横浜市最古の寺/弘明寺
横浜市内最古の寺として知られる高野山真言宗の「瑞應山 蓮華院 弘明寺(ぐみょうじ)」。およそ1300年もの歴史あるお寺で、地域の人には“観音様”と呼ばれ親しまれている。本堂には木造の十一面観世音菩薩立像(国指定重要文化財)が本尊として祀られており、地元の方はもちろん遠方からも多くの参拝者が訪れている。「弘明寺」の門前町として発展してきた地域には全長312mものアーケードが続く「ぐみょうじ商店街」があり、今なお活気ある商店街として地域の生活を支えている。今回はまちづくりの中心となった「弘明寺」を訪れ、お寺の歴史や地域のお話についても伺った。
今からおよそ1,300年前に遡る「弘明寺」創建の歴史
――まず、「弘明寺」創建の歴史について教えてください。
横浜最古のお寺として知られる「弘明寺(ぐみょうじ)」ですが、お寺の言い伝えによると奈良時代の721(養老5)年に善無畏(ぜんむい)三蔵というインドのお坊さんがこの土地を訪れ、山にたなびく紫の雲を見て「後々ここは仏教の聖地になるであろう」と七ツ石(ななついし)と呼ばれる結界石を置いたのがはじまりとされています。
その後、天平年間(729~749年)になると聖武天皇の勅命により東大寺を建てるため全国各地を歩き回って資材集めをしていた行基(ぎょうき)というお坊さんがこの近くを訪れ、近くにあった民家に「一晩泊めさせてください」とお願いをしたそうです。善無畏三蔵が感じたような霊的なものを感じたのでしょう。
すると、その村では炎のように身体が熱くなる“ほのやみ”という病気が流行っていることを知り、その晩お休みになった夢の中に山の神様が出て来られて、山の中にある神木を授けるからその木に観音様を彫りなさいとお告げになったそうです。
現在のように薬も抗生物質も無い時代ですので仏様に祈るほか無く、一刀三礼つまり一刀刻む毎に三度礼拝するように真心を尽くして彫刻したのが、現在の御本尊「十一面観世音菩薩(じゅういちめんかんぜおんぼさつ)」様です。
十一面観音様というのは、悪疫と呼ばれる悪い病気が流行ったときに、病気から守ってくれたり、亡くなった方々の魂を沈めるために祀られていたもので、行基さんが彫って祀ったところ、熱がとれて村の皆さんの病気が治ったそうです。それがお寺の縁起になって今も言い伝えとして残っています。
その後、本堂が建てられたのは平安時代の1044(寛徳元)年のことで、行基さんを慕う光慧(こうえい)上人というお坊さんがこのお堂をお開きになって観音様を祀られたといわれています。現在の本堂は1766(明和3)年に再建されたもので、震災や戦火を免れて250年もの時を経て現存する歴史的な建物です。
多くの参拝者が訪れる坂東三十三観音第十四番札所として
――坂東十四番霊場とは?
鎌倉時代になると観音様の信仰が厚かった源頼朝公が自分の領内にある古いお寺から三十三の観音様を巡る、今で言うツアーのようなものを発案されました。
三十三という数字は観音様が三十三の姿に身を変えて人々を救いに来るというお経に説かれているもので、三十三はいわゆるラッキーナンバーなんです。鎌倉街道から近いこのお寺は、浅草の観音様の次の十四番目の霊場として選ばれ、多くの参拝者が訪れるとともに門前町としての発展を遂げることになります。
その後も室町時代、戦国時代と時代の移り変わりとともにいろんな武将の庇護のもとに信仰されてきましたが、江戸時代になると物見遊山、つまりレジャーを兼ねて訪れる人が増えました。『江戸名所図会(えどめいしょずえ)』という近郊のレジャースポットや観光名所を説明するガイドブックのようなものにもお寺が載っているんですけど、「あそこに行けば古い観音様があるからお参りしながらお蕎麦でも食べようか」と庶民信仰のお寺になっていきます。
江戸時代はどこへ行くのも手形が必要で、ただ遊びに行くのではなく「お寺参りに行きます」と言えば発行してもらえるものだったから、寺社仏閣を巡る旅というのは江戸時代になってから非常に盛んになって、この観音霊場も隆盛を極めるわけです。
戦後の闇市から商店街として復興した弘明寺の街
――弘明寺の街の歴史についても教えてください。
観光のガイドブックにも載るようなお寺だったこともあり、人の集まるところには自然と食べ物屋さんやお茶屋さんも出来るもので、徐々に街としての賑わいをみせるようになります。
現在のような商店街として発展したのは戦後のことで、空襲を免れた「弘明寺」には多くの人が集まるようになり、門前では闇市が開かれていました。1956(昭和31)年に架けられた全長270mのアーケードは、当時、東洋一と讃えられたほどで、今も国内有数のアーケード商店街として知られています。
商店街のある街として発展して来た背景には、現在のご住職の祖父にあたる美松寛海(みまつかんかい)和尚の取り組みもあり、地域の人たちと連携してお寺だけではなく地域自体を復興させていこうという考えをお持ちの方で、大岡川の川沿いに桜を植えたり、商店街にするための道を整備したりと、まちづくりにも積極的に取り組んだ名物和尚だったと聞いています。
古い檀家さんにお話しを聞くと、体格も大きく性格もおおらかで誰にでも気さくに話しかけるような方だったようで「かんかいさん」と呼ばれ親しまれていたそうです。
毎月8日、18日、28日の8のつく日に行われる護摩
――お寺で行われる年中行事についてご紹介ください。
お寺で行われている年中行事はホームページにもありますが、毎月8日、18日、28日の8の日に、火を燃やしてご祈願する「護摩(ごま)」を行っています。火の力ですべての悪いものを燃やし尽くすんですね。
また毎月3のつく日は縁結びの神様として知られる聖天様の縁日で、一般の方に公開しているものではないのですが、信仰をともにする方と僧侶とでお祈りをしています。
一年を通じて行事を見てみると、初詣にはじまり2月は節分、4月にはお釈迦様の誕生日を祝う「花まつり」があり甘茶のご接待もしています。
もちろん行事が無くても気軽に立ち寄っていただいて、誰でも祈りを捧げていただけるのが庶民信仰のこのお寺の特徴でもあるので、商店街の買い物がてらお参りに来ていただければと思います。お参りする際の厳格な作法や決まりごともありませんので。
観音様を間近に拝することができる貴重な空間
――境内の見どころについて、「身代地蔵菩薩」についても教えてください。
入口の仁王門から順にご紹介していきますと、まずは鎌倉時代に作られた仁王様があります。横浜市の有形文化財に指定されておりますが、身近に祀られているというのは大変貴重なことです。
またお山に上がってくる中腹にあった身代わり地蔵さんですが、「京浜急行電鉄株式会社」が設立100周年を記念して奉納したもので、人々の幸せを願おうというコンセプトで建てられました。痛いところとか身体の悪いところと同じ場所をタオルやハンカチでさすって祈願するとご利益がいただけます。境内のお授け所でもハンカチを200円でお授けしていますので、ぜひお参りください。
それと観音様をこれほど間近に拝することができるというのはやはりこのお寺の特徴だと思います。朝の9時から16時30分くらいまでの受付で、ご祈祷や法事などがなければ拝観料500円でいつでもご覧いただけます。
境内には他にも善無畏三蔵が置いたとされる七ツ石もありますし、江戸時代中期に造られたとされる梵鐘と鐘楼堂(横浜市指定有形文化財)もございます。
下町の人情が今なお感じられる弘明寺の街の魅力
――地域の魅力についてお聞かせください。
横浜のなかでもこの「弘明寺」という地域は良い意味で下町感のある、他からお見えになっても馴染みやすい、ウェルカムな部分のある街だと思います。昔からいろんな地域、地方から観音様にお参りに来られていたので、そういう土壌がこの地域にはあるのでしょう。
昭和の時代にあったような下町の人情みたいなものが残っているところなので、そういう良いところは変わらずに、街はどんどん新しくなって発展していって欲しいと思います。
お寺と地域とのつながりはさまざまで、たとえば昔はお坊さんが子どもたちにいろんなことを教える寺子屋みたいなものがありましたが、今は小学生と中学生の職業体験を受け入れて、お寺というのはどういうところなのかを体験していただいています。また年に1回、1月26日は「文化財防火デー」ということで自治消防団の方にもご参加いただき消防訓練が行われています。
他にも商店街の会合がお寺で行われることもあり、地域と密接につながっているお寺だと思います。
春の「花まつり」の時期は、大岡川沿いの桜並木がおすすめ
――地域のおすすめのスポットを教えてください。
春の「花まつり」の時期ですが、大岡川沿いの桜並木はぜひ見ていただたいと思います。それと新しいものと古いものが渾然一体となっている街ですから、街を歩くだけでも面白いのではないでしょうか。シャッター商店街になることなく活気ある商店街として今も賑わいがありますので、街そのものが魅力です。
弘明寺という街は不思議な空間ですよね。街の中に1300年の歴史があるお寺があって、本堂も江戸時代から250年という歳月を経て、1000年前の観音様が祀られている空間がある。そしてお寺を中心に街が発展して来たというのは関東では珍しいのでは無いでしょうか。
瑞應山 蓮華院 弘明寺
所在地:横浜市南区弘明寺町267
URL:http://www.gumyoji.jp/
※この情報は2018(平成30)年7月時点のものです。
横浜市最古の寺/弘明寺
所在地:神奈川県横浜市南区弘明寺町267
電話番号:045-711-1231
参拝時間:8:00~17:00(境内自由)
http://www.gumyoji.jp/