新しい江戸の粋を感じる「手描き提灯」の魅力
秋葉原というと、家電製品やアニメの街として世界中に知られているが、そんな中に江戸時代から続く「提灯」のお店がある。都内では少なくなった「手描き提灯」を作ることでも貴重な存在だ。現在、七代目の吉野喜一さんに代わって、お店を守りながら提灯のさまざまな可能性を探る娘の吉野由衣子さんに、提灯の魅力や秋葉原という街について話を伺った。
――創業から今に至るまでのお店の歴史について教えてください。
吉野さん:創業は1854(安政元)年で、江戸時代の末期に始まりました。場所も変わらず、佐久間町で始まってから今年で約165年になり、今は父が七代目になります。父は非常に多才な人で、経営だけではなく自らから筆をとって提灯を描いていました。今でも父の字のファンといって下さるお客様もいらっしゃいます。
――現在、手描き提灯はどのような場所で使用されているのでしょうか?
吉野さん:今でもご愛顧頂いているのは、昔ながらのお祭りや神社仏閣、お盆の時期になると盆提灯をご用意させて頂くことも多いです。また、新しくなった歌舞伎座タワー地下2階にある「木挽町広場」の大提灯も担当させて頂きました。巨大な提灯を天井の装置に吊るして作ったことはとても印象に残っています。あとは、地元の神田祭の時期はおかげさまでとても忙しくさせて頂いております。
――「手描き」に込める想いを教えてください。
吉野さん:江戸前の提灯なので「江戸文字」という文字で書かせて頂くことが多いです。書体は地方によって違いがありますが、こちらで作っているのは勢いがあり、シンプルで読みやすい点が特徴となっています。ほかにも魚河岸で使うひげ文字や、勘亭流などいろいろありますが、見ているだけで元気になれるような、江戸っ子の粋でいなせな様子が伝わるといいなと思っています。
――いつ頃から神田祭とかかわるようになられたのでしょうか。
吉野さん:神田で創業しているので、私は物心ついたころから関わりがありました。いつというよりも、神田祭とともにあるというイメージです。神社やお祭りのあるところでは提灯も共にご愛顧頂いていますので、神田祭にはとても感謝しております。5月のお祭りなので、3月頃から職人さんは寝る暇も惜しんで作業するくらい忙しくさせて頂いております。
――神田祭にかける想いなどがあれば教えてください。
吉野さん:長年住んだ神田エリアから郊外に引っ越していかれる方でも、お祭りのときは必ず戻って来てくださり、お祭りを楽しんでおられます。また、最近引っ越してこられた方は、お祭りやお神輿に興味を持ってくださる方が多いのですが、「参加したいけど、担がせてはもらえないのでしょうね」というように敷居が高いイメージを持たれがちのようです。しかし、町内会は高齢化が進んでいるので、若い方が参加するのはとてもウエルカムです。元気にお神輿を担ぐ地元の先輩方と一緒に、新しい方々もお祭りを楽しんでもらえたらと思っています。
――このショールームには昔ながらの提灯だけでなくいろいろな「灯り」が展示してありますね。
吉野さん:このギャラリーはインテリアとしての提灯に親しんでもらいたいという思いから、作品の展示をしています。イサム・ノグチさんの灯りや提灯など、新しいものも多く展示しています。やはり今時の若い方が提灯を家に置くことは珍しいと思いますので、まずはこういったインテリアとしての灯りから親しんで頂けたら幸いです。
――秋葉原という立地ならではの試みはありますか?
吉野さん:手塚治虫さんの手塚プロとコラボレーションした「アニメ提灯」などがあります。鉄腕アトムやメルモちゃん、ケロロ軍曹など。手のひらサイズの小さなお土産用のアニメ提灯もあります。こちらは購入することもできます。こういったコラボレーションはこれからも続けていきたいと思っています。
――今後お店として新たに取り組んでいきたいことなどについて教えてください。
吉野さん:もちろん今までように、古くて良いものも作り続けていきたいですし、一方で新しいコラボレーションも挑戦していきたいです。以前、ドレスのデザイナーさんとコラボした、和紙と提灯の柔らかい光の中で輝くドレスの光景はとても素敵でした。やはり、間接的な柔らかい灯りというのがすごく日本的で、一周回って新しく感じていただけたらなと思います。また、最近では「日比谷公園」で手描き提灯のワークショップをやらせていただくこともあり、とても良い経験になりました。今後も提灯を身近に感じてもらえるよう、様々なワークショップをひらいていきたいと思っています。
――「暮らす」という点から見たこの街の良いところはありますか?
吉野さん:何より電車の便がすごく便利になりましたよね。どこに行くにも近すぎるくらいの便利さです。あとは「ライフ」などの大きなスーパーや「ドンキホーテ」「ヨドバシAkiba」などもあるので、ほとんどのものは駅前で揃うと思います。
――最後に、神田佐久間町周辺のおすすめスポットがあれば教えてください。
吉野さん:やっぱり昔ながらのお蕎麦屋さんはいいですね。淡路町の方になってしまいますが、私は「神田まつや」が大好きで、「お蕎麦を食べるなら神田まつやさん!」と決めています。あと、粟ぜんざいと揚げまんじゅうが美味しい「竹むら」さん。佐久間町だと、昔ながらの「柏屋」というお煎餅屋さんが古いままで今でも残ってくれています。とても美味しいですよ。あとは近くの「和泉町公園」も広くて好きです。近くには、「千代田パークサイドプラザ」や「三井記念病院」もあるのでそれも便利ですね。このエリアにはうちのような古い店もあれば、新しいお店もあり、新旧が共存する素敵な街だと思います。
今回、お話を聞いた人
吉野家商店 吉野由衣子さん
※掲載の情報は2018(平成30)年10月のものになります。
新しい江戸の粋を感じる「手描き提灯」の魅力
所在地:東京都千代田区神田佐久間町2-13
電話番号:03-3866-2935
http://www.e-yoshinoya.jp/