SPECIAL INTERVIEW:町田市立南大谷小学校
農業体験の豊富さと、地域との関わりの深さが自慢!
水と緑に囲まれた、静かな環境にある小学校
町田市の中心市街地から徒歩およそ30分ほど。小田急線でひと駅分も離れていない場所にある「町田市立南大谷小学校」は、恩田川のきれいな流れと深い緑の森に包まれた、街の喧騒とは無縁の小学校だ。その敷地は長辺を恩田川に沿わせた三角定規のような形をしており、鋭角側にはちょっとした畑と田んぼと森が、直角側には天然芝のグラウンドが広がり、学校を特徴づけている。
学校教育にもこの自然環境は生かされており、特に、バリエーション豊富な農業体験は「南大谷小」ならではのもの。そしてその背景には、尽力を惜しまない地域の人々の協力体制があるという。今回はこの学校で8年もの長い間、校長を務められている西岡郁雄先生をお訪ねして、学校の特徴や見どころ、隣の中学校との連携体制、普段の子どもたちの様子や、地域の魅力などについて、いろいろとお話を聞いた。
町田市立南大谷小学校
校長 西岡郁雄先生 インタビュー
地域の中で育まれる南大谷小学校
–まず、学校の概要について教えてください。
西岡先生: 1974(昭和49)年にこの学校はスタートしておりますので、今年で43年目になります。児童数は665名、学級数は普通学級が20クラス、特別支援学級が4クラス、合計24クラスという学校です。
学校の特徴を一言で言いますと、「地域の中の学校」ということが、一番の特徴だと思いますね。とにかく地域の方がよく協力して下さって、ボランティア数を見ても、昨年度はのべ5,000人以上の方に協力して頂きました。
その中で、最もうちの特徴的なものであり、多くの地域の方に協力を頂いている活動というのは、農業に関しての活動です。本校では「自分たちで作って食べる」ということで、お米、じゃがいも、さつまいも、キャベツ、大根、トマトなんかを、けっこう本格的に作っていまして、去年からはスイカなんかも作っています。これも地域の方の協力で成り立っているものですね。
子どもたちの特徴ということでは、「話を聞く姿勢がある」ということが非常に大きな特徴になっています。今も授業中なんですけれど、人がいるか分からないくらい静かでしょう。朝会や集会でも、誰もしゃべる子がいない。それがうちの学校の子どもたちの、一番の特徴なんです。先生の話をちゃんと聞くから、荒れたクラスなんてのは、一つもありませんよ。もちろん、先生たちも本当に頑張ってくれています。職員の平均年齢が34歳という、若い先生が多い学校なんですが、一人ひとりの先生がすごくしっかりしていますから、学校がすごく落ち着いているんですね。
僕も日頃から子どもたちに「正しい言葉を使おうね」ということを言っていますけれど、あいさつや整列、言葉遣いという生活態度全般についても、おそらく、町田市の中で一番の水準にある学校だろうと、僕は思っています。
「ブランド」で「プライド」を創る
–昨今は農業体験の一つで、「銀杏(ぎんなん)プロジェクト」にも力を入れているそうですね。
西岡先生: そうですね。この学校で最も特徴的な活動と言ったら、それかもしれません。「銀杏プロジェクト」というのは、うちの学校にあるイチョウの木から、落ちている銀杏を自分たちで取って、それをボランティアの方と一緒になって、つぶして、洗って、干して、それを6年生が、11月の学習発表会や学芸会、展覧会といった時に、保護者や地域の方に販売するものです。
で、見て欲しいのはここの値段なんですけれど、初めは4万円ぐらいからスタートしたものが、年々増えていって、昨年度は19万円以上にもなったんですね。このお金については、ほとんど全額を、「アジア友好協会」という団体を通して、アジアの学校作りのために寄付しています。ごく一部は卒業式の胸花や、卒業証書を挟むバインダーなどにも使っていますが、それ以外はすべて寄付ということで、これも子どもたちのモチベーションになっているのかと思います。
–ユニークなマスコットキャラクターがいるんですね。
西岡先生: これは「みなみちゃん」っていうキャラクターで、40周年の時に作ったんですね。アイディアは子どもたちが出して、それを、ここの卒業生の工業デザインの人たちが、形にしてくれたというものです。そういうところも含めて、すごく、地域の方やOBの方、保護者の方が協力的な学校なんですね。
僕はつねづね、「南大谷小ブランド」っていうのが、できたらいいな、と思ってきたんですが、それがここ最近、やっと見えてきたと思っているんです。地域の人が学校に入ってくることで、学校がどんどん良くなっていって、それが、地域の「プライド」になる。そんな学校になっていけたら理想ですね。
–開校40年を超えると、2世代、3世代という方も増えているのでしょうか?
西岡先生: 親御さんがここの卒業生という方は多いですね。最近はますます住み良くなっているので、ずっと暮らし続ける人が多いんでしょうね。学校の前の恩田川も、昔はドブ川なんて言われていた時代もあったんですけれど、今はホトケドジョウが住むような、カワセミも毎日やって来るような、非常にきれいな川になっていますから。
駅から近くて、家も沢山ある割には、とてもきれいな自然がある地域ですから、ずっと住みたいという気持ちになりますよね。
実際に体験することの大切さを学ぶ
–学校行事について、特徴的なものがあれば教えてください。
西岡先生: ユニークなものと言えば夏休みの防災訓練でしょうか。これは「オヤジの会」が主催しているものなんですが、本格的に、宿泊をともなって行っているものでして、小中学生がお父さんたちと一緒に、土曜日の夜に体育館に泊まって、翌日の日曜日に地域防災訓練をやっています。日曜日については地域の方も沢山いらっしゃるわけですが、その時には、子どもたちが泊まった時の様子を発表したり、危険箇所の点検や、防災の道具の点検を行って、その成果を発表したりします。
こういうことを毎年やっていますから、子どもたちも体育館で、ダンボールを敷いて寝る大変さというのをよく分かっていまして、たとえば熊本や東日本の地震での避難所の大変さというのも、身をもって、よく理解してくれているようです。それに実際に経験しておくと、それがいざという時に、すごく役に立つ。これも非常に良い体験になっていると思います。
近隣教育施設とも連携を
–すぐ隣に大谷南中学校もありますが、小中連携としては、どんな取り組みをなさっていますか?
西岡先生: 中学校とは「連合運動会」というのをやっていまして、これが連携の一つと言えるでしょうか。これは「町田第五小学校」とうちの小学校が同じ中学校学区なので、小中合わせて3校の合同運動会を開催しているというものでして、一部、中学校の校庭を使って行っています。去年は主にうちの校庭でやったんですが、中学校の校庭では、同じ中学校に来る子どもたち同士でリレーをしたり、大縄跳びをやったり、ということもしました。
そのほかでは、さっきもお話しした、防災訓練についても、中学校の協力のもとでやっています。今年は中学校の校庭を使って防災訓練をしたんですけれど、次からは引き取り訓練も、中学校と小学校が連携して行えればと考えているところです。中学生が小学生を連れ添って、家まで一緒に帰るという訓練も、今後は行っていきたいですね。
–地域や近隣大学等との交流についてお聞かせください。
西岡先生: 一番はやはり、農業体験をする時に、地域のいろんな場所に行きますから、そこでいろいろと、説明を頂いているということですかね。学校で野菜を作るという時についても、やっぱり、自分たちだけではなかなかできませんから、実際に作っている人たちを講師に招いて、いろいろと教えて頂いています。
あとは、先ほども言ったとおり、地域めぐりをした時にボランティアに入って下さったり、放課後に時々やっている学習会の時に、地域の方が講師に入ってくれたりという、そんなところが大きいでしょうか。
この学習会は補習的なものですから、基本的なところの勉強をさせているわけですが、そのお手伝いを地域の方がすごく熱心にして下さっていて、手作りのドリルなども使いながら、勉強が苦手な子たちにも、非常に丁寧に教えてくれています。
そうすると帰りなんかも同じ時間になりますから、子どもと一緒に、お話しながら帰ってくれたり、という和やかな光景も見られますね。だからうちの子どもたちは地域に知り合いのおじさん、おばさんがけっこう多くて、外で会えばちゃんと挨拶をしますし、中学校に進んでも、(地域に知り合いが多いということもあって)、何か注意をすればちゃんと聞き入れる姿勢を持っていたりと、良い影響が出てきているのではないか、という話も、地域の方からしばしば聞きます。
大学との連携については、「玉川大学」さんといろいろな面で協力していまして、今も飾っている「フラッグアート」なんかは、小・中学校と、玉川大学が一緒になって制作したものですし、英語教育についても色々やっています。先日は台湾とシンガポールの留学生が来てくれて、授業の時間を使って交流会をしたり、一緒に給食を食べたりましたし、今年の9月からは「英語塾」という、玉川大学と協力した学習会も開いていきたいと考えています。
これは、とりあえず今年は最初ということで、3年生以上から選抜したメンバーで、玉川大学の先生が考えたカリキュラムについて、どこまで子どもたちが対応できるかということを見ていこうという段階なんですけれど、今後広げていければ良いのかな、と思っています。
新たな伝統は、子どもたち自身で受け継いでいく
–校庭の芝生についても、町田市内では先進的に取り入れられたそうですね。
西岡先生: そうですね。これは6年前に芝生化しました。いま、町田市内には13校の芝生の校庭の学校があるんですが、最初に作ったのが、私の前の赴任地の小山田小学校でして、今から10年ぐらい前のことだったでしょうか。それからこちらに移ってきましたので、赴任早々から芝生化に取り組んできまして、この学校は市内で2番目に天然芝になった学校ですね。
天然芝の何が一番いいかと言えば、怪我がすごく減るんです。以前に統計を取ったことがありますけれど、5分の1に減りましたね。あとは、土の校庭だと子どもが寝そべって遊ぶということはまず無いと思うんですが、芝生だとできますから、子ども遊びの種類を増やすことにもつながります。もちろん、疲れた目も癒やされますし、運動会の組み体操も安全にできますし、メリットはすごく多いですね。学校の周りが住宅地ですから、砂ぼこりの立ち方も穏やかになったと、地域の方からも非常にご好評をいただいています。
芝生の管理については、子どもたちが管理計画を立てて、環境委員会を中心になって守っています。たとえばここの校庭の芝生には「夏芝」と「冬芝」というものがあるんですが、運動会が終わると冬芝の種を、5年生と6年生が一緒になって蒔くんですね。これも6年生が5年生に教えるような形で毎年やっていますから、うまく短時間でやる方法についても、毎年子どもたちの手で受け継がれていて、新しい伝統になってきています。今ではもう、先生たちが何も言わなくてもスムーズにできてしまうくらいですよ。
–先生方が子どもたちと関わるうえで、特に気をつけていることは何でしょうか?
西岡先生: 僕はやっぱり、一人ひとりの子どもを大事にしたいので、「フルネームで呼ぶ」ということを推奨しています。この学校の先生方みんなにもお話ししているんですけれど、665人いれば、665人の子どもの名前を覚えているといいですよね、なんて話をしていますね。やっぱり、フルネームで呼ばれると、子どもも嬉しいですし、先生に親しみを感じるでしょうし、全員の名前を覚えていれば、先生の数だけ、たとえば先生が40人いたら、40通りの(子どもの)いいところが見つかるわけじゃないですか。もちろん重なるところがあるでしょうけれど。そうすると、今まで気が付けなかった子どもの良さに、気がつくこともできると思うんですね。 いろんな子どものいいところを見つけることが(先生方の)共通の話題になっていけば、子どもに対する顔の向け方というか、取り組み方が変わってくるんだと思います。自分のクラスだけではなくて、学年、違う学年だったりと、視野が広がるでしょう。そういう部分も期待していますね。
–最後に、このエリアの魅力についてお聞かせください。
西岡先生: 一番の魅力は「自然の中で体験的な活動ができる学校がある」ということでしょうね。山があり、川があり、丘があり、公園があり、地域も穏やかな雰囲気で。それが一番ですね。
それから、地域の方がとても教育熱心で、子育て熱心です。もはや地域性と言えるくらい、熱心なんです。だからこそ、うちのボランティアにこんなにも沢山の方が参加してくださっているんだと思います。それも素晴らしいですね。
もちろん、町田市は大きな都市で、駅前はとても便利ですし、にぎわっているんですけれど、ここに来れば、駅から近い割にはとても自然が豊かで、静かで、暮らしやすい場所が広がっている。それも魅力でしょうね。東京都内なのに、カワセミが毎日見られる。そんな場所って、ほかになかなか無いんじゃないでしょうかね。
今回、話を聞いた人
町田市立南大谷小学校
校長 西岡郁雄先生
SPECIAL INTERVIEW:町田市立南大谷小学校
所在地:東京都町田市南大谷811-1
電話番号:042-725-2551
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