世代を超えて“宇品っ子”の想いを紡ぐ/広島市立宇品小学校 花岡校長先生、中村教頭先生、瀧口教頭先生、永島指導教諭 井上栄養教諭、山本養護教諭
広島県の南端の港町である宇品地区。空気が澄み、ほとんど勾配のない平野を市電が巡り、自動車以外の移動も便利な好環境にある街だ。そんな宇品で1897(明治30)年から120年以上の歴史のある広島県内最大のマンモス小学校が「広島市立宇品小学校」である。今回はその小学校で1300人以上の子どもたちと関わる教職員の皆さんを代表して、中村教頭先生、永島指導教諭、井上栄養教諭、山本養護教諭にお話を伺った。
見守られ、結びつく、街と人と子どもたち
――まず、学校の沿革や現在の校舎の特徴、児童数などの概要をご紹介ください。
中村先生:創立は1897(明治30)年で2019年で122年目になります。広島県内で一番のマンモス校になりまして児童数は1318人(2019年2月現在)です。
――校外学習や出前授業など、学校外の地域との関わりが感じられるプログラムに取り組んでいらっしゃるようですね。
中村先生:創立して120年以上の歴史のある学校ですから、近隣地域の方からも「ワシらの学校じゃけ」という感じで見守ってもらっており、地域との結びつきも非常に強いです。「出前授業」などで地元の方をゲストティーチャーとして迎える際には本当によく協力してくださいます。
1年生は地域の老人会の皆様にけん玉やコマ回しなどの昔遊びを教えて頂き、2年生では宇品の商店街などをめぐる街探検を行っています。街探検では、グループを作って商店の中や商品を見せてもらいながら街をぐるぐると回るのですが、その際にも保護者や地域の方が70名程要所要所に立って子どもたちの安全の見守りなどをしてくださいます。宇品の街の歴史の勉強や体験学習などが、地域の方々からの惜しみない協力で実現しています。
人数が多くても、「やるべきことをしっかりとやる」という基本は変わらない
――一学年何クラス、何人の先生方で指導していらっしゃるのでしょうか?多くの子どもたちを指導していくうえで、意識していらっしゃることがございましたらお教えください。
永島先生:「宇品小学校」は、広島県で児童数が一番多い小学校です。1年生と2年生が6組まで、3年生と4年生が7組、5年生が8組、6年生が6組、特別支援学級が4組の全44学級になります。教員には各組の担任の他にもたくさんの教員がいますが、総勢85名の教職員が子どもたちの指導や体づくりのために集まっています(学級数と教員数はインタビューを実施した2019年時点の数)。
指導していく上では、人数が多いからといって特別に変わったことはなく、「やらなくてはいけないことはきちんとやりましょう」という基本にしっかりと取り組ませています。例えば「靴箱の靴はきちんと揃える」といったことです。“やるべきこと”は人数によって変わることはないですが、人数の多い学校では一人がいい加減にすると大勢の子どもたちが同じようにいい加減になってしまうことにつながるので、一人一人が「やるべきことをしっかりとやる」というのが何よりも大切なことではないかと考えています。子どもたちにもその点はしっかりと伝わっていて、掃除など、どんなことにも当たり前にきちんと取り組みますし、上級生は下級生の手本になるように心がけるという気持ちをしっかりと持っていると感じています。
中村先生:私も赴任直後に、その点は率直に感じました。約1300名という全校児童が校庭や体育館で集会を行う際に、少ない出入口からこれだけの人数が一斉に集まるのに、騒ぎもなく整然と集まり、再び教室に戻っていく姿を見て、「宇品小学校」の子どもたちはこういうことが普通にできているんだと驚いたと同時に、先生方の指導力にも感心しました。
永島先生:大勢が列で移動するときは、上級生が下級生を優先しながら、その後ろについて出ていくということが受け継がれていき、今のようにできるようになりました。教師の指導のもと、やるべきことをしっかりと身に付けることができてきた姿だと思います。
兄弟のように仲良し! 明るく礼儀正しい子どもたち
――最近では異なる学年同士の交流など、いわゆる縦割り授業などが注目を集めていますが、「宇品小学校」でもそういった取り組みはされていらっしゃるのでしょうか。
永島先生:「ペア学年」というものを作って、他学年の児童とペアで行事などに参加する活動があります。1年生と6年生、2年生と4年生、3年生と5年生でペアを作り、遠足や児童会活動はこの「ペア学年」で一緒に行います。1年生と6年生のペアの場合は、上級生が掃除の仕方を教えたり、給食の準備や配膳を手伝ったりするので他の学年よりも結びつきが密な部分があります。
――児童たちの反応はいかがですか?
永島先生:子どもたちは実に楽しそうです。特に1年生と6年生のペアは、兄弟のようにお互いを気遣っており、6年生の修学旅行の時には1年生がてるてるぼうずを作って持って行ったり、廊下で会った時には手を振ったりと本当に仲の良い様子が見られます。
――児童たちが楽しく学べるよう、ユニークな授業を展開していらっしゃるようですね。授業案を考える際にはどのようなことを意識していますか。
永島先生:基本に忠実に、子どもたちが身に付けなくてはならない力をきちんと付けることを目標にしています。知識だけを詰め込むのではなく、課題の解決に向かう探究的な学習になるよう工夫しています。教えられるのではなく、子どもたちが主体的に学習する授業、前のめりになるような楽しい授業を意識しています。
授業以外でも、しっかりと児童のことを把握する先生方
――井上栄養教諭にお聞きしたいのですが、給食のメニューを考えたり、食育にあたっては、どのようなことを意識していらっしゃいますか。
井上先生:広島市内の学校は統一献立なのですが、子どもたちの体に必要になる栄養素をバランスよく給食で取れるように配慮して献立を考えています。そのため、子どもたちにとっては給食で初めて食べる食材などもあるとは思いますが、できるだけ多様な食材を使って、様々なものを食べる経験ができるように心がけています。食育という観点で言うと、食べることを通して、体のこと、食べ物のこと、食文化、作る人や食べ物に関わる人への感謝の気持ち、みんなで食べる中でのマナーや社会性など、給食の時間は“食べる”ことに関して様々なことが学べる貴重な時間だと考えて取り組んでいます。
――毎日大人数の給食を作るとなると、大量の食品を扱うことになるので、衛生面での管理も大変ですよね。
井上先生:これは大人数であるかないかに関わらず、給食の調理と作業は学校給食衛生管理基準に基づいて取り組んでおります。その中で、調理に関わる者や子どもたち自身にとって大切なのが手洗いの実施になります。調理の手順の中で気をつけるもので言えば、加熱するものはしっかりと火を通す、冷やす必要があるものは短時間で確実に冷却するなど、調理の中での当たり前なことを確実に行うように注意しています。また給食調理に関わる職員は日々の体調管理にも気を付けないといけませんので、そういった基礎的な部分は常日頃から心がけて実践しています。安心・安全な給食を子どもたちに届けるために、調理員全員が意識して取り組んでいます。
――給食で使用する材料は地産地消などを意識していらっしゃるのでしょうか?
井上先生:地場産物の活用という点では、農政やJAと連携して取り組んでいます。学校独自の取組で言うと、言語・数理運用科(※1)の学習の中で6年生が考えた献立の中から「宇品小学校オリジナル給食」を2月に実施します。計画した献立には、できる限り地場産物を取り入れられるように業者さんにお願いしたり、農家さんから直接仕入れたりといった取り組みを行っています。
(※1)言語や数理を運用して、情報を取り出し、それについて思考・判断・表現する力を育み、さらに日常生活の中で活用できる能力として育成する広島市の小学校(5・6年生)で行っている教科。
――そうした取り組みを行う中で児童たちの反応はいかがですか。
井上先生:しっかりと食べることで丈夫な体ができるんだという自覚が芽生えてきますし、オリジナル給食の献立の取組ではそういう自覚を自分だけでなく他人へと向けることにも発展していきますので、非常に効果的な取り組みになっているのではないかと思います。その成果もあってか、本校は児童数が広島県で一番多い小学校ですが、みんな給食をよく食べるので残食率が非常に低いんです。
――続いて山本養護教諭に質問です。大規模な学校ですと、やはりその分子どもたちの人間関係のケア(心のケア)が必要になることも多いでしょうか?
山本先生:保健室に来る子どもたちはいろんな訴えを持ってくるわけですが、自分の気持ちの表現が上手にできなかったりすることもあります。体の調子が悪いということでの来室でも、身体の調子が悪いのか心の問題があるのか、またはそれ以外の何かの原因があるのかなど、子どもの訴えを理解するには、保健室で子どもを見ているだけでは理解できないこともあります。普段の子どもたちの生活背景や友達関係まで知らないと、子どもたちが発しているSOSに気付けないことが起こります。ですから保健室以外での子どもの様子を知ることが大切でもあるし、できるだけたくさんの子どもたちと関わってその変化に気が付けるようなアンテナを張っていられる自分でありたいと日頃から努力しています。
また、本校では2人の養護教諭がいるので、養護教諭同士情報を共有して、しっかりと子どもたちのケアをしていこうと話し合っています。普段から「見守っているからね」ということが伝わるように子どもたちとの会話を大事にし、困ったときにあの先生に相談してみようと思ってもらえるように心がけています。
――大規模校ですと、インフルエンザやおたふく風邪などの感染症が流行る時期には、対策も大変ですよね。
山本先生:手洗い、うがい、換気は流行する時期だけではなく、常日頃から行うようにさせています。予防については、毎朝全校の欠席情報を見ることで、風邪や感染症の流行などに関する全体の状況を捉えるようにしています。「学校欠席者サーベイランス」という、ネット上で欠席状況を入力して一帯で共有し確認できるシステムがありまして、その運用も予防につながっています。流行の兆しも分かるので職員で共有して予防に役立てています。
中村先生:インフルエンザや風邪などは、かかってしまってからではどうにもならないので、早めの情報と対策が本当に大事だと思っています。山本先生は約1300人のうちほとんどの全校児童について兄弟関係まで把握されていて、この子風邪にかかってしまったけれど、弟がいたな、お姉ちゃんがいたなと、早めの対策や気遣いを行ってくれています。そのため、保護者の方からの信頼も厚いですよ。
人がいて全てが始まる。“宇品っ子”の想いが紡がれる宇品の街
――最後に、宇品の街の魅力や、子育て環境についてお教えください。
中村先生:この地域には新しいマンションがたくさん建てられるようになってきています。マンションが建つと、一般的にはマンションごとにコミュニティーが分離してしまう傾向があると思うのです。しかし、宇品地区では、地域の方が新しい人が街になじみやすくなるようにきっかけづくりを積極的にしてくださっています。
例えば、マンションに近い公園で「とんど祭り」を開催してくださったり、通学路で見守りをしてくださっている方は、子どもに「今日も元気だね」「今日は元気ないね。どうかしたんか?」などの声掛けをしてくださいます。時には心配して学校に連絡をくださることもあります。
宇品の街は、ほとんど勾配のない平らな土地ですので、日常生活では自転車での移動もしやすく、市電などの交通機関もとても便利です。新しく開発され変わっていくところもありますが、港が近く、「元宇品」など風光明媚な見どころもあり、よいところがいつまでも変わらない素敵な街だと思っています。
花岡先生:今、教頭先生が言ってくださったように、声を掛けたらすぐに助けてくださる地域の方の温かい応援と、子どもたちを大切に見守ってくださる環境が本当に素晴らしいと感じています。また本校の先生方は大変熱心で、子どもたちをしっかりと指導しています。地域の方とつながった教育環境で学ぶことのできる子どもたちは、本当に恵まれていると思います。子どもたちが心豊かに成長していけるように、私たちも精一杯取り組みを進めていきたいと思います。
広島市立宇品小学校
花岡校長先生、中村教頭先生、瀧口教頭先生、永島指導教諭
井上栄養教諭、山本養護教諭
所在地 : 広島県広島市南区宇品御幸4-5-11
電話番号:082-251-8304
URL:http://cms.edu.city.hiroshima.jp/weblog/index.php?id=e0927
※この情報は2019(平成31)年2月時点のものです。
世代を超えて“宇品っ子”の想いを紡ぐ/広島市立宇品小学校 花岡校長先生、中村教頭先生、瀧口教頭先生、永島指導教諭 井上栄養教諭、山本養護教諭
所在地:広島県広島市南区宇品御幸四丁目5-11
電話番号:082-251-8304
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