店主 小川さんインタビュー

定番も日替わりメニューも魅力的、懐かしくも新しい/タケノとおはぎ


桜新町駅から用賀方面に向かって歩くこと約5分。平日の昼間から行列の絶えない店がある。2016年1月にオープンしたおはぎ専門店「タケノとおはぎ」だ。店主の小川さんに、お店と桜新町エリアについて話を聞いた。

飾り気のない、スタイリッシュな入口
飾り気のない、スタイリッシュな入口

――まず、お店を簡単にご紹介ください。

小川さん:子どもの頃から祖母が作るおはぎが大好きで、そのレシピを教えてもらったことをきっかけに開きました。店名のタケノは、祖母の名前です。おはぎの種類は7種類。大納言小豆を使った定番のこしあんとつぶあんの2種類に、白こしあんを使った変わり種の5種類を日替わりで出しています。定番の2種類が祖母に教わったもの。サイズだけ小ぶりにしましたが、他はすべて祖母の教えどおりに作っていて、これからも変えないつもりです。

見本の品。全体のバランスを見ても色鮮やかだ
見本の品。全体のバランスを見ても色鮮やかだ

物件選びを後押しした、商店街で流れるサザエさんの曲

――このエリアにお店を開いた経緯をお聞かせいただけますか?

小川さん:今は「タケノとおはぎ」の工房になっていますが、2019年3月までは隣で「エプロンズ・フード・マーケット」というデリカテッセンを営んでいました。その店を開くにあたって、田園都市線で場所を探したんです。以前たまプラーザで働いていて、田園都市線沿いは良い街だという印象があったので。二子玉川、用賀、三茶、池尻大橋など候補はたくさんありましたが、桜新町だけ国道246号の少し内側なんですよね。その分ゆったりしているんでしょう。物件を見に来たとき、商店街をサザエさんの曲が流れていて、ほのぼのした気持ちになったのが決め手になりました。そして店を開いて数年後、たまたま隣の物件が空いたんです。

控えめな店名とロゴの表記だが、おはぎのインパクトは大きい
控えめな店名とロゴの表記だが、おはぎのインパクトは大きい

――それで、おはぎのお店を始めようと思われたんですか?

小川さん:いえ、デリとは違うお店をやりたいとは思っていましたが、和菓子は全く考えていませんでした。僕は洋食のシェフですから、サラダ専門店なんかを想像していました。ただ、隣の物件が空いたのと同じ頃に祖母が病気になって、大好きなおはぎを食べられなくなるかもしれないと思い、レシピを教えてもらったんです。祖母は80才くらいまでずっと一人でおはぎを作っていて、家族の誰も作り方を知らなくて。ちなみに祖母は、二十歳のときにひいおばあちゃんから教わったそうです。祖母に教えてもらっておはぎを作ったときに初めて、これをお店で出すのもありだなって思ったんです。

さまざまなフレーバーを考案されている
さまざまなフレーバーを考案されている

――おばあさまのおはぎが本当にお好きだったんですね。

小川さん:はい。あんこはあまり好きではなかったんですけど、なぜか祖母がおやつによく作ってくれるおはぎだけは別で。その理由は、レシピを知ってから分かりました。祖母のおはぎは、砂糖の量が通常の3分の2程度なんです。かなり甘さ控えめ。だから何個でも食べられるんです。あと、「区切りがいいのはだめ」という祖母の教えを守って、砂糖や小豆の分量はキリのいい数字を避けて、ちょっとだけ足したり引いたりしています。

外に置かれた、その日のメニューを確認できる黒板
外に置かれた、その日のメニューを確認できる黒板

――あんに合わせる食材の斬新さ、アートのような美しさで、日替わりのおはぎも人気があると聞きました。

小川さん:白こしあんに使う白いんげん豆は、ヨーロッパのお惣菜によく使われるので、デリカテッセンをやっていた僕にはなじみのある食材だったんです。デリのお店をやっていなかったら、ドライフルーツやハーブ、スパイスなどと合わせるという発想は生まれなかったでしょう。ナッツを使ったものなら赤ワイン、今出している「ココナッツとレモンピール」には白ワインを合わせてもおいしいですよ。

ナッツを使ったおはぎなど、食感も新しい
ナッツを使ったおはぎなど、食感も新しい

――お店づくりにあたって心がけていることは何ですか?

小川さん:主役のおはぎが引き立つよう、シンプルな空間を心がけています。同じ理由でBGMもありません。おはぎは見本の1個だけを外に出し、他はすべて通気性のいい杉の木箱に保管。なくなったら木箱のふたをずらし、売り切れの合図としています。

全種類売り切れてしまうことが多い
全種類売り切れてしまうことが多い

季節の移ろいや天気を敏感にキャッチし、細やかに表現

――お店のこだわり、桜新町ならではの商品などあれば、教えてください。

小川さん:素材にも作り方にもこだわりはいろいろありますが、何より自分が欲したものや感じた季節をすぐに反映し、細やかに表現することを大切にしています。食べたいものって、その日の天気で大きく変わりますよね。それをできるだけリアルタイムで反映するため、日替わりのメニューは前日の深夜に決めています。また、同じイチゴでも出始めとピークと終わり頃では味が全然違うので、そういった違いも感じてもらえるよう努めています。そして桜新町ならではの商品といえば、桜のおはぎ。店の前に咲く八重桜を見て作り始めて、花が散ったらおしまい。ソメイヨシノに合わせるよそのお店とは販売時期も違う、桜新町にある店ならではのメニューです。

宝石のような美しさも魅力
宝石のような美しさも魅力

――今後どのようなお店でありたいとお考えですか?

小川さん:オープンから2年くらいで行列ができるようになって、遠方からのお客様や外国人の方も来るようになりました。でも2~3年後に今と全く同じサービスで、行列のできる店でいるのは難しいでしょう。だからチャレンジし続けていきたいです。いまは日替わりもユニークなのは餡だけですが、今後は餅米の方にアレンジを加えることも考えています。また、地方に出向いて、その土地の特産品を使ったおはぎを作ってみたいとも思っています。

選べるマスキングテープも嬉しいポイント
選べるマスキングテープも嬉しいポイント

――どんなお客様が多いですか?

小川さん:この辺りに住む方々は、少し値が張っても素材が良いもの、丁寧に作られたものを求める方が多い印象です。公式Instagramのフォロワーの9割は女性で、20~30代の若い方が多いでしょうか。わっぱや木箱などの容器、ふたを留めるマスキングテープなどが「可愛い」と、手土産に買われていく方が多いですね。わっぱを採用したのは、祖母がよく「丸いものは丸いものに入れる」と言っていたので。マスキングテープは女性スタッフのアイディアを活かしました。

丸いわっぱに丸いおはぎを詰めて
丸いわっぱに丸いおはぎを詰めて

昔ながらの風景と新しさが共存する桜新町エリア

――桜新町の魅力について教えてください。

小川さん:落ち着いた住宅地であること。それが魅力だと思います。「長谷川町子美術館」などの施設はありますけど、基本的には用もないのにわざわざ来る街ではないと思うんです。昔ながらのお店が多く、古くからこの地域に住んでいる人たちとの結びつきが強いのも、多くの人々が暮らす街ならではだと感じます。

お話を聞かせてくださった、店主の小川寛貴さん
お話を聞かせてくださった、店主の小川寛貴さん

――今後、桜新町はどんな街になっていくと思われますか?

小川さん:この10年でマンションなどが新しく建ち、経済的に少し余裕のある若いファミリー層が増えてきました。歴史あるお店が多い商店街はそのままに、その周りに新しいお店ができています。スーパーマーケット「ライフ桜新町店」などの新しい施設もできましたし、より住みやすくなるのではないでしょうか。

タケノとおはぎ

小川寛貴さん
所在地:東京都世田谷区桜新町1-21-11
電話番号:03-6413-1227
※この情報は2020(令和2)年9月時点のものです。

定番も日替わりメニューも魅力的、懐かしくも新しい/タケノとおはぎ
所在地:東京都世田谷区桜新町1-21-11 
電話番号:03-6413-1227
営業時間:12:00~18:00(売切次第終了)
定休日:月曜日、火曜日
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