146年の歴史を受け継ぎ、街と共に子どもたちの“生きる力”を育む/青木小学校 角野校長先生


東急東横線「反町」駅から徒歩3分の閑静な住宅街にある「横浜市立青木小学校」。146年の歴史と伝統があり、この街を愛する人たちと学校の結びつきが強く、子どもたちの成長を見守る体制や教育環境が整っている。今回は角野校長先生を訪ね、「青木小学校」の特徴や地域の魅力について、お話をうかがった。

角野校長先生
角野校長先生

――まず、学校の沿革と特徴についてお聞かせください。

角野校長先生:   「青木小学校」は1873(明治6)年にできた学校で、今年で146年目になります。学校の特徴としては、「生きる力を育もう」ということでやってきていまして、「生きる 創る そして輝く」という言葉が学校目標になっています。また、学校自身が「総合的な学習の時間」を中心に研究してきた学校ですので、地域の方たちの協力があり、地域との結びつきが強い学校という点も特徴です。 

地域に関しては「青木のまちの風総会」というものを年に2回開いている点も大きな特徴です。これはもう二十数年間続けているものですが、青木の街の人と一緒に街の歴史を勉強したりしています。今年度は街の防災についての学習をしました。そういう点も含めて、「街とともに歩む学校」というのは、非常に色濃く出ている学校だと思います。

校舎
校舎

――教室を「縦割り配置」している点も特徴と聞きました。これはどういったものなのでしょうか。

角野校長先生:   私どもは「人を思いやる心を育てる」ということも大切にしたいと思っているのですが、そのためには「自分を好きになる」ことが大事なんですね。だから、自分自身を好きになるための、自己肯定感、自己有用感といった感情を育みたいと思っていまして、この「縦割り配置」をやっています。これは私が考えたものなので、小学校ではあまりないと思います。

縦割り配置とはどういうものかと言えば、普通の学校では、学年ごと、横にクラスが並んでいますよね。でも、うちは1年1組、2組、3組と、「階」が変わっていくんです。6年1組の両隣には、1年1組と3年1組がいるんです。そんな感じで、2階が「1組フロア」、3階が「2組フロア」、4階が「3組・4組フロア」になっています。

縦割り教室配置
縦割り教室配置

この良さは何かと言えば、休み時間になると、1年生と6年生がすぐ横の教室から出てくるわけです。そうすると、1年生が6年生を慕って、「お兄ちゃん」「お姉ちゃん」って抱きついていったりするんですね。逆に6年生も、1年生をおんぶしてあげたり。

同じ学年の中だけでは、どうしても学力や運動能力の差などができてしまいますが、1年生から見ると6年生はみんな、大きなお兄ちゃん、お姉ちゃんになりますから、どの子も尊敬され、慕われるんですね。そうすると、6年生は全員が自己肯定感を持つことができるんです。下級生も上級生を尊敬することや、上手に甘えることを覚えて、社会性を育んでいきますね。

――縦割り配置を始めたきっかけは何だったのでしょうか。

角野校長先生:   私が子どもの頃は、家に帰ってから近所の先輩と遊んで、その先輩から学ぶことが、とても多かったんですね。メンコとか、ビー玉とかも先輩から教えてもらったし、先輩に対して尊敬の念を持っていたわけです。でも今は、そういう環境があんまり無いんですね。ですから、「地域に無いなら学校で作ってしまえ」ということで、縦割り配置を考えたんです。やっぱり、異年齢集団も人間が育つ上で大切だと思うんですよ。お互いを思いやる心は、異年齢集団の中の方がより強く育まれていくものなんです。

――縦割り配置について、保護者の方からの反応はいかがですか?

角野校長先生:   好意的なご意見が多いですね。「6年生が1年生をやさしく見守る姿が多く見られるようになった」とか、「うちは6年生だけれど、家に帰ったら1年生の子が遊びに来ていた」といった声を頂いています。学校内だけではなくて、学校外にまで、1年生と6年生の先輩後輩の関係が育ってきているな、という感触は持っています。

学校経営というのは、校長のビジョンで動きます。校長がビジョンを示して、それに先生たちがついてきてくれれば、学校は変わるんです。

ただ、正直なところ、校長が黙っていても、何もしなくても、学校って動くんですよ。先生たちが優秀ですから。でもそれでは、私が校長をやっている意味が無いですから、私は、せっかく校長をやっているんだから、学校をより良い方向に変えていきたいと思っています。

――校長室の前に郵便箱がありましたね。これは何ですか?

角野校長先生:   これは「やさしい心の郵便箱」というもので、心の教育の一環として、「お友達の悪いところを見るんじゃなくて、お友達のいいところを探して教えてね」ということで、投稿してもらっています。本校は児童数が多いですから、「みんなのいい事を見つけるのは、校長先生一人の目では無理だから、みんながお友達のいいところを教えてよ」という感じで呼びかけていますね。投稿されたものは、返事と一緒に「学校だより」で毎回発表しています。

「やさしい心の郵便箱」
「やさしい心の郵便箱」

「学校だより」には、投稿した子の名前は一切出していないんですけれども、書いた子どもはこれは自分のだとわかっているだろうし、保護者からも「当たり前だと思っていたことが、実は優しい心からきている事で、褒めてあげるべきことだと知って勉強になりました」といった声をいただいています。

私は朝会でも毎回「優しい心」についての話をしているんですが、それくらい「心の教育」というものを大事にしていて、危機感と使命感を持って取り組んでいます。

――クラブ活動について、特徴があれば教えてください。

角野校長先生:   公立なので特徴的なクラブというのは無いですが、私がここに来て面白いな、と思ったのは、茶道クラブや手芸クラブで、地域のその分野に精通した方が教えに来てくださっていることですね。茶道クラブには実際にお教室を持っている先生が来てくださっているし、囲碁将棋の先生も、手芸の先生も、料理の先生も、イラストの先生も、みなさんプロか、それに近い方々なんですね。そういった意味では、クラブ活動も地域のつながりによって、充実しているのかと思います。

――140年以上の長い歴史を持った学校ということで、これまで大切にしてきた伝統、これから大切にしていきたいことなどがありましたら、教えてください。

角野校長先生:   歴史がありますから、地域に本校の卒業生が多いんですよ。そして皆さん、青木という地域が大好きなんです。話をしていても、「青木愛」がひしひしと伝わってくるんですね。昔から進学校、名門校と言われていますから、そういう地域であるという自負心を、地域の方が持っていらっしゃいますね。だからこそ、「青木(小)のためなら」ということで、地域の方がいろいろ動いてくださっているのかと思います。

こういった「青木愛」を大事にしながら、地域の方の協力を仰いで、ここで育った子どもたちにも、「青木愛」を持ってもらえればいいな、と思っています。

――これまでご紹介いただいたほかにも、地域との連携や交流の事例があれば教えてください。

角野校長先生:   ひとつ特徴的なものは、最初にお話しした「青木のまちの風総会」ですが、今年度から防災訓練も地域と協力して行うようになって、こちらもユニークなのかな、と思います。

今年度からは地域の防災訓練の日を学校の登校日にしまして、そこに6年生を参加させて、地域の人と一緒に、煙が出たらどういう歩き方をするべきか、ということを学んだり、三角巾の使い方、消火器の使い方、トイレの組み立て方といったことも訓練したりしました。やはり、災害時に地域がどんな動きをするかということを、子どもたちも知っておくべきだと思いますし、こういった経験をしておけば、大人になった時に、子どもたちが地域で役に立っていくんじゃないかな、と思います。

このほかにも、他校と同じように、学援隊や見守り隊、読み聞かせ、給食ボランティア、ガーデニング、英語サポーターなど、いろいろな形で地域の方がボランティアに参加して、学校を支えてくださっています。

学校を支える地域のボランティア
学校を支える地域のボランティア

――集団登校に校長先生が同行することもあるそうですね。

角野校長先生:   そうですね。地域の方々も毎朝いろいろなところに立ってくださっているんですが、私自身も、毎朝必ず「登校指導」ということで学区を回っています。学区の中には50か所ほど、集団登校で集まる場所があるんですけれども、そこを毎日順番に回っていまして、地域の保護者の方やおじいちゃん、おばあちゃん達と喋ってから、子どもと一緒に、自転車を押しながら登校しています。

やはり校長が、地域の方々、保護者とつながらないと、学校は理解してもらえないと思うんです。だから、これからも毎日続けていきたいですね。

――近隣の幼稚園、保育園、小中学校との交流、連携について教えてください。

角野校長先生:   中学校との連携については、横浜市全体が小中一貫の取り組みを進めていて、9年計画で教育を作っていますので、それに沿って動いています。うちの場合は「栗田谷中学校」と「松本中学校」の両方に行きますので、この2校とはつねに交流を重ねています。幼稚園と保育園についても頻繁に、1年生のところに来てもらって、交流をするという活動をしています。

――児童数が多い学校ということで、ひとりひとりに目を届かせるための特別な工夫などがあれば教えてください。

角野校長先生:   私が職員と共有しているのは、「丁寧な対応」「寄り添う対応」ということです。子どもの言動に対してしっかりと目を向けて、疑問を持ったらすぐにそれを解決する動きをしよう、ということですね。

私自身もつねに教室を回っていますし、登校も一緒にしているわけですが、これは「子どもとの人間関係を作る」ということを大切にしたいからなんです。そして、先生たちにも同じ思いを持ってもらいたいと思っています。学校全体で、子どもをしっかり観察する、変化を見逃さない、という環境を作っていきます。

子どもたちに寄り添う環境づくりを大切にする
子どもたちに寄り添う環境づくりを大切にする

――学習や授業の仕方について、多人数に対応した特別な工夫はされていますか?

角野校長先生:   学習面では「算数ローテーション」という教え方を取り入れています。教科ごとに先生が替わる「教科担任制」はいま、多くの小学校で導入されてきているんですが、算数ローテーションはあまりやっていないと思います。子どもはいろいろな大人を知る中で育っていくものですよね。

横浜市全体として「教科担任制」が取り入れられて、ある教科は、ひとりの先生が学年全部を持つような形ができてきたわけですが、青木ではそれ以外に、算数も回しています。算数の時間には全クラスが算数を行います。そして、単元が終わるたびに、担任をローテーションするんですね。たとえば、ある単元では1組のA先生が教えてくれ、新しい単元になったら2組のB先生が来るようになって、次の単元では3組のC先生になって、という具合です。これによって、先生もいろいろなクラスに入ってたくさんの子どもを知ることができますから、人間関係や観察の目も、おのずと生まれてくると考えています。

子どもの立場に立って見ても、いろいろな先生が来てくれるわけですから、相談しやすい先生に相談できるということになり、子どもの悩みをいち早くキャッチできる体制もできたのかな、と思っています。

校内の様子
校内の様子

――校長先生が、普段子どもたちと関わるうえで大事に思っていることを教えてください。

角野校長先生:   最初にお話したとおり、「優しい心」「思いやれる心」をもった子どもに育ってほしいですから、私自身が子どもにそういう姿勢を示すようにしています。

あと、私は毎年ひとつの目標を設定して、それを1年後に実現できるように頑張っています。「1年後の自分は、今いる自分とは違う。そんな自分に出会うようにしようよ。でもそのためには、1年間の努力が必要なんだよ」ということを、身をもって示したいと思っているんですね。

だからこれまでにも、水泳に挑戦したり、自転車で日本を縦断する挑戦(等距離を走る)をしたり、箱根駅伝に挑戦(同)したり、フルートに挑戦して演奏会で披露したり、私の趣味が陶芸なので、1年かけて、もちろん休みの日を使いながらですけれど、児童全員分のカップを作ってあげたりもしました。

これで何を見せたいかと言うと、「君たちに目標を持って1年間生きなさいって言う以上は、校長先生もやるよ!」という姿勢なんですね。そして、ちゃんと背中を見せて、結果を見せることで、子どもたちに「大人も約束はちゃんと守るんだ」と思ってもらいたいですね。

校長先生の目標・結果を見せる
校長先生の目標・結果を見せる

――青木小学校っていい学校だな、と思ったエピソードがあれば教えてください。

角野校長先生:   エピソードと言うと、沢山あり過ぎて難しいんですが、やっぱり、伝統があって、地域の人たちの協力が非常に大きいことが素敵ですね。あと、子どもたちがとても素直です。

保護者の方にも、心にゆとりがあり、対話のできる常識のある方が多い地域ですから、きちんとビジョンを示せば、しっかりと理解してくださって、やりたい教育が非常にスムーズに実現できる、本当に素晴らしい環境がある学校だな、と感じています。

私は、教育は人間関係が一番大事だと思うんですね。人間関係がすべてと言っても過言ではないです。子どもとの関係、地域との関係、保護者との関係、教職員との関係。この4つの人間関係を大事にしながら、これからもより良い学校を目指していきたいと思っています。

「教育には人間関係が一番大事」と語る角野校長先生
「教育には人間関係が一番大事」と語る角野校長先生

――最後に、学校の周辺エリアの魅力と、おすすめのスポットを教えてください。

角野校長先生:   なんと言っても、生活圏の中に複数の駅があるというのは便利ですね。「横浜」駅が学校から歩いて12分の場所にありますし、「反町」駅は学校から歩いて3分です。「反町」駅は東急東横線の駅ですから、渋谷・新宿方面にも行けますし、さいたま副都心方面にも出ることができて便利ですね。もうひとつ、徒歩5分のところに京急線の「神奈川」駅もあります。

「横浜」駅、「反町」駅、「神奈川」駅という3つの駅が歩いて行ける距離にあって、さらに足を伸ばせば横浜市営地下鉄ブルーラインの駅にも行けますので、生活圏の便利さという点では事欠かない地域ですね。それでいて、東海道沿いの風情あふれる街が残っていて、その周りに非常に落ち着いた感じの住宅街が広がっているというところが、また魅力を増していると思います。

おすすめのスポットは、学校の前に通っている「東横フラワー緑道」です。ここは私も毎日通っている通勤路なんですが、ボランティアの方が毎日整備してくださっていて、いつもきれいな花が咲いている、本当に素敵な場所です。私の大好きな、青木の街の景色のひとつです。

広い校庭と校舎
広い校庭と校舎

 

横浜市立青木小学校
横浜市立青木小学校

横浜市立青木小学校
角野校長先生

所在地:神奈川県横浜市神奈川区桐畑17
URL:https://www.edu.city.yokohama.lg.jp/school/es/aoki/
※この情報は2019(令和元)年12月時点のものです。

146年の歴史を受け継ぎ、街と共に子どもたちの“生きる力”を育む/青木小学校 角野校長先生
所在地:神奈川県横浜市神奈川区桐畑17 
電話番号:045-321-3350(FAX 045-320-0912)
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