日本国登録有形文化財・「会席料理 二木屋」インタビュー

日本の伝統文化の発信拠点として地域を牽引/会席料理 二木屋 マネージャー 森田まり子さん


国の登録有形文化財に指定された築80余年のお屋敷、「二木屋(にきや)」。季節の食材を楽しめる会席料理と、五節句をはじめとする年中行事や歳時を大切にした室礼(しつらえ)は、訪れた人に〈食〉の楽しみをより鮮明に伝えてくれています。今回は、オーナーの小林玖仁男氏とともに、次世代へと受け継がれる「二木屋」の魅力を発信し続けているマネージャー、森田まり子さんに、お店の歴史や特徴、また地域の魅力についても話を伺った。

「会席料理 二木屋」の外観
「会席料理 二木屋」の外観

日本国登録有形文化財「会席料理 二木屋」の歴史

―まず、「二木屋」の歴史について教えてください。

会席料理を提供するお店として「二木屋」をオープンしたのは1998(平成10)年10月のことです。その後、2002(平成14)年に国の登録有形文化財に指定されました。
歴史を感じられる佇まいの「二木屋」は1935(昭和10)年に建築された建物で、オーナー小林玖仁男の祖父にあたる、故・小林英三の住まいを一部改装して店舗にしています。

祖父の小林英三は広島県尾道の出身で、東京の大学に進学したのち、川口の鋳物業の経営者の娘・麻佐子と結婚しました。英三は戦後の農家の生活を支えた「国際籾殻竈(もみがらかまど)」を開発したエンジニア、実業家としても知られ、また自由民主党最初の内閣厚生大臣を務めた人物でもあります。
小林英三と浦和との出会いは、戦中の疎開用としてこの家を買ったのがはじまりで、当時は“成功して浦和に家を買う”というのが川口で鋳物業を営む経営者にとってのステータスでもあったようです。
また政治家として活動するようになると、当時はホテルやホールなどの施設が少なかったこともあり、自宅で会合や催しを開くために、いくたびかの増築を経て現在のような大きなお屋敷になりました。

国際籾殻竈(もみがらかまど)
国際籾殻竈(もみがらかまど)

“食”を通じて大切な日本の伝統文化を後世に伝える

―会席料理のお店を開くことになった経緯についてもお聞かせください。

祖父の小林英三はエンジニアであり政治家、父の小林英三も缶詰工場を営む経営者。オーナーの小林玖仁男も料理人というわけではなく、経営者であり雛人形研究家としての活動も行っています。

会席料理「二木屋」を開くことになった背景には、父の小林英三が亡くなり400坪ものお屋敷を売却するかどうかで悩んでいた折、マンションの建設などで移り変わる浦和の街並みを見つめるなかで、“ビジネスに活かせるのでは”と考えた経緯があります。
日本の伝統文化を大切にする小林玖仁男は、会席料理「二木屋」の開業によって、日本の懐かしい和の暮らしを伝える五節句をはじめとした年中行事や歳時の大切さを“食”を通じて表現できる空間としてお屋敷を生まれ変わらせたのです。

「七夕の節供」の室礼。777本のロウソクが天の川に見立てて飾られている
「七夕の節供」の室礼。777本のロウソクが天の川に見立てて飾られている

次世代に伝えるべき日本の味を求めて

―食材や料理へのこだわりについて教えてください。

曾祖母のカツ子は今で言う料理研究家として講演や料理教室を行っていた方で、一家で経営する缶詰工場の味つけも担当していました。まさに小林家を支えてきたその伝統の味を、「二木屋」のレシピとして再現しています。
懐かしい味、本物の味、家に代々伝わる味などから次世代に伝えるべき日本の味を模索し、“過去という未来”に向かう“温故知新”をテーマに料理を提供し続けています。
食材には日本の代表的な食材である和牛を中心に、季節のもの、五節句や歳時に合わせた料理を提供し、また同時に室礼(しつらい)も楽しんでいただいています。

会席の一例。「のざき牛のステーキ」
会席の一例。「のざき牛のステーキ」

訪れるたびに変わる「室礼12ヵ月」のおもてなし

―室礼(しつらい)とは?

室礼とは、季節やハレの日のお祝いなどにお花や調度品などを飾って楽しむもので、もてなす側の“遊び心”と表現されるものでもあります。
「二木屋」では、1月は干支、3月はお雛さま、5月は武者人形と毎月変わる「室礼12ヵ月」を設け、その年ごとに「何を飾ったらお客様にお喜びいただけるだろうか?」と、新しい試みにも挑戦し続けています。特に3月の雛まつりは、小林玖仁男自身が雛人形研究家であることからも、ほかではご覧いただけないような室礼になっています。今ではお食事をしていただくお客さま以外でもご覧いただけるよう博物館として一般公開し、期間中1,500人以上の見学者が訪れる「二木屋」を象徴するイベントになりました。
さいたま市の岩槻はもとより埼玉県内には雛人形をつくる職人や工房が多く、「素晴らしい文化を知ってもらいたい」「後世に残したい」という想いで取り組んでいます。

上巳の節供(雛まつり)の室礼は圧巻
上巳の節供(雛まつり)の室礼は圧巻

また7月の「七夕のろうそく能」と9月の「二木屋薪能」も「二木屋」ならではの取り組みで、開店した翌年から続いている恒例行事です。能楽の流派のひとつ金春流、大倉流それぞれの能楽師の協力を得て今日までやって参りました。
氷川神社で開催される「大宮薪能」をご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、舞台づくりから運営まですべてを個人のお店で賄うのは大変なことなのです。ただ私ども「二木屋」では日本の文化を後世に伝えたいという想いで今年も9月に「二木屋薪能」を開催いたします。詳細はホームページをご覧ください。

「二木屋薪能」の一幕
「二木屋薪能」の一幕

一生に一度、一年に一度のハレの日に選ばれる「二木屋」

―どのようなお客さまが多いですか? またはじめて来店されるお客さまへメッセージをお願いします。

ご友人に連れられていらっしゃる女性のお客さまや、口コミでご来店いただく方がほとんどです。また結納など大切な方とのご会食にご利用いただくことも多く、一生に一度、一年に一度のハレの日に「二木屋」をお選びいただいています。
しかしながら席数は70席と限りがあるため満席になってしまうことも多く、完全予約制ではないのですが、事前のご予約か問い合わせをいただけると大変助かります。また平日のランチタイムは11時から13時10分、13時10分から15時10分の2部制でお食事をご用意しております。
店内には椅子席のお座敷のほか、和の個室、最大9名までご利用いただける円卓テーブルの個室もあり、用途や目的に応じてお部屋をご用意しております。子ども用の椅子や食器も用意しているため、お子さま連れのご家族も大歓迎です。

和の個室
和の個室

北浦和には人生をより豊かに楽しむための文化・芸術が根ざしている

―周辺の住環境や北浦和エリアの特色について教えてください。

北浦和には「北浦和公園」や「埼玉県立近代美術館」、与野方面には「彩の国さいたま芸術劇場」もあり、落ち着いた文化的な街だと思います。文化や芸術は人生をより豊かに楽しむためには欠かせない要素で、週末になると美術館でアートに触れたのち「二木屋」で食事をするファンの方も多く、ひとつのステータスにもなっているようです。

伝統を守りつつあらたなチャレンジをし続けていくことこそ大切

―今後の展望や目標についてもお聞かせください。

これまで広告宣伝をほとんど行って来なかったので、インバウンドに対応したホームページの英語表記やパンフレットの制作など、より多くの方に「二木屋」の取組みを知っていただくため、情報発信をしていく予定です。
すでにフェイスブックやインスタグラムなどSNSによる情報発信も行っているのですが、「二木屋」が大切にする想いはそのままに、ワークショップやイベントなど新しい試みにもチャレンジしていく予定です。

日本の伝統文化である茶道を学べるイベントも開催
日本の伝統文化である茶道を学べるイベントも開催

最近では「和のこと遊び」という和雑貨の制作や茶の湯などを通じて日本文化を広めている主婦のグループと連携して、古布で作ったお雛さまを共同制作しました。伝統的な段飾りのお雛さまではなく、「お重にしまえるお雛さま」として制作したオリジナル商品で、外国の方へのお土産としても大きな反響がありました。
日本の伝統文化を後世に伝えたいと願う「二木屋」という価値観のなかで、あらたなチャレンジをし続けていくことが今後の目標だと考えています。

「和のこと遊び」の様子
「和のこと遊び」の様子

浦和には美意識の高いお客さまも多く「二木屋」への期待も大きいため、室礼も前年とまったく同じということは決してなく、オーナーと現場スタッフとの日々の研鑽が今日の「二木屋」をかたちづくっていると思います。
一般見学可能なおひなさまの展示をはじめ、大切な方との会食にぜひご利用ください。

二木屋 マネージャー森田さん
二木屋 マネージャー森田さん

今回、お話を聞いた人

会席料理 二木屋
マネージャー 森田まり子さん

住所 :埼玉県さいたま市中央区大戸4-14-2
電話番号:048-825-4777
URL:http://www.nikiya.co.jp
※この情報は2016(平成28)年6月時点のものです。

日本の伝統文化の発信拠点として地域を牽引/会席料理 二木屋 マネージャー 森田まり子さん
所在地:埼玉県さいたま市中央区大戸4-14-2 
電話番号:048-825-4777
営業時間:11:00~15:10(土・日曜日は11:30~15:00)、17:30~22:00
定休日:不定休
http://www.nikiya.co.jp/