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末永く続く人と人とのつながり

春日通りの北側、小石川三丁目エリアの中心にあり、地域のシンボルとなっている浄土宗の寺院「傳通院」。ここは「徳川家ゆかりの寺」として知られ、観光客や歴史愛好家も多く訪れる場所となっている。
境内は近年改築されたばかりで、いつ訪れても美しく整えられ、参詣者を迎え入れてくれる。凛とした空気の中に、歴史の重みも感じさせる、名刹だけが持つ独特の雰囲気である。今回はこちらで僧職、寺務長としても活躍されている井村真則さんにお話を伺った。

傳通院
寺務長 井村真則さん

「変わるもの」と「変わらないもの」
小石川で受け継がれる伝統と誇り

-傳通院とはどんなお寺なのでしょうか。寺院の沿革についてお聞かせください。

簡潔に申し上げますと、芝の増上寺を開いたお坊さんの師匠にあたる方が開いたお寺と伝えられています。聖冏上人(しょうげいしょうにん)が当山の開山上人として、現在の小石川4丁目、極楽水のある辺りにに住まわれたのが、今から600年ほど前のことです。

寺の創建をその時とするのかは諸説がございますが、その地の小さな草庵と言いますか、念仏道場にて、大衆の教化にあたられたことが、傳通院の始まりになります。創建当時の寺の名は「寿経寺」と言いまして、その名前は現在も引き継がれています。その200年後、江戸時代に入り、徳川家康公により、生母「於大の方(傳通院殿)」を弔うため、現在の地に大伽藍を整えました。

なお、本堂については火災や戦争で合わせて4度焼失しておりまして、その4度目の焼失が太平洋戦争でした。この付近でも空襲により多くの被害があったそうです。終戦後に仮本堂が建てられ、その後、1988(昭和63)年に新築建立をし、現在に至っております。境内の入り口ある山門も、お檀家様の寄付により造られ、2012(平成24)年に完成いたしました。

また、お寺の隣には「淑徳SC中等部・高等部」がございますが、こちらも傳通院の住職が理事長・校長を務めているお寺の経営による学校でして、明治25年に開設された「淑徳女学校」に始まり、それ以来時代に根ざした女子教育を行い、多くの卒業生を輩出しております。

-代々受け継がれている特別な宝物や伝統などはあるのでしょうか?

先ほど申し上げたように、火災が度重なったこともあり、建物や仏像は比較的新しいものになります。貴重な什物、文献等は当時の傳通会館に大切に保管されていたということなのですが、空襲ではそれも全て燃えてしまい、現在昔の姿をとどめているのは、樽さまと、於大の方のお位牌、お墓のみとなっております。

ただ、大切にしているのは、物以上に「心」と言えるかと思います。私どももお坊さんである以上、「師匠」がいるわけですが、師匠から弟子へと、仏様の諭された御(み)教えを、余すこと無く受け継いで、次の代へとつなげていくというのが、私達の使命でもあるわけです。

そういった意味では、平安時代末期にお生まれになった法然上人(浄土宗の開祖)がお論しになられたお念仏を申すのが我々の宗旨となりますが、その御教えを受け継がれてきた方が浄土宗第7組であり、当上開山の聖冏上人になりますので、その教えを受け継いでいくということが、私どもが最も大切にしていることです。

もちろん、仏様のご縁をいただいているお檀家さまに、仏縁を切らないよう常に教化させていただく、または、現在ある諸堂や、120年続いている「淑徳SC中等部・高等部」を大切に守っていく、当然の使命であると貫主(住職)はよく私達に申しております。

-井村さんは20年以上の間この地を見守られてきたお一人かと思いますが、昨今の小石川の変貌については、どうご覧になっていますか?

この小石川にしても、本郷の辺りにしましても、地域の特色としましては、一度住めば、ほかに離れて行く方が非常に少ない地域のようです。これはすなわち、非常に住みやすい環境にあるということかと思います。

小石川という地名にはネームバリューもありますので、最近は新しいマンションも建ち並び、風景は非常に変わってきました。世帯数も増えまして、今は地元の町会だけでも7千以上あるといいます。

そういった中でも、「変わるもの」、「変わらないもの」が両方ある地域だと思っており、「変わらない風景」については、やはりこのお寺を中心とする地域が最たるものですし、近くにある善光寺坂の景観についても、いつまでも変わらない風景かと思います。

変わる風景としましては、私が小石川に来た二十数年前と比べましても、昔は中小の印刷会社や、その下請けの出版会社などが非常に多くありました。そういった会社の跡地が最近、次々とマンションになっておりまして、風景は大きく変わってまいりました。私が来る以前には、傳通院前に都電の停車場もあったと聞いております。

-参拝者の方は小石川周辺に住まわれている方が多いのでしょうか?

元々、小石川エリアに住まわれている方以外にも、新しく小石川に引っ越されて来た方や、観光客の方も来られるようになりました。傾向としては、中高年の方をはじめ、時間に余裕がある方や、歴史に感心のある若い方が参拝に来られるというケースは、昔と比べて非常に増えていると思います。

境内についても、広々としていますから、昔も今も近所に住む子どもたちが遊びに来ていまして、最近は幼稚園帰りの親子連れの方が、ちょっとお話をしながら境内で遊ばれていく、という姿も多くございます。

お寺の年中行事、地域と協力して行っているイベントなどについてお聞かせください。

年中行事については、いわゆる除夜の鐘に引き続いて行われます「修正会」(しゅしょうえ)の法要に始まり、諸行事を行っておりますが、人が多くお見えになるということですと、春・秋のお彼岸法要やお盆の時期には、多くの方が参拝に来られます。

各法要では、法話を拝聴していただき、亡き方のご回向をしておりまして、どの法要にも100人以上の参拝者がいらっしゃいます。

各法要につきましては、檀家様が中心ではありますが、一般の方もご参加いただるようになっておりますので、ご興味のある方については、山門の前の掲示板などをご覧になっていらっしゃっていただければと思います。

地域の方と一緒に行っている行事につきましては第1に、「伝通院通り三盛会」という商店会が主催する「三盛まつり」です。毎年6月に、傳通院を会場にして開催しております。こちらは昔、植木市として行われていたものが由来になっており、舞台や露店などが並ぶかたわらで、各種イベントが行われています。

もうひとつ大きなものとしては、「文京朝顔・ほおずき市」がありまして、こちらは傳通院が朝顔市の会場となっております。ほおずき市については、「こんにゃくえんま」で知られる源覚寺が会場です。

こちらの市の歴史は30年ほど前からということですが、文京区は湯島天神の梅、根津神社のつつじ、播磨坂の桜など、花の祭りが多い区の中で、小石川1丁目~3丁目あたりにも花のお祭りを作ろうということで、始まったそうです。これについても、例年大勢の方がお見えになります。

お寺の友の会「ともいきくらぶ」では、法話の会や写経といった定番講座以外に、ヨガや落語など、ユニークな講座や教室を開催されているそうですね。

「写経会」については、人気が高く、毎回多くの方にご参加いただいている状況です。「本堂」や「繊月会館」という建物がありますので、主にこちらを使って行っています。ほかには茶道教室、吉水講お歌の会、能講座、俳句会などもございます。

ユニークで人気が高いものということですと、たとえば「寺子屋論語塾」などは、専門の講師の方がわかりやすく論語について解説し、声に出して一緒に素読も行いますので、4歳ぐらいの小さなお子さんから、おじいちゃんおばあちゃんまで、幅広い方にご参加いただいております。

女性の方にはお寺ヨガ教室も人気がありますね。30代以降の女性の方が中心になっているかと思いますが、幅広い年代の方が来られているようです。

寄席については「傳通院寄席」恒例のイベントになっています。2015(平成27)年の4月で95回目を迎えました。

参加されているのは、檀家様であったり、地域の方であったりと幅広いですから、ご興味がある方は、ぜひ掲示物やお寺のホームページをご確認いただきまして、一度お寺にお問い合わせをいただいてから、ご参加ください。こういったものをきっかけに、仏様と縁をつなぐきっかけとなれば嬉しいですね。

最後に、小石川3丁目エリアの魅力について教えてください。

やはり傳通院があって、門前町があって、昔から町会や商工会も盛んに活動していますので、人と人とのつながりが非常に密であるということは、ひとつの大きな魅力だと思います。そういった地域の中にまた、このお寺があるということも、魅力になっているのでしょう。

今後も古きよきものを大切にしながら、人と人とのつながりを大切にするという伝統が、末永く継続していっていただければと思います。

 

今回お話を聞いた人

傳通院
寺務長 井村真則さん

末永く続く人と人とのつながり
所在地:東京都文京区小石川3-14-6 
電話番号:03-3813-5077(観音堂総合案内所)
拝観料 無料
http://www.denzuin.or.jp/




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