広場、公園の整備も合わせて行われることで、弊社ビル計画地と周辺環境が連携した緑のネットワークの構築も行われる予定です。

――「(仮称)新TOCビル」への想いや展望などがございましたらお聞かせください。

土屋さん: 5年後、新しいビルが完成したときに「戻って来たい」と言ってくださるテナントさんも多いですが、その頃に我々も含めて世の中がどうなっているのか誰にもわかりません。だからこそ新しいビルにコミュニティを戻すということは、我々の腕の見せどころなのかなと思います。

一方で、これから先の未来を考えると、卸売業の分野が淘汰されることもあるでしょうから、時代のトレンドを掴んでいるテナントを招致して来訪者を増やすことも責務だと考えています。

インタビュー中の土屋さん
インタビュー中の土屋さん

松村さん: 建物の仕様設備以外の点では、ひとつ「徳の市」というリアルな取り組みを40年以上続けてやって来たので、新ビルにでもそうした取り組みができるように計画したいですね。

また、2年程前から、無料通信アプリ「LINE」による情報発信も始めました。建て替え中の期間などもインターネットを通じて続けられる事はあるので、「徳の市」に関するお知らせも含め、アプリやネットを活用し、TOCならではのサービスを継続していきたいと考えています。

五反田の魅力は「多様性」。調和を活かした未来を。

――五反田エリアの魅力についてお聞かせください。

松村さん: 五反田は特殊なエリアで、島津山などの「城南五山」ような高級住宅街もあれば、近くにオフィス街もあり、駅の近くには商業施設も集まっていて、色々な要素を併せ持った街だと思います。この街自体もフレキシブルと言いますか、買い物や食事ができるところもたくさんあるので、暮らしやすいと思いますよ。

五反田の街並み
五反田の街並み

土屋さん: そうですね。街の機能が点在しているから、生活もしやすく、働きやすいのだろうと思います。いろいろな要素が混ざり合って街としての良い味が出ているのではないでしょうか。

背伸びする必要が無い雰囲気も、五反田の良いところですね。安い飲み屋さんもたくさんありますし、そうした場所で気軽に情報交換もできるので、コミュニティとしての居心地の良さを感じます。山手線沿線だけど、ちょっとレトロな感覚もあって、派手さは無い分、街としての調和は取れているように感じます。

五反田の街並み
五反田の街並み

松村さん:我々「TOCビル」を含めて、五反田も未来に向けて変化していますが、これまで培ってきた良いものを継承しながら発展していくことが大切だと思います。

※2022(令和4)年9月、当初予定から解体着工時期を6カ月から1年程度延期する決定を発表。解体着工までは既存施設営業を行う予定とされている。

「TOCビル」松村康弘さん、土屋彰さん
「TOCビル」松村康弘さん、土屋彰さん

TOCビル

株式会社テーオーシー
取締役 松村 康弘さん
TOC事業部 課長 土屋 彰さん
所在地:東京都品川区西五反田7-22-17
電話番号:03-3494-2200
URL:https://www.toc.co.jp/
※この情報は2022(令和4)年5月時点のものです。

“東洋一の物流拠点”は、フレキシブルに新しい時代へ向かう/TOCビル(株式会社テーオーシー)(東京都)
所在地:東京都品川区西五反田7-22-17 
電話番号:03-3494-2200
https://www.toc.co.jp/