レストラン 香味屋
いっさいの妥協なし。
90年以上根岸で愛され続ける「レストラン 香味屋」
「入谷」駅から徒歩8分。根岸柳通りに面した「レストラン 香味屋」は1925(大正14)年創業の歴史のある洋食店だ。伝統に培われてきた料理と、常にお客様のことを考えるサービスで愛され続けている。そんな「レストラン 香味屋」について、4代目社長の宮臺香惠(みやだいかえ)さんにお話を伺った。
レストラン 香味屋
4代目社長 宮臺香惠(みやだいかえ)さん インタビュー
大正14年創業の老舗洋食店
Q.1925(大正14)年創業と歴史のあるお店ですが、今日までの歩みを教えてください。
創業したのは私の曽祖父、喜作になります。墨田区横網の生まれで、若いころに浅草で神谷伝兵衛さんが「神谷バー」で成功を収めているのを見て、いつか自分も一旗揚げてやると野心に燃えていたようです。
当時、根岸4丁目は花街でした。喜作はハイカラな人で、花街のど真ん中に輸入雑貨店を開いたんです。香水が大好きで、他にも輸入雑貨や輸入食品を扱っていて、お客さんから豆があるならコーヒーを入れてよ、というところから、ミルクホールのようなものを始めました。戦争でこの辺一帯が焼け野原になってしまい、戦後、これからの時代は通りに出ていないとダメだということで、根岸柳通り沿いのこの場所に移り、改めてお店を始めました。
今の料理の基礎ができたのは2代目、丸山政五郎の時です。喜作の子どもは女の子ばかりで、長女と結婚した政五郎が2代目の料理長になりました。元々、船で料理長をしており、才能あふれる方でした。うちの「ビーフシチュー」は平皿の上にお肉がドンとのったスタイルなんですけど、そのスタイルを確立したり、料理の基本を全部作ったのがこの時です。
1968(昭和43)年に私の父、良行が3代目を継ぎました。祖母が銀座の「資生堂パーラー」さんが好きで、父も子どもの時からよく行っていたんです。料理の味は「資生堂パーラー」さんが上でしたので、「香味屋」も同じようなレベルの味を目指して改革をして、今の味まで持ってきたという経緯があります。私も子どものころから“味見係”として連れていかれて、どちらがおいしいかと聞かれるんですね。子どもなので遠慮せずに言いますから。当時はまだまだ資生堂さんには敵いませんでした。
会社員を辞め、4代目の経営者へ
Q.どのようなきっかけでお店を継がれたのですか?当時の想いや、苦労された点なども教えてください。
女性ですし、ずっと店は継がなくていいと言われていたのですが、大学を卒業して就職したすぐの頃に店の人手が足りなくなってしまって、平日は職場、土日は店で働くようになったのです。今よりさらに忙しかったので、私なりに色々と考え、会社を辞めてこちらを手伝うようになりました。
ただ、店のスタッフが良しとしなければ継ぐ気はありませんでした。「みんなが認めなければ私は継がないし、こんな私でもいいと言ってくれるなら父が引退した後は私がやります」と伝えると、みんな「付いていきます」と言ってくれました。それから10年経った2006(平成18)年に父が倒れたことで、4代目として店を受け継ぎました。私は厨房には入らず、経営者として継いだ形ですね。
お客様に「おいしかった」と仰って頂けるように
Q.こんなにも長く愛されるお店になったのはどのような理由だと思いますか?
いっさい妥協せず、手抜きせず、いいものを作るという信念じゃないでしょうか。それは父もそうですし、代々そうでした。お客様に感謝の気持ちを持って、まっとうな仕事をする。ここは便が悪いのでお買い物のついでにというわけではなく、わざわざお店にいらしてくださるんです。そのお客様に対してがっかりさせてしまうことはやってはいけないことです。お召し上がりになって「ああ、おいしかった」とおっしゃってお帰りになる、そうじゃないとダメだと思っています。それだけです。
お客様目線に立ったサービス
Q.宮臺さんが、お仕事で大切にされていることはどのような点でしょうか。
「お客様が何を望んでいらっしゃるのか」、「お客様が最高の居心地で、最高の料理を召し上がって頂く場をどのように作るか」ということを常に考え、何を求めていらっしゃるのかを先に先に意識するようにしてサービスをする。でも押し付けではなく、控えめにというスタンスですね。
あと、私自身が心がけていることは「自分がされてハッピーなサービス」をするということです。ご新規の方、ご常連の方でも大事なお客様なので、常に自分がされたらハッピーなサービス、常に変わらないサービスをしています。常に笑顔とお返事で、迷っていらっしゃったら押しつけがましくなく上手にお勧めするようにしています。
今、うちはメニューに「スモールポーション」ができると表記しています。色々なお料理を召し上がりたいという方が多くいらっしゃいますが、うちは一人前の量が多めなので食べられる品数が限られてしまうので、「スモールポーション」を作ることによってたくさんの種類を召し上がって頂くことができます。
父の代のときはメニューには表記していなかったのですが、私が口頭でお勧めすると、皆様「あら、スモールポーション出来るの? だったらそれがいいわ」とご注文くださるのです。もちろん厨房にも負担をかけることなので、相談したところ「やります」と言ってもらえたので、今は正式にメニューにも表記して皆様喜んでくださってます。
今後は、食育などにも取り組みたい
Q.今後の夢や展望などがございましたら教えてください。
「食育」をやりたいと思っています。これは両親のおかげなのですが、私自身幼い頃より、きちんとした物を食べさせてもらいながら育って参りましたし、“三つ子の魂百まで”とよくいいますが、味覚形成の時にきちんとしたものを食べることはとても大事なことだと思うんです。まだ実際には手をつけられていないのですが、今後お手伝いをしていきたいと考えています。 うちはバギーに乗った赤ちゃんからお子様大歓迎です。だって洋食ってお子様が好きなメニューですから。
ご常連のお客様の中にお祖母様の代からご贔屓くださっているご家族がいらして、お孫さんが離乳食の頃からうちのポタージュやコンソメスープを召し上がっていたのですが、ある日、お母様がママ友とファミリーレストランに行かれた時、そのお孫さんは何も召し上がらなかったそうなんです。「この子は、香味屋の物しか食べないのよ」って。そのお話を伺ったときはすごく嬉しくて、このお店をやっていてよかったなって思う瞬間でしたね。
だからこそ、食育をやっていきたいと思います。今の若い方たちにも、きちんとしたものを分かるようになってほしいと思います。
山手線圏内にありながら、喧騒とは無縁の街
Q.根岸ならではの魅力とはどのような点だと思いますか?
いい意味でも悪い意味でも「変わらないところ」ですね。最近はマンションなどがいっぱいできて新しい住民の方も増えていますが、基本は昔からあまり変わらなくて住みやすいと思います。昭和通りや言問通りはありますが、ここまで来ると喧騒を感じないですし、夜は静かで住みやすい環境だと思いますね。「鶯谷」駅から「東京」駅まで10分ちょっとですから通勤圏としてはいいと思います。
下谷七福神巡りが流行っています
Q.おすすめスポットや休日の過ごし方などを教えてください。
「下谷七福神巡り」が流行っているらしく、最近はこの辺をお散歩している人も多いですよ。この近くの「小野照崎神社」も私が好きなスポットで、なんとなくいい気が漂っている感じがしますね。「西蔵院」に御行の松という有名な松もあります。毎年初詣に行っているんですけど、テレビで紹介されたのか、ある年を境にすごく人が増えましたね。何が起こっちゃったのかと驚いちゃったくらいです。そういった場所を回ってみるのも楽しいと思いますよ。
今回、話を聞いた人
レストラン 香味屋
4代目社長 宮臺香惠さん
レストラン 香味屋
所在地:東京都台東区根岸3-18-18
電話番号:03-3873-2116
営業時間:11:30~22:00(L.O.20:30)
定休日:水曜日、12月31日~1月2日
http://www.kami-ya.co.jp/