県内トップクラスの学力と進学実績を誇る名門「神奈川県立湘南高等学校」/神奈川県立湘南高等学校 稲垣一郎校長先生


学校の創設以来「文武両道」を理念に掲げ、その言葉どおりに、県内トップクラスの大学進学実績を維持しながらも、部活動でも上位大会に続々と進み、目覚ましい成績を収めている、神奈川県立湘南高等学校。「二兎を追い、二兎を得る」では物足らず学校行事を加えて「三兎を追え」と言わんばかりの離れ業は、いかにして可能となっているのだろうか。
今回は校長である稲垣一郎先生を訪ね、学校の歴史と魅力、生徒像、地域の魅力などについてインタビューを行った。

「文武両道」の伝統は、いかにして維持されているのか

校舎外観
校舎外観

――ではまず、湘南高等学校の歴史と概要についてお聞かせください。

稲垣先生:本校はご存知の通り、県立のトップ校の一つということで、学力については非常に高い子たちが、県内すべての地区から集まっていますので、ある意味では「フラッグシップ校」と表現できるかもしれません。創立は1921(大正10)年でして、旧制中学の「湘南中学校」として開校しています。当時は男子のみの学校で、のちに共学となりました。

本校は初代の赤木校長先生が、何と27年間も校長先生を務められ本校の礎を築かれたので、その時に作られた伝統が今も色濃く残っています。開校当初からこの学校を何とか「日本一の学校」にしようと取り組まれたそうで、その中でも「文武両道」を徹底的に行っていこうという考え方が、中心にあったということです。この「文武両道」の考え方は、現在まで引き継がれ、教職員はもちろん、入学してくる生徒や保護者の方もご存じで、魅力に感じていただけているようです。

初代 赤木愛太郎校長の胸像
初代 赤木愛太郎校長の胸像

本校は「文武両道」の中で高い進学率を保っています。1学年360名、9クラスですが、昨年度もそのうちの計211人がスーパーグローバル大学(※)トップ型の難関大学に合格しています。 神奈川県の県立高校の中では、伝統があり、学力をしっかりと育成する学校ですが、実は教育の一番の肝というのは、「部活動」と、年間を通じて行う「学校行事」なのかもしれません。

文部科学省スーパーグローバル大学創成支援

昔の写真や学校の年表
昔の写真や学校の年表

入学前段階の学校説明会の時から、「この学校の生徒は忙しいですよ」ということをお伝えしています。勉強は「当然のこと」で、それに加えていろいろな行事があり、昼休みには生徒が自主的に行っている「対組(たいくみ)競技」もあります。さらに放課後には部活動をし、受験時期になると予備校に通う生徒たちもいます。本当に3年間、すごく忙しいんですね。そんな湘南生に求めている本校の教育モットーは、「Always do what you are afraid to do -最も困難な道に挑戦せよ-」です。

とはいえ、非常に意欲的に取り組む生徒達ですから、楽しく充実した3年間を過ごし世界での活躍を目指して卒業していきます。ただの進学校ではないという点が一番の魅力なのだと思います。高校生として楽しくかつ充実して過ごしたいのであれば、本校は最高でしょうね。

校舎から独立している図書館。落ち着いた環境で勉強ができる
校舎から独立している図書館。落ち着いた環境で勉強ができる

――生徒の気風について、お感じのところを教えてください。

稲垣先生:部活動に入って頑張りたい、もちろん勉強も頑張りたい、といったアクティブで意欲の高い生徒が多いですね。ただそれは、表面的に見える元気、というものではなく、一見静かだけれども、内に秘めた炎は大きい、という子も含めてのことです。内面も含めて、アクティブに動ける子たちというのが、うちの生徒たちの気質です。

たとえば、本校では体育祭が一番の大きなイベントなのですが、体育祭は1年間かけて生徒が企画をし、実行していくわけです。その中でも、表で目立つ子たちというのはダンスをやったり、ということに情熱を傾けるのですが、そのダンスをする裏で、大道具を作ったり、小道具を作ったり、裏方としての部分で、情熱的に取り組む子たちというのも、多いわけです。うちの生徒は人間として優しい子たちが多いので、一人一人の個性もきちんと尊重して、役割を分担して、そのうえで意識的にアクティブに動いていく、という特性があるのかと思います。

行事や部活動などに一生懸命取り組む
行事や部活動などに一生懸命取り組む

普通の学校ですと、一生懸命やることを「恥ずかしい」「格好悪い」と思うという風潮が、やはり思春期ですからあると思うんですね。でも、この学校ではそれが全くありません。一生懸命やっている事に対しては、それを賞賛するという生徒が、マスとして存在しています。だからこそ、自分の良さをどんどん伸ばしていけるのだと思います。

進学校としての取り組み

――神奈川県内でトップクラスの進学実績を誇る貴校ですが、その秘策について教えてください。

稲垣先生:やはり「進学校」として期待されていますから、非常に質の高い知的好奇心を明確に煽るような形の授業を行うのは大前提としてあります。最近では、きちっとした形でものを考える、考えさせる授業展開も検討しながら取り組みを始めているところです。特に「深い学び」というところを意識していますね。

また、授業の質の向上のため校内にプロジェクトチームを作っています。そのチームの人間を中心に授業の見せ合いや、県内外を問わず、他校の授業を見に行くということも行っています。先進的に動いている進学校は全国各地にありますので、他校の考え方もしっかりと見たうえで、湘南高校はどこまでできるかということを精査しつつ進めています。

整理整頓された教室
整理整頓された教室

――進学の指導について、特徴的な取り組みがあればお聞かせください。

稲垣先生:「土曜講座」というものがありますがそれ以外にもできるだけ沢山の卒業生、それも出来るだけ生徒に近い卒業生を呼んで、自分たちがどんな風に過ごしてきたのか、今は何をしているのか、という事を話して頂いています。講座中、生徒たちの目はキラキラしていますよ。教員が百言うよりも、彼らが目の前に来て1時間喋ってくれたほうが、効果があるのかもしれませんね(笑)。

最近では東大法学部に進学しながら、野球で活躍している宮台康平さんが進路説明会で講演をしてくれました。そのほかにも、ノーベル化学賞を受賞された根岸英一先生をはじめとして、各方面で活躍されている方が多くいらっしゃることは本校の宝であると思っています。

6万冊以上の蔵書数を誇る図書館
6万冊以上の蔵書数を誇る図書館

――夏季講習、海外研修といった取り組みもなさっているそうですが、詳しくお聞かせください。

稲垣先生:夏季講習は、進学補習と考えてください。例えば、東大に行くための教科補習、京大に行くための教科補習、といった形で、志望校ごとに行っているものもあります。

また「サマースペシャル」というもので、学校の外に出てみよう、という企画もあります。例えば「東京大学の法学部に行ってみよう」、「神田の古書店街を見に行こう」といったものもあります。難関国立大学や早慶など、大学の研究室見学に行くというものは人気が高いですね。

海外研修は、ここ数年、毎年3月の春休みの間に行っています。ケンブリッジ、オックスフォードなどのイギリスの大学やUCLAなどアメリカの大学を訪問し、現地大学生とのディスカッションやレクチャーセッションもあります。来年3月にはノーベル化学賞を受賞された本校卒業生の根岸先生が奉職されている、インディアナ州パデュー大学で、9日間の日程のうち5日間を過ごすという内容になっています。根岸先生の講義はもちろん、アントレプレナー(起業)関係や、科学技術系の講義なども予定しております。

部活動も活発に行い、実績を残す

――部活動が非常に盛んということですが、特に活発な部、強豪などがあればご紹介ください。

稲垣先生:今年活躍して実績を残した部ですと、ラグビー部は県ベスト8、野球部は夏の大会で神奈川のベスト16まで行き、サッカー部も春の大会ではベスト8でした。秋の新人戦では、バドミントン部が男女ともベスト8、あとはフェンシング部が、ほぼ毎年、個人も含めて全国大会に行っています。陸上部には、関東大会に出場するような生徒もいます。

文化部については、合唱部は今年関東大会に出場、吹奏楽部も毎年県大会に行きます。美術部も活躍しており、今年は高文連から奨励賞を頂きました。ほかにも、本校の伝統として絃(げん)楽部があったり、ジャグリング部という珍しい部活動も盛んです。

部活動が盛んな進学校
部活動が盛んな進学校

――「文武両道」のために、特別に行っている取り組みはあるのでしょうか?

稲垣先生:何かをすると言うより、これはやはり「伝統」の力だと思います。入学して先輩たちの姿を見て、自分たちがそれをまた継承しながら、より良くしていこうという、そういう伝統が続いているから、という点に尽きるのではないでしょうかね。生徒にとって、文武両道は「当たり前」の事なんです。

そういった中で私どもができる事というのは、生徒たちが自主自律の中で、より活発に活動ができるように、支援をしていくという事だと考えています。教職員も休みを返上して頑張っていますし、OBの方々や、部活の先輩たちが指導に来てくれ、時には、金銭面での支援をしてくれることもあります。これは非常に有り難いことですね。

廊下
廊下

「文武両道」を支える充実した学校施設

――学校施設の面で、特徴的な部分があれば教えてください。

稲垣先生:県立高校でここまで敷地が広くて、校舎も立派な学校というのは、あまり無いと思います。面積については、県立高校で5本指に入るくらいの広ささです。体育館は第1体育館と第2体育館の二つがあり、運動部は存分に活動できますし、多目的ホールという、1学年ずつさまざまな発表を行ったり、部活の発表などもできるような400名規模のホールもあります。校舎の脇には90周年の機会に、OBの寄付によって「湘南高校歴史館」が建てられました。これも本校の歴史と伝統を良く物語るものになっていると思います。

2つの体育館
2つの体育館

本校は旧制中学が母体ですが、全日制のほかに定時制もあり、教室が全日制とは完全に分離しています。これは非常に珍しいと思います。定時制には仕事を持ちながらも一生懸命に学ぶ生徒が通って来ていまして、これも本校ならではの特徴の一つになっていると思います。

定時制と言うと何となく、やんちゃな生徒のイメージを抱く方もいらっしゃる方もあるかもしれませんが、今は色々な家庭の事情があったり、外国につながる生徒たちなどが多く通っています。「湘南高校」と言うと、どうしても全日制の進学校というイメージになりますが、実は定時制のほうも頑張っていますよ、という点も、ぜひ、アピールしておきたいところです。

最近ではサーフィンの大会で全国優勝して世界選手権に出場した生徒が、サーフィンをメインの生活にしたいので、全日制の高校に行かず定時制を選んだ、というケースもあります。そういう具合に、何か打ち込めることが見つかった生徒に対しても、定時制の存在というのは、心強いものになっていると思います。

校門の両側に植えられたクスノキの木
校門の両側に植えられたクスノキの木

――最後に、鵠沼エリアの魅力を教えてください。

稲垣先生:藤沢、鵠沼、鎌倉というこの界隈は、県立高校の区分ではかつて「湘南鎌倉学区」と呼んでいました。今はもう学区は無くなりましたが、元々住んでいらっしゃる方の特性としては、知的好奇心を高くお持ちのご家庭が多い、という印象がありますね。そして、一生懸命に勉強をする子たちが多いという印象もあります。

もちろん、ちょっと行ったところには海もあったりと、自然にも非常に恵まれていますし、駅前に雑然とした繁華街があるわけでもなく、勉強に集中しやすいという意味も含めますと、教育環境としては本当に素晴らしいところだと思います。

湘南高等学校
湘南高等学校

神奈川県立湘南高等学校

校長 稲垣一郎先生
所在地 :神奈川県藤沢市鵠沼神明5-6-10
TEL :0466-26-4151
URL:http://www.shonan-h.pen-kanagawa.ed.jp/
※この情報は2016(平成28)年12月時点のものです。

県内トップクラスの学力と進学実績を誇る名門「神奈川県立湘南高等学校」/神奈川県立湘南高等学校 稲垣一郎校長先生
所在地:神奈川県藤沢市鵠沼神明5-6-10 
電話番号:0466-26-4151
http://www.shonan-h.pen-kanagawa.ed.jp/