2代目 大城裕美さんインタビュー

美しさと伝統を未来へ紡ぐ/首里琉染(沖縄県)


琉球王朝時代、琉球王国の入口となった中山門跡地に建てられた染色工房「首里琉染」。日本を代表する染色家・山岡古都さんが昭和48年に創立して以来、紅型染めの文化保護・継承の場として受け継がれてきました。2代目であり創業者の娘でもある大城裕美(おおしろひろみ)さんは「紅型や、独自の染色技術であるサンゴ染めの美しさを後世に伝えながら、新しい取り組みにチャレンジしていきたい」と話します。唯一無二の染色が織りなす魅力と大城さんの取り組み、首里という街への想いについて伺いました。

大城裕美さん
大城裕美さん

――首里琉染はどんなお店ですか?

大城さん 首里琉染では、琉球王国から続く伝統工芸『紅型』や、首里琉染だけの独自染色技法である「サンゴ染め」を用いたさまざまな商品を制作、販売しています。首里琉染の建物は3階建になっていて、沖縄で唯一、観光客の受け入れをしている店舗と工房の一体型見学可能な染色工房としても知られています。3階は工房になっており、3階で作った商品を1階で販売しています。2階では、お客様が実際にサンゴ染めを体験することもできます。

昔ながらの合掌造り屋根が目印
昔ながらの合掌造り屋根が目印

3階の工房では、合掌造りの屋根を活かして織物を制作しています。
3階の工房では、合掌造りの屋根を活かして織物を制作しています。

――首里琉染の独自染色技法である「サンゴ染め」とはどのようなものですか?

大城さん サンゴ染めは、大小さまざまなサンゴの化石と、色とりどりの染料を組みわせてデザインする先代がオリジナルで考案した染色技法で、商標・意匠登録を取得しています。いまは条例でサンゴの化石を採取することは禁じられていますが、首里琉染では条例ができる40年前に浜に打ち上げられたサンゴを使用しているので、化石がダメにならない限り、首里琉染でのみサンゴ染め商品を作り続けることができるんです。サンゴの形や大きさがそれぞれ違っているので、サンゴ染めと一言で言っても、いろんな雰囲気のデザインを製作できるんですよ。染め体験もとても好評です。

沖縄県那覇市・「首里琉染」
沖縄県那覇市・「首里琉染」

可愛くもかっこよくも表現できる、バリエーション豊かなサンゴ染め商品
可愛くもかっこよくも表現できる、バリエーション豊かなサンゴ染め商品

――サンゴ染め体験はどんなことができますか?

大城さん お客様にお好みのサンゴの化石と染料を選んでいただき、自分だけのオリジナル商品を作っていただきます。商品のバリエーションもさまざまで、定番の風呂敷やハンカチ、てぬぐいはもちろん、日常使いにぴったりなトートバッグやTシャツも作ることができますよ。

――サンゴ染め体験をはじめたきっかけを教えてください。

大城さん 先代から引き継いだ時、2階は美術品を展示しており、美術に詳しくない人は入りづらい空間でした。こちらでお客様の層を狭めてしまわずに、多くの方にサンゴ染めの魅力を知っていただきたいと思い、体験をやってみようと思いつきました。やってみたら想像以上に好評で。若い人や女性グループはもちろん、男性だけのグループやチームビルディングとして活用される方もいらっしゃるんですよ。先代が大事にしていた”文化を伝える”ということにも繋がっていると感じます。

沖縄県那覇市・「首里琉染」
沖縄県那覇市・「首里琉染」

――先代は沖縄の文化を大切にされていたんですね。首里琉染はどのような歴史を歩んでこられたのでしょうか。

大城さん 首里琉染はもともと、紅型の復興と染色技術の発展・伝承を目的として創られた、沖縄ではじめての「草木染紅型研究所」だったんです。父である山岡はもともと、京都で天然染料の草木染めの第一人者として活動していたのですが、沖縄の紅型は「色が落ちるから指導に来てほしい」と呼んでいただき、この場所を研究所として使うようになったのがはじまりです。

沖縄県那覇市・「首里琉染」
沖縄県那覇市・「首里琉染」

大城さん 紅型を研究する中で、先代は沖縄という地に大変興味を持ちました。沖縄の植物を研究したり後世に残す為芭蕉布を買い集めるようになりました。そうしていつしかここが、博物館のような場所になっていったんです。当時、沖縄の厨子甕(ずしがめ/沖縄独自の骨壺)が県外の人から注目されていて、沖縄の墓に盗みに入る人が続出したのですが、盗人が厨子甕を売りに、ここにやってきていたんです。ここなら買い取ってくれるだろうと。父は沖縄の財産が外に流れてしまうことを嫌がっていましたから、それらを黙ってすべて買い取り、もとにあった場所に戻してきました。

――博物館のような場所から、今のような工房兼ショップの形になったのは、大城さんが受け継いでからですか?

大城さん はい。引き継いだ当初は「館長」と呼ばれていましたが、それがとてもプレッシャーで。父は博識で高い技術を持った本当に凄い人だったので、1年くらいずっと重荷だったんです。そんな時、ある人からアドバイスいただいたんです。「自分らしく」と。その言葉でスッと楽になって、沖縄で言うところの「なんくるないさ精神」に切り替えました。そして”自分にはなにができるだろう”と考えた結果、商品づくりを思い立ち、失敗しながらも、商品開発を行うようになりました。残してくれた技術を大切にしながら、お客さんのニーズに合わせたものづくりをしていきたいなと、今も試行錯誤中です。

沖縄県那覇市・「首里琉染」
沖縄県那覇市・「首里琉染」

――商品はどんなものが特に人気ですか?

大城さん サンゴは子孫繁栄や長寿、家庭円満など「幸せを呼ぶ石」とも言われていますので、新築祝新築祝や誕生祝、開業祝や結婚式の引き出物など、ギフトや縁起物として買われる方が多いです。のれんなど、インテリア用品のオーダーも人気ですよ。

沖縄県那覇市・「首里琉染」
沖縄県那覇市・「首里琉染」

店内を彩る染め物の数々。頻繁に配置換えを行い、美術館のように楽しめる工夫がされています。
店内を彩る染め物の数々。頻繁に配置換えを行い、美術館のように楽しめる工夫がされています。

――お店を経営される中で大切にしていらっしゃるポイントや考え方がありましたらお聞かせください。

大城さん 人のご縁です。京都からひとりで来て、この場所でやってこられたのはご縁のおかげだと思っていますので、私も首里琉染という場所や染め物を通して、人と人とのご縁を繋げていきたいと思っています。お客様もただ商品を買われるだけじゃなくて、ずっとお付き合いしている方が多いんですよ。会いに来て「何か買っていこうかな」と言ってもらえると、とても嬉しい気持ちになりますね。

ゆっくりと会話ができる、ゆんたく(沖縄の方言で”おしゃべり”)スペースも。
ゆっくりと会話ができる、ゆんたく(沖縄の方言で”おしゃべり”)スペースも。

――続いて、お店がある首里エリアについてお尋ねします。この街の魅力はどのような点にあると感じますか。

大城さん お店からは玉陵(たまうどぅん/王様のお墓)が見えるんですけど、見るたびにこんな神聖な場所の近くにお店があるんだ、と感動します。目の前で世界文化遺産の王様が休んでおられると思うと、身が引き締まりますね。幼少期はずっと京都で暮らしていましたが、首里と京都は、雰囲気が似ているなと感じることが多いです。落ち着きと重厚感があるところや、住んでいる人が地域に対してプライドを持って暮らしているところとか。首里の魅力を住む人々が守ろうとしていますよね。

沖縄県那覇市・「首里琉染」
沖縄県那覇市・「首里琉染」

――首里のおすすめスポットを教えてください。

大城さん 沖縄では、路地のことを方言で”すーじ”というんですけど、首里にはすーじがたくさんあって、とても車では通れないような細い道がとても雰囲気があるんです。石畳が綺麗に配置されている小道をのんびり歩くと、とっても気持ちよくて。首里は少し入ると癒されるスポットが多いので、歩かないと首里のよさは分からないなと思います。

――地域の方々と連携して取り組んでいる取り組みはありますか?

大城さん 首里まちづくり研究会という会に所属して、首里の街をもっと良くするにはどうしたらいいかを話し合っています。観光客が多く訪れるお店ということで、以前は理事長も担っていました。首里という街を、これからももっと良くして行きたい思います。景観や街づくりなど、どうしたら観光客が楽しめるか、どうしたらスムーズに観光できるかを考えて、もっと良くしていきたいです。

店頭で地域にまつわる署名活動も実施しています。
店頭で地域にまつわる署名活動も実施しています。

――最後に、これから新しく街に住まわれる方々に向けて一言お願いいたします!

大城さん これから首里に住まれる方と、ともに歩んで生きたいと思っています。ここは歴史や伝統もある街なので、ぜひ首里を好きになってもらって、地域の人と関わってもらいたいなと思います。いい街を一緒につくっていきましょう。

首里琉染

所在地:沖縄県那覇市首里山川町1-54
電話番号:098-886-1131
URL:https://www.shuri-ryusen.com/
※この情報は2021(令和3)年9月時点のものです。

美しさと伝統を未来へ紡ぐ/首里琉染(沖縄県)
所在地:沖縄県那覇市首里山川町1-54
電話番号:098-886-1131
営業時間:9:00~18:00
定休日:年中無休
https://www.shuri-ryusen.com/