SOOO dramatic!
クリエイティビティを育て、地域の人を繋ぐ“現代の公民館”
台東区下谷一丁目。首都高が地上に降りる「入谷」交差点のすぐ脇にあるビルの1階に、イベントスペース「SOOO dramatic!(ソードラマチック)」はある。2015(平成27)年4月に誕生したスペースで、天井の高い、広々とした空間が広がっている。
この場所をレンタルスペースとして提供しながら、街おこしに関わる多彩なプロジェクトを主催しているのが、合同会社「点と線と面」。今回はその代表である今村ひろゆきさんと、スペース開業時にメンバーに加わり、さまざまなプロデュースを手掛けている秋元眞理さんにお話を伺った。
合同会社 点と線と面
共同代表 今村ひろゆきさん
ディレクター 秋元眞理さん
この街への想いが活動の源に
Q.「SOOO dramatic!」はどのような背景から設立されたのでしょうか?
今村さん:「まちづくり会社ドラマチック」は、このビルオーナーを含めた僕たち3名で始めた会社です。台東区で生まれ育ったビルオーナーはこの街が大好きで、そして僕らも街づくりに繋がるような取り組みをしたいという強い思いがあり、意気投合の末、会社設立へと踏み切りました。
実は「SOOO dramatic!」としてイベントスペースになっている1階部分は、駐車場でした。けれど、この街のことを考えたとき、周辺には沢山面白い店はあるのですが、もっとポテンシャルを発揮できると思いました。
いろいろな人が繋がったり、「このエリアって面白いよね」といった情報発信をするなど、人と人とが交流できるような場所が必要だと思い、「駐車場じゃつまらない。もっと面白いことをやろう!」とイベントスペースをメインとした空間に改装することを決めました。
でも、単なるイベントスペースではつまらないので、この場所を“現代の公民館”として、自分たちでイベントを開催し、街全体を盛り上げ、繋げていくような活動もしています。
すべての人のクリエイティビティを発揮できる場所
Q. “現代の公民館”として、どのような役割を担っていきたいと考えているのでしょうか?
今村さん:僕らは、「すべての人はクリエイター」だと思っています。意識して考えることではないかもしれませんが、誰にでも、好きなことだったり、あるいは何かしらの問題意識があると思います。
それがもし、気軽に実現できる場所があったら、住んでいる傍にあったら、そのクリエイティビティが発揮できるのではないかと思うんです。何かのワークショップを始める、野菜の直売を始める、子どもが遊べるイベントを開催する…。そうやって街の人が、「思ったことがすぐに実現できる場所」になればいいなと思っています。
また、一般的な公民館には、事前登録や予約、イベント開催についてもさまざまな規則や制限があると思いますが、「SOOO dramatic!」は、すべて相談から始まりますので、気軽に始めることができます。さらに、僕らも広報として手伝うこともできる。そんな「身近で使いやすい場所」という点もいいと思います。
また、“現代の公民館”といっても、特にこの地域の方だけに開けた施設ということではありません。単に「拠点がここにある」ということだけで、使うのは誰でもいいんです。もちろん近隣の方も利用されますし、例えば九州の自治体の方が、自分の町のPRのために利用されたり、といったこともあります。他にも、僕らから仕掛けるイベントの中で繋がった地域の方々が、それぞれの用途に合わせて使い始めてくれたりもしています。
Q.それぞれのフロアについて詳しく教えてください
今村さん:ビルは1階が「SOOO dramatic!」のイベントスペースです。2階は「reboot(リブート)」という、クリエイターが集まるシェアアトリエとして活用しています。3階と、5~7階はテナントになっていて、企業やNPO団体などが入居しています、また、4階はシェアオフィスとして利用しています。8~9階がこのビルのオーナーが代表を務める「メトロ設計」という会社があります。
イベントを通して、街や人の面白さを発信!
Q.ユニークなイベントも多数開催されていますが、「SOOO dramatic!」主催のイベントで、特徴的なものを教えてください。
秋元さん:いくつかあるのですが、ひとつは「東(ひがし)東京ジャンクション」という、“東東京でいま気になる人”をお呼びするトークショーです。これは代表の今村が、「東東京マガジン」というウェブマガジンの編集長も務めていて、東東京に詳しいことから、文京経済新聞社さんら地域のウェブマガジンを運営する方々と企画したものです。前半1時間をトーク部分にあてて、後半の1時間は、ドリンクを飲みながら、参加者同士でいろいろな情報交換をしたりしています。
以前は「隅田川ジャンクション」というイベント名で、2010(平成22)年から隔月開催しているので、東東京に興味のある方の中には、ご存知の方も多いのではないでしょうか。
今村さん:このイベントには、例えば文京区でとても先進的なことに取り組んでいる魚屋の三代目の店主さんや、インターネット上に新しい仏教のお寺を作っちゃった住職さんなど、本当にいろいろな方が参加してくださっています。
この取り組みには、タイトルのように、メディアに多く出ているわけではないけれど、とても面白いことをやっている人を紹介したいという狙いがあります。「東東京にはこんなに面白い人がいるんだ」ということを沢山の人に知ってもらい、それをきっかけに、東東京に愛着や、住みたいという気持ちを持ってもらえたらいいですね。
Q.その他にはどのようなイベントがありますか?
秋元さん:2015(平成27)年の秋から「入谷家の食卓」というイベントを始めました。これは、“東東京の味”を参加者に1人千円分持ち寄って集まっていただき、交流を深めるという、フリートークのパーティーです。
参加者のみなさんには、購入先や商品の特徴といった商品の説明をそれぞれに説明してもらいます。そうすると、新たなお店の発見になりますし、地元の方も多いので、「今日はどこからいらっしゃったんですか?」など、たわいもない会話で交流が生まれていきます。このイベントはまだ3回目ですが、既に好評です。引っ越して来たばかりの方なども多くいらっしゃいますが、「はじめまして」なんて言っているのは最初だけで、2時間後には、もうすっかり仲良くなっていますね。
今村さん:近くの美味しいお店をたくさん知れたり、近所の方と知り合えたり、メリットが大きいみたいです。このイベントで仲良くなって、週末に皆で遊びに出掛けている方もいますよ。新しい住民の方にとっては、セーフティーネットのような役割も果たしているのかな、とも思っています。
印象的だったのは、参加している方が「みんな親戚みたいな感じになってきた」と言っていたことですね。それって今の社会のおいて、凄いことだと思うんです。「入谷家」とは言っていますが、この地域の住民限定というわけではないので、東東京エリアに引っ越してきたばかりという方には、ぜひ来てみてほしいですね。親戚のように付き合える仲間ができるかもしれません。
秋元さん:ほかにも、「花アトリエ」というお花教室や、子ども向けの音楽イベントなども開いたり、子ども向けのイベントにも力を入れ始めているところです。
Q.レンタルスペースとしても人気だそうですが、どのような目的での利用が多いですか?
秋元さん:一番多いのは、クリスマスや新年会、誕生日会などさまざまなパーティー会場としての利用です。ほかには、自主企画のイベントでトークショーを開催したり、ものづくりをやっている方がマーケットやワークショップをされたり、といった感じでしょうか。“現代の公民館”なので、皆さんご自分の夢を叶えるためのスペースとして、色々な目的で使っていただいています。
意外かもしれませんが、平日に多いのが企業のミーティングですね。「会議室らしくないところで会議をしたい」というような目的から、このスペースが好評のようです。天井が高く、白い空間なので、開放的な気持ちでクリエイティブなミーティングができるのだと思います。
今村さん:また、最近増え始めたのが演劇ですね。3月は約3回公演程入ります。2015(平成27)年はファッションショーも開催されました。全部で80席、立ち見だと100人以上は入れるので、そのような使い方も可能です。ターミナルの「上野」駅が近いので、都内からも地方都市からでも来やすいんでしょうね。
繋がりを深め、街への貢献を目指す
Q.「SOOO dramatic!」を運営して、良かったと思う瞬間を教えてください。
秋元さん:沢山ありますね。例えば、初めてこのスペースを使ってくださった方が、「また使わせてください」と、2回目、3回目…と来られた時や、イベントに参加した方が、「今度は自分が主催者になって何かやりたい!」と、来てくださったり。そのような時は、とても嬉しいですね。
今村さん:先ほどもお話しした通り、参加者の方が「親戚の集まりみたい」と言ってくれたことですね。その言葉には、この土地や、集まり、人の繋がりへの愛着が芽生えたことなど、たくさんの意味が含まれていると思います。
Q.今後、「SOOO dramatic!」をどのような場所にしていきたいとお考えでしょうか
今村さん:いろいろな人達が、自分たちのやりたいことや夢を叶えていく場所として、今のまま、その役目を果たしていければいいな、と思っています。
またその一方で、2016(平成28)年4月から入谷界隈の16店舗と一緒になって、毎月第2土曜日に、普段とは違う特別なおもてなしをしよう、という「グッデイ入谷」という新しい活動も準備していて、こうしたイベントも含め「入谷で何か面白いことが起きているぞ」という気運を高め、横同士での繋がりを深めていくことに貢献できたらいいな、とも考えています。
秋元さん:私も、横の繋がりづくりは大切にしていきたいと思っています。この辺りは下町ですが、以外とお店同士が、お互いをよく知らなかったりということがあります。私たちがその仲介役となって、うまく繋げていくことができればいいですね。
今村さん:僕らは、いろいろな方に、フラットに向き合える中間的な立場です。その特性を生かして、人の繋がりをマッチングできたら理想的だと思っています。
この施設も、白を基調とし、あまり物を置かず、ニュートラルな空間にできています。「仕掛けていながらも暗躍する」、そういう役割で在りたいです。
古いものと新しいものが共存・共栄する街
Q.地域と関わる中で感じる、この街の魅力とは?
今村さん:西側と大きく違うのは、「歴史や文化が深い」ということです。また、住んでいる方もフレンドリーな方が多く、街に対するこだわりも大きいと感じます。
その一方で、今は新しいファミリー層も徐々に増え始めているので、この素晴らしい歴史や文化について、受け入れやすい形で伝えていければいいな、と思います。
秋元さん:私はここに勤めて1年で、入谷歴もまだ1年なのですが、今まで「下町」と言うと、外の人を受け入れてくれないんじゃないか、というイメージがありました。でも、実際はそのようなことは全く無く、「分からないことはどんどん教えてあげるよ」と、とても親切な方ばかりでした。本当に懐の深い街です。いろいろなものを受け入れてくれる、古いものと新しいものが共存・共栄する街だと思っています。
Q.お二人のおすすめのスポット、休日の過ごし方などについて、教えてください
今村さん:この辺りはチェーン店が少なく、個性的なお店が多くあります。たくさんお薦めの店はありますが、僕は「トロント」という純喫茶が居心地よくて、よく行きますね。何を食べても美味しいですし、落ち着けます。
他にも、古い建物を改修したカフェもおすすめですね。「イリヤプラスカフェ」さんや、ゲストハウスの「toco.(トコ)」さん、展示やイベントなどもやっている「そら塾」さんなど、その3つは古い建物を活用していて、この街らしいなと思います。
休日は、徒歩圏内に「上野公園」があるので、休日にはのんびり遊べるおすすめのスポットですね。大人にとっては、カフェに行けたり、芸術にも気軽に触れられる地域です。子どもにとっては動物園があったり、博物館があったりと、いろいろな楽しみ方ができると思います。
秋元さん:私は、「合羽橋道具街」がとても好きですね。ここから歩いて約10分で行けるので、よく散策に行っています。浅草も近いですし、自転車で回っても平坦で走りやすく、スカイツリーが目印になっているので、迷うことも無いですし、散策が楽しい地域です。小さくて美味しいお店も多いので、そういうお店を巡ってみるのもいいかもしれませんね。「入谷家の食卓」で知った店を回ってみるのも面白いのではないでしょうか。
Q.では最後に、この街を一言で表すと何でしょうか?
今村さん:僕は一言で表すと「奥上野」ですね。上野は賑やかな街ですが、この辺りに来ると静かで、個人経営の“味のある”お店や街並みが多いのでその対比が面白い地域だと思います。
秋元さん:私は人情的な面で「懐の深い街」だと思います。人があたたかくて、親切な街ですね。
今回、話を聞いた人
合同会社 点と線と面
共同代表 今村ひろゆきさん
ディレクター 秋元眞理さん
※2016(平成28)年2月実施の取材にもとづいた内容です。 記載している情報については、今後変わる場合がございます。
SOOO dramatic!
所在地:東京都台東区下谷1-11-15
http://sooo-dramatic.com/