宮司 香山伸一さんインタビュー

この地で八百年以上人々を見守ってきた、金町エリアの氏神様/葛西神社(東京都)


JR常磐線「金町」駅から徒歩約10分。平安時代末期に創建された「葛西神社」は、千葉県香取市の「香取神宮」の分社のひとつだ。勝負事、立身出世、金運などのご利益があるという。祭囃子発祥の社であり、葛飾区にある唯一のお酉様として他県からの参拝者も多い。宮司の香山伸一さんに、神社の歴史や金町エリアについて話を伺いました。

三柱を祀り、多彩な年中行事でにぎわう

本殿
本殿

――「葛西神社」の歴史について教えてください。

香山さん:平安時代末期の1185(元暦二)年に創建されました。葛西三十三郷の総鎮守として、一帯の領主だった葛西三郎清重公が、下総国香取神宮の分霊を祀ったのが始まりです。豊臣秀吉が下総国の北条氏を攻める際、筆頭家臣である浅野長吉(後の長政)が、道中の村で狼藉を働かないと伝える手紙を当社に送っています。今は江戸川区の地名ですが、昔の葛西はもっと広く、葛西三十三郷というのは現在の葛飾区と江戸川区の全域、墨田区、江東区、足立区の一部を合わせたエリアを指します。本殿には経津主尊(ふつぬしのかみ)、日本武尊(やまとたけるのみこと)、徳川家康公の三柱をお祀りしています。「香取神宮」からお迎えした主祭神の経津主尊は、剣を神格化させた武神で、邪悪なものを断ち切るといわれています。日本武尊は近くの「大鳥神社」に祀られていたのですが、河川改修の影響で1912(大正元)年に当社に合祀されました。徳川家康公は、人形芝居の神事に感銘を受けて御朱印をいただいたのをきっかけお祀りすることになりました。立身出世のご利益があると人気があります。はじめは「香取宮」という名前でしたが、明治維新の際に「香取神社」となり、1881(明治14)年に現社号に改められました。現在は金町一帯を氏子域としています。

浅野長吉(後の長政)から送られた書状(「葛西神社)蔵)
浅野長吉(後の長政)から送られた書状(「葛西神社)蔵)

――年中行事にはどのようなものがありますか?

香山さん:変わったところでは5月の「音楽祭」があります。毎年さまざまなアーティストに素晴らしい楽曲を演奏していただいています。葛西神社は、日本で最初のバンドとされるお囃子の発祥の地なんですよ。江戸時代に当社の能勢環(のせたまき)という神主が、若者に道徳教育をする中で編み出したといわれています。葛飾区唯一のお酉様なので、11月の「酉の市」も熊手を求める参拝者で賑わいます。浅草の「鷲神社」まで行くのが遠いからとこちらに来られる方も多いですね。夜には神楽殿での演芸大会が恒例になっていて、戦前から90年以上続いています。NHKからのど自慢大会で使っていた初代の鐘を譲り受けて、今でもそれで参加者の歌唱力を審査しているんですよ。最近は若い人も参加するようになりました。埼玉と千葉の県境に近いので、初詣には他県からも大勢の人が参拝にいらっしゃいます。他にも、茅の輪をくぐる6月の「夏越の大祓」、8月の「泣き相撲」、多くの氏子さんとふれあえる9月の「例大祭」などがあります。また、1月と11月を除く毎月第一土曜日には、境内で「骨董市」が開かれています。

神様の存在を感じられる鎮守の森

大鳥居と、イチョウの大木による“天然の鳥居”
大鳥居と、イチョウの大木による“天然の鳥居”

――参拝の折、境内では何に注目したらいいでしょうか?

香山さん:一番は「気」ですね。木々が生い茂る境内はマイナスイオンたっぷりで、神聖な「気」が満ちています。全身で神様の存在を感じ取っていただきたいです。手水で清めていただいたら、まずは本殿の横にある「祓戸神社」で穢れを祓ってから本殿や各社にお参りしてください。境内には多くの摂末社があります。他ではあまり見られないのは、元禄時代に作られた鍾馗(しょうき)像でしょう。絵はけっこう残っているのですが、石像は珍しいんです。魔除けのご神徳を授けてくださるといわれています。また、弁天社には弁天様の使いである白蛇の像があり、撫でることで金運や良縁のご利益にあやかれます。女性が多く参拝されていますよ。また、葛飾区の天然記念物に指定されているイチョウが3株あります。ちなみに、鳥居の外側に生えている一対のイチョウは、“天然の鳥居”と言われています。

右手に剣を持ち、左手で鬼を掴んでいる鍾馗像
右手に剣を持ち、左手で鬼を掴んでいる鍾馗像

――HPや各メディアでも積極的に発信されていますね。狙いやお考えはどういったところにあるのでしょうか。

香山さん:当社のことを知っていただきたいというのが基本ですが、人生儀礼を大事にしてほしいという想いもあって発信しています。お食い初め、七五三、十三参り、受験、就職、結婚、それから厄年や年祝いなど、人生にはたくさんの節目がありますよね。それらは神様と相対する機会でもあるので、大事にしてほしいと思います。

工業地帯から文教の街へ 変貌を遂げる金町

御朱印やお守りなどを授かる参集殿
御朱印やお守りなどを授かる参集殿

――街の特徴や変遷については、どのようにお感じですか?

香山さん:この辺りは、江戸川や「水元公園」があり、多くの鳥が飛来する自然が豊かな場所です。また、金町は昔は工場が多く、繊維工場やレンガ工場、ゴム製造の会社なんかがありました。「東京理科大学 葛飾キャンパス」がある場所も、かつては「三菱製紙工場」があった場所ですよね。それがいまは若い人が増え、葛飾区で一番大きい図書館まであり、文教の街へと変わりつつあります。マンションが次々に建設されているので、これからも人口は増えていくでしょう。

葛西の森の七福神をお祀りしている福神殿
葛西の森の七福神をお祀りしている福神殿

――地域とのつながりについてもお聞かせください。

香山さん:近くの保育園や幼稚園の先生が、園児たちをカートにのせてよくお散歩に来ます。先生方にとっては安心して子どもたちを連れて来られる場所なのでしょうし、子どもたちにとっては鎮守の森で遊んだという記憶は良い原体験になるだろうと思います。また、高齢者施設のお年寄りも、職員の方々と一緒にいらっしゃいます。駐車場があってフラットな石畳なので、車椅子の方も神前まで来られるからだと思います。階段の先にある本殿の賽銭箱までは行けませんが、下でお参りできます。また、近隣の小中学生たちも地域学習の一環で毎年来ておりますので、そういうときには、当社の歴史やお祀りしている神様のことをわかりやすくお話しさせていただいております。

一の鳥居
一の鳥居

――地域にとってどんな存在でありたいとお考えですか。また、イベントの構想などあればお聞かせください。

香山さん:つらい時に人々の心を落ち着かせる、癒しの場所でありたいと思っています。今日もたくさんの方が御朱印をもらいに見えましたが、目的はそれだけじゃなくて、きっと心が癒されるからだと思うんです。神様が何百年も人々を見守ってきた場所ですから、その存在を感じて癒され、リフレッシュできると思います。再来年にはNHKの大河ドラマで家康が主人公になるようですから、合わせて家康公にちなんだイベントを考えたいですね。

富士塚
富士塚

――最後に、これからこの街に住まわれる方に向けて、メッセージをお願いします。

香山さん:遠くにある有名な神社へ行くのも良いのですが、家の近く、ご自分が住んでいる地域の神様を大事にされるのが一番です。この近くにお住まいになる方は当社に来て、地域の守り神である神様にご挨拶していただければと思います。そうすることで功徳を受けられるはずです。

葛西神社
葛西神社

葛西神社

宮司 香山伸一さん
所在地:東京都葛飾区東金町6-10-5
電話番号:03-3607-4560
URL:http://kasaijinjya.world.coocan.jp/
※この情報は2021(令和3)年3月時点のものです。

この地で八百年以上人々を見守ってきた、金町エリアの氏神様/葛西神社(東京都)
所在地:東京都葛飾区東金町6-10-5 
電話番号:03-3607-4560
http://kasaijinjya.world.coocan.jp/