くにきたベース
国立駅北口側の閑静な住宅街、国分寺市光町。その一角で、「駄菓子屋」と書かれた鮮やかな旗をなびかせている「くにきたベース」。駄菓子屋でありながら、真の目的は「ベース」の名に込められた、「みんなで作るひみつ基地」という部分にある。子どもによる、子どもの自治エリア。それがこの駄菓子店の本質だ。
今回はこの場所の主である佐藤和之さんに、「くにきたベース」のふだんの様子と、佐藤さんらが主宰する「ベースクール」のこと、国立駅北エリアの魅力についてお話をうかがった。
――まずは、「くにきたべーす」とはどんな場所なのか、教えてください。
佐藤和之さん:基本的には、見てのとおり「駄菓子屋」です。ここはもともと私の実家だった建物で、今も2階と3階に私が住んでいるんですけれど、親父が昔建具屋をやっていて、1階はその作業場だったんですね。でも、20年くらい前に親父が亡くなって、その後私が5年くらい前に会社員をやめて、自由の身になったとき実家の物置になっていた一階のスペースを改装して地域に開いた、というものです。
実家をこれだけの広さがあるところが空いた時に、「さあ、どうしようか……」と考えたとき、当時すでに国立には、変わったことをしているスペースがいくつかあって、1階をオープンにして2階をシェアハウスにしていたり、という方がいたんですね。そういうところを見るうちに、「うちも2階は住んだままで、1階をほかの人に使ってもらおうか。それも面白かろう」と思い立って、オープンしました。
――最初はどのような活動からスタートされましたか?
佐藤和之さん:最初のうちは、子どもたちを集めて小さくワークショップ開いたり、端っこに駄菓子を並べていたりという感じなんですが、だんだん子どもが集まるようになってくると「ここで子どもの対話の場をやってみたい」という話が舞い込んできて、「そういうことなら、定期的に開けて、塾みたいなことをやるのも面白いかな」と思って、流れ流れて、今に至っています。
――駄菓子が子どもたちが集まるきっかけになった、という感じはあったのでしょうか。
佐藤和之さん:そうですね。もともと駄菓子屋をやろうと思っていたわけじゃなくて、ほかのスペースで駄菓子を置いているところが多かったので、入ってもらうきっかけになるのかな、と思って。何もないオープンスペースだと入りづらいじゃないですか。だからなんとなく並べていたら、気づいたら駄菓子屋になっていたという感じです。
――「ベースクール」という学習塾のようなところで言うと、どんな活動をされていますか?
佐藤和之さん:「ベースクール」は2019(平成31)年からやっていて、実はこれには前身となる「つくし文具店」が国立(国分寺市西町)にあって、そこは30人くらいで運営しているスペースでした。「つくし文具店」はメンバーが日直という形で日替わりで店番に立ったり、仲間と「地域をどうやって面白くしていこうか」みたいなことを、考えているところなんですね。
この活動の中で、萩原修さん(つくし文具店代表)と、ベースクールで講師をやっている、幡野雄一(ハタ坊)と知り合って、「3人で何か面白いことをやろうか」と考えたのが、「ベースクール」の始まりです。
――「ベースクール」では、「テーマを決めて探求学習をする」ということも行われているそうですね。
佐藤和之さん:一応「探求型学習塾」と名乗っているので、そういうのもやっています。これは簡単に言えば、夏休みの自由研究のグループワークみたいな感じなんですけれど、最初に「このテーマでやろう」ということをグループで決めて、それを3か月かけてやっていくというものです。
ただ、学校のようにゴールを決めてスタートするんじゃなくて、「こんなことをやりたい」というところから始まって、そのまま流れに任せる感じなので、大成功したこともありますし、なんの成果もなく、まったく無意味に終わったようなこともあります。だから学校の成績にはあんまり関係ないですよ(笑)。
――その中で、面白かったテーマなどがあれば教えてください。
佐藤和之さん:面白かったのは、オンラインで「スイーツ対決」をやった時ですかね。みんなでスイーツをぞれぞれ作って、写真に撮って、その「映え」を競ったんですけれど、うちは「講師も一緒に楽しむ」っていうのがコンセプトなので、自分もスイーツ作りに全力で挑戦したんですよ。で、アップした写真に対する拍手の数で競ったんですけれど、全然ダメでしたね。高学年の子が強かったです。
もうひとつ面白かったのは「名字」について調べた時ですね。どこにどんな名字があるのか、その辺りを全部回って、表札を調べたりしました。けっこういろんな名字があって、子どもたちも夢中で調べていましたね。
最近だと動画制作が流行っていて、この場所も使って、子どもがすごい頑張って撮影するんですけれど、いろいろハプニングが起きて思い通りに撮れなかったりして、見ていて飽きないですね。毎日、おかげさまで楽しく過ごしてます。
――子どもたちの学びを応援する中で、気をつけていることは何ですか?
佐藤和之さん:心がけているのは、自分も同じ目線で、全力で楽しむということです。だから「教える」っていう感覚は全然ないです。面白くなかったら「面白くないぞそれ」って言うし、楽しい時は一緒に全力で楽しむし、飽きたらやらない、みたいな感じで(笑)。
――子どもたちはここでどんな過ごし方をしていますか?
佐藤和之さん:圧倒的に多いのはゲームですね。うち、ゲームの時間制限をしていないんですよ。みんな家ではそうしていると思うので。だから夢中でやってますね。ゲームをずっと占拠していたらさすがに怒りますけれど、基本的には譲り合いながら、好きなことを好きなようにやっていいよ、というスペースなので何も言いません。女の子だと、ただひたすらおしゃべりして帰っていく子も多いですね。
――佐藤さんもゲームがお好きなのですか?
佐藤和之さん:死ぬほど好きで、めちゃめちゃやります。普段も、子どもと一緒にムキになってやってますよ。
ただ、ここにあるゲーム機もモニターも、全部もらい物なんですよ。こういう変わっていることをやっていると、皆さん寄付してくださるんですね。おもちゃも、本も本棚も、地球儀も、みんなもらいものです。マンガだけですね、自分で買ったものは。
――この場所を使うにあたって、ルールはありますか?
佐藤和之さん:「仲良く遊べ」とか、「ゲームは交代で遊べ」とか、「ものを丁寧に扱え」とか、そのくらいですね。あとは子どもに任せています。だから喧嘩が始まりそうになっても、止めないんですよ。いじめがあったらそれは怒りますけれど、「こいつらいい感じにもめてるな」と思ったらスルーです。
――何か面白いエピソードなどがあれば教えてください。
佐藤和之さん:エピソードは…そうですね、とにかく、もらい物がすごく多いんですね。この間もマンガをもらったし、鍵盤ハーモニカとかフルートももらったし、ここで仲良くなった子が引っ越していく時に、大事にしていたぬいぐるみをもらったりもしました。そのぬいぐるみは今も上に飾ってありますよ。
あと、何年もやっていると、小さかった子がだんだん言葉を覚えていって、というのを見られたりして、それはすごく面白いですね。お姉ちゃんがよくしゃべる子だったら、弟もコピーのようになって、やたらよくしゃべる子になったり。日々そんな感じで、成長を楽しんでいます。
――東村山でも「ベースクール」をスタートさせたそうですが、今後、国立以外にも広げていかれる予定ですか?
佐藤和之さん:ベースクールは今、月曜がハタ坊担当、火曜日はオンラインで私の担当、水曜日はふたりで見て、金曜日が東村山の「百才(ももとせ)」いう場所と、ここ「くにきたべーす」の2か所で、同時開催でやってます。東村山はハタ坊、ここは自分が担当という感じですね。
この「百才」のベースクールはつくし文具店の修さんのつながりで始まったものなんですけれど、基本的にベースクールは「近くの子が通うところ」という形でやりたいと思っているので、東村山以外にも、今後はもっといろんな場所に開きたいと思っています。
――街ごとに内容も変わる予定ですか?
佐藤和之さん:そうですね。ただ、場所というよりも「そこの場所を立ち上げた人」に注目した企画にしたくて、たとえば日野のスペースは材木屋さんがやっているので、材木屋さんならではの何かができないか、ということで今、考えているとことろです。
――今後、広げていきたいこと、やってみたいことを教えてください。
佐藤和之さん:ひとつはいまお話した、活動拠点を広げるということですけれど、あとは、「地域の大人と子どもが一緒に遊ぶ」的なことをもっとやりたいと思っています。ベースクールの授業をやっても、大人は基本的に自分と幡野くらいしかいないので、そこにもっと、大人が混じっていけるような形を考えてみたいですね。
それから、私自身、「子どもと一緒に仕事をしたい」っていう思いがあって、だからこんなことをやっているわけですけれど、最近始めたことのひとつが、仲間が主催している撮影会の企画の中に、子どもを参加させるということなんですね。たとえば結婚式の撮影会なんかに、子どもが入ってくるわけですけれど、そうすると、すごく柔らかい感じになるんです。
そういう体験を通して感じる、なんというか、「子どもの仕事」ってあると思うんですね。だから、こういう体験をもっと増やしていければ、地域で子どもが一緒になって活躍できるし、それが「お金を稼ぐ」という実感にもつながっていくと思うんですね。
やっぱり、いきなり大人になってから「お金を稼ぐためにはこれをやれ」って言われも訳わかんないじゃないですか。だから今のうちに、「子どもでも、自分はこんなことができて、それは価値があって、お金がもらえることだ」っていうことを体験できれば、それはすごいことなのかな、と思っています。
あと、子どもと一緒に音楽もやってみたいですね。実は忌野清志郎さんがこの近くの出身なので、いま国分寺市のほうで、地域を盛り上げるための、新しい音楽のイベントを考えているそうなんですけれど、そこにうちも参加させてもらって、何かをやれたらいいな、と思っています。ゲームも楽しいですけれど、ゲーム以外にも面白いものは沢山ありますからね。ただ、自分が泣くほど音楽が下手で、教えられないのがなあ…(笑)。
――最後に、国立駅北側エリアの魅力と、おすすめのスポットを教えてください。
佐藤和之さん:北口側って正直、何かめちゃめちゃ魅力があるかと言われれば、そうではないんですね。でも、どこも「住めば都」じゃないですけれど、いいところなんですよ。自分も去年の春、何もやることが無くなったので、近所をめちゃくちゃ散歩しまくったんですけれど、ふときれいな庭に出会ったり、落ち着いた神社があったり、富士山がちらっと見えたり、特に何があるわけじゃないですけれど、無いなりに落ち着いた、いい住宅地なのかなと思います。……(ゲーム中の子どもに)どう?ほかにある?
「JR公園の、たまごすべり台かな。そこに登れる木がけっこうあるよね」(子ども)
そうそう、この辺りの「光町」という地名が、新幹線の「ひかり」から来ているんですけれど、そこの「鉄道総合研究所」で新幹線の開発をやっていたらしいんですね。ひかりの車両も展示されていて、中も見学できるので鉄道マニアの子には魅力かな。
「あと、でっかい建物があんまりないところ。騒がしくない。ここらへんだって静かだしね。静かだといいじゃん。」(子ども)
なるほどね。子どもも静かなところがいいらしいので、そこは魅力だと思いますね。あとは、南は家賃が高いので資本系のお店が多いですけど、北は個人でやっている面白いお店、美味しいお店がけっこうあって、特に線路沿いに立川のほうにちょっと歩いた辺りが面白いですね。
アンティークのお店がけっこうあったり、うつわ屋さんの「ガレージ」とか、画家の方がやっている「フジカワエハガキ」とか、「ord(オルド)」っていうカフェとか。あとは、さっき話した「つくし文具店」とか、ここに通っている生徒さんのお父さんがやっている「キッチンゆいっと」とか、探せば面白いお店がけっこうあるので、そういうところを、ふらふらっと楽しんだら楽しめる街だと思います。
くにきたベース
佐藤和之さん
所在地 :東京都国分寺市光町1丁目39-9
電話番号:090-9134-0996
URL:https://kunikitabase.mystrikingly.com/
※この情報は2021(令和3)年5月時点のものです。
くにきたベース
所在地:東京都国分寺市光町1丁目39-9
不定期営業
https://kunikitabase.mystrikingly.com/